政府は何度同じ議論を繰り返せば先に進めるのであろうか。
米軍普天間飛行場の移設問題で、鳩山由紀夫首相は17日、国民新党が提案する名護市辺野古のキャンプ・シュワブ内陸上部への滑走路建設を盛り込んだ「陸上案」を「検討に値する」と語っている。同案はSACO合意を受け1998年にも浮上し、米軍再編協議でも防衛省首脳が提起したものだ。
演習地内への移設に米軍が反対し、山の掘削による環境改変、海域の赤土汚染、学校や集落への爆音被害などから地元も反対し否定された案だ。
ここに来てなぜ国民新党は旧案を持ち出すのか。「最低でも県外」を選挙で公約した鳩山首相は、なぜ県内の移設先を候補地に認める公約違反に走るのか。
「かつてうまくいかない案だったとしても、それは検討に値する」と鳩山首相は言う。ならば辺野古沿岸域、津堅東沿岸、高江北方、カタバル沿岸域、与勝沖、伊江島など同時期に検討された7案も再検討するということか。
7案の中から当時の県知事や名護市長が建設を容認した辺野古沿岸域が、10余年の歳月を経て頓挫した。ジュゴンの生息域、サンゴ群落など豊かな海を埋める新基地建設は国内外から強い反対にあった。
陸上案に国民新党は「自然保護の観点から理解が得られやすい」と見ているが早計だ。掘削土工量の多い陸上案は赤土流出も含め海域への影響は必至だからだ。
10余年前の過去案にもさかのぼり、再検討を進める政府の姿勢に、「シジフォスの岩」というギリシャ神話をみる。
オリンポスの神々に敗れた巨人シジフォスは、罰として大岩を山頂まで運びあげる苦役を科せられる話だ。大岩は頂上近くになると急に重みを増し、支えきれなくなり、ふもとまで転げ落ち、また一からやり直しとなる。
永遠に終わることなく繰り返される苦役。「シジフォスの岩」は「徒労」を意味する。無益で希望のない労働、絶望的状況などのたとえに使われる。自公前政権から続く政府の普天間移設作業は、まさに無益で希望のない労働に映る。苦役は神でなく米国が与えたものだ。知恵ある者は岩を砕き、苦役を終える。
そもそも普天間問題の源流は、街中の大石ならぬ危険な“爆弾”の「移設」ではなく「撤去」という全面返還だった。原点に戻ろう。
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