検証/「参政権要求運動」(4)

投票に対する幻想


 「参政権」が在日同胞の権利問題解決にとっての必須条件であるかのような主張が、一部の人の間でうたわれている。選挙権を行使、意見を反映することによって差別が解消され、同胞の地位が向上するという。

 しかし「参政権」の行使によって在日同胞に対する差別の構造が根本から打ち崩され、民族的権利と真の幸福が与えられるのであろうか。

 

差別は解消されず

 まず、投票によって同胞の意思が反映され、差別が解消されるという点について検証したい。

 在日同胞の人口は67万6793人(1994年12月現在)で、日本の人口の0.5%である。しかも日本の人口の分布状況をみると、大阪、東京など大都市圏内の一部朝鮮人集住地域を除けば、人口比の0.5%を大きく下回る地域がたくさんある。

 すなわち地方自治体レベルでいくら同胞の総意を結集したところで(在日同胞社会の現状から投票行為を行ううえで総意を結集できるかどうかは疑問である)、投票によって影響力を行使できる地域はほとんど皆無に等しく、同胞の権利獲得を促すものにはならない。 実際、北海道に2万4000人住んでいるアイヌ民族は、参政権を行使し国会議員を出しながらも、長い間、民族的な差別を解決できずにいる。また米国の人口の15%を占める黒人は、参政権を獲得し、白人と同様の権利を持ち、制度的差別を解消したにもかかわらず、30年経った今も人種差別を受けている。

 これらのことからも明らかなように、在日同胞の権利問題は投票、しかも地方自治体レベルでの選挙権行使で根本的に解決される問題ではなく、その様な安易な考えは幻想でしかない。

 

明白な党利益の優先

 「参政権」、なかでも選挙権は在日同胞の結束を弱め、同胞社会に亀裂をもたらす恐れがある。

 選挙権の行使とは、投票行為を通じて異なる主張や政治理念を持った政党、派閥、立候補者の中から、支持賛同するものを選び出すということである。

 「参政権」を積極的に行使しようという同胞の中には、日本の政党や派閥に加わる人もいるだろう。現に新党さきがけ島根県支部をはじめとする一部の政党では規約改正を行い、在日朝鮮人党員の受け入れを始めている。その前提条件は「党の基本理念と政策に対する支持」である。

 このように選挙権の行使は、在日同胞が特定の政党政治、派閥政治に具体的に関わり、政党や派閥の対立に巻き込まれる結果をもたらすのである。極論を言えば政党数、派閥数、立候補者数に比例して在日同胞も四分五裂に引き裂かれる恐れが十分にある。

 このことについて一部参政権を主張する者からは、「日本の政党や派閥に加わることと、同胞としての連帯を維持、向上させる民団団体や同胞団体への参加とは別物である」との反論がある。

 しかしこの反論も理想論でしかない。なぜなら在日同胞の運命や朝鮮半島に関わる重大な問題についての見解においても各政党、派閥ごとに対立がみられるからである。また日本の政党政治、派閥政治に加わる以上、同胞の問題に関しても同胞自身の利害関係よりも、日本の政治勢力の利害関係が優先されるのは明白なことではなかろうか。

 

団結こそが重要

 日本において少数者である在日同胞が民族自主権を獲得するためには、同胞の分裂をもたらす「参政権」ではなく強固な団結が重要である。日本当局は戦後50年間、同胞の権利を抑圧することはあっても、権利を自ら与えたことは一度もなかった。

 現在、在日同胞が行使している民族的権利は日本当局によって「与えられた権利」ではなく、団結された同胞の力量によって「獲得された権利」なのである。

 日本当局の在日朝鮮人政策に何ら変更がない以上、権利問題解決のためには、今後も同胞が互いに結束して運動を推し進めていかなければならない。

 であるからこそ民族的権利の獲得や祖国の統一と発展に寄与しようとする在日同胞の間に、新たな対立と分裂をもたらす「参政権」取得は絶対に許容してはならない。(哲)[朝鮮新報96/6/7]

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