<高みより狂拳は降る>
■担当マスター:播磨橋紅
●狂拳「……おい! なんだその荷物は!?」
偶然その村を通りかかろうとしていた旅人は、突然の声に驚いて立ち止まった。声の方を見れば、如何にも柄の悪そうな少年達と、その先頭に立つ屈強な男の姿がある。訝しがる旅人を、男は更に問い詰める。そのあまりの剣幕に、旅人も仕方なく答えた。
「何って事も無い、水筒、食料に簡易テント……只の旅道具だよ」
「あー! マレクさんっ、こいつ、ナイフなんて持ってますよ!」
そこに、わざとらしく少年の一人が叫んだ。旅人が護身として持つナイフなど、別に珍しくも無い。しかし、マレクと呼ばれた男はその言葉を聞くと、にやりと獰猛に笑った。
「そうか、さては貴様、旅人を装って村を襲う盗賊だな?」
「なっ、何を言うんだ! そんな難癖……っ!?」
旅人は息を呑む。いつの間にか少年達に周りを取り囲まれ、その手には自分の持つナイフ以上に凶悪な武器の数々が握られていたからだ。正面に立つマレクは、怯え戦く旅人を眺めて笑いながら、拳を振り上げた――。
●振り下ろされる前に
トンファーの群竜士・リーは、集ったエンドブレイカー達に告げた。とある村にマスカレイドとなってしまった者が居ること、それが村の有力者である、ということを。
「マスカレイドになったのは、その村の自警団長の息子だ。村を旅人が通ろうとすると、何かと難癖をつけては殺害する。他の村人には『村を襲おうとした盗賊だった』って言い張ってるが、勿論、そんなもの真っ赤な嘘だ」
息子の名はマレク。彼の言い訳を奇妙に思う村人も居るには居るが、常に取り巻き――村の不良少年達が付き従っているのも相まって、口出しが出来ないのだという。
「旅人のフリをして村を通ろうとすれば、奴は取り巻きを連れて姿を見せる筈。そこを返り討ちにするのが一番良いだろうな」
取り巻きの少年達はある程度武装しており、人数も10人程は居る。戦いが始まれば逃げられないように取り囲むだろう。ただ、彼らはマレクによって弱った獲物のおこぼれに与るのが常で、自分より強い相手と戦った事は無いらしい。上手くやれば追い払えるかもしれない。
「マレクの特徴はとにかく力自慢って事だ。決して素早くは無いが、当たればその一発ずつが重い。体力もそれなりだから、下手に長引かせると辛い戦いになるかもしれない」
そして、無事に打倒する事が出来たなら、エンドブレイカー達はすぐさまそこを離れなければいけない。騒ぎを聞き付けた村人に、もしマレクの死体と一緒に居る所など見られた日には、殺人者扱いされるのは自分達になってしまうからだ。
「厄介な相手だ。だけどこれ以上、こんな横暴を続けるマスカレイドを見逃しちゃいられないだろ?」
そう力強く言ったリーの言葉に、エンドブレイカー達からは頷きが返るのであった。
●マスターより皆様、お初にお目にかかります。播磨橋紅(はりまばし・べに)と申します。この依頼に目を止めて下さり、ありがとうございます。 皆様と共にこの「エンドブレイカー!」の世界で素敵な物語を紡げるように、誠心誠意頑張る所存です。どうぞ宜しくお願い致します。 ●補足 主な敵はマレク、マレクの召喚する人型マスカレイド(剣と軽鎧装備)二体です。 オープニングの通り、少年達は戦闘には消極的で、根性も据わっていないので、攻撃を仕掛けて力量差を見せればマレクを見捨てて逃げて行くでしょう。 尚、少年達の力量は、三人がかりでエンドブレイカー一人と互角です。 マレクはパワー派で、常人の数倍に膨れ上がった腕から繰り出すストレート、拳圧を飛ばす遠距離攻撃、高く跳び上がって振り下ろすナックルハンマーが主な攻撃手段となります。 戦場は村のやや外れになるので、打倒後に速やかに立ち去れば、他の村人に見つかる心配はありません。逆に撤退がもたつけば、発見される可能性は増大します。どうぞご注意下さい。 今回、NPCは同行しません。 皆様のご参加を心からお待ち申し上げております。 |
<参加キャラクターリスト>
● 爪のスカイランナー・ユキト(c01079)
● 太刀の魔法剣士・ミュージカ(c01317)
● 爪の魔獣戦士・フク(c01617)
● 弓の狩猟者・トリエラー(c02678)
● 大鎌の魔獣戦士・ダン(c03007)
● 槍の群竜士・ソーヤ(c03098)
● トンファーの群竜士・レグルス(c03104)
● 爪の群竜士・アルファ(c03704)
● 大鎌の魔獣戦士・カルラ(c05026)
<プレイング>
● 杖の星霊術士・グレンソン(c00255)
さて、事実上の初仕事なんで少しは頑張らないとなぁ
・囮?
馬車を借りるっつー事になってるんだが借りられるもんなんだろうかとも思わなくもない
うん、多分大丈夫なんだと思いたい
荷車を引くよといったのが馬車の外に居る人と認識されているみたいだなぁ
だったら御者モドキをしておこうか
杖はダンに預けて、有事の際に受け取るよ
・戦闘
遠距離からマジックミサイルで相手を牽制、タイミングをみて星霊スピカを召喚しよう
ガッツの量から言えば星霊スピカを召喚できる回数は最大で3回だけだからね
うーん、「何が発動するかは運次第」ということなんだろうか
回復をしたいのにキュアやチャージがかかったら洒落にならないんだけれどなぁ
・退却
仕事が終わったらさっさと退却してしまうに限るだろうね
マスカレイドの存在を理解してもらえないのだから
私たちが見つかってしまえば村の人間は殺された相手が厄介者だったとしても
捕まえないわけにはいかなくなるだろうしね
● 爪のスカイランナー・ユキト(c01079)
【作戦】
囮と奇襲班に分かれる。
自分は奇襲班に属する物とする。
馬車の中に身を潜め、マレクの命令で誰かが幌に手を掛ける、チンピラが持っている刃物で幌を切り破られようとする、囮班の合図のどれかで仲間と共に飛び出し、奇襲を仕掛ける。
奇襲を掛ける優先順位は、自分の場合。
少年達>その他マスカレイド>マレク
(マレクが目の前にいた時はその限りではない)
その標的が少年だった場合、死なせずに済むも戦闘は続行出来なくなるであろう位置を狙い思い切り爪を突き立て、大量出血させる。
その際、標的となった少年をダシとして使い、その他の少年達に向かって撤退させる為に脅す。
脅しが成功し引けば、他の方と連携しその他マスカレイドを他の方を攻撃した際の死角を狙って攻撃を仕掛ける。
脅しで少年達が引かなかった場合は、囲まれないよう十分に周囲を確認しながら仲間と連携しつつ相手が撤退するまでたとえ倒れたとしても執拗に攻撃を加え続ける。
● 太刀の魔法剣士・ミュージカ(c01317)
私は馬車か荷車が都合出来れば、荷台に隠れてレグルス君の合図を待ちます
もし都合出来ないなら向こうに発見されないよう距離を取って、マレク達が近づいたのを確認して接近します
戦う順番は少年達→マスカレイド→マレクの順
少年達にはなるべく傷つけないように攻撃
アビリティは使いません
変に突出して囲まれないように注意しておきます
マスカレイドには残像で双方を攻撃可能な態勢にします
突き刺し、袈裟切り、多重残像斬りを織り交ぜて攻撃します
マレクには私自身の攻撃範囲より少し離れて牽制します
後衛陣に拳圧攻撃が行かないように、こちらがナックルハンマー等の直撃を受けないように留意します
こちらに向いている時はフェイント斬り、他へ目が向いている時は居合斬りで攻撃
マレクを攻撃する頃には完全にこちらの手数が上ですし
マレクを倒した後は速やかに撤退します
馬車か荷車で来た時にはそれと共に帰りますが、万一出来ないようなら走って撤退します
● 爪の魔獣戦士・フク(c01617)
馬車内、もしくは荷車の中で、
布をかぶる形で、隠れ外から見えないよう
注意して待機します。
もし馬車や荷車の確保が無理な場合は、
囮が見えるか見えないかの距離を開けて、
移動し、マレク達が接触してきたら、合流。
レグルスさんの合図と同時に飛び出し、
近くにいる少年達を先手で攻撃。
少年達が退却するなら、マスカレイドへ。
そのままとどまるなら、少年達の相手をします。
戦闘行動は前衛で。
少年達は普通に攻撃。アビリティは脅し程度で、
本人には当てないようにします。
少年達が退却したらマスカレイド二体→マレクの順で、
イニシアチブの早い人に続く形で、
周りの人と連携し、各個集中攻撃していきます。
アビリティはビーストクラッシュ・アサルトクロー
を交互に使っていきます。
マレク中心に相手の動きよく見て、
攻撃は出来るだけかわせるように、心がけます。
ジャンプしてきた時などは特に注意。
マレクを倒したら、速やかにその場を離れます。
● 弓の狩猟者・トリエラー(c02678)
堂々と歩いていって、戦闘になったらすぐに弓を構える。
後ろから弓で攻撃する。
標的は息子から。
マスカレイド撃破の後は速やかに撤収する。
● 大鎌の魔獣戦士・ダン(c03007)
○準備
グレンソンの杖を預かり、背中に固定しておく(無理なら片手に持つ)
○作戦
馬車(荷車)の荷台の中で、外から見えないようにして待機
馬車が使えない場合は敵から見えないように十分な距離を取るか、手近な場所に隠れる
レグルスの合図と共に荷台から飛び出し少年達に不意打ちを仕掛ける
ある程度少年達が散り、動けるスペースが出来たら急いでグレンソンに杖を渡しに行く
杖を渡した後、まだ少年達が撤退していないようなら少年達から、
撤退しているなら味方が狙っている人型マスカレイドから攻撃、二体とも撃破した後マレクと戦う
○戦闘
前衛で後衛や回復役に攻撃が行かない様注意しながら戦う
少年達と戦う時は大鎌で大怪我をさせない、脅し程度で攻撃
マスカレイド達と戦うとき、敵が二体以上居る場合は「黒旋風」を使い攻撃
自分のGUTSが三分の一以下になった時や敵がマレクのみになった場合「ビーストクラッシュ」で応戦
戦いが終わったら速やかに撤退する。
● 槍の群竜士・ソーヤ(c03098)
槍を荷台にいるカルラさんに預け、レグルスやグレンソンさんと共に旅の商人のフリをして街道を通る。
演技が必要かどうかは分からないけど、一応年上ということで兄貴っぽく振舞ってみたり。
レグルスの合図と共に戦闘開始。
投げ渡された槍を掴み、手下のマスカレイドと相対。
少年達への対応が終わるまで、もしくはしている間
マスカレイドを間合いに合わせて龍撃拳と疾風突きで攻撃します。
マスカレイドを撃破したらマレクへ。
重い一撃に気をつけつつ、龍撃拳を叩き込みます。
周りの仲間とは上手く連携できるよう動きには気をつけておく。
1人で無茶な行動はしないこと。
マレクを倒したら軽く合掌した後、速やかにその場を去ります。
● トンファーの群竜士・レグルス(c03104)
囮役としてマントでトンファー等を隠したまま無害な一旅人を装い、馬車の御者台へ座って向こうの出方を待つ!
馬車が調べられそうになったら、大声で「いくぜ!」と荷台への合図を送り、一気に奇襲だ!
奇襲で少年達を攻撃し、それでも引かないなら相手になるぜ!
戦闘では少年→マスカレイド→マレクの順で攻撃を仕掛ける。
竜撃拳とトンファーコンボはマスカレイド二体とマレクの相手をする際に積極的に使ってく!
少年達は逃げるようなら追わずにマスカレイドやマレクに攻撃を加えるのを優先するぜ。
前線を構築して、グレンソンのおっちゃんへと敵を通さないように気をつけるぜ!
前衛としてなるべく攻撃を回避したいが、無理そうならしっかりとガードを行い確実に受けるダメージを減らす!
戦闘終了後は速やかに現場から撤退する。
見つかった場合に備えて通りがかりのただの旅人というような立ち振る舞いもしておくぜ。
● 爪の群竜士・アルファ(c03704)
◆事前
馬車(馬が用意できなかったら荷車)を用意し、主力を隠して敵を誘き出す作戦。
私は、荷台に潜んで、機を窺う。
合図があれば、いつでも飛び出せるよう、武器を纏い、身構えておく。
◆戦闘
まずは悪童どもを脅して追い払いたいが、私の外見では迫力不足か。
…むぅ、修行が足りぬ。
力をひけらかすような真似は本意ではないが、致し方ない。
この一撃で、目を覚まさせてくれよう!
(人型マスカレイドが出現していたら、渾身の力で攻撃。
少年たちには、殺したり障害の残る怪我を負わせないように注意)
「無益な殺生は好まぬが、邪魔をするならば容赦せん!」
さて、ここからが本番だ。
人型マスカレイドを一体ずつ集中攻撃して、各個撃破を狙う。
雑魚が片付いたら、マレクを歪んだ魂ごと叩き潰す時だ。
「待たせたな、貴様の番だ…」
攻撃は、アサルトクローで削って、竜撃拳でとどめという型でゆく。
回復役のグレンソンを守るため、盾になるような立ち位置を心掛ける。
● 大鎌の魔獣戦士・カルラ(c05026)
■心情
マレクも許せないが、マスカレイドの影響ではなく、
罪の無い旅人を殺害した少年達にも我慢ならない。
■事前準備
少年達に油断して襲わせる為に、馬車を手配。
[御者]グレンソン[外]レグルス、ソーヤ[荷台]他のメンバ
(馬車が無い場合は、[荷台]メンバは、隠れつつ移動)
ソーヤの槍を預かり、外から見えない様に荷台に潜伏。
■作戦/配置
少年達が馬車を調べ始めたら、ソーヤの合図と共に、
槍をソーヤに投げつつ、荷台から飛び出す。
戦闘は、少年達を不意打ちで逃げれば、
後はマレクと配下のマスカレイドと闘う。
少年達が逃げなければ、フクと共に少年達と闘う。
■戦闘
アビリティは、少年達には、[黒旋風]で威嚇しつつ攻撃。
マレク達には、ビーストクラッシュで攻撃。
基本的に、味方の戦力が手薄な所に入る。
■作戦終了時行動
少年達に対して、罪を悔いさせる。
■撤退条件
半数以上が戦闘不能なら、可能な限り仲間を連れて退却。
<リプレイ>
●嘆きを止めて天井からの柔らかな光が辺りを照らし出し、内包する数多の命をも輝かせるようだ。
村と村を繋ぐ小さな街道で見ることのできる景色は、決して特別なものではないが、それ故に温かみや親しみを覚えさせるものだった。
そんな風景を楽しむように、槍の群竜士・ソーヤ(c03098)は歩いて行く。時折、同じように歩いているトンファーの群竜士・レグルス(c03104)を気遣ったりして、兄のように振る舞って見せたりもする。自分達を『旅人の一家』らしく見せる為の演技だが、そんな諸々を差し引いても、二人の掛け合いは楽しげだった。互いの性格が上手く噛み合ったようだ。
「例の村はもう少し先かなぁ。……それにしても、心配が的中してしまったねぇ」
杖の星霊術士・グレンソン(c00255)が呟いたのは、借りようとしていた馬車のことだ。幾つか尋ねて回ったが、目的地まできちんと馬車が通れるだけの道が整備されているか解らないし、おいそれと赤の他人に貸せるものでもない、と断られてしまったのだ。街道の脇には幾らかの樹木が生えており、奇襲班が身を隠しながら動くことは出来るようなのが幸いだった。
そうして進む事幾許か。先陣を切っていた弓の狩猟者・トリエラー(c02678)が、遠く霞む程度に村の姿を見付けた頃、周囲の空気が変わった。誰かに見られているような感覚は歩みを進めるごとに増し、やがて――。
「待て! そこのお前達、止まるんだ!」
大きく、制止する声が響き渡る。顔を上げた先に居るのは、体躯の良い、ただの村人にしてはしっかりとした武装をした男の姿。
(「こいつがマレクって奴か……」)
目を細めるトリエラーの鋭い視線にもたじろがず、不遜な表情で見返して来る。ひとまず大人しくその場に立ち止まる、囮役の4人。ばらばらと取り巻きの少年達も姿を見せる。
「随分と荷が少ないな? ここに何をしに来た」
「何も無いさ。ただ通りがかっただけだ」
ソーヤが答える。それに重ねるように、レグルスが声を上げた。
「心配なら通り抜けるまで見てたらいいじゃん。ほら、もう『行くぜ』!」
「!!」
その台詞をきっかけに、今まで身を潜めていた奇襲班が一斉に飛び出した。
●狂える力を打ち砕け
突然のことに、取り巻きの不良少年達の中には目に見えてうろたえる者も多かったが、当のマレクは寧ろ一層に笑みを深めて超然と佇んでいた。堂々と殺せる理由が出来たとでも言うように。
「……っ!」
「う、うわ!? このっ」
隙をつき、太刀の魔法剣士・ミュージカ(c01317)は手近な所に居た不良に攻撃を繰り出す。マレクと戦っている横から手出しをされては厄介だ。だがしかし、アビリティを使わないようにしたことは間違いだった。その一撃は軽く、不良はナイフを横薙ぎに振るいすぐさま反撃してきた。
アビリティを使わないという事は徒手で戦うという事で、対する不良達はナイフ等で武装済み。エンドブレイカーと言っても特別に強い訳でも無いのだから、そんな相手に武器を使わずに挑んでも、勝てる見込みは薄い。ミュージカは眉根を寄せながら改めて太刀を鞘から引き抜くと、斬りかかっていく。
同じような状況になっていたのが爪の魔獣戦士・フク(c01617)で、こちらもこのままでは削られるのは自分達の方だと察すると、軽い攻撃のお陰で調子づいたように見える不良へ爪で攻撃をしかけた。真横に腕を斬り裂かれた不良は情けなく悲鳴を上げてよろめく。
「本気で引き裂かれたいんだね」
それでもマレクがそこで見張っているという圧迫感から、逃げるのを躊躇う相手。しかし追い打ちをかけるようなフクの一声に、怯えたように息を呑むと踵を返して逃げ去った。並んで戦っていた大鎌の魔獣戦士・カルラ(c05026)が鎌を振り回す度、悲鳴と逃げる足音が重なっていく。
「無益な殺生は好まぬが、邪魔をするならば容赦せん!」
爪の群竜士・アルファ(c03704)に鋭い正拳突きを受けた不良は、幼げな少女とは思えないその気迫にじりじりと後退して行く。手加減をすることは出来なかったが、それが却って『本気だ』と相手に思わせる事に成功したのだから、結果良ければ、という奴だ。笑顔で容赦なくかかっていく爪のスカイランナー・ユキト(c01079)の周囲に居た不良達も、既に何人かは姿を消していた。急所を狙うユキトの攻撃は当たらない事も度々あったが、脅すだけならば彼の狂人じみた演技を含め、十分だったのだろう。
もう不良達は脅威ではない、そう大鎌の魔獣戦士・ダン(c03007)が思った時、だった。
「――……ッ!」
ざわりと背筋が粟立つような感覚を覚え振り返る。視線の先に、他の面々が不良達を散らしている間、マレクや剣士マスカレイドの気を惹き続けていたトリエラーとソーヤが苦しげに肩で息をする姿と――顔の4分の3ほどが仮面で覆われ、異様に肥大化した腕を振り上げるマレクの姿があった。
●堕ちた拳の行く末
「させっ、るかぁ!」
それに気付いたレグルスが、跳ねるように地面を蹴って肉薄しマレクへ拳を叩き込む。ひとの腕にしては硬過ぎる手応え。それは確かに打ち込んだ筈なのに、衝撃など伝わっていないのかと錯覚させる程。
「ハ、あいつらは逃げたか……まぁいい、後でどうとでもなる。まずは貴様達からだ!」
マレクが標的と選んだのは、やや弱りがちなソーヤだった。その強靭過ぎる腕から繰り出されるストレートは、想像以上の破壊力を持ってその身を襲う。
「グッ、このくらい……!」
「行ってくれ、スピカ。頼むよ」
グレンソンがそんなソーヤに向けて星霊スピカを召喚する。スピカがぎゅっとソーヤの腕を抱き締めると、鈍く体の内に響くようだった痛みが薄れた。
「成程、一筋縄じゃ行きそうにないな」
いざマレクと相対してみれば、その威圧感に息苦しさを覚える事すらあった。やおら表情を硬くし強く武器を構え直す。そんな様子を見てとって、カルラがそっと囁いた。
「オレらには、運の女神がついてるからね」
逃がさないように大きく構えていようと、軽い笑みさえ浮かべて見せる。そうして剣士マスカレイドに向き直ると、今度はその表情を真剣なものに変えて距離を詰め、渾身の力を込めて殴りつける。戦場を身軽に駆け抜けたアルファが更に同じ剣士マスカレイドへ飛び乗ると、その肩口を思い切り引き裂いた。悲鳴ひとつ上げぬ不気味な相手だが、ぐらりと体が揺れた所を見れば、傷は確かに重なっている事が知れる。
「隙、ありだ!」
ダンの大鎌が閃き、その内の一体を斬り伏せた。やはり声も無く崩れ落ちたその体は薄れ消えて行く。残る一体もレグルスの手によってよろめいた所に、間髪入れずに飛びかかり食らいついたフクの攻撃によって同じ運命を辿る。残るは、マレクただ一人――。
「さぁ、倒れて貰おうか、マレク」
「ぬかせ、返り討ちにしてくれる!」
ユキトの爪とマレクの拳がかち合う。押し切ったのはユキトの方で、その攻撃は相手の腕に大きな傷を刻んだ。ぎりりと歯を鳴らして振り払い、次にマレクが標的と定めたのはミュージカ。驚くべき脚力で飛び上がり、降下する勢いも乗せてミュージカの細い体へと打ち下ろす。必殺と言っていいだろう一撃に、骨の軋む音が聞こえたような気さえした。
「でも、これしきの事では倒れない!」
その宣言通り、彼女の太刀はブレることなく美しい軌道を描き、マレクの胴体を刻む。
「獅子星拳正統後継者、レグルス・アルテルフ……いくぜ!」
「貴様の狂った拳は、我が拳が、我が『竜』が撃ち砕く!」
レグルスのトンファーが唸りをあげてマレクの顔面を捉え、仰け反った所にアルファの拳が胸を強打する。フクが軽やかなステップで迫り攻撃の連打を加えれば、続いたカルラの大鎌は首を刈り取ろうかという勢いでマレクの体を引き裂いた。
度重なる連携のとれた攻撃に、徐々に動きが鈍くなりながらも、攻撃の手を緩める事は無いマレク。しかし、その大振りな攻撃が空を切り、隙が出来たその瞬間を、エンドブレイカー達は見逃さなかった。
「これで……!」
ダンの放った乱れ舞う渾身の一撃。一瞬静止した後、マレクの体は大きく揺らいで傾く。これが、決定打だった。
「っぐ、あ、くそ……っ!」
くず折れながらも尚、何かを掴もうと伸ばした腕は、ただ虚しく空を叩くばかりで――もう二度と、振り上げられる事は無かった。
マスカレイドの仮面は砕け消え、後には横たわる男の骸だけが残った。
●斯くして、終焉。
解いたユキトの髪が風になびく。戦いを終えた辺りは、急に静まり返ったように思えた。
しかしすぐに、なんとなくざわついた気配も感じる。この村外れの異変に村人達が気付き始めたのだろう。早々に撤退するのが吉と、エンドブレイカー達は来た道の方へと。
「お、とそうだ。スピカ」
木陰で動けなくなっていた不良少年へと、グレンソンがスピカを召喚した。少年は何度も何度も目を瞬いていたが、やがて立ち上がると、口惜しそうな顔をして走り去って行った。情けなさで暴れる気も起きなくなるだろう、と、その背中を見送りつつカルラは思う。
(「本当なら説教してやりたかった所だけど」)
そもそも殆どが散っていた上に、それが終わるよりも村人達がやって来る方が早そうだった。散々脅しつけた後だし、その後の事は親や他の村人に任せるのが正しい形かもしれない。
エンドブレイカー達は帰りの路を駆け抜けて行く。この事は決して、公に武勇伝として喧伝出来る類のものではない、日の当たらない仕事とも言えるのだろう。しかし、彼らの活躍によって救われた命があること、防げた悲劇があること――これは何よりも確かなことなのだ。