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斧振るう豪腕

アイスレイピアの魔法剣士・ダリア

<斧振るう豪腕>

■担当マスター:夕霧

●深夜、倉庫街にて
 灯りの少ない路地裏を、1人の男が歩いていた。紙袋を抱え、寒そうに背中を丸めて足早に歩く。急いでいるのは明白だったが、男は同時に、何やら嬉しそうな雰囲気をも漂わせている。
「おっと、ごめんよ」
 足元ばかり見ていた男は、向こう側から歩いてきた人物に気付くのが遅れてぶつかってしまった。慌てて道を譲り、謝罪の言葉を口にしつつ相手を見上げる。
 無言のまま大斧を振り上げる野太い腕が、男の目に映った。
 恐怖に引き攣った口元が歪み、吸い込んだ空気を絶叫と共に吐き出す。
 肉厚の刃が肩に食い込んだ瞬間に感じたのは、切り裂かれる痛みというより殴りつけられたような衝撃だった。
 破れた紙袋から小さな女の子が好みそうな縫いぐるみが落下し、クリーム色の布地がゆっくりと赤黒く染まっていく――。
 ……ぐちゅり……びちゃ。
 粘液質な音の間に、時折ミシリという音が混じる。
 胴の断面からぶら下がる腸を踏み潰したのは、編み上げサンダルを履いた逞しい足。建物の隙間に、両断された骸が力任せに押し込まれていく。軋み砕ける骨、潰れる肉。血に塗れた大きな手は何の感慨も持たぬように淡々と『作業』を進める。
 潰れた頭から眼球が押し出され、加害者を恨めしそうに眺めていた。

●始動
「今朝、西の倉庫街で死体が発見された。体を真っ二つに裂かれ猫も通れないような壁の隙間に押し込められてな。こんな事が出来るのはマスカレイドしかいない。捜索と撃破を頼まれてくれないか」
 数人のエンドブレイカーを前に簡単な自己紹介をした後、アイスレイピアの魔法剣士・ダリアはすぐさま本題に入った。
「まずは死亡した被害者に接触してくれ。エンディングの情報を得られれば、マスカレイドの正体を暴く事も可能だろう。それともうひとつ……倉庫街周辺が居住区である事から考えても、犯人は恐らく人間のマスカレイドだ。戦いが終わったらすぐにその場を離れた方がいい。死体の傍で目撃されれば、君達自身が殺人犯にされかねないからな」
 マスカレイドは一般人を装って生活している場合が多く、手を出すのは難しい。ただし、事件を起こす際にはマスカレイドも自分が疑われないように細心の注意を払って外に出てくる為、この時ならば戦いを邪魔する者はいないだろう。相手を発見した後は目を離さずに監視し、行動を起こす時を狙って撃破するのが最も確実だ。
「このマスカレイドの犠牲者をこれ以上増やす訳にはいかない。マスカレイドとの実戦が初めての者もいるかも知れないが、皆で協力して確実に勝利して欲しい」
 予測も含めた情報に激励の言葉を添えて、ダリアは事件をエンドブレイカー達に託した。

●マスターより

 初めまして、夕霧と申します。この度はオープニングにお目通し頂きありがとうございました。触れたばかりの新しい世界に緊張しておりますが、夕霧もエンドブレイカーの皆さんと共に、この世界で起きる様々な出来事に係わっていけたらと思っています。まだまだ未熟なMSではありますが宜しくお願い致します。
 猟奇事件の犯人は怪力を誇る大男のマスカレイド。金属の柄を持つ大斧を得物とし、戦闘の際には配下マスカレイドを1体召喚します。こちらは小柄ですが俊敏性が高く、2本の大型ナイフを武器にしているようです。 


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 太刀の魔法剣士・アイラザード(c00126)
【心境】
「マスカレイドの引き起こした惨劇。許せぬでござる。」

【行動】
死亡した被害者に接触するでござる。
うぅ、初めて見る死体に少しおびえながらもエンディングを見せてもらうでござる。

マスカレイドの情報入手後、礼を言いすぐに現場へ向かうでござる。

【戦闘】
マスカレイド発見後全員で包囲し逃げられぬようにするでござる。

大男の相手を承るでござる。
正面からの戦闘ではイササカ不利…大男担当半全員で囲み、側面ないし後方に陣取ったものが攻撃でござる。
大男と正面を向き合ったなら防御に専念でござる。

攻撃は太刀を抜き放ち、居合い斬りと残像剣で攻め立てるでござる。
大男の攻撃で深手を負ったものが出たら即座にサポートするでござる。
これ以上犠牲者を増やしたくないでござるよ。

【戦闘終了後】
マスカレイドとはいえ命は命。一瞬冥福を祈ったらすぐさまにその場を離れるでござる。

● 剣の城塞騎士・ルビーナ(c00173)
さて、アクスヘイムでの初仕事じゃ
存分に楽しませて貰うとするかのぅ♪

先ずはEDを視に被害者が発見された倉庫街へ
遺体の状況からして、まだ挟まれたままじゃろう
現場を見下ろせる上層があればそこから視るのじゃ
瞳さえ見えればED情報は得られるのじゃからのぅ

犯人探しはED情報を元に服屋や靴屋で聴き込み
返り血を浴びた衣服の替えにも限度はあるじゃろう
世間話をしながらさりげなく特徴を伝えてみるのじゃ

犯人を見付けたら静かに尾行を行い住処を特定
後は根競べと交代で監視を続け、時を待つのじゃ

犯人が行動を開始したら行く手を遮り宣戦布告
逃走阻止の為に包囲しつつお楽しみの始まりじゃ♪

妾は大男の真正面に立ち、堂々と戦わせて貰うのじゃ
先ずは防御を固める為にディフェンスブレイドで攻撃
防御を固めた後、十字剣に切り替え脚砕きを狙うのじゃ

棘を滅ぼす為にも確りと息の根を止めておかねばのぅ
仕事を終えたら早々に立ち去り、結果を報告するのじゃ

● ハンマーの城塞騎士・アナボリック(c00207)
世の中そういう事もある。

仲間がエンディング情報を入手中に倉庫街から居住区に向けて歩き、周辺の状況を確認する。その後みんなと合流、情報を提供&共有を行う。

発見後は離れた所から監視。時を待つ。

始めは配下と対する班に入る。

配下と戦う時には、ディフェンスブレイドを使用。戦機を探りながら守りを固めつつ反撃。包囲を崩さない様に位置取りをする。

配下がバランスを崩したり、息が切れた来たとき等、戦機が来たと感じたら、インペラトールに軽く目配せした後、防御を固めたまま、一気に前進し間合いをつめ圧迫し、押し出し、もしくはわざとインペラトール側に回り込ませる様にし、インペラトールが攻撃しやすい位置に誘導する。


倒せたら大男状況を確認し、支援する必要がある時は包囲の支援と回り込み攻撃の支援を行う。

倒したら即座に撤収。
返り血や武器を目立たない様にして、静かにその場を去る。

世の中そういう事もある。

● 盾の城塞騎士・ミズリナ(c00619)
被害者を探し接触
ただ、遺族の感情もあるだろう
逢う場合は、被害者と面識があったと理由を述べ
かつ、不必要に悲しみを煽る行動や言動は避ける


マスカレイドの情報を得られた場合
その情報を共有、再確認し、索敵
事件現場から省みれば倉庫街周辺が怪しいが
あくまで被害者から見えたエンディングを、最たるヒントに


【戦闘】

敵を発見次第、追跡
人気が無く、かつ出来るだけ十分な広さ
(10名が問題なく動ける範囲)
のある場所で戦闘を仕掛ける


自分は本体となるマスカレイドに対して応戦
手下が居る事も考え、戦力が分散するようなら
挑発と盾による当身、タックルで相手の注意を引き
盾役として身体を張る
盾による防御もさる事ながら
強烈な攻撃は回避も視野に柔軟な判断



此方の人数が十分に足り、押せる状況になれば
周囲の状況を見ながら、盾役と攻撃を切り替えて行く
(7:3程度で守護寄り)


掃討後は周囲に人気が無い事を再確認し即撤収
自分の痕跡を残さぬ様に細心の注意を

● 剣の城塞騎士・アッシュ(c01121)
◆心情
さて、初めてのマスカレイドの事件か。
…もっと被害を出さないために、なんて聖人みたいなコトは言わねぇ。
俺をイラつかせる邪魔なモノは片付ける。唯、それだけだろ。
そのついでに、勝手に救われろ。


◆エンディングの確認
被害者の瞳を見るときには、一応周りに不審に思われないように。
損傷の激しいであろう被害者の亡骸を見て心に渦巻くは憤怒。
そして渡されるはずだったプレゼントの光景を見て、
「まだ、こんなちっこいのにな…」
思わず、女の子に悲しみを覚えるのは仕方ないだろう。

◆戦闘
相手を包囲する様な形で円を取る。

まずは小柄のマスカレイドと戦闘開始。
基本戦術は主に十字剣を使った高速戦闘。
出来る限り相手の足を止め、大男と合流させないよう気をつける。
小男を倒した後、すぐに大男と戦闘中のメンバーに合流、全力で叩き潰す。

◆戦闘後
剣に付着した血を振り払い、その場から離脱。
「倒したぞ。これで、勝手に救われやがれ…」

● 大剣の群竜士・インペラトール(c01210)
死亡した被害者に接触
エンディング情報を入手

接触前後は時間をかけず向かい
現場を離れマスカレイドの元へ全員で向かう

マスカレイド発見後は逃がさぬよう方位を心がけ
配下に相対
ただし、大男から攻撃を受けた場合
無理に向かわず他の面々が大男と交戦を始めるまで相手をしその後、配下へ

配下とは
共に戦う面々の誰かの脇に立ち
側面や後背から回り込まれて攻撃を受ける事を相互で補い避ける
攻撃は他の仲間に攻撃している隙を突く

大剣が振り回せるスペースがあればワイルドスィングで
振り回し難ければ竜撃拳でと使い分け
ワイルドスィング使用時は吹き飛ばしてしまう事で包囲網に乱れが出てしまう可能性も念頭に置き
包囲に穴を作らぬよう周囲との連携を声を掛け合うなどして確りと取っていく

配下撃破後は状況に応じて大男との戦闘に加わるか
撤収準備を開始

武器防具などは返り血を拭い
防寒用の外套を羽織るなどして衣服に付いた血や武器防具を隠し現場から立ち去る

● 盾の城塞騎士・アルカード(c01832)
まずは被害者の遺体を確認し、
マスカレイドを逃がすわけにはいかないと再度心に誓いつつ、
エンディングからマスカレイドの潜伏先を見つける。
マスカレイドを監視しつつ、行動を起こすのを待つ。
周りに人影が無いことを確認して、襲い掛かる。

皆と連携して逃げ道を塞ぎつつ殲滅する。
最初はディフェンスブレイドを使って攻撃。
「貴様を待っているのは死のみだ!」
盾が発動した後は、シールドバッシュを使って壁際に追い詰めていく。
「貴様の好きにはさせん!」

多少は被弾するでしょうが、その程度で止まるわけにはいきません。
「この程度で私を止められると思うな!」
後一撃で倒されるところまでダメージを食らったら、これはさすがにやばいか?と思いつつも強がる。
「まだだ!その程度では私の命には届かん!」

倒したら、そそくさとその場を立ち去ります。
「さすがに殺人犯扱いされるのは頂けませんからね」

● 爪の狩猟者・ウパラ(c03504)

私はアナボリックとともに、現地の下見に行こうと思う
探索は見てきた者に話を聞きながらでも役立てるだろうし


地図があれば買う
参考に歩ければ便利だろうからな

戦場は…細過ぎる道では戦いにくいし、広くても人目があるようでは困るし
ちょうどよい地点に誘導できればいいが…


探索は見えた相手次第だが、あまりあからさまに探してはいけない…狩りのときの鉄則だ(といいつつ、おのぼりさんなのでどことなくそわそわ)


犯人追跡時はもっと気を引き締める
相手に気づかれないよう、自然に…ある意味「観光客のふり」というのも有効か

「こんな所に宿があるのか?迷っているんじゃあるまいな!」
とかいっていれば、きょろきょろしても怪しまれなさそうだ


戦闘に入れば寒さなど吹き飛ぶな!
まずは手下を狙う
村を出てからは爪を使う機会もなかったから楽しみだ!

● 太刀の魔法剣士・サリア(c04603)
作戦に沿って行動
1.被害者の遺体を見に行く
2.マスカレイド捜索
街の景色や道などを記憶に残しつつ捜索し、暇があれば食べ歩きをします。口に入れたまま喋るのはいけないので無言で食べます。誰かに話しかけられたら高速で口を動かし処理をします「……」
3.マスカレイド発見したら監視・尾行、外に出て事を起こそうとしたら撃破。
戦闘では配下のマスカレイドの相手をします。配下組のメンバーの援護に回る様に立ち回り、隙があれば近づきアビリティ【居合い斬り】を使いなるべく素早く配下を倒します。配下を早く倒すことが出来たら大男マスカレイドの相手をしているメンバーの援護に入ります(マスカレイドが逃げないよう道を塞いだり、一般人などが来たらみんなに知らせたりなど)
4戦闘終えたら逃走
誰かに見つかる前に逃げます

● ハルバードの城塞騎士・フィッツ(c05160)
死亡した被害者に接触し
エンディング情報を入手
その後速やかにマスカレイドの追跡に移行
(戦闘での返り血などを防ぐため
全身を覆うようなローブを用意しておく)
人気のないところで包囲し戦闘を仕掛ける
(できれば人通りの減る夜が好ましい)
戦闘では
マスカレイド(大男)に付く
(手下に阻まれた場合は疾風突きで蹴散らしながら大男に向かう)
相手の退路を断つような位置で戦い
初期段階においてはディフェンスブレイドで
牽制を行ない仲間の被害を最小限に抑える

手下を仲間が片づけるか
仲間が重傷を負い後退した場合
疾風突きで決着を狙う

現場は封鎖するが
一般人が迷い込んだ場合は脅して追い払う
警察や兵士の場合は相手が殺人鬼であることを
誇張して伝えて仲間に引き入れる
(この場合撤収時気絶させる)

戦闘後は
鎧・武器の血糊をふき取りその他の血のついたものは
下水に流しローブを着る
(下水がなければしまい込んで後日焼却する)
その後速やかに撤収する

<リプレイ>

●動き始めた者達
 倉庫街の一角に人だかりが出来ていた。囁き交わす声と押し殺した興奮が彼らを包み、重苦しいなかにも異様な雰囲気を作り出している。
 興味本位の野次馬はどこにでもいるものだ。しかし、倉庫の壁が壊されるのを遠巻きに眺めやるのみで、誰1人として近寄ろうとはしない。いくら好奇心があろうとも、凄惨な遺体を間近で見る気にはなれないのだろう。
「大丈夫かえ?」
 その問い掛けに、太刀の魔法剣士・アイラザード(c00126)は答えを返す事が出来なかった。口元をハンカチで押さえ、懸命に吐き気を堪えている。血を見るのが得意ではない上、引きずり出された遺体は人としての原型すら留めていなかったのだ。
 声を掛けた側である剣の城塞騎士・ルビーナ(c00173)の顔色も悪い。ある程度の予想はしていたが、これほど酷い状態だとは思わなかった。食事を抜いてこなければ、遺体を見た瞬間におう吐していたかも知れない。
「あれでは身元を特定するにも時間が掛かるだろうな」
 眉をひそめつつも、盾の城塞騎士・ミズリナ(c00619) は遺体から目を逸らさない。エンディングを見る為ではあったが、無残な遺体と対面しなければならない遺族を思うと胸が痛んだ。彼女の目の前にあるのは、身に着けていた物の残骸から辛うじて性別を予想出来るだけの――血と肉の塊。
 得られるだけの情報は手に入れた。野次馬の群れから抜け出す前に、剣の城塞騎士・アッシュ(c01121)は一瞬だけ血溜まりに放置されたぬいぐるみを見やった。それを受け取るはずだった幼い少女の事を考えれば、湧き上がる憤怒に悲しみが混じる。
(「……これ以上の被害を出さない為に、なんて聖人みたいな事は言わねぇ。俺をイラつかせる邪魔なモノは片付ける、唯それだけだ」)
 そのついでに、救われたい奴は勝手に救われろ。
 素直とは言いがたい言葉を飲み込み、彼は無言のまま踵を返した。

 倉庫街に隣接する居住区を、筋骨逞しい男がゆったりとした歩調で歩いている。見慣れぬスキンヘッドの男に奇異の目を向ける者もいたが、長続きはしない。人々の関心は倉庫街で起きた猟奇事件に集まっており、耳に入るのは事件に関する噂話ばかりだ。
「……世の中そういう事もある」
「何の話だ?」
 男の呟きに、隣を歩いていた爪の狩猟者・ウパラ(c03504)が反応した。「独り言です」と言葉を返し、ハンマーの城塞騎士・アナボリック(c00207)は改めて周囲を見回す。
「こうして見ると、居住区で同じような猟奇殺人を行うのは難しい気がしますね」
「悲鳴のひとつも上げられれば、たちまち付近の住人に気付かれて『作業』どころではなくなるか……。ならばミズリナの言うように、マスカレイドが出没する可能性が高いのは倉庫街という事になるな」
 民族衣装の上から着込んだコートの襟を立て、ウパラもさり気なく辺りを見回す。どこで戦う事になるにせよ、地理の把握は必要不可欠であるのだから。

●マスカレイドの正体
 エンディングによって得たマスカレイドの姿を求め、盾の城塞騎士・アルカード(c01832)はひたすらに捜索を続ける。決して逃がさぬとの誓いを胸に、野性的な風貌に真摯な瞳の光を宿して。
「倉庫街で発見出来れば楽だったのだがな。居住区を全て調べるとなると時間が掛かりそうだ」
 住居と商店が混然と立ち並ぶ通りに、大剣の群竜士・インペラトール(c01210)が視線を走らせる。偶然に目を合わせた通行人がビクリと身を竦ませる程に、その眼光は鋭い。
 彼らの後ろを歩いていた太刀の魔法剣士・サリア(c04603)が立ち止まったのは、屋台から漂う香ばしい匂いに誘われたからだった。串焼きを頬張りながら再び歩き出そうとした彼女の視線が、ふと、ある1点に固定される。
「どうしました?」
 口の中の物を懸命に咀嚼する少女に袖を引かれ、ハルバードの城塞騎士・フィッツ(c05160)は深く被った帽子の下からそちらを見やった。重そうな麻袋を満載した荷車が数台、倉庫街の方へと進んでいく。荷車を引く最後尾の男を目にした瞬間、彼は現段階における目的が果たされた事を悟った。

 荷車の列は猟奇事件の現場前を通過し、やや奥まった位置にある倉庫の前で停止した。商人らしき人物が扉を開き、人足達に指示を出す声が聞こえてくる。
「力自慢の荷物運びか……。どうやら他の者からは嫌われているようだな」
「嫌われて当然だろ。あの性格じゃあな」
 冷静に観察するミズリナとは対照的に、吐き捨てるようにアッシュが言う。黙々と仕事をこなす合間に、大男は足元をふらつかせる仲間を侮蔑の表情で眺めやるのだ。
「力のない奴に価値はないとでも言いたげな態度よね」
 物陰から様子を伺うサリアの言葉に、アルカードは思う。或いは、その性格こそが『棘(ソーン)』に憑依される要因だったのではないかと。
「……どこに行く?」
 その場を離れようとするアナボリックに気付き、フィッツが短く声を掛けた。
「向こうで少し筋トレしてきます。万全の態勢で挑む為にも、筋肉を軽く疲労させて最大の力を発揮出来る状態にしておきたいので」
「マスカレイドに見付からないように気を付けてくれよ」
 苦笑して、インペラトールは仲間の後姿を見送った。

●そして深夜
 時刻が真夜中を過ぎた頃、倉庫街に程近い粗末な家の扉が開いた。屋外へと忍び出た大男は周囲に人の姿がない事を確かめ、倉庫街の方へと歩いてゆく。
「どこへ行くつもりじゃ? マスカレイド」
 ルビーナが行く手を遮ったのは、大男が倉庫街へ入ってすぐの事であった。同時に、尾行していたエンドブレイカー達が物陰から飛び出し、逃げ道を塞ぐように大男を包囲する。
「マスカレイド? 何の事だ」
「とぼけても無駄でござるよ。汝の悪行、ここでエンディングでござる」
 半歩を踏み出したアイラザードは次の瞬間、振り向きざまに抜刀して背後を薙いだ。刃鳴りの音が立ち、奇襲の一撃を防がれた配下マスカレイドが跳び退る。
「とぼけても無駄か。なら全員殺してやろう」
 うそぶいた大男の腹に、浮き出すように奇怪な仮面が現れた。
「お楽しみの始まりじゃ♪」
 嬉々とした表情を隠しもせずに、ルビーナは上段に構えた剣を振り下ろす。金属同士が激突する音と共に、斬撃は巨大な斧によって弾かれた。同時に、フィッツが背後から間合いを詰める。大きく踏み込んでのハルバードの一撃は空振りに終わったが、すかさずミズリナが盾を構え、隙を作ってしまった仲間を庇った。
「全員殺すと言ったな。貴様に私が倒せるか! 私を倒すまでは他の誰も倒させはしない!」
 斜めに斬り付けてきた重い斧を受け止め、アルカードが吼える。
「紫電一閃!」
 がら空きになった脇腹を、アイラザードの太刀が薙いだ。

「さぁ狩りの時間だ……どちらの刃が鋭いか試してみないか? 屠られるモノよ」
 コートを脱ぎ捨てたウパラが獲物を狙う視線で配下マスカレイドを貫いた。戦いに高揚する心が夜気の冷たさを凌駕して、既に寒さは感じていない。
 ぬらりと鈍く光る毒爪が配下マスカレイドの肩口を裂き、紅い飛沫を散らした。薄く笑ったウパラから距離を取ろうとする小柄な体に、サリアの太刀が襲い掛かる。受け流そうと大型ナイフを構える動きを、斬撃の速さが上回った。見る者の目に残像を焼き付け、軌道を変えた刃が左の上腕部に喰い込む。迸った悲鳴は若い男の声だった。背後から肉迫したアッシュの剣が閃き、肉の薄い背中を十字に切り裂く。
 ダメージを受けてはいても、まだ俊敏さは失われていなかった。横合いからの大振りの斬撃を、配下マスカレイドは半身でかわした。石畳を噛んだ大剣を、インペラトールは膂力に任せて横に払った。したたかに胴を打たれ、小柄な体が吹き飛ぶ。受身を取って立ち上がろうとするマスカレイドに、アナボリックが全力でハンマーを叩き付けた。

●人知れぬ結末
 肋骨が折れでもしたのだろう、立ち上がった小柄なマスカレイドは負傷した左腕で腹部を庇い、毒に蝕まれつつもなお攻撃を繰り出してきた。正面から突き込んできた大型ナイフを、アッシュの刃が叩き落とす。
「ここは、私の距離よ!」
 大型ナイフが石畳の上で跳ねた時、既にサリアは動いていた。太刀を鞘に戻し、身を低くして走り込む。裂ぱくの気合と共に下から上へと鞘走る刃。銀の軌跡を追うように、鮮血が飛沫く。
 仲間へと目配せを送り、アナボリックが苦悶に身を捩るマスカレイドの足元を砕いた。受け取った目配せの意味を正確に読み取り、インペラトールが大剣を構え――。
「運命を乱せしモノ、我が前に踏み潰されるべし!!」
 体勢を崩したマスカレイドの胴を、厚刃の大剣が容赦なく切り裂いた。倒れこんだマスカレイドの仮面が砂のように崩れ、夜風の中に消えていく。
 石畳に横たわる骸の下に、血溜まりがゆっくりと広がり始めた。

 人の体を苦もなく両断する大斧の威力は凄まじく、防御を固めた上からですら、幾許かのダメージを与えずにはおかなかった。5人のエンドブレイカーを相手に、大男のマスカレイドは互角の戦いを繰り広げていた。
「無様に散れ。貴様に憑いた棘と共に、その罪、裁いてくれる!」
 額に滲む血を拭い、ミズリナが駆ける。盾を構えての突進を、力には力とばかりに大斧で受け止めるマスカレイド。
「貴様を待っているのは死のみだ!」
 その瞬間を逃さずに、アルカードが石畳を蹴った。盾に後頭部を一撃されて揺らいだ巨躯を、アイラザードの刃が捉えて太刀傷を刻む。
 風の速度で飛来したファルコンの翼が逞しい腿を切り裂いたのはこの時だった。遠距離からのサポートに、フィッツは配下マスカレイドが激はされた事を知った。
「余計なお世話だったか?」
「いや、助かります」
 からかい交じりのウパラの言葉に応じ、男は口の端にほんの少しの笑みを浮かべた。ハルバードによる鋭い刺突は1度では止まらず、首の付け根の肉を抉り、厚い胸板に複数の傷を穿つ。
「貴様に終焉をくれてやろう。心して己が喪に服せ!」
 ルビーナの剣が一閃した時、既にマスカレイドの戦闘力は限界を超えていたようだった。顔を覆っていた仮面がドロリと融け落ち、石畳に触れる前に蒸発していった。

「仮面の形状が同じでも、消滅の仕方が異なる場合もあるのか……」
 興味深げにインペラトールが唸った。マスカレイドの仮面には、まだまだ未知の部分が多い。少なくとも今回、仮面の回収が不可能な事だけは判明したが。
 マスカレイドとてひとつの命に変わりはないと、アイラザードは横たわる骸に短い祈りを捧げた。一瞬の黙祷を済ませると仲間達に倣い、すぐさま撤退の準備に取り掛かる。
「倒したぞ。これで、勝手に救われやがれ……」
 囁くように低いアッシュの言葉は、マスカレイドに殺された男に向けたもの。被害者の遺族に、仇討ちが果たされたと知る日はこない。だからこそ、せめて命を奪われた男の魂だけでも救われればいいと思うのだ。
「急いでここを離れましょう、殺人犯扱いされるのは流石に頂けませんからね」
 アルカードが仲間を急かし、先頭に立って走りだす。
 複数の足音はたちまちのうちに遠ざかり、倉庫街は夜本来の静けさに包まれた。
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