あるときはギャグを連発する底抜けに明るいコメディアン。またあるときは人生の深みを渋く刻む渋い名優。17日亡くなった藤田まことさんは、長い芸歴において息の長い数々の当たり役を演じてきた。活躍の幅はテレビ、映画、舞台と、年を重ねるにつれ広がっていった。
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藤田さんの父は無声映画で活躍した俳優の藤間林太郎。その縁で子役として映画に出演、10代から司会や物まねをこなした。大阪の劇場「なんば花月」でコメディアンとして活動する一方、テレビの「スチャラカ社員」で人気を得た。
1962年から白木みのるとのコンビで主役を務めたコメディー「てなもんや三度笠」が大ヒット。面長の顔を「馬」とからかわれるギャグや「当たり前田のクラッカー」「耳の穴から指突っ込んで、奥歯ガタガタいわしたる」などのフレーズで日本中を沸かせた。
「てなもんや-」では初めての主役。「あんかけの時次郎」は、調子がいいけれど憎めない役回りで、最高視聴率が関西で60%、関東でも40%を超える超人気番組のスターになった。
番組終了後、一時は各地のキャバレーを回るなど不遇な時代が続いた。主催者から用意された宿泊部屋が無名の歌手よりランクが低かったこともあり、ひどく落ち込んだこともあったという。
しかし、73年にテレビ時代劇「必殺仕置人」で演じた同心、中村主水が当たり役となり、一気に状況が変わった。藤田さんが演じた中村主水は、それまでのコミカルなイメージを覆した。
姑役の菅井きんから「むこ殿!!」としかられるなど、昼あんどんと呼ばれる情けない男と、狙った獲物は逃さない非情な殺人者を演じ分け、俳優として大きくステップアップした。
88年から始まったテレビドラマ「はぐれ刑事純情派」では、悪を憎むが、人は憎まないという人情味のある安浦刑事を生活感をにじませて演じた。
ほかにもテレビでは時代劇「剣客商売」の小兵衛、舞台では名作ミュージカルの主人公ゾルバ…。当たり役に恵まれた芸能人生だった。