Aug. 28 〜 Sep. 2 2007
” Fashion Hunting ”
今週のアメリカでは、日本でも報じられていたレオナ・ヘルムズレーが愛犬”トラブル” に約14億円を
相続させる遺書を残したニュース(写真右)や、オーウェン・ウィルソンの自殺未遂などが比較的大きく報じられていたけれど、
最も話題になっていたのは 何といっても 共和党アイダホ州選出の上院議員で、
6月にミネアポリスの空港でわいせつ行為で逮捕されたラリー・クレイグ(写真左下)に対するゲイ疑惑のスキャンダルである。
62歳の上院議員が逮捕されたのは、空港のトイレで 張りこんでいた覆面警察官に対して ゲイが行う誘惑行為をしたためで、
6月の逮捕時には罪を認めて罰金を支払ったラリー・クレイグであるものの、それが8月27日、月曜にメディアに明るみに出たため、
「有罪を認めたのは、スキャンダルを防ぐためで、自分はゲイでは無いし、ゲイであったことも無い」と
慌てて釈明の記者会見を行ったのだった。
しかしながら、同氏に対しては2006年にもゲイ疑惑があり、この会見後、同じ共和党内からも辞任の要請が出ていたために、
スキャンダル発覚から5日後の9月1日、金曜に同氏は9月30日をもって上院議員を辞職することを明らかにしたのだった。
ゲイの誘惑行為と言えば、かつてシンガーのジョージ・マイケルもロンドンの公衆トイレで 同様の行為で2度逮捕されているけれど、
今回ラリー・クレイグが行ったのは トイレの個室に入って、足を踏み鳴らしてシグナルを送ったり、
足を伸ばして隣のトイレの人間と足を触れ合わせたりするもの。
今週は、このスキャンダルが何度となくトークショーのジョークのネタになっていたけれど、
共和党は、ゲイ同士の結婚はもちろんのこと、ゲイの存在、中絶、避妊などにも反旗をひるがえすキリスト教保守派を支持母体として、
ファミリー・ヴァリュー(家族の価値)を謳っている政党。その割には、議員のスキャンダルが多いことも指摘されるけれど、
来年には大統領選挙を控えていることもあり、共和党内からの辞任圧力に屈した形になったのがラリー・クレイグの辞任劇であった。
その一方でもう1つ話題になっていたのが、アトランタで サギング・ジーンズ(腰の下まで下げて履いているジーンズ)からボクサー・ショーツが
見える着こなし(写真左)を処罰する法案が提出されたこと。
同様の法案は、全米各地で法案化されようとする度に廃案となっており、実際に法律として認められたのはルイジアナ州のデルカンブルという
小さな町のみと言われているけれど、この町では、ジーンズから下着を覗かせるファッションをしていれば500ドルまでの罰金と、
6ヶ月までの禁固刑が科せられるという。
結局 アトランタについても、同法案は 廃案になったことが伝えられているけれど、その理由としてはサギング・ジーンズから覗く
ボクサー・ショーツというだらし無い姿だけでなく、女性のジーンズから露出したソングやブラ・ストラップも処罰の対象を広げた事だと指摘されている。
アメリカの各都市が、サギング・ジーンズを処罰したがる理由は、見た目にだらしなく、ふしだらであることに加え、
このファッションがティーンエイジ・ギャングを中心に好まれていることから、
こうした服装で街中を歩かれると、善良な市民が警戒感を抱かなければならないこと等、様々な理由が挙げられている。
でも歴史を遡れば、ヒップホップ・ファッションに代表される サギング・ジーンズのトレンドがスタートしたのは90年代頭のこと。
下着をジーンズから覗かせるトレンドの火付け役となったのは、1992年のカルバン・クラインの広告に登場したマーク・ウォルバーグで、
今ではアカデミー賞にノミネートされる俳優になった彼であるけれど、当時は売り出し中の白人ラッパー、”マーキー・マーク”として
「グッド・ヴァイブレーション」というNo.1 ヒットを飛ばした直後。
英語では、皮下脂肪が無く、筋肉の凹凸がクッキリ浮き出るような鍛え抜かれた男性の上半身を「シックス・パック」、
「ウォッシュボード・アブス」(洗濯板のような腹部)と表現するけれど、この言葉の走りとなった存在が当時のマーキー・マークだったのである。
折りしもこの時代は、女性が男性のボディを鑑賞の対象として オープンに扱い始めた頃でもあり、
マーキー・マークが 鍛えぬいたボディを誇示しながら、カルバンのバギー・ジーンズ履いて、
カルバン・クラインのロゴ入りのウエストバンドのボクサー・ブリーフを覗かせている姿は、雑誌広告だけでなく、TVCMにも登場し、
ちょっとした時代のカルチャー・アイコンだったのである。
この広告写真を担当したのは、今は亡き名フォトグラファー、ハーブ・リッツで、この中でマーキー・マークとCM共演したのが
写真右を見ての通り、当時売り出し中のケイト・モス。今では死語となった ”ウェイフ・モデル” なるものが持てはやされ始めた時代である。
カルバン・クラインがバギー・ジーンズのウエストから、自社ブランドのロゴが入ったボクサー・ブリーフを見せる着こなし(?)を
プロモートしたのは マーケティング戦略以外の何者でもなかったけれれど、お陰で
当時のカルバン・クラインはジーンズも下着も爆発的な売り上げを誇っていたのである。
この当時はシャネルでさえ ロゴをウェストバンドにフィーチャーしたブリーフ・スタイルのアンダーウェアに シャネル・ジャケットを
コーディネートするという 今から想像すると ”壮絶” とも言えるファッションをランウェイ・ファッションショーで見せていた時代であったから、
このトレンドの威力は本当に絶大だったのである。
でもその後のヒップホップのファッションで、バギー・クローズがさらにエクストリームな方向に進んだ結果、
そのオーバー・サイズに拍車が掛かって、足の長さが身長の3分の1程度にしか見えないサギング・ジーンズが
着用されるようになると同時に、スケボー・ファッションの影響からアンダーウェアも、ダブダブのボクサー・ショーツ、
それも派手目のカラーやチェックなどの柄物になっていったのが90年代の半ば。
以来、10年以上 根強く生き残っているのが サギング・ジーンズから下着を覗かせるファッションであるけれど、
やはりこの服装が見られるのは、ニューヨークならばダウンタウンやブロンクスなどで、人種的には黒人、ヒスパニックが圧倒的に多く、
低所得者層を中心に見られるファッションであるのは言うまでも無いこと。
でも、同じ人間が10年以上このスタイルをしているというよりは、若い層が一度は通り過ぎるファッションとなっているのが実情で、
ファッションの専門家は、このスタイルを「保守的な社会に挑戦、もしくは反抗するステートメント」などと分析するけれど、
実際のところは 着ていて楽で、自分の世代で流行っているからという短絡的な理由で着用されているのがこの服装である。
このサギング・ジーンズからボクサー・ショーツを見せるファッションは、「これまで流行ってきた
どのファッションより悪趣味で、不快感を与える」とまで指摘されているけれど、
ここまで嫌われているファッションを どう頑張っても法案として禁じられないのは、
ファッションというものがアメリカの憲法で保障されている「表現の自由」の
一部と見なされているのに加えて、ファッションがあまりに曖昧なものなので、法律となるような確固たるスタンダードが成り立たない点が挙げられている。
例えば、この法案が成立したとしても、パジャマ・パンツやジョギング・ショーツのような 本来 人目触れるようにデザインされたプロダクトを下着代わりに着用して
サギング・ジーンズから覗かせていれば、これを取り締まることは出来ないし、
逮捕しようとしても下着なのか、ジョギング・ショーツなのか見分けさえ付かない場合が多いのである。
また、男女平等を測るために、女性のブラ・ストラップも下着露出の対象と見なそうとした場合、
ドルチェ&ガッバーナのブラがドレスの一部となったようなアイテムを着用することなど不可能になってしまうし、
女性の場合、ビキニやソングがジーンズから見えることと、ブラストラップが見えることの双方が取り締まられるということは、
ブラを付ける必要が無い男性に比べて処罰を受ける可能性が2倍になるという点で、不平等が生じることになる訳である。
加えて、スポーツ・ブラでジョギングしたら逮捕されるのか?、ブラではなく、ビスチェやキャミソールなら見せてよいのか?、
水着のトップを着ていたらブラと見なされないのか?等、ファッションほど法制化するのが難しい 分野は存在しないと言っても過言ではないほどなのである。
でも ひとたび 「法律」という一般市民を対象とした枠組みを外れて、 法的拘束力の無い 「ドレス・コード」 というレベルになると、
学校、ナイトクラブ、レストラン等、限られた空間においては、オーナーや運営側が 独自の判断でドレスコードを定めることは出来るし、
それに従わない人物は入店させない、学校であれば 何らかのペナルティを与えるということが可能な訳である。
またNBA (全米プロバスケットボール・リーグ)は、選手に対してスタジアムにやってくる際の私服でも ヒップホップ・ファッションや
ラッパーが付けるようなメダリオン等のジュエリーを禁じて、ビジネス・カジュアルを数年前から義務付けているのが実情である。
私は基本的に誰が何を着ようと個人の自由であるという点はサポートするけれど、
同時にファッションが人間性に与える影響を決して軽視すべきでは無いとも思っていたりする。
ヒップホップ・ファッションのメッセンジャー・ボーイでも、時々ビックリするほど礼儀正しい人も居るけれど、やはり
着る物がちゃんとしていると人はそれなりの振る舞いをするものだし、周囲も着る物に応じて人を扱う傾向にあるのは紛れも無い事実。
きちんとした服装をしていれば、それだけ優遇されたり得をすることが多い反面、サギング・ジーンズなど着ていれば、
5番街で入店できない店は沢山あるし、入店出来ても 私服のセキュリティに尾行されたり、店員のサービスが受けられないことは
起こりうる訳で、こうしたことは5番街のストアに限ったことではなく、社会全体に言えること。
なので人種や経済状態に関わらず、普通のティーンエイジャーだったら、世の中の仕組みが見えてきたところで こうしたファッションを卒業して、
もっと人に受け入れてもらえる服装をするようになるものであるけれど、こうしたプロセスは自分で悟るべきもので、
大人が法律で押し付けたところで 効果が無いといえるもの。
だから法律まで設けてこれを禁止する必要は無いというのが私の意見であるし、そのとばっちりを受けて、
女性がブラストラップの位置を気にしなければならなくなるのは馬鹿げた話である。
さて、今週火曜日、レイバー・デイの連休明けの 9月5日から始まるのがニューヨークのファッション・ウィーク。
今年もメルセデス・ベンツがメインのスポンサーとなって、ブライアント・パークの特設テントを中心に、
CFDA(アメリカ・ファッション・デザイナー評議会)に正式登録された72のブランドと、世界中からプレスとバイヤーがニューヨークを訪れる
この時期に独自にショーを行うデザイナーとで、100以上のショーや展示が行われることになっている。
そしてファッション・ウィークの開始前日のレイバー・デイまで行われているのが、半期に1度のニューヨークのベスト・バーゲン、
バーニーズ・ウェアハウス・セールである。
私は90年代前半から、一度も欠かした事が無いのがこのセールであるけれど、 シューズも服も、根気良く全てのラックをチェックすると
掘り出し物が多く、しかも既に半額もしくは、それ以下に下がっている
セール価格が、最後の週末には 女性ものならシューズもドレスも60%オフになるので、最低でも80%オフ。
ここで買い物をしてしまうと、通常価格では馬鹿らしくて買い物が出来なくなってしまうほどのメガ・セールなのである。
なので、ファッションが好きで根気と体力がある人には薦めているのがこのセールであるけれど、
今回も4時間半を掛けて掘り続けた結果、シューズ4足と、服5枚を購入して大満足。
もちろん、気をつけないと 商品にダメージがあったり、ベルト等の付属品が無くなっている場合もあるので、
買う前に念入りなチェックが必要であるけれど、990ドルのプラダのブーツが129ドルになったり、マノーロ・ブラーニックが100ドル代で
買えるセールは、私が知る限りバーニーズ・ウェアハウスだけ!
でも4時間半もの間、 ブーツやドレスを袋に入れてセールの売り場を歩き続けていたせいで、
腕に内出血が出来ていたのには自分でもビックリしてしまった。
そのバーニーズも つい先ごろの買収でオーナーがジョーンズ・アパレルからドバイのイスティスマールに変わってしまったけれど、
新しいオーナーになってもウェアハウス・セールがずっと続いてくれることを祈るばかりである。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
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