『20世紀少年』三部作堤幸彦監督インタビュー「ボクには"ともだち"の心情が分かる。カルト社会は特別なことじゃないですよ」
2010年02月17日15時20分 / 提供:日刊サイゾー
高度経済成長期以降の日本社会を総括した壮大なストーリー、累計2,800万部に及ぶ浦沢直樹の大ベストセラーコミックの映像化、総製作費60億円、台詞のあるキャストだけで300人、原作とは異なるエンディングなど、さまざまな話題を呼んだ映画『20世紀少年』三部作。この一大プロジェクトの現場指揮を執ってきたのが堤幸彦監督だ。「自分は芸術家ではなく、商業監督」と自称する堤監督だが、当然ながら映像の中にはビジネスだけでは割り切れない生々しい情感が込められている。劇場未公開シーンを盛り込んだDVD『20世紀少年〈最終章〉ぼくらの旗』が2月24日(水)にリリースされるのに続き、『トリック』『BECK』の劇場公開も控える"超売れっ子"堤監督が日刊サイゾーに初登場。三部作が完結した今、思いの丈を語ってくれた。
──三部作合わせて総製作費60億円というバジェットの大きさが話題になりました。
堤 大作中の大作、持てる力を全て振り絞った作品ですね。表現の方向性が多種多様にわたっていました。世代性、国際性、近未来を含む時代性と、ひとつの作品の中にさまざまな要素が入っていたので、そりゃ〜、楽しかったです。
──大変ではなく、楽しかった?
堤 えぇ、楽しかった。これ以上の大作は、もうやることはないと思うんで(笑)。
──撮影だけで10カ月間。ずっとホテル暮らしですか?
堤 ロケが多かったんで、日本各地をちょこちょこ回っていました。愛知県常滑市(ケンヂたちの少年時代)や栃木県宇都宮市や岩舟町(近未来シーン)とか。
──1年間"住所不定"。
堤 そうですね(笑)。だいたいホテルルートインでした。ルートイン、大好き(笑)。ロケだと体調が良くて、朝4時には起きるんです。撮影の2時間前には現場に入るようにしているので、朝9時撮影スタートなら、7時には現場に入って現場をチェックしていました。それで日が暮れたら、帰りにちょっと一杯やって、ホテルに帰るという生活でしたね。
──三部作続けての監督業は、肉体的にしんどくなかったですか?
堤 いやぁ、普段の作品に比べれば、潤沢とは言わないまでも予算的にかなり余裕があったので、撮りたいと思った映像が撮れたんです。スケジュール的にも、ケータリングのメニュー的にも、いつもに比べ、贅沢させてもらいました(笑)。ほとんどは自分で撮りましたけど、監督補の木村ひさしクンがB班の監督として、ボクだけでは回せなかった子どもたちのシーンなどを撮ってくれました。海外パートは海外のスタッフが動いてくれましたし。
──超大作を任されたという苦労よりも、メリットのほうが多かったんですね。
堤 そうです。やっぱり、話題の作品で多くの人に観てもらえるというのは何よりもうれしいことです。どんなに苦労して完成させた作品でも、宣伝が行き届かずに集客が奮わないと、望まずしてマニアックな作品扱いされてしまいますから。こういう話題作をボクに任せてくれたプロデューサーたちの勇気には感謝しているし、監督冥利に尽きますよ。
──そう言える堤監督って、大人だなぁと思います。原作のイメージを損なうと原作ファンが怒るし、原作のまんまの展開だと映画マニアが厳しいことを言う気苦労の多い案件じゃないですか。
堤 それは当初から分かっていましたからね。第1章はとにかく原作原理主義を掲げ、原作の完コピで行こう。でも、その先があるからね、と。第2章は映画ならではのグルーヴを出していき、最終章では自分のやりたかった世界をじっくり描こう。そして、"ともだち"とは何かということをハッキリと見せようと。その設計が自分の中にあったので、最後までブレずに辿り着けたと思うんです。
──最終章のケンヂ(唐沢寿明)が帰還してのフリーコンサートは、半世紀に及ぶ大河ドラマが収束していく盛り上がりが感じられます。堤監督にとって、コンサートシーンはクライマックスだった?
堤 あのシーンを描くために向かっていったことが、ブレずに三部作を完成させることができた最大の要因でしょうね。原作はもちろん、映画でもライブシーンの後もドラマは続くんですが、ボクにとってはライブシーンがいちばんの"泣き"ポイント。人類の危機を救った男が、若い頃に組んでいたバンドのメンバーと一緒に曲を演奏する。"20世紀の男"の帰結点って感じがしますよね。最終章でのケンヂは設定上では58歳。しかも二足歩行の巨大ロボットとブルース・ウィリスばりに戦った後です。そりゃ、バイクもコケますよ(笑)。でも、そんなボロボロな状態で歌う姿に、ボクはロマンを感じるんです。
──『20世紀少年』三部作は壮大な群像劇であるのと同時に、ひとつの曲が生まれ、完成していく過程を描いた非常に小さなドラマでもありますね。
堤幸彦監督(以下、堤) そうです。非常にちっちゃな世界を描いています。それが、ラストシーンにも繋がっていくわけです。世界中が破滅に追い込まれる、非常に小さな個人的な物語なんです。そこが『20世紀少年』という作品の魅力なんじゃないかとボクは思いますね。
──1984年に開かれたアフリカ難民救済コンサート「ライブエイド」を思い出しました。せっかく救援物資が集まったのに、末端にはうまく届かないという問題が残されたイベントでした。でも、『20世紀少年』を観ていると、音楽が本来人々に与えるものは、マテリアルな物だけではないということを改めて感じさせます。
堤 ボク自身も音楽に救われたんです。T-レックスやその前後のロックを聴いて、ケンヂや原作者の浦沢直樹さんと同じように、ボクの人生も変わった。モノラルのラジオから流れるロックに衝撃を受け、その体験を引きずったまま中年になり、こういう作品に出会えた。中学生だったボクはただ「かっこいい曲だなぁ」とT-レックスを聴いていただけですが、まさか50代になってT-レックスのヒット曲を題名にした映画を撮ることになるなんて夢にも思いませんでした。三つ子の魂じゃないけど、この映画を完成させたことで自分の人生を肯定することができた。それまで、ボクは自分の人生に対して、ずっと否定的だったんです。自分のような映像職人が、『20世紀少年』を映画にできてよかった。生きていてよかったと思えます。監督業を辞めていたら、こんな体験はできなかったわけですから。
──堤監督のような売れっ子でも、廃業を考えた?
堤 そりゃ、ありますよ。こう見えても、映画が外れるとすごく落ち込むんです。自分ではいいものができたと思っていたんですが、ヒットしないと大ショックです。『20世紀少年』がダメだったら、もう監督業を辞めようというぐらいの覚悟でした。ボクは芸術家じゃなくて、職業監督として映画を撮っているので、多くの人に届かなかった場合は、職人として失格なんです。けっこう瀬戸際での勝負でしたが、ほっとひと息ついているところです(笑)。
──第1章公開時に、堤監督は「同窓会に出て、自分にだけあだ名がないことに気づいた」とコメントされていました。原作に比べ、映画は"ともだち"への肩入れがより強い印象を受けるのですが......。
堤 登場キャラクターの中で、ボクがいちばん好きなのが"ともだち"です。"ともだち"のことがすごく分かるんです。"ともだち"がなぜ"ともだち"になったのか。子どもの頃にちょっとイジメに遭ったぐらいで一生ひがんでんじゃねぇよ、と思うかもしれませんが、ひがむんですよ!! 中学生のとき、ボクは泳げなかったんですが、水泳大会でリレーの代表選手に選ばれたんです。4人中3人は水泳部の部員で、ボクひとりお笑い要員として選ばれ、アンカーとして泳がされたんです。50m差でボクにタッチされ、懸命に犬掻きで泳ぎましました。プールサイド中がすごい盛り上がりでしたが、ボクは堪まらなかった。結局、優勝はしたんですが、その日ボクはボイコットすることを覚えたんです。表彰式には自分ひとり出ず、家に帰って寝ました。"ともだち"と同じ思いをしたんです。そのときの同級生たちはその後、弁護士や大学教授になって勝ち組人生ですよ。それに対して、ボクは大学中退で貧乏ADになって......。ほんと敗残者のような気持ちでした。"ともだち"がどうしてお面を被って、社会に対して復讐を企てるのか、その気持ちがすごく分かるんです。
──その鬱屈した情念が映像の世界で爆発しているんですね。
堤 自分は映像職人と言いつつも、この作品には実はすごく思い入れがあるんです(苦笑)。映像の中で「こうなればいいな」という世界を描いているわけです。
──堤監督は『トリック』シリーズでも度々、インチキ新興宗教にすがりつく庶民の姿を描いてきました。最終章を観ていると、「信じること」と「すがりつくこと」は違うんだなと感じさせます。
堤 実際にそういう体験をした人じゃないと、この作品を具体的に観ることはできないかもしれません。地下鉄サリン事件が起きたとき、「なんで、オウム真理教みたいな教団に入信するんだろう?」と言われていましたけど、ボクは分かりますよ。社会に絶望感を持っている人は、そうなります。ボク自身、宗教じゃありませんけれど、若い頃に特定の思想性にハマった時期がありました。"ともだち"は社会の歪みから生まれてきたということが、情念としてすごく理解できる。『トリック』でも新興宗教の教祖をよく登場させますが、カルトにハマることは決して特別なことではなく、すごくあり得ること。現実に、日本社会は60年前は"ともだち社会"だったわけです。隣の隣の国は、今もそうですよね? 『20世紀少年』は決して荒唐無稽な話ではないんです。
──『20世紀少年』は誰の立場で振り返るかで大きく変わる"記憶"の物語でもあります。時間と予算があれば、再編集してみたいお気持ちはありますか?
堤 あっ、それはやってみたいですねぇ! 三部作を再編集し直して、6時間一挙上映とかやってみたい。『沈んだ太陽』って感じかな(笑)。三部作は合わせると全部で7時間になるんですが、今ならカットできるところは大胆にカットして、6時間くらいにまとめれば、すっきりしたものになるんじゃないかな。ベルナルド・ベルトリッチ監督の『1900』(76)は5時間以上ありますよね。まぁ、ベルトリッチ監督の作品と並べるのはおこがましいけど、一代絵巻として『20世紀少年』も長尺で観てみたい気はしますね。奇特な出資者がおられれば、喜んで再編集に応じます(笑)。
──堤監督も60億円の超大作を成功させた大監督ですね。
堤 いやいや、勘弁してください。『20世紀少年』が無事に完成したのは、監督の力量ではなく、チームとしてのものです。原作者であり、脚本を手掛けてくれた浦沢さん、長崎尚志さん、映画化の企画をずっと温めてきたプロデューサーたち、バックアップしてくれた出資者の方たち、サポートしてくれた多くの人たちが集まってできた一大イベントでした。ボクはその真ん中で、「はい、こっち。次は、そっち」と声を掛けていただけですから。
──4年ぶりの人気シリーズ『トリック』(5月8日公開)に続き、早くも賛否両論となっている『BECK』(今秋公開予定)が待機中ですが。
堤 『BECK』は原作ファンから非難轟々みたいです(苦笑)。でも、『BECK』もロックを題材にした作品。「え、そうきた!?」という仕掛けを用意しています。原作ファンも驚く映画になりますよ(笑)。
(取材・構成=長野辰次)
●『20世紀少年〈最終章〉ぼくらの旗』
原作/浦沢直樹 脚本/浦沢直樹、長崎尚志 監督/堤幸彦 出演/唐沢寿明、豊川悦司、常盤貴子、香川照之、平愛梨、藤木直人、石塚英彦、宮迫博之、佐々木蔵之介、山寺宏一、高橋幸宏、佐野史郎、石橋蓮司、中村嘉葎雄、黒木瞳
※"もうひとつのエンディング"のシーン一部を含む特報配信ほか、スペシャルキャンペーン実施中。
<http://www.vap.co.jp/20thboys/index.html>
●『20世紀少年<最終章>ぼくらの旗』豪華版
2月24日 発売
2枚組 5,775円(税込)
発売元:バップ
販売元:バップ
※通常版、Blu-ray同時発売。2月19日DVDレンタル開始
●つつみ・ゆきひこ
1955年愛知県出身。東放学園卒業後、テレビ業界に。95年の『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)で注目を集め、以後、『ケイゾク』『池袋ウエストゲートパーク』『世界の中心で、愛を叫ぶ さけぶ』(TBS系)、『トリック』(テレビ朝日系)などの連続ドラマを手掛ける人気ディレクターに。森田芳光監督によるプロデュース作『バカヤロー!私、怒ってます』(88)の一編『英語がなんだ』で映画監督デビュー。主な監督作に『ケイゾク/映画Beautiful Dreamer』(00)、『恋愛寫眞』(03)、『明日の記憶』(06)、『サイレン』(06)、『包帯クラブ』(07)、『自虐の詩』(07)、『まぼろしの邪馬台国』(08)などがある。
【関連記事】 堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学
【関連記事】 『20世紀少年』は駄作?"天才"浦沢直樹はホントに面白いか
【関連記事】 映画20世紀少年のカンナ役、すでに決まっていた!?
──三部作合わせて総製作費60億円というバジェットの大きさが話題になりました。
堤 大作中の大作、持てる力を全て振り絞った作品ですね。表現の方向性が多種多様にわたっていました。世代性、国際性、近未来を含む時代性と、ひとつの作品の中にさまざまな要素が入っていたので、そりゃ〜、楽しかったです。
──大変ではなく、楽しかった?
堤 えぇ、楽しかった。これ以上の大作は、もうやることはないと思うんで(笑)。
──撮影だけで10カ月間。ずっとホテル暮らしですか?
堤 ロケが多かったんで、日本各地をちょこちょこ回っていました。愛知県常滑市(ケンヂたちの少年時代)や栃木県宇都宮市や岩舟町(近未来シーン)とか。
──1年間"住所不定"。
堤 そうですね(笑)。だいたいホテルルートインでした。ルートイン、大好き(笑)。ロケだと体調が良くて、朝4時には起きるんです。撮影の2時間前には現場に入るようにしているので、朝9時撮影スタートなら、7時には現場に入って現場をチェックしていました。それで日が暮れたら、帰りにちょっと一杯やって、ホテルに帰るという生活でしたね。
──三部作続けての監督業は、肉体的にしんどくなかったですか?
堤 いやぁ、普段の作品に比べれば、潤沢とは言わないまでも予算的にかなり余裕があったので、撮りたいと思った映像が撮れたんです。スケジュール的にも、ケータリングのメニュー的にも、いつもに比べ、贅沢させてもらいました(笑)。ほとんどは自分で撮りましたけど、監督補の木村ひさしクンがB班の監督として、ボクだけでは回せなかった子どもたちのシーンなどを撮ってくれました。海外パートは海外のスタッフが動いてくれましたし。
──超大作を任されたという苦労よりも、メリットのほうが多かったんですね。
堤 そうです。やっぱり、話題の作品で多くの人に観てもらえるというのは何よりもうれしいことです。どんなに苦労して完成させた作品でも、宣伝が行き届かずに集客が奮わないと、望まずしてマニアックな作品扱いされてしまいますから。こういう話題作をボクに任せてくれたプロデューサーたちの勇気には感謝しているし、監督冥利に尽きますよ。
──そう言える堤監督って、大人だなぁと思います。原作のイメージを損なうと原作ファンが怒るし、原作のまんまの展開だと映画マニアが厳しいことを言う気苦労の多い案件じゃないですか。
堤 それは当初から分かっていましたからね。第1章はとにかく原作原理主義を掲げ、原作の完コピで行こう。でも、その先があるからね、と。第2章は映画ならではのグルーヴを出していき、最終章では自分のやりたかった世界をじっくり描こう。そして、"ともだち"とは何かということをハッキリと見せようと。その設計が自分の中にあったので、最後までブレずに辿り着けたと思うんです。
──最終章のケンヂ(唐沢寿明)が帰還してのフリーコンサートは、半世紀に及ぶ大河ドラマが収束していく盛り上がりが感じられます。堤監督にとって、コンサートシーンはクライマックスだった?
堤 あのシーンを描くために向かっていったことが、ブレずに三部作を完成させることができた最大の要因でしょうね。原作はもちろん、映画でもライブシーンの後もドラマは続くんですが、ボクにとってはライブシーンがいちばんの"泣き"ポイント。人類の危機を救った男が、若い頃に組んでいたバンドのメンバーと一緒に曲を演奏する。"20世紀の男"の帰結点って感じがしますよね。最終章でのケンヂは設定上では58歳。しかも二足歩行の巨大ロボットとブルース・ウィリスばりに戦った後です。そりゃ、バイクもコケますよ(笑)。でも、そんなボロボロな状態で歌う姿に、ボクはロマンを感じるんです。
──『20世紀少年』三部作は壮大な群像劇であるのと同時に、ひとつの曲が生まれ、完成していく過程を描いた非常に小さなドラマでもありますね。
堤幸彦監督(以下、堤) そうです。非常にちっちゃな世界を描いています。それが、ラストシーンにも繋がっていくわけです。世界中が破滅に追い込まれる、非常に小さな個人的な物語なんです。そこが『20世紀少年』という作品の魅力なんじゃないかとボクは思いますね。
──1984年に開かれたアフリカ難民救済コンサート「ライブエイド」を思い出しました。せっかく救援物資が集まったのに、末端にはうまく届かないという問題が残されたイベントでした。でも、『20世紀少年』を観ていると、音楽が本来人々に与えるものは、マテリアルな物だけではないということを改めて感じさせます。
堤 ボク自身も音楽に救われたんです。T-レックスやその前後のロックを聴いて、ケンヂや原作者の浦沢直樹さんと同じように、ボクの人生も変わった。モノラルのラジオから流れるロックに衝撃を受け、その体験を引きずったまま中年になり、こういう作品に出会えた。中学生だったボクはただ「かっこいい曲だなぁ」とT-レックスを聴いていただけですが、まさか50代になってT-レックスのヒット曲を題名にした映画を撮ることになるなんて夢にも思いませんでした。三つ子の魂じゃないけど、この映画を完成させたことで自分の人生を肯定することができた。それまで、ボクは自分の人生に対して、ずっと否定的だったんです。自分のような映像職人が、『20世紀少年』を映画にできてよかった。生きていてよかったと思えます。監督業を辞めていたら、こんな体験はできなかったわけですから。
──堤監督のような売れっ子でも、廃業を考えた?
堤 そりゃ、ありますよ。こう見えても、映画が外れるとすごく落ち込むんです。自分ではいいものができたと思っていたんですが、ヒットしないと大ショックです。『20世紀少年』がダメだったら、もう監督業を辞めようというぐらいの覚悟でした。ボクは芸術家じゃなくて、職業監督として映画を撮っているので、多くの人に届かなかった場合は、職人として失格なんです。けっこう瀬戸際での勝負でしたが、ほっとひと息ついているところです(笑)。
──第1章公開時に、堤監督は「同窓会に出て、自分にだけあだ名がないことに気づいた」とコメントされていました。原作に比べ、映画は"ともだち"への肩入れがより強い印象を受けるのですが......。
堤 登場キャラクターの中で、ボクがいちばん好きなのが"ともだち"です。"ともだち"のことがすごく分かるんです。"ともだち"がなぜ"ともだち"になったのか。子どもの頃にちょっとイジメに遭ったぐらいで一生ひがんでんじゃねぇよ、と思うかもしれませんが、ひがむんですよ!! 中学生のとき、ボクは泳げなかったんですが、水泳大会でリレーの代表選手に選ばれたんです。4人中3人は水泳部の部員で、ボクひとりお笑い要員として選ばれ、アンカーとして泳がされたんです。50m差でボクにタッチされ、懸命に犬掻きで泳ぎましました。プールサイド中がすごい盛り上がりでしたが、ボクは堪まらなかった。結局、優勝はしたんですが、その日ボクはボイコットすることを覚えたんです。表彰式には自分ひとり出ず、家に帰って寝ました。"ともだち"と同じ思いをしたんです。そのときの同級生たちはその後、弁護士や大学教授になって勝ち組人生ですよ。それに対して、ボクは大学中退で貧乏ADになって......。ほんと敗残者のような気持ちでした。"ともだち"がどうしてお面を被って、社会に対して復讐を企てるのか、その気持ちがすごく分かるんです。
──その鬱屈した情念が映像の世界で爆発しているんですね。
堤 自分は映像職人と言いつつも、この作品には実はすごく思い入れがあるんです(苦笑)。映像の中で「こうなればいいな」という世界を描いているわけです。
──堤監督は『トリック』シリーズでも度々、インチキ新興宗教にすがりつく庶民の姿を描いてきました。最終章を観ていると、「信じること」と「すがりつくこと」は違うんだなと感じさせます。
堤 実際にそういう体験をした人じゃないと、この作品を具体的に観ることはできないかもしれません。地下鉄サリン事件が起きたとき、「なんで、オウム真理教みたいな教団に入信するんだろう?」と言われていましたけど、ボクは分かりますよ。社会に絶望感を持っている人は、そうなります。ボク自身、宗教じゃありませんけれど、若い頃に特定の思想性にハマった時期がありました。"ともだち"は社会の歪みから生まれてきたということが、情念としてすごく理解できる。『トリック』でも新興宗教の教祖をよく登場させますが、カルトにハマることは決して特別なことではなく、すごくあり得ること。現実に、日本社会は60年前は"ともだち社会"だったわけです。隣の隣の国は、今もそうですよね? 『20世紀少年』は決して荒唐無稽な話ではないんです。
──『20世紀少年』は誰の立場で振り返るかで大きく変わる"記憶"の物語でもあります。時間と予算があれば、再編集してみたいお気持ちはありますか?
堤 あっ、それはやってみたいですねぇ! 三部作を再編集し直して、6時間一挙上映とかやってみたい。『沈んだ太陽』って感じかな(笑)。三部作は合わせると全部で7時間になるんですが、今ならカットできるところは大胆にカットして、6時間くらいにまとめれば、すっきりしたものになるんじゃないかな。ベルナルド・ベルトリッチ監督の『1900』(76)は5時間以上ありますよね。まぁ、ベルトリッチ監督の作品と並べるのはおこがましいけど、一代絵巻として『20世紀少年』も長尺で観てみたい気はしますね。奇特な出資者がおられれば、喜んで再編集に応じます(笑)。
──堤監督も60億円の超大作を成功させた大監督ですね。
堤 いやいや、勘弁してください。『20世紀少年』が無事に完成したのは、監督の力量ではなく、チームとしてのものです。原作者であり、脚本を手掛けてくれた浦沢さん、長崎尚志さん、映画化の企画をずっと温めてきたプロデューサーたち、バックアップしてくれた出資者の方たち、サポートしてくれた多くの人たちが集まってできた一大イベントでした。ボクはその真ん中で、「はい、こっち。次は、そっち」と声を掛けていただけですから。
──4年ぶりの人気シリーズ『トリック』(5月8日公開)に続き、早くも賛否両論となっている『BECK』(今秋公開予定)が待機中ですが。
堤 『BECK』は原作ファンから非難轟々みたいです(苦笑)。でも、『BECK』もロックを題材にした作品。「え、そうきた!?」という仕掛けを用意しています。原作ファンも驚く映画になりますよ(笑)。
(取材・構成=長野辰次)
●『20世紀少年〈最終章〉ぼくらの旗』
原作/浦沢直樹 脚本/浦沢直樹、長崎尚志 監督/堤幸彦 出演/唐沢寿明、豊川悦司、常盤貴子、香川照之、平愛梨、藤木直人、石塚英彦、宮迫博之、佐々木蔵之介、山寺宏一、高橋幸宏、佐野史郎、石橋蓮司、中村嘉葎雄、黒木瞳
※"もうひとつのエンディング"のシーン一部を含む特報配信ほか、スペシャルキャンペーン実施中。
<http://www.vap.co.jp/20thboys/index.html>
●『20世紀少年<最終章>ぼくらの旗』豪華版
2月24日 発売
2枚組 5,775円(税込)
発売元:バップ
販売元:バップ
※通常版、Blu-ray同時発売。2月19日DVDレンタル開始
●つつみ・ゆきひこ
1955年愛知県出身。東放学園卒業後、テレビ業界に。95年の『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)で注目を集め、以後、『ケイゾク』『池袋ウエストゲートパーク』『世界の中心で、愛を叫ぶ さけぶ』(TBS系)、『トリック』(テレビ朝日系)などの連続ドラマを手掛ける人気ディレクターに。森田芳光監督によるプロデュース作『バカヤロー!私、怒ってます』(88)の一編『英語がなんだ』で映画監督デビュー。主な監督作に『ケイゾク/映画Beautiful Dreamer』(00)、『恋愛寫眞』(03)、『明日の記憶』(06)、『サイレン』(06)、『包帯クラブ』(07)、『自虐の詩』(07)、『まぼろしの邪馬台国』(08)などがある。
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