検証/「参政権要求運動」(3)
欧州での「参政権」動向
民団が「地方参政権」を要求する根拠の一つとして、ヨーロッパの一部諸国の例を挙げ、外国人に対する地方レベルでの参政権付与が国際的すう勢であるかのように宣伝している。しかし、現実はそういった国はむしろ少数であり、決して彼らが主張するような国際的すう勢とは言えない。
民族権利は保障
外国人に参政権を認めているか、いないかを基準にすると、ヨーロッパ諸国は3つに分類できる。
第1に、すべての在住外国人(国籍を問わず)に地方参政権(選挙権、被選挙権)を認めているのはスウェーデン、デンマーク、ノルウェー、オランダ、アイルランドだ。
これらの国では、法律で定める一定期間、合法的に居住するすべての外国人に地方参政権を認めている。
とくに北欧諸国は第2次世界大戦後、労働力不足解消のために積極的に移民労働者を受け入れたため人口比で外国人の占める割合が、6〜7%となった(在日同胞の日本で占める割合はわずか0.5%)。その結果、移民労働者の排除は国家の繁栄と存続にも関わることになり、外国人を統合する必要が生じた。
その結果とられた統合政策は、各種社会保障制度の確立、外国人児童の母国語教育の保障など外国人の権利を積極的に拡大することから進められ、そして地方レベルでの選挙権(投票権)付与がなされた。このように外国人の権利保障と民族的アイデンティティーの尊重に十分な配慮がなされていることは、日本と比較するうえで重要だ。
しかし、その一方で外国人の厳しい入国制限も実施されており、参政権付与は外国人を国内社会に統合する最後の手段として用いられていることが分かる。
相互主義など前提
第2に、一部の外国人に限って参政権を認めている国にスペイン、ポルトガル、イギリス、フィンランド、アイスランドがある。
これらの国はいずれも、相互主義もしくはかつての古い特殊な国家間関係が前提となっている。
スペインとポルトガルは、かつて多くの移民を外国に送り出した国で、そのため外国在住の自国民が本国に在住する外国人よりも低い法的待遇を受けることがないように相互主義を採っている。
イギリスは本来、英国王を共通の君主として忠誠を誓う諸国家からなる特殊な国家連邦を形成しており、この連邦出身の住民(コモンウェルス市民)に限り国政、地方を問わず選挙権、被選挙権を付与している。
フィンランドとアイスランドは、ノルディック諸国出身の外国人に限り選挙権と被選挙権を認めている。
EU以外は認めず
第3に、外国人に参政権をまったく認めていない国々がある。フランス、ドイツをはじめ西欧と東欧の大半がこれに当てはまる。
フランスは元来、外国人に開かれた国と言われており、移民労働者の受け入れ国であった。それにもかかわらず、これまで外国人に地方参政権を認めていないのは、憲法で選挙権を国民固有の権利と謳っていることのほかに、選挙制度上、地方と国政とが明確に区別し難く、改憲が必要になるからと言われている。
一方で国籍の取得は容易になっているが、その代わり帰化しない外国人には参政権を認めていないのである。
ドイツも憲法上外国人の参政権は認めておらず、かつてシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州が郡および市町村での外国人の選挙を認める選挙法を作ったが、違憲判決が出された。
EU加盟国はマーストリヒト条約によって、加盟国出身の外国人に地方参政権を認めている。フランス、ドイツなどは改憲して対応したが、国民主権原理の立場を堅持したままで、EU加盟国民以外には参政権を認めないことを明らかにしている。
またEUは現在、国家連合の形式を採っているが、最終的には単一国家としてのヨーロッパ連邦を目指している。加盟国の国民に限って参政権を付与するのは、統合の過程では当然かもしれない。
これらの現実を見れば、参政権付与が安易に時代の流れと言えないことは明白だ。(静)[朝鮮新報96/6/4]