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2010-02-17
『漢字字源辞典』の「質」の項目について。
→『日経春秋 春秋(2/1) - finalventの日記』
→『日経春秋 春秋(2/1) その2 - finalventの日記』
→『日経春秋 春秋(2/1) その3 - finalventの日記』
finalventさんのエントリを一番初めに見たときはさほど関心をひかれたわけではないが、多少恥を晒したこともあり、「あー、これは山田先生の本も読まないといけないか」と思って購入した。
これね。↓
- 作者: 山田勝美,進藤英幸
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俺が恥を晒したのはここ。→『「finalvent さんの漢字論」珍説を再び斬る(2) - hΛlの女好き日記(2010-02-03)』
で、俺が恥を晒したことについては、特に言い訳もない。俺が無知で勘違いしていたというだけのことだ。だから、そのことについて恨みを持ったとかそういうことはない。逆に、感謝するべきかもしれないと思っているくらいだ。
ただ、id:h_A_lさんがfinalventさんを批判するやり方が途中から気になりだしたということはある。率直に言って、呆れているところがある。
finalventさんはh_A_lさんの批判を受けて、割と早い段階で典拠として山田先生の『漢字字源辞典』を挙げられた。ということは、この件についての当否はこの本を読むまでは保留だな、と無知な俺としては思った。
この件って何だ。以下引用(太字強調は引用者による)。↓
また白川静さんか。
「貝」の形は貨幣の意味を表す。これに音を示すのが「斤」(ギン)。ギンがチに音変化した。元の音の意味は、「直」で「相当する」で、対価の意味。つまり、カネに相当するものが「質」。そこから実体の意味が出て、「質量」などに使われる。
漢字は象形文字と言われるけど、言語として運用されるときは音価に意味が課せられる(筆談するわけじゃないから。象形文字であっても音価の指標になるだけ)。(ただ、白川学を弁護すれば、漢字の発生字の呪術の解明とも言える。それでも、言語として運用される漢字には関係ない。)
日経春秋 春秋(2/1) - finalventの日記
これが議論の発端で、h_A_lさんもご自身のブログで、繰り返しこの部分を指して批判していらっしゃる。で、山田先生の本を読むまでは、俺もこれの意味がよく分かっていなかったから、finalventさんの説が正しいかどうか判断できなかった。(最初は、h_A_lさんに間違いを指摘されたTwitterのポストのように理解すればいいと考えていたが、間違いを指摘されてから考えを「保留」に修正した。) *1 *2
それで、山田先生の本にはどう書かれていたかということなんだが、ちょっとここに引用するのには躊躇する気持ちがあるのを否定できない。何しろ、この議論の当事者であるfinalventさんがあえて引用されていないからだ。確かに引用すれば話が早い。なのに、なぜそれをしないのか。
これは俺の勝手な想像に過ぎないが、読書体験というものは引用などではなく、やはり実物の本を手にとって見るべきだと考えていらっしゃるのではないだろうか。実際、俺が書店で『漢字字源辞典』を手に取り、「質」の項を開いた時の衝撃というのは、かなり凄まじいものだった。さらに、この本の冒頭の「序」と「漢字研究への入門」を読む前と後では、漢字に対する印象がかなり変わってしまったのも確かだ。(というのは、もちろん俺がそもそも大した知識を持ち合わせていなかったから、ということも大いに関係しているが。)
h_A_lさんの批判の一番大きな点だが、ご本人がまとめられている。上に引用したfinalventさんの文章の強調部分について、↓
この文章の問題点がわかりやすいように書き直すと以下になります。
「質」の字は「チ」の音を持っていて、「直(チ)」の音と同じだから、「質」の意味は「直」の「相当する」の意味になる。
この文章の不可解さについて解明されなければこの議論は終わらないのです
「finalvent さんの漢字論」珍説を再び斬る(16) - hΛlの女好き日記(2010-02-14)
と指摘され、さらにその後「議論の基礎データ」として、h_A_lさんから見て、finalventさんの瑕疵と思われる点を挙げられている。一部を引用する。
まずは、id:finalvent のこのトンデモ論理の背景になってるのが以下に含まれる図式で、この図式が議論の肝の一つです。
ちなみに、山田氏は、齗(gin)→祈(ki)、希(ki)→絺(ti)という音変化の例を挙げている。これを見る限り、「斤」=「ギン」が「チ」に変遷するとしか読めないのだが。
(日経春秋 春秋(2/1) - finalventの日記)
そして、この図式に勝手に「質」の字を絡めて、トンデモ論を展開したのが、最初に書いた元エントリの文章です。この文章は、山田氏の考察を書き記したものではなくて id:finalvent 自身の創作です。なぜなら、id:finalvent が前提にしている山田氏作の図式のどこにも「質」の字は出てこないし、以下の id:finalvent 発言によっても、「質」の字の考察は山田氏によるものではなく id:finalvent 独自の創作であることが明らかだからです。
「finalvent さんの漢字論」珍説を再び斬る(16) - hΛlの女好き日記(2010-02-14)
「以下の id:finalvent 発言」に興味のある方は、元エントリを参照してほしい(もちろん、h_A_lさんとfinalventさんの両方のエントリにあたらなくてはいけないが)。
結局のところ、h_A_lさんの批判のポイントは「(一番最初に引用したfinalventさんの文章の)主張するところに納得がいかない」、ということに加えて、
id:finalvent は自分の勝手な思い込み・解釈と著者が実際に書いたことの区別ができてない。
「finalvent さんの漢字論」珍説を再び斬る(16) - hΛlの女好き日記(2010-02-14)
と、わざわざ太字で強調しておられるように、「finalventさんのエントリ内容は山田先生の意見をそのまま受け入れたものではなく、finalventさんの創作である」ということだろう。
さて、俺がh_A_lさんの何に呆れているかなのだが、それは、これだけの批判を繰り広げてこられたh_A_lさんが、いまだに『漢字字源辞典』を読まれていないということだ。
すみませんが、引退して?一日中パソコンの前に座ってられる高齢男性と違って、一応働き盛りなもんでこのへんの対応が限界です。読まなきゃいけない中国語・英語・日本語資料30冊ほどキュー状態なんですよ(4月までに消化予定)。文字は仕事関係とネットの記事以外は読みたくない感じです。無尽蔵に時間がある学生や御隠居さんじゃあるまいし、それが普通の社会人じゃないでしょうか。まあそれでも、どうしても読みたい小説などは読むこともあるし、全く仕事の資料以外を読まないこともないんですけど、アナタの言説がそうした労力あるいは金銭を払う価値があるものかと考えるとそうは思えません。また、アナタがそこまで誠実な対応をするに相応しい人かと考えるとこれまでの経緯から考えて甚だ疑問です。なにより、自分の言葉を確認させるために、相手に労力あるいは金銭を使わせるのを当たり前とする考えはどうなのでしょう。その前にすることがあるのではないですか。まず、自分で説明責任を尽くしたら如何か。
「finalvent さんの漢字論」珍説を再び斬る(10) - hΛlの女好き日記(2010-02-10)
これは、1週間ほど前のエントリの一部(強調は引用者)だが、俺がこの文章を読んで思ったのは、「相手が提示した典拠にあたらないのであれば、判断保留にしておけばいいのに」というものだった。このエントリの時点で分量的にもかなりの批判を加えておきながら、相手の示した典拠にあたる労を厭うということも意味が分からないが、とはいえ、人それぞれの(金銭的・時間的等の)事情もあるだろうからそこを考慮したとしても、これはないだろうという感じだ。このエントリのブクマには「知的誠実さに欠けると判断せざるを得ない」とまで書いた。「根拠はこの本に書いてあるよ」と示されたのに「あなたの言うことは信用できないから、読む気にならない」というのは、俺には理解できない。
その後、
ただし、今の時点で私は件の書を読んでないので 2% ほど留保を残しておきます(笑)。そんなもんですかね。
「finalvent さんの漢字論」珍説を再び斬る(11) - hΛlの女好き日記(2010-02-11)
とも書かれているので、いずれは『漢字字源辞典』にあたるつもりがあるのだろうかと少し期待していたのだが、どうもそうでもない。
どうして、俺がh_A_lさんが『漢字字源辞典』にあたっていないと見なしているかというと、あたっていれば、少なくとも「finalventさんが山田先生の本を曲解なり思い込みなりで勝手に解釈して珍説を創作した」などということは言えないからだ。なぜ言えないかというと、基本的にfinalventさんの書かれたことは山田先生の本にあることそのままだからだ。
さて、というわけで、finalventさんがあえて引用しなかった意図を踏みにじるかもしれないという危惧はあるが、俺としてはこれ以上見ていられないので、以下に『漢字字源辞典』の「質」の項から引用する。(一部の表記法(丸囲み文字など)を変更し、一部のフリガナを省略した以外は原文ママを心がけた。)
【質】 チ・シツ(漢) シチ(呉) (引用者注:原書にはここに「金文」と「篆文」の字体が示してある)
[字形]「貨幣」の意味を表す「貝(フリガナ:はい)」と、音を表す「斦(フリガナ:ぎん)」とからなる形声字。
[字音]チ。シツ。「斦」(柄の曲がった斧の二個の形)がこの音を表す。「斦」の音の表す意味は、「直(フリガナ:ち)」(相当する)である。「ギン」の音が「チ」に変わった。齗(gin)→祈(ki)、希(ki)→絺(ti)
[字義]貨幣に相当するもの、すなわち、抵当に出した物、「しちぐさ」の意。
(延長)ひいて、「物を抵当にして金を借りること」の意味になった。また、しちぐさは金を借りる根本であるから、「もと」(本)という意味がでてきた。
(意味)〔貨幣に相当する物〕(1)しち。しちぐさ。しちにおく(質屋・言質) (2)ひとじち(質子・人質) (3)もの。形のあるもの。実体。(質量・物質) (4)何かの成分となるもの(動物質・蛋白質) (5)もと。なかみ。内容(本質・品質) (6)たち。もちまえ。生まれつき。きじ(気質・素質) (7)じみ。かざりげがない(質素・質実) (8)ただす。問いただす。(質問・質疑)
(参考)「貭」は、質の省略字。台湾や香港に行くと、よく「當」(当)という看板を見かける。質屋のことである。
本当は、凡例についての補足が必要なのだが、ちょっと疲れてきたので、割愛する。それこそ原書を参照してほしい。
この引用から分かるように、山田先生は「質」の字を会意字ではなく、形声字としている。なぜそうしたかということは、原書の冒頭の「漢字研究への入門」にその考え方が少し触れられているが、引用しない。ものすごく簡単に言うと、山田先生は漢字全体に占める形声字の割合を、この本以前のそれよりもかなり多く見積もっている、ということだ。興味がある人は是非読んでみてほしい。
また、音の変化(転化)の例として、finalventさんが示した例と全く同じ例が、「質」の項の中に載っている。俺は、これは「ギン」という音が「チ」に変化しうる例を示したものと解釈したが、ここから、音符としての「斦」と「斤」を山田先生が区別しているか同一視しているか、ま、自ずと明らかと思う。少なくとも、まったく無関係な例をfinalventさんが引っ張ってきて珍説の補強に使った、ということではない。
そして、何よりも「「斦」の音の表す意味は、「直(フリガナ:ち)」(相当する)である」と明記されている。
というか、初めに引いたfinalventさんの文章と、『漢字字源辞典』の内容を比較すれば、「finalventさんが山田先生の本を曲解なり思い込みなりで勝手に解釈して珍説を創作した」という批判が全く当たらないのは明白だ。
という訳で、「「質」の字は「チ」の音を持っていて、「直(チ)」の音と同じだから、「質」の意味は「直」の「相当する」の意味になる」というのは不可解だというなら、山田先生の説そのものがおかしい、ということになる。だから、批判の対象をfinalventさんに限定することは無理。
ちなみに、山田先生が「「斦」の音の表す意味は、「直(フリガナ:ち)」(相当する)である」とした理由は、俺には分からない。そこまではこの本には書かれていない。なぜなら、これは専門家に向けた書かれた本ではないからだ。だから、これ以上知りたいと思ったら、さらに専門的な本なり資料にあたるしかない。それこそ、時間と労力とひょっとしたら金銭をかけて。
ま、「こんなのトンデモじゃねーか」と切り捨てるのもありかもしれないが。
俺としては、山田先生の説が全て正しいと判断したわけではない(『漢字字源辞典』を全て読んだわけでもない)が、結構魅力的に感じている。まだまだ、これから読み込んでみたいと思っているし、余裕があれば他の説との比較もしてみたい。白川静先生の説を否定するつもりもないし、というか、否定できるほどその説を知らない。
俺は自分のことを「無知」と規定しているので、自分にとって未知の知識や知見に触れた時は謙虚でありたいと思っているし、逆にそれに飛びついて丸呑みにすることに対しては慎重でありたいとも思う。その意味では、h_A_lさんが最初にfinalventさんの文章に対して「それ、おかしいんじゃないの」と考えたことも尊重したいと思う。ただ、「finalventさんはトンデモ(インチキくさい?)」という先入観からおかしな方向に批判が向いていった気はする。
あと、俺のこのエントリを読んでしまった人の、『漢字字源辞典』を初めて開いた時の衝撃というか感動を殺いでしまったとしたら、ちょっと申し訳ないとも思う。
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