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社説:トヨタ米公聴会 ばん回の好機にしよう

 米国での大規模リコール(回収・無償修理)問題を受け、トヨタ自動車の豊田章男社長が米議会公聴会に出席することになった。豊田社長は、「(下院監視・政府改革委員会から)正式に招致されたので、喜んでうかがう」と語っているが、トヨタがこれまで社長ではなく現地法人のトップを送る方針だったことから、米国内では「トヨタの社長は議会や米国民に説明しようという熱意が足りない」(同委員会のアイサ筆頭理事)との見方が広がってしまった。議会への説明も含めた社長の渡米を、もっと早く決断することはできなかったのか。悔やまれる。

 米国でのトヨタ批判は、日本国内でのそれとは比較にならないほど過熱している。レクサスを運転中、アクセルトラブルに見舞われて事故死した家族が携帯電話からかけた救急通報の生々しい叫びをテレビが繰り返し報じ、そうした報道に呼応するように議会でのトヨタ追及の声も強まっていった。

 すでに大量のリコールを実施し、製品上の改善策もとっているトヨタだが、米議会やメディアは納得していない。トヨタが安全上の問題を認識しながら情報を隠したり、現在も開示をためらっているのではないか、という不信・疑念が根強い。

 トヨタにしてみれば、米国の事情に通じた現地法人トップの方が公聴会での説明役に適しているとの思いがあったかもしれない。しかし、不信の深刻さを考えれば、今、企業全体を代表して疑問に答えられるのは最高責任者の豊田社長しかいない。

 米国で強まるトヨタへの風圧の背景には、政治的な思惑もあるだろう。雇用情勢が好転せず国民の不満が高まる中で、中間選挙を控えた連邦議会の議員たちは選挙区を意識したパフォーマンスに走りがちだ。しかし、グローバルに展開する大企業であれば、現地の世論や政治の動向まで考えた危機管理が求められる。重大問題が起きた時どのように報道対応するかなど、トップは日ごろから訓練を受けているものだ。

 トヨタは世界で32万人以上の従業員を雇い、世界で生産し、世界で製品を売っている。しかし、取締役は米現地法人の社長を含め29人全員が日本人だ。生産・販売のグローバル化に経営のグローバル化が追いつかなかったことが、「世界」と「豊田市」の認識のギャップを生み、対応の遅れを招き、事態をより悪化させてしまったのではなかろうか。

 現地のよき企業市民になろうとトヨタが世界で続けてきた努力は知られている。それを無駄にしないためにも、豊田社長は先頭に立って説明を尽くさなければいけない。日本であっても米国であっても同じだ。

毎日新聞 2010年2月20日 2時37分

 

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