実習紹介

 


患者も医療の「消費者」なんだから

 

 みなさんは、NPO法人ささえあい医療人権センターCOML(医療と法の消費者組織)をご存じでしょうか?『賢い患者になりましょう』を合い言葉に、いろいろな活動をしておられ、全国的に注目されているCOML理事長の辻本好子さんにインタビューしてきました。様々な活動や歴史から『患者の人権』について、考えてみましょう。

 

井原 最近のメディウイングしまねでは、卒後医師初期研修をテーマに特集を組んできたのですが、COMLの活動をお聞きする中で、医学生のみなさんと『患者さんの人権』について考えてみたいと思いお邪魔しました。今日は宜しくお願い致します。


『日本の医療を良くしたい』と
日本のジャンヌダルクの気概で!

波里 COMLを創設されたきっかけや動機について伺います。
辻本 私自身当時は患者の体験や被害者体験など何もなかったのです。ただ、友人の弁護士が医療訴訟を主に行っていた中で、医療を良くするという新グループを立ち上げ、そこにボランティア参加しました。今から20年前くらいのことです。8年間ボランティアとしてかかわっていましたが、その中で医療訴訟だけで日本の医療が本当に良くなるんだろうかという疑問を持ちました。また、患者あるいは原告の人たちが、弁護士という専門家に遠慮してしまうという構図がある。医療現場で被害者意識を抱えた方が、今度は裁判という場でも同じく被害者意識になってしまっていました。もっと患者が自立しなきゃいけない、成熟しなきゃいけない。自分がどういう医療を受けたいのか思いを持ち、あるいは変だなと思ったら変だと言い、ノーならノーと言う意志と、その意志を相手に伝える言語化能力が必要です。そういったものを身につけないと、日本の医療は変わらないと思ったんですね。本人はジャンヌダルクみたいな気
持ちで(笑)、傍はドンキホーテと笑っていた
と思うんですけれどね。今振り返ってみて、何であんな勢いがあったんだろうと不思議です。最初は3ヶ月持てばいいだろうとみんな善意で心配してくれていたようです。丁度、時代の流れに乗って背を押され、そして小さな小舟にいろんな方がどんどん乗り合わせてくれて、船を大きくしながら、13年経って今日を迎えています。


医療者と患者は依存でも対立でも
良い関係はつくれない

波里 どんな活動を行ってこられたのですか?また、現在はどんな活動をしていらっしゃるのですか?
辻本 医療現場も意識を変えなければいけないのですが、何といっても数が多いのは患者です。『いのちの主人公』『からだの責任者』である私たち患者が、お任せで依存していてはいけない。まして昨今のように、不信感、医療事故、医療ミスということで対立の目を医療現場に向ける患者が増えています。相談をお聞きしていますと、いきなり「医療ミスです」「医療事故にあいました」と被害者意識で凝り固まっている。これをもって私は『対立』という患者の図式を描くんですけど、依存でも対立でもやっぱりいい関係はつくれない。医療も看護も人と人の間で行われる、それこそ協働の営みで行われるものです。お互いが半歩ずつ歩み寄って、これまでとは異なる新しい人間関係をどうつくっていくかという意識改革が今求められていると思います。そのためには、患者が変わらなければいけない。でもどう変わっていいのかが具体的に分からない。そこで、例えば私たちは『医者にかかる10箇条』で患者の心構えの提案をしたり、電話相談させていただく患者さんや家族の本音の中から、私たちが今何を学ばなくてはいけないのかを提言したりもしています。また、2年や5年ごとに大きく変えられていく医療制度、仕組みについても、その中に患者がおかれているということを、多少なりとも理解しなくてはいけないと思っています。

問題解決の実践から、活動の幅が拡がった
例えばガン告知のことですが、社会問題としてあたかも解決したように最近は世論調査なども行われないんですけど、電話を受けているとまだまだ家庭内では解決していない深刻な問題になっている場合もあります。お医者さんに溜まっていた不安を一気に吐き出したら怒鳴られた、そういう被害的な訴えもあるんです。よくよく聞いていくと患者さん側の伝え方に問題がある場合もありますが、そういった様々な相談の中のお一人おひとりの方たちから私たちはテーマを与えられていると思います。そのようなテーマについて、どうしたら良いんだろうと一つ一つ積み上げてきたのが、この13年間のCOMLの活動の歩みだったような気がします。相談は私たちの活動の柱ですが、そこから派生して「こういうことが必要なんだよね」「こうやってみたいよね」と始まったのが患者塾であり、そして病院探検隊であり、SP活動やナース研究会と、どんどん枝葉が膨らんでいき、少しずつ幹が太ってきたと感じています。
波里 活動の一つに電話相談がありますが、その相談件数や相談内容の特徴についてお聞かせ下さい。

 

電話相談件数の推移

 

2002年の項目別相談件数

 


辻本 月平均300件、全国から、まさに北海道から沖縄まで、全国からかかってきます。一本の電話に平均40分かかります。長い場合には1時間以上に及び、最近とくに長くなるご相談が増えている傾向があります。5〜6年前から、患者さんのコスト意識や権利意識が急激に高まりました。さらには医療事故・医療ミスの多発という報道がどんどんなされるようになってきて、一気に不安に駆られている。自分の身は自分で守らなくっちゃという、いわゆる権利意識・コスト意識がどんどん高まってきているのが、相談傾向の推移からも見て取れます。相談をお聞きしていて、問題点を絞りこむとしたら、最終的にはコミュニケーションなんです。不満があったり、不安感を訴えたり、セカンドオピニオンを求めたいという最初の言葉の裏側を30分、40分かけて、なぜそういう風にお思いになるのか聞いていくと、今主治医としっかり向き合えていない、しっかりと説明してもらえないという問題点が見えてきます。逆に言えば、患者さん側が質問できていないという関係性も浮かんできます。私たち患者は病院という組織に行きますが、出会うのはたった一人のドクターであったり、たった一人のナースだったりするわけですよね。その人が私とどう向き合ってくれたかで、病院の評価をしてしまっているわけです。原点というところからいえば、人間関係・コミュニケーション、もっと俗な言葉で言えば、私と向きあってくれた医療者がどのように対応してくれたか。そこに問題点が行き着くということが相談を通して見えてくるのです。この「コミュニケーション」が、私たちの活動で大事にしているテーマです。


一人しかいない私の主治医

私ときちんと向き合って!
ドクターから見れば、患者は一日に50人診る患者の一人、つまり50分の1に過ぎないわけです。でも、私にとっては、一人しかいない主治医。そういう気持ちのギャップがあります。とはいっても、医療にホスピタリティが求められている時代だからといって、診察室に呼び込まれた時に、お医者さんから「へい、いらっしゃい」なんて言ってほしいとは思いません(笑)。でも、せめて私の目を見て「どうですか?」「あなたの話しを聞きたいんですよ」というメッセージは伝えてほしい。『一期一会』=『now & here』という訳があるそうですが、今この瞬間に目を合わす、それだけのことなんです。看護でも医学でも教科書のいろはのいとして、笑顔や視線を合わせてケアをするということは、当たり前のこととされています。でも、頭では分かっていても実はつい忙しいという状況がある。私がかかっている病院の会計窓口には委託業者の方が座っているんですけど、「ハイ、3780円です」と言われて、お金を出します。すると領収書を手渡してくれる。その領収書を手渡す時に、「お大事に」という一言を沿えるのがマニュアルにあるのでしょうけれど、次の人の領収書の名前を見ながらおっしゃるんですね。一度、「こっちを見て」と呪文をかけて、領収書をじっと持っていたことがあったんですよ。それでも見てくれない。一瞬目を見て「お大事に」って渡してくれるかどうかで、患者の思いは全然違ってくるんです。だけれど、つい忙しいと、そんなに笑顔を振りまいてはいられない。

新しい日本の医療文化を
医療者・患者でつくりましょう!

原田 事務のプロ、受付事務なりのプロという意識でいたい、個人ではやりたいと本当は思っていても、やっぱり周りの環境が忙しかったり、そんな環境でなかったりするって言うのが・・・。
辻本 誰もが当たり前にやっていると疑問を感じない。ところが一人だけが丁寧な対応をすると、「あの人格好つけて」なんて言われるのもはばかられる。横並びで、皆一緒だと安心という意識が日本の社会にはびこっているし、医療現場にも沢山あるということを相談が教えてくれます。だから、これからはエビデンスという科学的根拠に基づいて、そして尚且つ、限られた医療資源の中で、専門家として自信を持って「私はこういう医療を提供したい」という思いを持つことが大切。そして、患者さんに寄り添って、誠実に患者さんに役立ちたいという思いを相手がキャッチできるような伝え方を身に付けて頂きたいと思います。もちろん、技術ということを高めていくのは大事ですけど、そうしたホスピタリティが今は大事になってきている。医療不信が患者と医療者の間の大きな深い河になっている時代だけに、そこを人間関係で補っていきたい。欧米の文化とは違うものが日本社会にあります。例えば、私は癌になった時には隠さないでほしい。けれど、80才の親にはとてもいえませんという矛盾したことを平気で言う私と同じ50・60代の世代が、今一番医療現場の中で患者としても家族としても層をなしているわけですよね。だから、多様なニーズがある中で今までにない新しい医療文化をつくっていく必要があります。それは欧米の直輸入のインフォームド・コンセントではできない作業だと思います。日本でどうあるべきか、そのことを医療者も、そして患者も今まで以上にもっと本音で語っていかなければならないんです。民医連・医療生協などは、利用者の方たちとの協働作業という活動がおありなので、そこで語りあっていらっしゃるのだろうと、羨望のまなざしを向けながら期待もしているのです。
原田 本当に人数が多くなればなるほど、コンセンサスが得られないというか、得る作業が難しくなってきている。だから、一人ひとりの個人に任されていて、それにプラスアルファして教育というものが必要になると思うんです。けれど、それがなかなか難しい。

「賢い患者でありたい」という
理想と現実のジレンマ

辻本 私たちがいつも相談で学ばせてもらっていることですが、70代・80代の方は失礼ながら「お任せ」という、40年間のパターナリズムに身を浸してきておられる。意識ってそんなに時代が変わったからといって、急に変わらない。だから、親切に丁寧に優しく、親身になってほしいというニーズが、COMLにも届いてくるわけです。ところが50代・60代は「権利」を意識している世代です。でもお医者さんの目の前に行くと言えない。理想と現実という二重構造のジレンマの中で、行動変容願望が非常に強い世代なだけに、理想的な主体性を持った自己決定のできる賢い患者でありたい。でも、具体的にどうしたらいいのかが分からない。


原田仁美さん(島根民医連医学生担当)


波里 入院経験がおありだそうですが、この経験を通して医療スタッフに心がけて欲しいことや注意してほしい事などをお聞かせください。
辻本 入院して思ったことは、やっぱり、スタッフにほんとにちょっとした笑顔があったり、目をちゃんと見て話してくれる人には、私を理解してくださいと語りかけたかったですね。だけど、事務的に無表情な顔で部屋に入ってくるナースには、こっちも言ってみれば、事務的な対応でしか応えなかったです。
波里 でもそれは、人間心理ですよね。
辻本 だからその辺も含めて、最近の講演で特に医療者が聞いてくれる時には、そうしたコミュニケーションに偏った話をしているかもしれません。やっぱり大事なことだなと思いますから。

病気と共存している私を支えてほしい 
私は乳癌という病気を持ってしまいました。しかし、よく“癌とたたかう”という言葉を聞きますが、私にとって敵ではないんですよね。私の体の中の持ち物なんですね。そうすると、「なるべく大人しくしててね」って言い聞かせつつ、私はどういう風に生きたいかということも癌と話をして、納得してもらった上で生き生きと楽しく生活をして行く。やっぱり共存だと思うんですよね。医療者はそれを手伝って欲しい。どの道、治りきるなんてことは難しいし、いつ転移があるのか、いつ再発するのか、そういう不安を私は一生抱えていくわけですから。そいうことも含めて、私という人間を支え、お手伝いして欲しいのです。

3分診療でも『真剣勝負』なら満足できる
私の主治医は乳癌の専門医で患者さんが多いので、3時間待ちの3分診療なんですよね。でもその3分が真剣勝負であれば、十分に満足できるんです。ですから、『一期一会』で、その瞬間をきちっと向き合ってくれていることが、伝わってくればいい。だって全面的に依存するわけでないし、治して下さいと頼んでもできる相談ではないわけだから、その限られた時間の中での真剣勝負だなと思うんです。患者の私も、3ヶ月に1回の真剣勝負です。ドクターが自分だけ納得しているような、合理的一点張りの説明で終わって欲しくない。医療者は、人の命、人の体に関わる仕事を選んだ以上、ほんとに不合理不条理に、むしろ誠実にずっと悩みつづけて欲しい。私は癌患者になったのは神さまからのプレゼントだと思っているんですけど、学ばせていただいたなぁと感じています。私は決して優等生な患者ではないですよ(笑)。手術と化学療法と放射線治療が去年の内に終わって、今毎日、ノルバデックスというホルモン剤を飲まなきゃいけないけれど、時々忘れそうになるんですよね。全然賢い患者じゃないなぁって自分でも思っているんです。でも、長い付き合いになっていくので、あまり肩に力を入れないで、深刻にならないで、病気と向き合っていきたいなと考えています。

行動変容のお手伝い
原田 『新・医者にかかる10箇条』の普及に力を入れておられると聞いていますが、その10箇条の内容や使用された患者さんの反応の特徴をお聞かせください。
辻本 患者さんが、行動変容や意識改革をするときに、どれか一つからでも行動を変えてみたらどうですかと提案しています。例えば、メモを持って受診してみましょう。私は患者さんに、質問したいことはメモして持って行って、「家に帰って家族にもきちんと説明したいので、メモをとらせてください」と言ってくださいというんです。嫌な顔をするお医者さんだったら変わってくださいと。それが当たり前だと思うお医者さんとの関係を大切にしていく方が大事ですよね。そういう話をすると、「いいのかなぁ?」「そんなことをしたら気を悪くされませんか」と、まだ昔の価値観のままの患者さんたちは遠慮されます。でも具体的に何か変えてみよう、こんなところからだったら、私は変えれるかな?という項目を並べたのが『新・医者にかかる10箇条』です。18万冊を越えて普及しているのですが、実は半分くらいは医療現場が普及の協力をしてくれています。
原田 医療者・医師も、やっぱり患者さんの不安があればもっと言って欲しいのにって思いを持っておられると思うんですよね。でもなかなか、それを言ってくれない。

『話せば分かる』の意外な落とし穴
辻本 30代の男性が、ベルトコンベアに手を挟まれて労災で入院していました。一月ぐらいの入院で、ようやく退院の目途がたってきた。どうしてもお風呂に入りたい。ナースに「先生にお風呂に入ってもいいか聞いてくれ」と頼んだら、ナースがドクターの伝言ということで、「ガーゼと包帯を濡らさないように入ってください。お風呂入っていいですよ」と許可が出た。嬉しくて嬉しくてお風呂に入った。でもガーゼと包帯は濡らしてはいけない。これが至上命令。どうしたか・・・。ガーゼと包帯を外して入った(笑)。後になって、ナースに「ちゃんと説明しないから悪いんだよ」と患者は言ったそうです。やっぱり“話せば分かる”って言うのは嘘ですよというエピソードなんですけど。お互い分かったつもりとか分かった振りをしているけど、実は分かっちゃいない。そこを半歩ずつ歩み寄るということで、あるいは患者の側がこの10箇条を使って何かひとつ自分の改革として努力してみる必要があると思います。
原田 医療者側からも患者側からも一緒にやらないと変わらないですよね。うちの病院でも置いて欲しいですね。あ、お医者さんから渡してもらうとか・・・。
辻本 そうなんですよ。開業医の方が、「ボクがゴルフに1回行った分」とまとめて買って下さって、患者さんにプレゼントしようって。でも、プレゼントはあんまり意味がないですよ。自分でお金を払ったものは意識の中に留まるんですけど、タダで貰ったものは捨てても惜しくないですから、価値がそこに生まれない。
井原 医局の先生達に患者さんに渡してもらうようになったらいいですよね。
原田 でも、今度は先生達が四苦八苦しそうですよね(笑)。
井原 でも、ほんと、情報を伝えていくって言う面から定着していったらいいなって思いますよね。
原田 こういうことに先生達も気を遣いながらやっておられるっていうのはすごく、感じます。でもやっぱりそれを患者さんからなかなか聞き出せない。患者さんの方にも心を開いてもらえるようなコミュニケーション能力っていうところもあると思いますけど・・・。

ドクターが『お医者様』であってはいけない。これに気付いて!
辻本 先日、ある病院での講演の帰りに、病院の前に止まっていたタクシーに乗って駅まで行ったんです。するとタクシーの運転手さんからいきなり、「病院の中にいると緊張するでしょう!?」って言われました。私は運転手さんのおっしゃることがすぐにピンと来なかった。で、「えっ?」と問い返したら、「ボクなんか時々トイレを借りるだけでも、お医者さんにすれ違おうもんなら、緊張の塊ですわ」っておっしゃる。その時、「あーこういう人もいらっしゃるんだなぁ」って思ったんですよ。


辻本好子さん(COML代表)
なかには、まだまだ「今時こんな古い体質なの?」というパターナリズム医療が蔓延っている病院もあります。病院の全体の雰囲気の中で、ドクターが「先生様」なんですよね。そのことにも気づいていないドクター達を見ると、がっかりします。これはドクターに限らないんです。人間誰でも、慣れがあると、原点をしばし忘れてしまうことがあるんです。思いはあっても、その思いを常に真剣に自分の中で感じていられるのは、ほんの当初の緊張の状況の中だけなんですよね。少しずつ慣れてきて、またそれも必要なことで、そうすると当初の初心というものはどうしたって希薄になっていく。だから、「先生、先生」と言われ、白衣の前を肌蹴て、廊下の真中を闊歩することに何も感じない日常を送っていらっしゃると、タクシーの運転手さんがトイレを借りようと思ってすれ違った時に、ビビッと緊張が走るような、そういう人になってしまっていることに気づいていない。それはドクターだけが悪いと思わない。ナースが「先生、それは変だ」と言うことも憚られるし、ましてやNOなんて言えない。そういう意味からも、原点を組織全体で、利用者の方も含めて、確認し合える場を頻回に持って欲しいなと思います。それがこの民医連のいいところだと思うんです。だから、見本を見せて欲しい。私たち国民に、こういう組織運営・経営の中で、理想的な医療を作っていけるんですよってね。胸を張って、全国に範を垂れるくらいに、崇高な思いで、日常利用者の方たちも主体的に参加する活動ということで努力して頂きたいなと思うんです。
井原 私たちもそういう思いでできたらいいなと思います。
原田 私も6時まで仕事で、子育てをしていることもあって、なかなか受診をする時間がないんですが、この前、先生にばったり出会った時に「先生、最近喉が痛くて、鼻がつまって、頭痛もあって、辛いんですよね」って話した時に、先生は「じゃあ、受診すれば?」って言われるんですよね。「いや、でも時間がなくてできないんですよ。それに、今月家計厳しいし・・・」って話すと「いや、でも自分の体が大切でしょ?」って普通に言われるんです。でも、「大切は大切で分かるけど、でもやっぱり行けない」っていう、すごく普通の人の気持ちが分かって、先生にそのことを話したら、「あーそうだね、忘れてた!」って言われたんです。自分自身、医療者で病院にいて、いつでも受診できた頃はそんな思いをすることもなかったですが、病院から離れて気づいたことなんですよね。だから、環境に慣らされていると、普通の人の感覚っていうのを、医療者っていうのは忘れたらいけないなって思います。医療者であっても消費者ですからね。

患者は『医療消費者』という自覚を持って
辻本 13年前にこの活動を始めたとき、『医療消費者』という医療現場からは妙な反応が返ってくるような、挑発的なキーワードなんかも使ってきました。でも、これはそれを武器に医療者と向き合うためではなくて、患者自身が自覚するためのものです。患者は税金を払い、保険料も払い、窓口負担も払って社会資源である医療を買っているという意識をもって見ると、選んで買う、納得できるものを買うという考えになります。そのためには自分が何をすべきなのかを『消費者』というキーワードで思い起こしていただけるのかもしれない。消費者だから、権利だからと相手に要求を突きつける時の武器にすることではないんです。自分達が何をすべきか、今足らないものは何だろうと考える時に、医療にも消費者という目を向けてみると、今までになかったものが見えてくるかもしれません。今は私たちが言わなくても、マスコミが「医療消費者」という言葉を使う時代になってきたので、何の違和感もなくなって来ましたが。これも時代の変化と、13年、コツコツ積み上げてきて、「継続は宝なり」と昔から言われる言葉ですけども、有難いことだと仲間達の大切さを感じています。

おかしいと思ったら声をあげること
きっと輪が拡がるはず

このCOMLも、始めた時は一人です。私が最初に旗を振って、無謀なことを言って、そして恥ずかしいような夢をあっちこっちで語っていく。そんなところからスタートしましたが、始まりは一人でもそれに賛同してくれる仲間が増えていけば、やっぱり輪になっていく。言ってみれば組織になっていく。力になっていく。だから、やっぱり「変だな」と思ったり、「こうしたい」と思った時には声を上げることがとても大事。だけど、その次は一人では何もできないから賛同してくれる、共感してくれる人の輪をどう広げていくか。そのためには、言葉も持たなければいけないし、私自身もコミュニケーション能力をこの13年間ずっと厳しく求められてきたなと今になって思います。だから、人間として生きていく課題ということでは、共通する問題が医療の中に、特に命や体の問題なだけに凝縮した形で潜んでいる。それを一つ一つ明らかにしてく作業を続けていくことが力になるんじゃないかなって思いますね。
原田 やっぱり支えられてきた、仲間というかメンバーの方っていうのは大きいですよね。一人一人という形で増えてこられたんですか?一人の仲間が増えるまでっていうのは?

患者の思いを精一杯届けていこう!
辻本 例えばマスコミが「こんな活動が2年目を迎えました」という小さな記事を載せてくれたことで、目に留まった人から電話があって、「こういうものが大事だと思うから、私にも何かお手伝いできる事はありませんか?」という声を頂いて、「とにかく、事務所に来てください。すぐお話しましょう!!」と、最初は一人ひとりと夜を徹するように熱い思いを語りあうところで輪が広がって来ました。最初は、関わってくれる一人ひとりの顔も、何を考えていらっしゃるのかも見えていたそれ位の数だったのに、どんどん大きくなっていくと、私にも見えない。例えば、情報誌を購読する、再購読の振込みをしてくださる、そこの振込み用紙に「頑張ってくださいね」っていうメッセージがある。最初の頃ならそれに「ありがとう」って声を届けていたのに、ある時から担当者に「今月の振込用紙です」と見せてもらって、有難いと思っても、声を届ける時間的な余裕や役割の中に私の仕事としてそれがもう手を放れている。そ


大阪COML事務所でのインタビュー風景

ういうこともこんな小さな組織、こんな小さな活動なのに、やっぱりあったんですよね。ですから、さっき言ったように一日50人も60人も患者さんを診るドクターの気持ち、あるいは、3交替の厳しいローテーションの中で子育てをしながら看護という業務をやっている人たちの苦しさは、ほんの少しですが、分かっていきたいと思っています。でも、「それでもやっぱり」という辺りが、私が語るべき役割でもあるし、今まで、患者が正面きって声を届けて行くという機会があまりにも無かっただけに、機会を与えられれば精一杯胸を張って、ここで言うべきは言おうという役割を後10年くらいはやりたいと思っています。だから、私は癌に「お願い。後10年は大人しくしててね」と毎日毎日語りかけているんです(笑)。でも、毎日がすごく楽しいです。
原田 話しておられるのを見るのだけでも、すごく、元気が出るし、励まされます。

人間には愛と希望が大事よ!!
小さい夢から大きな夢までいっぱい持とう!

辻本 癌になった時も、私は仲間に「やっぱり人間に欠かせないのは愛と希望よ」というキザなことを言ったんですよね(笑)。それを医療者から全部下さいというのは無理なことです。だから、この部分はドクターから、この部分はナースからちょっと貰いたい。で、ここは同じ病気をした患者の先輩や患者体験をしている友達から貰いたい。そして、この部分はそうじゃない。上手く使い分けと言うのでしょうか。
原田 でも、病院の中でもそういう雰囲気で、病院がそういう音頭とりをしてやって行ければすごくいいですよね。病院の中に同じ病気を持っておられる患者さんがおられるわけですし。そこにはドクターもいて、ナースもいて、環境は整っていますよね。その意識をどう作っていくかっていうことなんですよね。

夢に乗り合わせてくれる
仲間の輪が拡がるとき

辻本 そうですね。だから、その為には、何かを取り組む具体的な目標があれば、共通認識で、「よしここまで進もう」と、目に見える形で進みますよね。今、私たちは患者情報室という取り組みをしています。去年の4月に私たちの仲間でNPO法人の理事にもなってくださったある患者さんが癌で亡くなられた。その方のご夫人が、「彼が病院の中に患者のサロンがあったらいい。患者情報室があったらいいと言っていた夢を実現したい」と病院に寄付のお申し出があって、これを実現する手伝いをしてくれとCOMLに話があった。その病院の院長に「こういうお申し出がある。なんとしても」と言ったら、「やろうじゃないか」っていうことで、具体的な内容を詰めながら、できれば来年の4月にはオープンして、彼の3周忌にはご報告できるような動きとして進めていきたいなと思っているんです。不思議にそういう目的、あるいは希望を具体的に語れるものとして持っていると、例えば、インテリアデザイナーの人が「ボクもそこなら手伝うよ」と全然分野の違う人と突然出会えたり、ほんとに輪が広がって行くんですよね。だから、私はいつも語るに恥ずかしいくらい大きな夢を、そして今日は美味しいお昼を食べたい!という小さな夢も大事にしたい。とにかく夢をいっぱい持っていると、そのうちどれか、一つや二つは実現できていくんですよね。だから、「夢はいっぱい持とうね」というのが、学生さんたちへのメッセージでもあるんですよ。そういう患者情報室のお知らせがそのうちホームページでさせていただけると思いますので注目していて下さい。
原田 是非注目させていただきたいと思います。波里さんは医学科の2年生なんです。
辻本 あっ!波里さん2年生??落ち着いてらっしゃるからそろそろ卒業かと思いました(笑)。

いつも原点を思い出して!
波里 まだ学生のうちだから、医師になればこうありたいなっていう希望っていうのはまだ遠い未来だからある気はするんですけど、この思いが医師になった時に、ホンマに叶うんやろかっていうちょっとした疑問っていうのはありますよね。今、ちょっとそこで見たんですけど、『ブラックジャックによろしく』とか、あの本とか見ていると「こういう体制であれば難しいかな」っていうのは・・・。
辻本 現実に壁がいっぱいありますもんね。
波里 そうですね。それによって叶えへんかなっていうのは思うんですけどね。

波里瑤子さん(島根医大2年生)
辻本 でも、諦めないで。波里さんが2年生ということをお聞きして、是非申し上げておきたいことは、「今、こんな医者になりたい」と思うことを何でもいいからノートに書いておいて下さい。忘れた頃にそれを見て「あーこんな事を考えてた時があったよな」とか「これが私の原点だったんだよな」って繰り返し見つめられるような、そういう想いを書き残しておいて欲しいなって思います。
波里 はい!是非、今日にでも。
辻本 そして、仲の良い医学生同士、あるいは看護学生さんのお友達と、今度は交換し合ってたりとか。みんなでディスカッションしてみようという、そんな小さなワークショップをしても楽しいんじゃないかしら?
波里 そうですね。
井原 これから3年生ですごいカリキュラムが厳しくなるんですよね。そこで忙殺されないように・・・。
波里 医者になるのにあんまり関係ないようなことを3年でしてしまうんで、その忙しい中で忘れてしまうかもしれないなって。そのためにも、今日にでも(笑)。
辻本 書いてください。
波里 はい。
辻本 嬉しい(笑)。何か波里さんの方から聞いておきたい事はありますか?

少人数制の中でも精一杯の対応を!
波里 ちょっと戻ってしまうんですけど。COMLっていうのは、平常は電話相談だけなんですか?
辻本 事務所内での日常の活動は、電話相談が中心です。しかし、情報誌を編集したり、色んな企画もおこなっていますし、病院探検隊やSPを使ってのコミュニケーションセミナーへの派遣などが活動の中に組み込まれていますので、非常に忙しいです。いつもはボランティアの人が2人か3人、ローテーションを組んで電話相談に対応してくださっています。

まさに自転車操業とはこのこと?!
波里 COMLができてから13年と言われましたけれど、政府の援助金などはあるんですか?
辻本 全然ありません。去年の4月1日にNPO法人になりました。それまでは、任意団体で、いわゆる市民グループという小さな組織でしかなかったんです。13年間に、助成金という形では、トヨタ財団から一度、日本財団から『医者にかかる10箇条』の普及の時に申請した事があるんですけどね。今、年間4500万くらいの収支で、収入としては、会員の方からの会費や講演料・原稿料ですね。それから、活動での収益や物品販売などからの収入もあります。非営利ですけれど、活動を維持していくためには稼がなきゃいけない。私腹を肥やすために活動するのではなくて、活動を維持するための稼ぎです。これを自転車操業というんですよね(笑)。
原田 ほんと、日々目まぐるしいという感じですね。

仲間がいるからやっていける活動
辻本 ほんと、忙しいです。でも、月に300件のご相談を聞いてくださるボランティアの方々に、ようやく交通費だけお払いできるようになってきたんです。だから、辛い怒鳴られるような相談も中にはあるのに、それはまさしくボランティアなんですよね。そういう素晴らしい仲間達がいるもんだから、やっぱり頑張ろうって励まされちゃうんですよ。だから、仲間の力ってすごいと思います。
原田 そうですよね。民医連の病院っていうのは「反核・平和」っていうことで運動をしているんですけれども、私たちの病院の青年達で色んなところに、平和大会とか参加する時とかも、事前学習をしたり、報告集会をしたりとか、行くまでにTシャツとか作ったりして平和を訴えるものを作ったりとか、アピールできるものを作ったりとかしていますが、その過程の中で、仲間がどんどん広がっていくというのを経験しているんです。リードしてくれた人がちょっとづつ語りかけをしたりして、仲間が広がって、またその仲間と仲間がつながって広がっていく。今は本当に多くの仲間が支えあいになっているというか・・・。
辻本 一人ひとりが主役なんですよね。誰かのお手伝いではない、一人ひとりが主役なんですよね。
原田 本当に仲間がいないとやっていけない運動なんですよね。自分一人でこれがやりたい!って思っても、時間的にも精神的にも体力的にも辛かったりっていうことがあるんですけれど・・・。

NOと言える!
お互いを尊重しあえる仲間が本当の仲間

辻本 もちろん、その一人ひとりの思いは大事なんだけれど、でも、一人でできることって限りがある。でも、力を合わせるとエネルギーになります。そういう意味ではとてもいい経験をなさっていますね。
原田 これで、また医療現場に戻った時に、民医連はチーム医療とか、民主的集団医療とかいうんですけれど、医師と対等平等の関係を持ちつつ、事務として患者さん一人に対して、同じ思いを持ちながらその仲間として対応できるっていうことができたら、すごい理想だなって思いますけれどね。
辻本 仲間とか対等、平等というのは、「仲良しごっこ」をするのではない。変だなと思ったことを遠慮なく言い合い、ではどうすればいいかを一緒に考える。あるいは、いくら仲間でもこれは理不尽、これは間違っていると思った時には、はっきりNOと言える、それが言える仲間でなければいけない。それからもう一つは、お互い考え方が違っていてもいいんだよね。違っている事って当たり前なんだよね。だけど、その違いっていうことを乗り越えて、じゃあこの問題はどうするの?と考えることが大事だと思います。「あの人とは私と意見が違うから、物も言いたくないわ」というのでは仲間になれないわけですよ。違いがあって当たり前。違いを尊重しあって、その違いをどう乗り越えるか。それができるのが、本当の意味の仲間ではないかな。だから、『先生様』なんて意識が病院の中で蔓延っているうちは、それは違うって思うんです。

働く人の権利が守られてこそ、
良い医療が提供できる

辻本 株式会社とか、派遣については、ありきたりなことです。今とてもじゃないけれど、そんな医療が日本にあって欲しくないし、派遣業者ということでの悲哀をあちこちで私たちも見たり、聞いたりしています。働く人の人権をきちっと守れないような医療現場で、どうして患者さんに生き生きとした表情でお仕事ができますか?やっぱり、医療現場で働く人の人権が守られて初めて患者の人権を守る医療ができていくと私はいつも申し上げているんですよ。
患者は話を聞いてくれる人を待っている
波里 ボランティアの人は医療従事者とは関係ないんですか?
辻本 電話相談でスタッフをしている人は医療従事者ではありません。よく、じゃあ、何ができるんですかと聞かれます。判断することも指導することもできない、教育することもできません。その代わりできることは、在るがままのその人の話をじっくり聞かせていただいて、気持ちに寄り添いながら一緒に考えるお手伝い。だから、人が不安になる時って、孤独だったりするでしょ?そうすると、どんどんどんどん深刻になってしまうんですが、電話で一緒に考えてくれる人がいるだけで、自分を見失わないですむこともあります。あるいは聞き手の胸を借りて相手に話すことで、自分の思っていることを客観的に見つめ直して、「私ってこんなことを考えていたんだ」と、次なる一歩の踏み出しの機会になる。だから、私たちはともかく聞く。失礼ながら、専門家は質問をされるとすぐに答えなければならないという脅迫観念に刈られる(笑)ので、聞けないんです。聞けるお医者さんになって下さいね。(笑)
一同 はい。今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。
  (2003年3月15日インタビュー)

対談を終えて
     島根医大3年生:波里 瑤子さん

「理想の医師」とはいったいどういうものだろうか?辻本氏の言葉に触発されて、早速書き出してみた。全てを挙げることは字数の関係上無理なのだが、まとめてしまうと“医師”“患者”としてよりも“人間同士”としての付き合いができる医師が理想であると思う。難しいかもしれないけれど、これが一番(私にとっては)必要なことであると感じる。「理想の医師」を学生の時にじっくり考える機会ができてよかったと思う。