【ワシントン=村山祐介、北京=峯村健司】米国防総省は29日、台湾向けに総額64億ドル(約5800億円)に上る大規模な武器売却を決め、議会に通告したと発表した。オバマ政権下では初めてで、ブッシュ前政権による2008年の売却決定に匹敵する規模。
発表を受けて、中国外務省の何亜非次官は30日、米国のハンツマン駐中国大使に抗議したうえで「強烈な憤慨を表明し、両国のさまざまな交流や協力関係にきわめて深刻な悪影響を及ぼす」と警告したと発表。同日、軍事交流の再中断と、武器を輸出した米企業に対して制裁すると発表した。
米国防総省の発表によると、売却対象は地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)114基と多目的ヘリ・UH60ブラックホーク60機、対艦ミサイル「ハープーン」12基など。30日以内に議会の反対がなければ売却が可能になる。
オバマ政権は、中国の急速な軍備増強を踏まえ、中台間の軍事バランスを維持するには台湾への武器売却が不可欠と判断した模様だ。米国務省のクローリー次官補は29日の会見で、「台湾海峡の安全と安定の維持に寄与するものだ」と説明した。
一方、台湾当局が強く求め、中国政府が最も強く警戒してきた新型F16戦闘機の売却は今回見送られたほか、ディーゼル潜水艦の設計図も対象外にするなど、中国政府への配慮もうかがえる。米政府高官によると、発表に先立つ同日朝に在米中国大使館に電話で通知したという。
台湾への武器売却を巡っては、ブッシュ前政権が08年10月に総額65億ドルの売却を議会に通告した際、中国政府が米中間の軍事交流を中断。オバマ政権発足後に再開した経緯がある。
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30日午後まで中米を訪問中だった台湾の馬英九(マー・インチウ)総統は記者団に対し、29日夜に米国から売却決定の通知があったことを明かした。馬総統は「我々に自信と安心を与えるもので大陸(中国)とさらに多くの行動を共にできるだろう」と述べ、武器供与の決定が中国との関係改善を進める上でも台湾の利益にかなうとの考えを示した。