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クローズアップ2010:トヨタ社長、公聴会出席へ 米世論に追い込まれ

 ◇発言迷走、傷広げる

 トヨタ自動車の米国での大規模リコール(回収・無償修理)を巡り、豊田章男社長が19日、米下院公聴会への出席を受け入れたことで、リコール問題は大きな山場を迎える。豊田社長は「お客様や米国へのトヨタの思いを理解してもらえるように努める」と言うが、訪米決断までの迷走ぶりはトヨタのマイナスイメージを更に拡大させた。公聴会で欠陥隠し疑惑などを厳しく追及されるのは必至とあって、トップの訪米が問題収拾の糸口になるかどうかはまだ見えない。

 19日朝、名古屋市内で米下院監視・政府改革委員会の公聴会出席を表明した豊田社長は、「(公聴会に)行くか行かないか、私の一存で決められない。委員長からの招致があって初めて行けることを理解してほしい」と苦しい弁明を強いられた。

 トヨタは当初、10日に予定されていた米議会の公聴会に合わせ、豊田社長の訪米を検討した。ただし、議会関係者や当局との会談、記者会見はしても、トップが火だるまになりかねない公聴会出席は避ける道を模索した。

 それが大雪で公聴会は延期となり、訪米計画も振り出しに。豊田社長は17日の会見で「本社サイドから最大限バックアップする」と、公聴会出席は現地法人トップに任せる意向を示した。「招致があれば考える」と含みは持たせたものの、リコール問題発生以降、なかなか会見に出ず、「危機にトップの顔が見えない」と批判されてきただけに、豊田社長の「現地任せ」発言は米メディアを刺激した。米ABCテレビは「トップは逃げたのか」と報道し、議会では「豊田氏は米国民の疑問に答えることに不熱心だ」との声も上がった。

 日本国内でも「(社長出席を決めるまで)二転三転し、出ないという話があったのは残念」(前原誠司国土交通相)と波紋を広げた。招致に強制力はないが、「断る余地が無い」(トヨタ幹部)状況に追い込まれた形だ。

 豊田社長は公聴会で欠陥隠しを否定し、ブレーキとアクセルを同時に踏んだ際、ブレーキを優先する「ブレーキ・オーバーライド・システム」の全車種への搭載や苦情分析力の強化など努力を訴える方針。だが、トヨタグループ関係者は「議会に言われて出席するのでは心証が良くない」と懸念する。

 日本企業が米公聴会で厳しく追及された例では、ブリヂストン傘下の現地法人「ファイアストン」による00年の大量のタイヤリコール問題がある。

 フォード・モーター社製SUV(スポーツタイプ多目的車)「エクスプローラー」横転事故多発の原因を巡り、公聴会でファイアストンとフォードは非難合戦を展開。世論の反感を買い、現地法人トップに加え、ブリヂストン本社社長も事実上の引責辞任へ追い込まれる事態に発展した。

 米議会はリコールに絡む米運輸当局の対応も追及する構え。豊田社長は当局の立場にも配慮しつつ、自らは不正をしていないと訴える難しい対応を迫られる。トヨタ社内では「昨年6月に就任したばかりの豊田社長が議会の追及に耐えられるか。トップがうまく対応できない姿をさらせば、トヨタのイメージは一段と悪化する」との声も漏れる。【大久保渉、宮崎泰宏、宮島寛】

 ◇批判、中間選挙を意識 雇用力は無視できず

 「米ドライバーの安全確保に向けたトヨタの対応を理解するのに役立つ」。米下院監視・政府改革委員会のタウンズ委員長(民主)とアイサ筆頭理事(共和)は18日、豊田社長の同委公聴会(24日)出席を歓迎する声明を出した。ホームページにリコール対象となったトヨタ車のアクセルペダルの写真を掲示するなど、同委は議会でトヨタ追及の急先鋒(せんぽう)に立つ。

 トヨタ批判が広がったきっかけは、カリフォルニア州で昨年8月に起きたトヨタ車、レクサスの急加速による4人死亡事故だった。テレビの3大ネットワークは、事故時の緊急電話の音声を繰り返し流した。消費者が恐怖と不安を募らせていたところに今回のリコール騒動が重なり、批判は急速に高まった。

 今年秋、米国は中間選挙を迎える。欠陥隠し疑惑を追及し、早い段階から豊田社長の招致を訴えてきたアイサ筆頭理事の地元は、レクサスの事故が起きたカリフォルニア州。「名を上げたいとの政治的思惑もある」(米シンクタンク)議員にとり、有権者の関心が高いトヨタをたたくことは有効な選挙対策になるという見方もある。

 さらにトヨタが3月末、同州の米ゼネラル・モーターズ(GM)との合弁工場を閉鎖することも、反トヨタ感情を高めている。

 しかし、米国がトヨタ批判一色に染まっているわけではない。トヨタの生産拠点があるケンタッキーやテキサスなど4州の知事は今月10日、「トヨタ批判は組合(全米自動車労組=UAW)やライバル企業にあおられており、不公平」とする書簡を議会に送り、「トヨタは米国で販売店も含めて17万人以上の雇用を創出している」と強調した。米紙によると、トヨタが95年に工場を建設したウェストバージニア州選出で、公聴会を開く上院商業・科学・運輸委員会のロックフェラー委員長(民主)らもトヨタに同情的とされる。

 リーマン・ショックの後遺症に悩む米国にとり、トヨタの雇用力は無視できない。オバマ政権も「私たちが念頭に置くのは利用者の安全だけだ」(ギブス大統領報道官)と、批判の過熱ぶりには複雑な表情だ。【ワシントン斉藤信宏】

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 ■ことば

 ◇米議会の公聴会

 議会上下両院の委員会や小委員会が法案審議や特定の問題を調査する際、情報収集のために開く。関係者や専門家を招いて意見を求めたり、事実関係を確認する。参考人が出席に応じない場合は、強制力のある召喚状を出すこともある。政府高官人事の承認手続きの一環としても開かれる。トヨタ自動車のリコール問題では▽下院エネルギー・商業委員会が今月23日▽同監視・政府改革委員会が24日▽上院の商業・科学・運輸委員会が3月2日--にそれぞれ公聴会を予定。豊田章男社長は参考人として24日の公聴会に招致されており、冒頭の5分間で意見表明をした後、議員の質問に答える。

毎日新聞 2010年2月20日 東京朝刊

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