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クラスター爆弾は、地上の戦車部隊などを攻撃する。ひとつの爆弾から多いものだと何百個もの子爆弾をばらまくが、不発のまま地上に残るものが少なくない。戦火が去った後も住民に悲惨な被害をもたらし、「第2の地雷」とも言われる。
そのクラスター爆弾の禁止条約(オスロ条約)が、8月に発効することになった。これを機に、多くの文民を巻き添えにするこの非人道兵器を追放する外交に一層、力を込めていきたい。
条約では、爆弾の使用、生産、移譲を禁止し、不発弾除去、貯蔵分の廃棄を進めなければならない。犠牲者だけでなく、その家族、地域社会への支援も義務づけている。こうした規定を速やかに実行に移し、痛ましい「戦後被害」の撲滅へ手段を尽くすべきだ。
オスロ条約にはすでに104カ国が署名し、日本やフランス、ドイツなどの主要国も批准済みである。だが、大量のクラスター爆弾を保有する米国やロシア、中国、イスラエルなどが署名さえしていない。今後、締約国を増やすことが大きな課題となる。アジア諸国の署名が少ないのも実情で、参加を促していかなければならない。
ただ、米国などがすぐには参加しなくても条約の力は大きい。締約国を増やして、クラスター爆弾の使用は非人道的との考えを国際社会の通念にしていけば、実際には保有国も使用しにくくなるからだ。
1999年に発効した対人地雷禁止条約(オタワ条約)にも米国は参加していないが、アフガニスタン、イラク戦争では対人地雷を使わなかった。背景に、対人地雷への国際的な批判の目があったのは明らかだ。
この先例にならい、締約国を増やしながら、クラスター爆弾は人道に反するという考えを広め、根付かせることが大事だ。
オスロ条約はオタワ条約の時と同様に、中堅国家と国際NGOネットワークの連携が原動力となって成立した。日本では地雷廃絶日本キャンペーン(JCBL)が積極的に活動してきた。今後とも、締約国の拡大や犠牲者支援などでNGOの協力は欠かせない。日本政府も11月にラオスで開催予定の第1回締約国会議の政府代表団にNGOを加えるなど、連携の強化をさぐる必要がある。
クラスター爆弾については、生産にかかわる企業への投融資規制を求める運動を国際NGOネットワークが進めている。ベルギー、アイルランドなどではすでに、規制の法律ができている。英国、ニュージーランドなどでも政府や議会が規制を検討している。
投融資規制は、締約国以外にも禁止を促す有効な手段だろう。日本でも政府、金融界、NGOが対話を進め、規制のあり方を検討していきたい。
働く人の健康を守るために、職場は原則として禁煙にする。
他の人のたばこの煙を吸う、いわゆる受動喫煙による健康被害をどうすれば防げるかを検討している厚生労働省の有識者検討会が、こんな考え方を報告書の案の中心に据えた。
4月にもまとめる報告書を受けて、労働政策審議会が労働安全衛生法にどう盛り込むか、議論するという。
今度こそ、受動喫煙による健康被害を確実に防ぐための法整備を実現させてほしい。受動喫煙の防止をうたう健康増進法はあるものの、努力義務にとどまっている。
「たばこの煙にさらされることからの保護」を求めるたばこ規制枠組み条約(FCTC)が発効して今月末で5年。そのガイドラインは、受動喫煙を防ぐための法整備も求めている。
鳩山政権が誕生して、たばこ値上げなどの政策がやっと動き出した。民間のシンクタンク、日本医療政策機構の世論調査によると、現政権の医療政策の中で、たばこ増税は、事業仕分け、医師数の増加に続いて高い評価を得た。たばこ対策のいっそうの推進が、国民の期待に応える道だ。
報告書案はまず、受動喫煙による健康への影響は、科学的な証拠によって明白であることが世界的に認められているとした。
そのうえで、それを防ぐには、一般の事務所や工場は全面禁煙とするか、煙のもれない喫煙室以外では禁煙にすることを提案している。
飲食店などはどうか。従業員の健康を守るには、一般の事務所と同様の原則が必要だ。しかし、成人男性の喫煙率が依然として3割以上あり、客の喫煙を一律に禁止するのは難しいと飲食店などには抵抗が強い。それを考慮して、換気の徹底などによって、可能な限り従業員の受動喫煙を防止することを求めるにとどめている。
だが、成人人口の8割近くはたばこを吸わず、喫煙者の7、8割は禁煙を望んでいることにも目を向けたい。
海外に目を転じれば、たばこと酒は切り離せないと思われていた国々でも政治の指導力で着実に禁煙が進む。
英国はブレア政権が1997年に禁煙への取り組みを宣言、10年後の2007年に衛生法が施行されてパブなども禁煙となった。
台湾でも昨年、たばこ煙害防止法が施行され、公共の場からあっというまに煙が消えた。今や、ホテルも禁煙ルームだけだ。
世界でこれだけ禁煙が進めば、煙たい日本は、禁煙が進む外国からの観光客に文字通り煙たがられる。
何より、受動喫煙を確実に防いですべての国民の命を守らなければならない。職場の全面禁煙を目標に掲げて一歩を踏み出すときだ。