立松さんは1947年12月15日生まれ。栃木県立宇都宮高校から早大政経学部に進学した。
早大在学中から小説を評価され、卒業後は宇都宮市役所勤務などを経て文筆業に専念。1980年、都市化する農村の若者を描いた「遠雷」で野間文芸新人賞を受け、脚光を浴びた。
小説のほかにも世界各地を旅行して著作を発表。テレビ番組のリポーターを務めたり、環境問題に積極的に発言したりするなど行動派の作家として多くの分野で活躍。パリ・ダカールラリーにも出場した。
温かい人柄で「わっぺい」と呼ばれ親しまれた立松さんを一躍、“お茶の間の顔”にしたのは1986年から出演したテレビ朝日系の報道番組「ニュースステーション」。立松さんは「こころと感動の旅」と題したコーナーを持ち、世界各地を訪問した。
中でも、酸素ボンベから漏れるブクブクという泡音と、出身栃木のイントネーションが奏でる立松さんの「水中リポート」は同番組の“名物”となった。「いい滝だ。この水の流れのずうっと上の豊かな森の豊かさを感じさせる滝だねえ…」。名セリフだった。
当時、共演した同番組のメーンキャスター、久米宏さん(65)も「立松和平さんの本を読むと、あの声、あの調子で文章が立ち上がってきます。これからも、ずっとそうだろうと思います」と早すぎる死を惜しんだ。
関係者によると、立松さんは1月中旬、体調を崩して東京都内の病院に入院。「解離性大動脈瘤」と診断され、緊急手術。一時、体調は持ち直したが、8日になって容体が急変したという。現役のまま迎えた、突然の最期だった。
「行動する作家」は素朴な実感を真っすぐな言葉で伝えた。晩年の大作となった「道元禅師」(泉鏡花文学賞、親鸞賞を受賞)などの作品にも、言葉の力を注ぎ込んだ。近年は仏教を主題に“人間の生”を問う小説を書き続け、厳しい内省の跡もうかがわせた。