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社説:時効廃止・延長 懸念をぬぐって実現を

 殺人や強盗殺人などは公訴時効を廃止し、人を死亡させたその他の重大事件も倍に延長する。

 法相の諮問機関である法制審議会刑事法部会は、そのような内容の要綱骨子案を決定した。政府は、今国会に法改正案を提出する方針だ。

 時効の壁で容疑者の逮捕・訴追ができないのはおかしい--。未解決事件の犯罪被害者遺族らの声が刑事政策転換の推進力となった。

 時効の存在理由として「年月がたてば被害感情も薄れる」との説明がよくされる。だが、身近な人を殺害された遺族の感情は割り切れるものではないだろう。

 DNA鑑定など科学捜査も近年、進歩を続けている。欧米の主要国では、殺人などの時効が廃止されている。そのような背景も踏まえると、時効の廃止・延長は、適切な刑事政策の転換だと考える。

 ただし、反対意見もある。日本弁護士連合会は、長期間経過すれば証拠が散逸し、被告や弁護人がアリバイなどを立証するのが困難になると主張する。耳を傾けるべき理屈だ。

 特に証拠品の適切な保管は重要だ。運用上、証拠品は警察の施設で保管されるケースが多いが、十分なスペースの確保や保管のルール作りは必須である。

 中でも、現場に残された容疑者のDNA試料は、厳密な管理が求められる。足利事件では、DNA試料の保存の悪さが問題になった。

 DNA鑑定の精度が上がり、捜査の決め手となることも予想される。それに備え、第三者が再鑑定できるように試料を余分に保存するなどの仕組み作りも併せて必要だ。

 法改正に伴い、過去に起きた事件でも、時効になる前ならば廃止・延長を適用するという。そもそも被害者遺族の声に背を押されて政府が検討してきた経緯を考慮すれば、その方向性でいいのではないか。ただし、「実行の時に適法だった行為で刑事責任は問われない」という憲法上の規定をめぐって解釈の余地が残るならば、議論を尽くしてほしい。

 時効が廃止・延長されても、容疑者の早期検挙が第一であり、警察の捜査が大切なのは言うまでもない。現場の遺留品の確保など初動捜査の充実をさらに図ってほしい。

 また、時効が廃止されても、特定の事件に長期間多数の捜査員を充てるのは難しいだろう。人員配置を含め、メリハリをつけた捜査を工夫する必要があるのではないか。

 連続不審死事件などを巡り、検視体制の不備などが指摘された。事件性があるのに見逃されてしまえば、時効の廃止・延長も意味がなくなる。犯罪捜査の灰色な領域を減らす努力も一層求められる。

毎日新聞 2010年2月9日 東京朝刊

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