検証/「参政権要求運動」(2)

国際人権規約から見て


  民団の一部幹部による「参政権要求運動」の持つ大きな問題点の一つは、世界でもまれな制度的民族差別、在日朝鮮人への過酷な民族差別が政策としても、実態としても、社会風潮としても続いている状況にあって、「朝鮮人として生きる権利」を全面的に保証するうえで悪影響を及ぼすところにある。

 

国民固有の権利」

  外国人である在日朝鮮人の人権という権利について考えるうえで重要な法的前提は、国際法に基づいて論じることである。人々の人権保証に関する国際法で基本法といえる位置にあるのが国際人権規約である。社会権規約であるA規約と自由権規約であるB規約などで成るこの規約は、人権問題について論じる場合の国際的常識であると言える。

 この国際的常識によれば、参政権は国民固有の権利であることが明確にさだめられている。つまり外国人の権利としては認められていないのである。

 具体的な条文に沿って見てみる。

 政治的に参加する権利について定めた国際人権規約B規約第25条は、「すべての市民は、第2条に規定するいかなる差別もなく、かつ、不合理な制限なしに、次のことを行う権利及び機会を有する」として、「直接に、または自由に選んだ代表者を通じて政治に参与すること」、「定期的選挙におてい、投票し及び選挙されること」など参政権の享有について述べている。

 この規定で明文化されているように、参政権を享用できるのは「すべての市民(everycitizen)」、つまり、該当国の国籍を有するもの、国民である。それゆえ、人権に関する国際的常識は、「参政権は国民固有の権利」であるということである。

 

民族は認められず

国際人権規約が内外人平等を基本精神として国籍による差別を禁じながらも、参政権についてはあくまで国民固有の権利であるとするのは、現実として国際社会が国家主権を基盤として成り立っているからである。
 移住国での外国人の「参政権」と外国人の民族的権利の保障との関係を考えるうえで国際人権規約B規約の諸規定は注目すべき点がある。つまり、この自由権規約の第27条で民族的少数者の権利を保障しながら、同規約第25条で、国民固有の権利としての参政権の権利保障について述べているからである。
 他民族への同化政策が撤廃されておらず、様々な法令と処遇によって「朝鮮人として生きる権利」を享有することが困難な状況にある在日朝鮮人にとって、とくに国際法上、保障された民族としての文化的な発展の権利を守ることは焦眉の問題となる。
 「参政権」と民族的権利との関係で重要な論点は、「参政権」が付与されても、朝鮮人として、朝鮮民族として認められることにはつながらないという点である。
 とくに、民族性の保持という視点からすれば、民族教育への権利保障問題一つ見ても、日本政府が同化教育政策を撤廃しておらず、現在でも日本の学校で学ぶ朝鮮の子供たちが本名さえ名のれない実態にあって日本への「参政権運動」は、朝鮮人としての民族的な自覚と意識を積極的に高める努力を結果として弱めることにつながるのみならず、同化政策に免罪符を与えるものである。

 

「人権後進国」日本

 日本政府は、国連関係の人権条約の中で最大規模(146カ国)の締約国数をもつ差別撤廃条約を、1995年12月に批准した。 この条約が制定されてなんと30年ぶりの批准(発行は1996年1月14日)である。「人権後進国」といわれる日本国が、これほど、遅れて批准した背景には、民族差別撤廃条約と言えるこの条約を批准した場合、日本における朝鮮人への民族差別撤廃において積極的な措置と対策を遅延なく講じなければならなかったからである。 在日朝鮮人をめぐって執拗に繰り返され、加えられてきた民族差別を実質的に根絶できる実効性の高い国際法的な根拠が与えられた現在、在日朝鮮人の人権運動を「朝鮮人としての権利保障」を核心に据えた民族差別撤廃運動を展開することこそが肝要であろう。(洙)[朝鮮新報96/5/31]

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