【カイロ=田井中雅人】パレスチナのイスラム組織ハマス幹部が先月、滞在先のアラブ首長国連邦(UAE)ドバイで何者かに殺された。この事件をめぐる波紋が最近、国境を越えて急速に広がっている。ドバイ当局の捜査の結果、イスラエルの対外情報機関モサドが関与していた可能性が浮かび上がったためだ。
ドバイ警察当局によると1月20日、ドバイのホテル内でハマス軍事部門のマハムード・マブフーハ司令官の遺体が見つかった。イランから、ハマスが拠点とするパレスチナ自治区ガザ向けに武器を調達するかなめが同司令官だったとされており、ドバイ側はモサドによる暗殺の可能性も排除できないとして捜査。空港やホテルの防犯カメラの映像を解析した結果、犯行グループ11人が浮上したという。
一行は事件当時、司令官が宿泊するホテルの部屋に近い部屋に滞在。男の一人はテニスウエアを着るなど観光客を装って司令官を尾行した。司令官の部屋に侵入して電気ショックを与えたうえ、殺害したとみられる。携帯電話やホテルの固定電話は使わず、支払いはクレジットカードではなく現金で済ませたという。ドバイには24時間ほど滞在しただけで立ち去った。
11人の内訳は、英国の旅券所持者が6人、アイルランドが3人、ドイツとフランスが各1人。ところがロイター通信などによると、ドバイ当局が公開した英国の旅券に記された名前と一致するイスラエル在住の男性は「番号と名前は私のものだが、写真は私ではない。ドバイには行ったこともない」と潔白を主張。11人のうち、少なくとも7人の名前が英国などからイスラエルに移住した人々のものと一致し、二重国籍保持者も複数含まれていた。個人情報盗用の疑いが強まっている。ドバイ警察のタミム長官は18日、「モサド関与の可能性は99%」と地元紙に語った。