余録

　世界最古のスケートクラブは１８世紀半ばにスコットランドで生まれた。入会には二つのテストが行われた。一つは氷上に完全な円を描くこと、もう一つは氷上に置いた三つの帽子を跳び越せることだったという▲より洗練された氷上の演技を競うフィギュアスケートの世界大会の初開催は、時代も下り１８９６年だ。わずか４人の選手を５人の審判が採点してドイツの選手が優勝した。大会は毎年行われたが、第７回大会でちょっとした騒ぎが起こる▲英国の女性が参加申請をしたのだ。実はそれまでフィギュアスケートは男性の競技というのが常識で、性別を指定した大会規定がなかった。激論の末に出場した女性は２位になる。女子の大会ができたのは、その４年後のことだ（日本スケート連盟編「日本のスケート発達史」）▲１９３２年のレークプラシッド冬季五輪のフィギュアに日本が初参加した際も選手団は男子だけだった。なのに以来、表彰台に縁がなかった日本男子である。悲願のメダルはようやくバンクーバーで授けられた。高橋大輔選手が失敗を恐れぬ気迫の演技で勝ち取った「銅」である▲ひざの故障からようやく復活した高橋選手の今季だ。まだ成功率の低い４回転ジャンプに勝負どころで挑んだのは、もちろん「金」を狙ってだ。その気合は転倒後も全く動揺のない表情豊かなステップやジャンプをも支え、会場を魅了した▲トリノ五輪では気の弱さを「ガラスのハート」と評された高橋選手の４年後の変身であった。歴史では先行した日本の男子フィギュアがようやく面目をほどこしたところで、ここは実績で先行する女子の活躍に一層期待がふくらむ。