2009/9/20 梶浦由記さん (音楽家)
梶浦由記さん
今回のゲストは、作詞・作曲・編曲・プロデュースを手がける音楽家・梶浦由記さんです!
メロディアスで重厚なコーラスを多用した音楽が高い支持を集めている。学生時代のバンドがベースとなって結成されたSee−Sawで1993年メジャーデビュー。プレイヤーとしての活動のかたわら、他のアーティストや映像作品への楽曲提供をはじめる。
アニメ第1作は1996年の劇場作品。その後、テレビ、オリジナルビデオと数々の話題作でサウンドトラックを手がける。
「機動戦士ガンダムSEED」(2002) 
♪暁の車 詞/曲/編曲:梶浦由記
♪あんなに一緒だったのに 詞:石川千亜紀
作曲/編曲:梶浦由記 歌:See−Saw

挿入歌「暁の車」はヒットチャートで初登場10位を記録。またエンディング曲「あんなに一緒だったのに」は初登場5位と、当時のアニメ楽曲としては異例のヒットに!
ボーカル曲作りのポイント
日本語の曲というのは歌詞がのりますので、何かの主題歌になるような場合には、その作品と矛盾しないようにとすごく気をつかいますね。言葉というのは、非常に危険なものだと思っているんですよ。言葉がなければ、想像力は非常に豊かに見ている人を羽ばたかせることができる。けれども言葉がのった途端に、言葉ってある程度人を縛りますから。
オープニング曲は作品への入り口
頭の90秒で、見ている人を現実世界から作品世界に送り込む力のある曲でありたいと思っていますね。これから入る世界にワクワクした、という感覚をそこでもっていただきたい。
「梶浦語」とは?
「造語」なので全く意味のない言葉。ただ響きだけで作ってるんですね。意味に縛られないので、まずお客さんを自由にしてあげられる、想像力を自由にしてあげられる。こっちも自由なんですよ。そのメロディーにいちばん合う音で歌えるんですね。合わない音域なのに、合わない母音をのっけなきゃいけない、それが一切ないんですよ。
ライブは気晴らし(笑
一昨年よりライブ活動を再開!昨年は全国ツアーも実施
正直楽しんでいます、ライブは。その場に来ている人と音楽を分け合うということは、こんなに楽しかったのかと。ふだん作っているものがCDになったり音源になったりして、みなさんに聴いていただくまでには間があるんですけど。ライブだと時差がないので。
梶浦由記が考えるアニソンブーム
チャートの上位にいくということは、その作品とその主題歌がいい関係を作れたってことなんだろうなと思うんですよ。作品のファンが見たときに、その歌がアニメの世界で非常にマッチしていたとか、アニメの世界を体現してくれていたとか。そういうふうに思ったときに、アニメソングはお客さんの心に届いて、売れるものだと思っているので。
梶浦サウンドの原点
4歳からピアノを始め、父の仕事の関係でドイツへ渡ってからは、毎月のように家族でオペラ鑑賞
歌が好きな父だったので、家でオペラを歌ったり、歌曲を歌ったり。見るのももちろんですけど、すごく好きだったんですね。 (自分は)耳コピで、ものすごく怪しいフランス語とかイタリア語とか勝手に歌っていた。今の「造語」の基になってるんでしょうね(笑
音楽大学を目指さなかった理由
音大に行きたいかなと思った時期もあったんですが、高校の途中で父親が亡くなりまして。夢見てる場合じゃないぞ!というのがちょっとあったんですね、自分の中で。「これはもう堅実に生きよう」的な。
会社員からプロミュージシャンへ転身
音楽は一生やめるつもりはなかったんです、好きだったので。趣味のバンド活動が本格化するにしたがって、どちらもやりきれなくなってしまったんですね、仕事もバンドも。最終的にどちらか選ばなくちゃいけなくなったときに、父親のことが頭に浮かびまして。私が二十歳になったら、私がピアノの伴奏をして、父がシューベルトの「冬の旅」を歌ってリサイタルをしようと約束していたんです。私が二十歳になる前に父が亡くなってしまって、結局それがかなわなかったんですね。それもあって、人生は思ったより短いし、いつ終わるかわからない、じゃ、音楽やっておこうかなと。
「NOIR」(2001)原案/構成/脚本:月村了衛
監督:真下耕一 音楽:梶浦由記

この作品で梶浦さんは女性コーラスを多用したBGMを生みだし、アニメ音楽の世界に新たな風を吹き込んだ。
アニメ監督・真下耕一が語る「作曲家・梶浦由記」
梶浦さんて作曲家というよりは、文字を音楽に代えた小説家といってもいい。音楽なので、オペラ作家といってもいい方なんですよね。梶浦さんの曲って、おもいっきり長い。しかもドラマが構築されているので、そんな簡単に編集できるものじゃないんですよね。だからまるまる3分、4分、5分とか、その曲だけでやれちゃう。そしてそれが完成すると、非常に美しい映像と音楽ができる。
※真下耕一…「ゴールドライタン」「未来警察ウラシマン」などを手がけたベテラン監督。梶浦さんとは「EAT−MAN」以降、計10作品でコンビを組む。
ベテラン真下耕一との出会い
真下監督のオーダーはいつも「好きにやってください」なんですよ。
「バックグラウンドミュージックはいらないから、フロントグラウンドミュージックをください」といつも言われる。
真下作品から学んだBGMの在り方
BGMがすごく立ったほうがいいとき、でも立ちすぎちゃいけないとき。立ったときの効果、立たなかったときの、後ろで全く聞こえないものとして溶け込んだときの音楽のもたらす効果−そういういろんな実験をする監督さんでしたから、その実験の結果がこちらの目にも見えてくるので、すごく勉強させていただきました。
アニメの魅力に目覚めた「NOIR」
アニメーションのサウンドトラックって本当におもしろいな、私はこの世界の仕事がやっていきたい!と本当に思ったのが「NOIR」。この作品で真下監督と一緒に仕事させていただいて、音と映像がはまったときの喜びみたいなものを体感してしまって。これはいいな♪とクセにさせられました、監督に。
「空の境界」(2007-2009) 
原作:奈須きのこ 監督:あおきえい他
キャラクター原案:武内崇 音楽:梶浦由記

奈須きのこの人気小説を原作とするアニメ。3年間で劇場作7本という過密スケジュールで制作され、昨年8月完結編となる第七章が公開された。原作にほれこんだ梶浦さんは作品の世界観をよりよく表現できるようにと、新たなボーカルユニットKalafinaを結成。
背景画から作品世界を思い描く
メロディーメーカーを自負する梶浦さん、BGM制作に必要なものとは?
まずはじめに「××ください」とお願いするのは、背景画。 作品にもよるんですけど、宇宙なら宇宙、草原なら草原。原っぱなのか、草原なのかって広さの感覚というのは、音を作るうえでもかなり重要。そのへんの広さの感覚はつかんでから作曲をはじめたいな、というのはあるんですよ。
原作にほれこんだ「空の境界」
はじめに小説をいただいて、「やばい!好きだ」と。読んでいる途中で、テーマ曲ができちゃったんですよ。読んでいる途中で本をふせて、曲作りにいって。それから最後までもう一回読んで、完成! その時点で、「お願いですから、音楽私にやらせてください!!」状態ですよね。
映像スタッフのこだわり VS 音楽家のこだわり
映像を見ながらどんどん曲をつけていくという作業だったんですけど…。絵がどんどん変わっていくんですね、出来上がるにつれて。コンマ単位で秒数つけているので、少しでも絵がずれると音楽もずらさないと合わなくなっちゃうんですよ。下手したら3回、4回、音楽のサイズだけでも作り直しとかすごくありました。
「空の境界」から学んだこと
映像の人と音楽の人のボキャブラリーは、最終的には一致しないものだということを改めて(笑 
でもね、そこがいいと思ったんですよ。そこは一致しないんです、絶対に。映像の方は映像にすごくこだわりがあって、音楽の人間には音楽のこだわりがあって。全くわからないまま物別れになってしまうことも多いんですけど。それをぶつけたがゆえに、すごくおもしろい化学反応を生むこともある。大人が一緒に本気で遊ぶときは、じつはわがままをぶつけ合ってもいいんじゃないかなって。
アニメにおける音楽の在り方
アニメ音楽のバラエティーの豊かさには、驚くものがあると思っているんですね。ここまで作曲家を遊ばせてくれるフィールドって、正直アニメーションの他になくて。それはアニメーションがまだ若い文化で、映像とか脚本の作り手も、みなさんすごく冒険心に富んでるんですよね。みなさんの冒険も見られるし、こっちにも冒険を求めてくる人がすごく多くて。いろんなことをみんながやりたがっている、そういう場所だろうと思います。
音楽家 梶浦由記にとって音楽とは… 娯楽