ジャスダックに上場していたITシステム開発会社「トランスデジタル」(東京都港区、民事再生手続き中)が経営破綻(はたん)前に、一部の債権者に優先的に債務を弁済したとして、警視庁組織犯罪対策総務課と捜査2課は16日、民事再生法違反(特定債権者への担保の提供等)容疑で同社社長の後藤幸英容疑者(44)ら6人を逮捕した。民事再生法は特定債権者への不公平な弁済を禁じており、同容疑での立件は初めて。他に逮捕されたのは、酒類販売会社会長、野呂周介(70)▽健康食品販売会社役員、黒木正博(44)の両容疑者ら。
警視庁によると、トランス社は、黒木容疑者が酒類販売会社から借り入れた約3億円の連帯保証をしていた。逮捕容疑は、不渡りを出して実質破綻する直前の08年8月下旬、後藤容疑者らがトランス社の持つ額面約1億6000万円の売掛債権を野呂容疑者の会社に譲渡する契約書を作り、借金の担保として提供、他の債権者に損害を与えたとしている。
トランス社は08年8月27日に31億円を調達したと公表。その翌日に不渡りを出し、9月1日に民事再生法の適用を東京地裁に申請、経営破綻した。警視庁は不自然な破綻の経緯についても捜査する。
トランス社の開示資料などによると、同社は04年12月に前身の「ファイ」の商号でジャスダックに上場。05年8月に現社名に変更した。08年7月末現在の負債総額は約26億円。
後藤社長は防衛大卒。08年8月7日には、子会社のケーブルテレビ局が制作した番組「ガンバレ自衛隊!」の披露パーティーを開催。防衛相を務めた国会議員が出席して注目を集めた。【町田徳丈、酒井祥宏、川崎桂吾】
【ことば】特定債権者への担保の提供等 民事再生手続きの開始前後に、ほかの債権者の利益を害することを認識しながら一部の債権者に優先的に債務を返済すること。民事再生法は、再生計画に従い債務を返済するよう規定している。違反すると5年以下の懲役か500万円以下の罰金が科せられる。
毎日新聞 2010年2月16日 12時19分(最終更新 2月16日 14時01分)