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ベジタリアンサラマンダー

弓の狩猟者・ナターリア

<ベジタリアンサラマンダー>

■担当マスター:柊透胡


「兄さん、そろそろお昼にしましょうよ」
「ああ、そうだな……」
 妹の言葉に頷いて、青年は額の汗を拭った。
 一見してだだっ広い空間だった。見回せば彼方は簡素な壁でグルリと囲まれていると判り、ここが屋内と知れる。けれど、見上げれば陽光と違わぬ輝きが天井からさんさんと降り注ぎ、見渡せば瑞々しい冬野菜が幾畝も収穫を待っている。
 こういった屋内に広がる『農地』は都市国家のあちこちにあり、日々、人々の胃袋を支えている。
「……あれ?」
 水筒とパンを手に一息つこうとした青年は、向こうの畑で動いた影に怪訝そうに眉をひそめた。
 人、というには形がおかしい。何か大きなものが這いずり回っているようにも見える。
 あの辺りには、もうすぐ収穫出来るカブが植わっている。心配になって駆け寄った青年が見たものは……。
 キシャアァァァッ!
 ゴツゴツとして熱気を帯びた黒岩を纏ったような大トカゲは、青年を睨め付けるや雄叫びを上げた。
 身を起こせば人の倍はあろうかという巨体は、腹の部分に白い仮面らしき模様が見えた。丹精した野菜を食い散らかす口から零れる牙も、禍々しく赤熱した鉤爪も、一振りで一畝のカブを粉砕した長い尾も、人1人の命を容易く刈り取る残忍な凶器となろう。
 そんな黒い大トカゲの周りには、やや小ぶりな毒々しい斑のトカゲが3匹。一心不乱にカブの葉を食んでいる。
 身が竦んで動けない青年の前で、おもむろに大トカゲの口が開く。
 シュゴオォォォッ!
「うわぁぁっ!」
 大口から吐き出された炎の塊が、青年の視界を覆い弾けた――。

「……これが、わたくしが知り得た『エンディング』です」
 見事な弓を大事そうに抱える女性だった。露出の無い装束を着込み、礼儀正しい挙措は育ちの良さが窺える。名を問えば、弓の狩猟者・ナターリアと丁寧な会釈付きで自己紹介があった。集ったエンドブレイカー達より先んじてこの町に来ており、既に複数の事件を見付けたとの事。こうして、解決を頼んで回っているのだという。
「皆さん、急ぎその農地に向かい事件を未然に防ぎ大トカゲのマスカレイドを退治して戴けませんか」
 青年が大トカゲと鉢合わせするのはカブ畑だが、その前から、大トカゲはじっくり畑を焼きながら移動している。
 移動スピード自体は早くない上に巨体が目立つので、青年より先に対峙する事も可能だろう。
「どうやら、このマスカレイドはこんがり焼いた野菜が好きみたいです。野菜を焼いてはバリバリと貪り食べているようですね。大トカゲの吐く炎は延焼しても10分程で消えますから、大火事の危険はなさそうですけれど……大事な畑が燃えてしまっては大変です」
 幸い、秋の収穫後に何も植えられていない空き地があちこちに点在している。休耕地に誘導して戦えば被害も少なくなるだろう。
「獣型のマスカレイドは知能こそ低いですが、その戦闘力は油断出来ません。けして、遅れを取りませんように」
 大トカゲのマスカレイドの主な武器は、大口から吐き出される炎。炎の塊を遠くまで飛ばしたり、口中の炎で灼熱と化した顎で噛み付いたりする。炎に牙の威力が加わる分、炎の顎の方が強そうだ。
 また、全身も熱された岩のようであり、接近すれば体当たりしてくるだろう。赤熱した鉤爪や長い尾の一撃も侮れない。
 戦闘が始まれば、取り巻きの斑トカゲ3匹もマスカレイドに加勢するだろう。焼き野菜のおこぼれに預かろうと従っているだけの普通のトカゲだが、小ぶりなだけに素早く牙に毒がある。集中攻撃する性質があるので、一斉に噛み付かれれば面倒な事になりそうだ。
「危険な相手ですが、皆さんが協力して戦えば必ず勝てる筈です。頑張って下さいね」
 健闘を祈ってエンドブレイカー達を見送るナターリアの眼差しは、同志へ全幅の信頼を寄せていた。

●マスターより

 はじめまして、柊透胡(ひいらぎ・とうご)と申します。
 これから、エンドブレイカーの皆さんの活躍を、楽しくかっこよく書いていきたいと今からワクワクしています。どうぞ宜しくお願い致しますね。

 オープニングを最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
 大トカゲ型のマスカレイド+αとの戦闘となります。
 青年に先んじてマスカレイドと遭遇して撃破出来れば、特に彼への対応は必要ありません。農地は広いですので、寧ろ時間が勝負かもしれませんね。
 純戦闘シナリオかと思います。力を合わせて、見事撃破して下さいませ。
 それでは、皆さんの熱いプレイングをお待ちしています。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● エアシューズのスカイランナー・エルナ(c00756)
【準備】
餌として焼き野菜を酒場の人に貰えたら。時間がかかるようなら無しで
あと、できたら現場につくまでにカブ畑の場所の聞き込みをしておきたいです

【行動】
着いたらまずはトカゲ探し。カブ畑を中心に周囲を見回して焼けた跡がないか、焦げた臭いがしないかとかを確認
すぐに見つからない場合2,3組で手分けをして

見つけたら、まずエサで休耕地へ誘い出せるかを試します
ついでに小トカゲがこちらに向かって来るのを防いだり、マスカレイドと分断できたらいいんだけど
失敗した場合は遠距離アビを使って遠くから攻撃することで誘い出し

戦闘が始まったらまずは小トカゲに
攻撃はスカイキャリバーを使い、10m移動も使って小トカゲを撹乱するみたいに動けるといいかも
全部倒したらマスカレイドに目標変更
ソニックウェーブでの遠距離攻撃を主に、敵が後衛の人や傷ついた人を狙うそぶりをみせるなら、先手を取ってダッシュで目の前に行って邪魔しにいきたいです

● ナイフのスカイランナー・ヴァシュカ(c02255)

■誘導
餌は焼き野菜を用意
釣り竿に餌をひっかけて誘導
(他に同じ作戦の人がいる場合は、自分は行動せず見守る)
誘導失敗時には、戦闘しつつ休耕地まで誘導
(戦闘よりも誘導優先)

■戦闘
マスカレイド担当
前衛

マスカレイドの前に立たないよう、側面から攻撃する
できるだけ後ろに誰もいないように
主砲の後衛さんをアシストする形で行動
壁になるというよりは、ちょっかいを出して注意を後衛に向けさせないようにする
攻撃は受け止めるよりもできるだけかわす方向で
(後ろに後衛さんが居る場合のみ受け止める)

子トカゲが生存している間は、倒すよりも足止めを目的にナイフでちまちま攻撃
子トカゲ討伐組に攻撃がいかないようにする
足止め目的なので、強い攻撃というより、状況に応じて切り替えられる小回りのきく攻撃を

子トカゲ討伐組と合流後、本格的に攻撃開始
アビは主に切り裂きを使用
他の人の攻撃後すぐ攻撃し、相手に休む暇を与えないようにする

● ハンマーの魔獣戦士・シオン(c02524)
さて、まずは誘き寄せか……発見した時点で休耕地でうろついていりゃ楽なんだろうがな、そりゃちょっと虫の良い話だよな
とりあえず他の連中は餌で誘き寄せる方法を色々考えてるみてぇだし、俺は最後の手段として攻撃して怒らせる方法を考えてみようか
といっても話は単純、トカゲを遠距離から攻撃し怒らせこちらに向かってこさせるって寸法さ
まぁその時は怒らせた奴をガードするように俺が立ち塞がるがね

それでトカゲとの戦いに突入したら、俺は前衛に立って戦わせてもらう
まず最初は毒を持ってるっていう斑3匹を最初に退治しておくぜ
攻撃はダメージを着実に食らわせる為にビーストクラッシュを主に使う事にする

斑3匹を退治し終えたら今度はメインの火トカゲ退治だ
火加減のイロハも知らねぇ悪食野郎に俺のパワースマッシュを食らわせる事にするぜ
あー、でもガッツが半分くらいになったらビーストクラッシュで攻撃するぜ、運が良ければドレインで回復できるしな

● ナイフのスカイランナー・ラティ(c02703)
ベジタリアン……しかも焼いた野菜が好きだなんて
何だか変だよね
だからといって肉も食べろとは言わないけどさ
そんな被害に遭う人を出す前にやっつけないとね!

<準備>
まずは敵に近そうな休耕地を探すよ
休耕地に誘き寄せた方が被害は小さくて済むみたいだしね
休耕地を見つけたらそこから敵を呼んでみるよ
気づかなかったら少しずつ近づいていってみる
こっちに向かってきたら休耕地で待ってるよ

<戦闘>
戦闘は前衛から行動していくよ
まずは子とかげに向かってスカイキャリバーを使って
攻撃していくよ
それで孤立しないようにシオンさんとか仲間の前衛の
人たちから離れすぎないように気をつけるね

子とかげを倒し終わったら標的を大とかげに変えるね
攻撃は子とかげと同じスカイキャリバーを使っていくよ

<戦闘後>
虫が食べる野菜はおいしいとかって言うけど
今回のはどうなんだろうね〜?
ちょっと気になるしお裾分けしても良いなら
少しもらって帰ろうっと♪

● 杖の狩猟者・アリーシャ(c02840)
【全体方針】
事前に準備した野菜で敵を釣って休耕地におびき寄せ、戦闘開始
上手く釣れなかったり、時間がかかりすぎるようなら休耕地で待機している後衛が攻撃して引きつける

【自分の行動】
私は後衛。あらかじめ、おびき寄せる予定の休耕地で待機しておくわね
できるだけ移動は避けて、射撃攻撃で戦うわ
戦闘が始まったら、マジックミサイルで取り巻きの斑トカゲから倒していくよ
プラスワンを頼りに、出来るだけ沢山巻き込みたいとこね
ダメージを受けて弱っている奴を優先的に。各個撃破を狙うわよ
敵が大トカゲ一体になれば、ファルコンスピリットに切り替えて攻撃と同時に味方の強化もするよ

時間がかかって青年がやって来てはいけないから、可能な限り攻撃の手は止めない
回復アビリティを誰も持ってないから、どうしても前のめりな作戦になっちゃうわね
迅速な退治を心がけよう

戦闘中も周囲に注意
もし青年がやって来るのが見えたら、近づかないよう警告します

● 鞭のデモニスタ・ザファル(c02935)
急いで畑に向かいましょう。
野菜の調達で到着が遅れる仲間が居る可能性を考慮し、仲間がスムーズに大トカゲと接触できる様先回りして敵の姿を捕捉します。
見つからない様「大きなものが這い回っている」程度しか解らない距離を保ちつつ大トカゲの進行方向へ移動、俺の方が青年を先に見つけられる様にし青年を逃がします。

仲間が到着したら誘い出す休耕地で待機、大トカゲが射程範囲に入ったらデモンフレイム。
また餌を持って走る囮役には、炎の塊対策として蛇行しながら走れと伝えておきます。
囮役が誰も居なかったら、俺が。

後は斑トカゲが殲滅されるまで大トカゲを相手。
最初に捕縛撃を使用して、後はひたすら攻撃。余裕が在れば捕縛撃をもう一度。
斑トカゲの動向に注意。こちらを狙いそうなら大トカゲを挟んで遠のきます。
炎対策でなるべく真正面には立たない。また同じ大トカゲ担当の仲間とは同じ攻撃に巻き込まれない様なるべく距離を開けます。

● 大鎌のデモニスタ・エルシー(c03326)
●出発前
トカゲマスカレイドをおびき出すためのニンジンを買っていこう。
まさか畑のカブを使うわけにはいかないし。三本あればいいかな?

●戦闘開始時
ニンジンを持って休耕地で待機。後衛で行動するっと。
前衛を務める仲間が、おびき寄せてくれるはず。
トカゲたちの姿が見えたら、両手のニンジンを振り回そう。
前衛がひきつけるために攻撃を始めたら、わたしも攻撃を開始。
デモンフレイムでマスカレイドを狙うわ。

●戦闘
トカゲたちが休耕地に入ったら、トカゲたちの正面からずれるように右へ移動。
あとは、距離を保ちながらマスカレイドにデモンフレイムを使い続ける。
もし先にマスカレイドが倒れたら、子トカゲ退治を援護することにする。

●戦闘後
助けた畑の主さんに「大丈夫。もう心配いらないから」って声をかけよう。
あと、トカゲに食べられてなかったらニンジンをあげるの。
「今晩の足しにして。……あ、思いっきり握ってたから折れちゃってる……?」

● エアシューズのスカイランナー・エフラム(c03832)
【心情】
大トカゲのマスカレイドか。
手強い相手の様だが、だからといって負けてやる訳にもいかないんでな。

この街に来ての初仕事だ。一つ派手にやるとしますか!

【作戦】
現地に着いたら急いでトカゲ達を捜索し、見つけ次第手近な休耕地へと誘導、その後トカゲ達を纏めて撃破。
という流れだ。

休耕地への誘導の方法は、事前に用意した餌を使って上手く誘い出せないか試してみて、
もし不可能だった場合には攻撃してちょっかいを出し、休耕地まで誘導をしながら戦闘を開始だな。

【戦闘】
トカゲ達との戦闘の際は、
先に取り巻きの子トカゲを倒す班と、
その間大トカゲの注意を惹きつけておく班の二班に分かれて戦闘。

俺は子トカゲ班の前衛を担当する。
毒や集中攻撃は厄介だからな。さっさと倒してしまおう。
スカイキャリバーをメインに積極的に攻撃する。

どうしてもガッツが危険になった場合は一度後ろに下がって、ソニックウェーブで遠距離から攻撃するようにしよう。

● 杖のデモニスタ・リィェン(c04345)
事前準備
トカゲをできるだけ休耕地側に誘いこめるよう
エサ代わりの焼き野菜を準備

農地に到着後、蕪の畑と休耕地の場所を確認
這いずる音や影などを蕪畑の中に確認次第、味方に報告し
何時でも戦闘に入れるよう準備

誘い込みの為の野菜をトカゲの前方に投げ
食いつきが良い場合そのまま休耕地へ
逆に相手が即臨戦態勢となった時は
できるだけ休耕地側へ移動し攻撃

戦闘
後衛に布陣
マジックミサイルで大トカゲ中心に攻撃

但し、味方の攻撃の連携等で
併せて追撃を優先すべきと判断した場合
小トカゲ優先
大トカゲ一匹になったらデモンフレイムも併用

なるべく大トカゲと対角線上には立たないよう注意
側面側で攻撃できるよう、移動を心がける
特に口を大きく開けるような動作があった場合は
味方にも伝達、焔に注意し回避を優先
小トカゲの移動や動作も確認
連携攻撃のタイミングの参考とする

戦闘後
トカゲは邪魔にならぬ場所へ撤去ししかるべき対応を
畑に炎が残っている場合消火活動

● アックスソードのデモニスタ・リン(c04540)
■後衛
前衛の援護
小トカゲへの攻撃・拡散

■持ち物
大小さまざまな餌
糸が数本ついた丈夫な竿

■行動
前衛の行動に合わせる
小トカゲ担当メンバーと合わせて移動
餌を使って小トカゲをおびき寄せる
寄って来なかったらちっちゃく攻撃して注意をこちらへ向ける
向かう先は休耕地
小トカゲ中心に攻撃
毒に気を付け、あまり接近しないように注意する
餌は釣り竿にくっ付けて走る、とにかく走る
、距離に気を付けて走る

■攻撃
休耕地におびき寄せた小トカゲに集中
遠距離攻撃中心
メンバーの様子を見つつ行動
毒を受けたメンバーの加勢、小トカゲの注意をこちらへ逸らす等
毒を受けたら距離を取り危険回避
声かけ「(名前)、後ろに来てる!!」等のサポートに回る

<リプレイ>

●アクスヘイムの初仕事
 件の農地は下層にあるという。準備の時間は余りなさそうだ。
「時間が掛かるなら……」
 市場に立ち寄り、エアシューズのスカイランナー・エルナ(c00756)は焼き野菜を注文した。そわそわと時間を気にするが、店主の手際は良いので長く待たされないだろう。
「獲れたてのカブならスープ煮に浅漬け。どんな調理でも美味しいデスけど、その場でバーベキューはいただけませンね」
「虫がつく野菜は美味しい証拠って言うけど、また面倒なものがついてしまったよなぁ」
 同じく焼き野菜を待つ杖のデモニスタ・リィェン(c04345)とナイフのスカイランナー・ヴァシュカ(c02255)の会話は、長閑に聞こえて実は物騒なもの。
「炎に毒……本来なら近寄りたくない相手だけど」
「人様に迷惑掛ける前に、さっさと倒さないとね」
 嘆息するエルナに、ヴァシュカは苦笑を浮かべた。
 一方、大鎌のデモニスタ・エルシー(c03326)が八百屋で人参を購入中。
「3本あれば、いいかな?」
(「まさか畑のカブを使う訳にはいかないし……」)
 焼き野菜と同じく、トカゲ共を誘き寄せる餌らしい。
「皆は?」
 問われたエルシーが指差す先で、アックスソードのデモニスタ・リン(c04540)が丈夫な釣り竿を選んでいる。
「他は先に行ったぜ」
「では、急ぎまショウ」
 リンの返答に、一同を促すリィェン。仲間達を見上げ、エルシーはウィズローブの上からそっとお腹を撫でる。腹部の傷痕が、彼女をエンドブレイカーにした。最初は呪ったけれど、今は良かったと思っている。出来る事が見付かったから。
「行くよ?」
 戦闘準備か金髪を1つに束ねながら、ヴァシュカがゆるりと振り返る。初仕事にドキドキする胸を押え、エルシーは仲間へ駆け寄った。

「ベジタリアンのトカゲ……しかも焼いたのが好きなんて、何だか変だよね」
 トカゲは本来雑食だ。農地へ急ぎながら、小首を傾げるナイフのスカイランナー・ラティ(c02703)。
「だからって肉も食べろとは言わないけどさ」
「ま、この街で初めての仕事だ。1つ派手にやるとするか!」
「うん! 被害者を出す前にやっつけないとね!」
 エアシューズのスカイランナー・エフラム(c03832)に勢い良く肩を叩かれ、ラティも笑顔になる。
「手強い相手のようだが、負けてやる訳にもいかないんでな」
「力を合わせればきっと勝てる筈。気負い過ぎず、頑張ろう」
 杖の狩猟者・アリーシャ(c02840)は緊張を振り払うように、エフラムの言葉に力強く頷いた。
 一方、フードの内側で、鞭のデモニスタ・ザファル(c02935)の表情はいっそ冷ややかだ。表向きは温和な彼だが、人助けには大して興味がない。
(「まあ、話を聞いてしまいましたからね……仕方ない」)
 内心で皮肉げに呟き、ザファルは到着した農地を見回した。
「こりゃまた、広ぇなぁ」
 思わず頬を掻くハンマーの魔獣戦士・シオン(c02524)。
 確かに屋内だが、見上げれば陽光と違わぬ輝きが天井から降り注ぐ。見渡す限りの野菜畑で、所々の空き地が休耕地だろうか。
「発見の時点で休耕地にいりゃ楽だろうがな……そりゃ、虫の良い話だよな」
 野菜実る畑を這い回るなら尚更、マスカレイドの発見は簡単ではなさそうだ。
「まず、カブ畑を探しましょうか」
 先に被害者となる青年の居場所を探す方が早いように思われた。

●トカゲは何処?
 準備組の到着までに敵を発見するのが理想だったが……ザファルは舌打ちを堪えた。
 広大な農地でカブ畑を見付けるのにまず一苦労。マスカレイドが件の青年と出くわす前に――時間との勝負ならば、先行組の方で捜索の取っ掛かりを掴む算段が必要だったかもしれない。
「根菜の畑はあっちの奥にあるそうよ」
 漸く合流したエルナが、道中で農夫から聞いた情報を伝えた。エンドブレイカー達はあぜ道を駆け抜ける。
「あそこが良いんじゃない?」
 途中、ラティがそれなりに広い休耕地で足を止めた。移動しての遠距離攻撃は出来ない為、集中砲火するべく4人が休耕地に待機する。
「いませンね」
 駆け付けたカブ畑にトカゲはいない。何とか間に合ったようだが、意外と近くに人影がある。このままカブ畑に留まれば、青年に気付かれるだろう。顔を会わせば逃がす手間が生じる。急ぎマスカレイドを探すのが得策か。
 エルナは頭を巡らせた。マスカレイドが畑を焼きながら移動するならば。
「あっ!」
 果たして煙立ち上る畑に近付けば、白煙の中で這い回る『何か』の気配が。
「当たりデス」
 リィェンの呟きに、エフラムも小さく頷く。
 火はまだ燻っているが、バリバリと咀嚼音が聞こえてくる。
 周囲はまだ無事な冬野菜が青々と。まず敵を休耕地に誘導せねばならない。
「確かに焼き野菜は美味いよな。俺も結構好きよ?」
 軽口を叩き、リンは釣竿に焼き野菜を付けていく。
「お食事タイムは終了して貰いまショウか」
 リンが竿を振りかぶり、リィェンも焼き野菜を投げ込み待つ事暫し――。
「……駄目か?」
「まあ、周りに焼きたて野菜が転がってるし?」
 肩を竦めたヴァシュカの呟き通り、釣り餌の野菜は流石に冷めている訳で。餌で釣れないなら、後は実力行使。
「そこのベジタリアン! こっち向けコラー!」
 竿を担いだまま、石を投げるリン。尤も、煙の中への当てずっぽうでは中々当たらない。
 続いてエフラムが影へソニックウェーブを放つ。右足の一撃は、弧を描くように煙を払った。
 キシャアァァァッ!
「でけぇ!」
 咆哮が轟く。食事を邪魔され怒れる大トカゲの突進は、ガードに入ったシオンに直撃した。重量感に、軋むような痛みが全身に走る。
「じゃ、行く?」
「頑張って走りますか」
 次々と飛び出す斑トカゲをナイフであしらうヴァシュカの言葉に、他の5人も頷く。
 回復役がなければ、1人にダメージが集中するのは危険だ。交互にトカゲ連中を挑発しながらの誘導は、彼らの傷を増やしていく。
(「相手がマスカレイドなら、倒すしかないけど……エンドブレイカーっていうのも損な役回りだなぁ」)
 エルナは人知れず苦笑した。

「……来た」
 最初に気付いたのは、落ち着かなく黒髪の先を弄っていたエルシー。走り来る一団へ、ニンジンを両手に持ち直して振り回す。
 不意に止まった大トカゲは、息を吸って身を反らせた。
「炎が来ます。蛇行しながら走って!」
「ちょ……! それキツイって!」
 ザファルが忠告するも、担いだ釣竿に重心を取られながら走るリンが叫び返す。
 シュゴオォォォッ!
「っ!」
 吐き出された炎の塊に、シオンは歯を食いしばった。灼かれた肌の痛みがチリチリと後を引く。
「炎に怯むようじゃ、鍛冶屋は勤まらねぇんだよ!」
 仕切り直しとばかりに休耕地へ駆け込み、ハンマーをクルリと一回転させるシオン。
 距離の開いたマスカレイドには、ラティが石を投げつける。
(「じっと待つのって、余り好きじゃないしさ!」)
「散れ、穿て、縫い止めよ――マジックミサイル!」
 待ちあぐねた怒りを込めた飛礫に触発されたか、飛び掛からんとする斑トカゲにアリーシャの魔法の矢が拡散して降り注いだ。

●休耕地の激闘
 誘導組は、大なり小なりの傷を負っていた。特に意識して仲間を庇ったシオンは、先刻の火傷も相まって最も傷が深い。
 対して敵は、エンドブレイカー達が誘導優先で動いた為、大したダメージは無さそうだ。
 だが、反撃はここから。休耕地に雪崩れ込むトカゲ共に、待機組の攻撃が殺到する。
 マスカレイドの側面から、小刻みにデモンフレイムを浴びせ掛けるエルシー。
「折角ですから楽しみましょう。この寒い中、暖かい熱源があるのは良い事です」
 改めてフードを深く被り直したザファルは、駆け寄ると鞭で打ち据える。
 シャギャアッ!
 激痛に絶叫するマスカレイドに、結界陣を展開したリィェンの魔法の矢が次々と叩き付けられた。
 一方、ラティは天高く飛び上がるや斑トカゲに急降下。連続してジャンプを繰り返す。
(「回復アビリティがないから、どうしても前のめりな作戦になっちゃうわね……」)
 小さいながらも斑トカゲは毒も集中攻撃も厄介だ。手数で勝るとは言え、回復役の不在に危うさは付き纏う。一刻も早く敵数を減らすべく、アリーシャはラティと息を合わせるように斑トカゲにマジックミサイルを放った。
 誘導組も斑トカゲに攻撃を畳み掛けていく。シオンはダメージより確実を取ってビーストクラッシュを繰り出す。獣腕の殴打に1匹が宙を舞う。それを追うように、エルナが連続ジャンプで空を翔けた。捻りを加えた突撃がもう1匹を巻き込んで炸裂する。
「永遠におやすみ」
 地に落ちた1匹が動く前に――ヴァシュカのナイフが無防備な腹を突き刺した。
 1匹倒されるが、斑トカゲも負けてはいない。
「エフラム、後ろ!」
「っ!」
 リンの叫びに咄嗟に1匹は蹴り飛ばしたエフラムだが、もう1匹の牙が二の腕に深々と食い込む。熱を帯びた痛みと共に悪寒が走る。
 噛み付いた1匹にすかさずデモンフレイムを叩き付けるリン。斑トカゲがもんどりうった所にエフラムのエアシューズが閃き、急降下からのギロチン蹴りが引導を渡す。
「大丈夫か?」
「今はな……」
 戦闘中に毒を癒す術はない。急がねばジリ貧か。
「毒は勘弁っと!」
 身軽に斑トカゲの側面に回ったラティが再び宙を翔ける。同じく、トカゲの後方からエルナのスカイキャリバーが放たれる。急降下の突きが何度も炸裂した。
「後一息! 畳み掛けるわよ!」
 アリーシャの合計10発のマジックミサイルが最後の斑トカゲの息の根を止めれば、残りは大トカゲのマスカレイドのみ。
「くっ!」
 長い尾のビンタが相次いでザファルの身を震わせた。仲間が斑トカゲを片付ける間、最初にマスカレイドに接近した彼は、距離を開けても追いすがられていた。捕縛撃で灼熱の爪は封じていたが、牙や突進も十分な脅威だ。
「炎、来マスっ!」
 そんなザファルへ、大きく息を吸って身を反らせるマスカレイド。リィェンがデモンフレイムを放つ前に……高空からギロチン斬りが強襲した。
「間に合った!」
 着地と同時に全身のバネを使ったエルナの頭突きが、マスカレイドの下顎を捕える。続いてヴァシュカのナイフが、側面から横薙ぎに切り裂いた。
「良かった……」
 斑トカゲを平らげた仲間が次々と参戦する。ひたすらデモンフレイムを撃ち続けながら、思わずホッとしたエルシーだが、マスカレイドは未だ健在。
 キシャアァァァッ!
 雄叫びを上げるマスカレイドの炎燻る大顎を、シオンがガッチリ受け止める。
「火加減のイロハも知らねぇ悪食野郎が!」
 豪快な上下二段にハンマーを叩き付けられ、マスカレイドの双眸が火を噴かんばかりの憤激に染まる。
「空を走る者の力、見せてやるよ」
 正面をシオンが引き受ける間、エフラムとラティはスカイランナーの名に違わぬ身軽さで、右に左に軽快なフットワークと共に攻撃を繰り出した。
「今がチャンスよ、逃さないで!」
「お、ありがとな!」
 アリーシャのファルコンスピリットに鼓舞され、鷹の急降下攻撃と共にリンの紫に染まる大火球がマスカレイドの腹に爆ぜた。
 シャギャアァッ!
 絶叫が轟く。明らかな悲鳴に力を得て、エンドブレイカー達の猛攻が大トカゲに殺到する。それでも……強靭な生命力はまだ潰えない。
 シュゴオォォォッ!
「っ!」
 吐き散らされた火炎を咄嗟に弾くザファル。だが、真っ向からこれを浴びたシオンは、荒い息の中でニイッと笑みを浮かべた。
「炎が怖くて……鍛冶が出来るか!」
 その腕が魔獣のそれとなる。
「一撃」
 一気に懐に入り込み、喰らいつく。
「ニ撃」
 獣爪の一撃が、仮面の浮き出た腹を抉る。
「これで仕舞いだぁっ!」
 嵐のような獣爪の乱舞が止んだ一瞬後――大トカゲの巨体が音を立てて崩れ落ちた。

●ブレイク完了
 大トカゲの腹に現れていた白黒の仮面は、溶けるように消え失せた。
「やれやれ……」
「ここでバテちゃ面目ないんだが……明日は筋肉痛だね、こりゃ」
 仮面の消失を最後まで確認して、漸く座り込むシオンは満身創痍の様相。その隣に、リンも荒い息で腰を下ろす。
 一息つく年かさ2人の前で、エルナとアリーシャは周囲を見て回る。休耕地まで誘導出来たお陰で周囲の畑が戦闘の余波を被る事は無く、件の青年からも遠い位置で片が付いて何よりと言えた。
「お疲れ様」
「う、うん……」
 安堵の余りへたり込んだエルシーに声を掛けたヴァシュカは、漂う焦げた臭いに顔をしかめた。幸い髪は無事だったけれど。
「さて……カブの1つでも売って戴きまショウかね」
「あ、僕も! 少し貰って帰ろっと♪」
 大トカゲの骸を休耕地の隅に寄せ、リィェンがパンパンと埃を払えば、ラティが元気良く手を挙げる。
「私も少し購入して行きましょう。溜まり場に持って行きたいので」
 同調したザファルは、フードの下で薄く笑んでいるようだ。
「あ、人参……」
 戦闘中に踏み砕いてしまった人参をぼんやり眺めていたエルシーは、ふと小首を傾げた。
「助けたお兄さんに、もう大丈夫って言ってあげる……?」
「うーん、それはどうかな」
 エルシーの呟きに、エルナは肩を竦める。
「もうマスカレイドと関係なくなっちゃったし」
「エンディングはブレイクされたからな」
 エフラムの言う通り、マスカレイドとの遭遇が回避された今、今回の戦いは農夫の青年の与り知らぬ事。徒に混乱させる言動は避けた方が良いだろう。
「戻ろうよ」
 大きく伸びをして、エルナは周囲を見回す。青々とした野菜畑を守れた事が嬉しくて、野菜好きの彼女の顔に自然と笑みが浮かんでくる。
 こうして、アクスヘイムでの初仕事は無事達成された。
「あ、でも。暫くは、焼き野菜はいらないかもね」
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