シベリア抑留の記録県内在住、２人が体験記

　昭和戦争終結後、旧ソ連軍によるシベリア抑留で苛酷(かこく)な労働を強いられた県内在住の男性２人が、相次いで体験記を出版した。「今、書き残しておかないと、戦争の記憶が埋もれてしまう」。８０歳代半ばを過ぎた２人の、そんな思いが込められている。（小西慶幸、梅野健吾）

　高崎弥生さん（８６）（鹿児島市荒田１）が記したのは、「実録　遙(はる)かなる回想」。旧制中学を卒業し、１９４０年に満州（現中国東北部）に渡った。製鉄会社に勤めていた４４年１０月に入隊。幹部候補生として予備士官学校で訓練を受けていたが、４５年８月９日、旧ソ連軍が侵攻してきた。

　日本が降伏したため捕虜となり、２２歳だった４６年５月、中央アジアの現カザフスタンにあるキリトマシャート収容所に連行された。

　炭坑で採掘作業をさせられ、きちょうめんに仕事をこなせばこなすほど採掘量のノルマは厳しくなっていった。氷点下４０〜５０度の地で１日１６時間働き、多くの仲間が死に絶えていった。２年半を耐え抜き、４８年１１月にようやく帰国できた。

　「人間が人間として扱われなくて、同じ死ぬなら内地（日本本土）で死にたいと思いました。まさか、自分が生きて帰れるとは考えられなかった」

　回想記には、劣悪な環境の下でも、多くの仲間は希望を捨てず、生き残って帰国しようと力を尽くした姿も書いた。高崎さんは「今のかけがえのない平和は、戦争の犠牲者の上に成り立っています。どうか、彼らの死を無駄にしないで下さい」と力を込めた。

　９８０円。問い合わせは高崎さん（０９９・２５５・１９７５）へ。

　宗前(そうぜん)?男さん（８７）（枕崎市大塚中町）が出版したのは「北斗の下で　私のシベリア物語」で、２年８か月の壮絶な日々をつづった。

　宗前さんは４５年１１月、粗末な貨車でシベリアのバルナウル収容所に連行された。車内はいてつき、寝ていて凍死する仲間もいた。「どれだけ時がたっても、あの寒さは忘れられない」

　収容所では下水道工事をさせられ、満足に食事を与えられない中、つるはしを振り上げるたびに目まいに襲われた。「掘った穴に落ちてしまいたいと思ったことが、何度あったことか」と回想する。

　飢えと寒さで仲間は次々と亡くなり、遺体を山中に運んだ。現在、遺骨収集が進められているが、「いくら探してもわかりにくい場所にある。遺骨は見つからないだろう」と悲しげに話す。

　出版した内容は４０年ほど前に書いていた。身の回りの整理をしている時に草稿を見つけ、後世に残したいという思いから本にした。宗前さんは「自分にできることは、当時のありのままを伝えることです。若い人たちにも悲惨な出来事を知ってもらえれば」と話している。

　１５７５円。問い合わせは東京図書出版会（０３・３８２３・９１７０）へ。

　■抑留の悲惨さ展示で伝える

抑留の悲惨な状況を伝えようと「シベリア抑留展」が１８日、鹿児島市の宝山ホールで始まった。

　「棄兵棄民政策による国家賠償を勝ち取る会」（林明治代表）の主催で、高崎さんは資料などを提供した。

　会場には、旧ソ連の収容所で実際に使われていた防寒着やスプーン、のこぎりといった関係品、収容所を囲っていた有刺鉄線の一部のほか、死亡した旧日本兵の頭蓋(ずがい)骨が積み上げられた様子を描いた絵なども展示されている。

　会場を訪れた抑留経験者の薩摩川内市祁答院町、会社会長川畑正美さん（８６）は有刺鉄線を前に、「監視塔で旧ソ連兵が銃を構えている様子と、その時、『絶対に逃げられない』と思ったことをはっきりと思い出した」と、感慨深げに話していた。

　入場無料。２４日まで（２２日は休館）。