余録

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余録:「聞くならく梅花は暁の風にひらくと…

 「聞くならく梅花は暁の風にひらくと/雪のごとく堆(うず)たかく遍(あまね)く四(よ)も山の中に満つ」。梅を愛した宋の詩人、陸游(りくゆう)(号は放翁)の詩だ。梅は明け方の風にふれて開くという、積もった雪に似た花が山中に満ちるとの意だ▲暦は寒中だが、早咲きの梅の便りが各地から届く。陸游の詩はその先の発想がすごい。「何の方(すべ)もてか身を千億に化(わ)け/一樹の梅前に一放翁たるべき」。この身を千億の分身にして一本一本の梅の前に1人ずつ座らせたい。そういうのだ(一海知義著「漢詩一日一首」平凡社)▲たくさんの梅の木それぞれの前に同じ老人が座っているユーモラスな様が思い浮かぶ。分身の術を用いる神仙のような発想は中国の道教のものだろう。道教では仙術や仙薬が信じられる一方、人の日ごろの行いはさまざまな神々に監視され、記録されていると思われていたそうだ▲「司過神(しかしん)」と呼ばれるそんな神のうち、各家にいるのは竈(かまど)の神、人の身中にいるのが三尸(さんし)という虫だ。天にすまう司過神もいて、そのうちの北斗七星の神である北斗は毎月3と7のつく日に地上へと降り、人の行いをチェックするという▲では小沢一郎民主党幹事長の家の竈の神は問題となった土地取引資金をめぐる動きをどう記録しているのか。できるならそれをのぞいてみたいこの間の成り行きだ。東京地検は先日まで聴取に応じなかった小沢氏にきょう事情を聴くという▲竈の神に代わって政治資金の動きをありのままに記録するよう求める政治資金規正法である。過去に「政治資金の透明性」を誇っていた小沢氏なら分身の術は無用だ。地検への説明は早急に国民にも明らかにしてほしい。

毎日新聞 2010年1月23日 東京朝刊

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