<押し潰すもの>
■担当マスター:天流儀さち
幾つもの店が軒を連ねる繁華街の酒場。
上品な店構えで、本来なら静かに酒を酌み交わすだろうその場所は、濃厚な酒の匂いと嬌声に満ちていた。
「金ならある! もっといい酒を持って来い!」
惜しげもなく金をバラ撒くと、男はソファーにふんぞりかえって両足をテーブルに投げ出した。大量に並べられた料理の幾つかがその勢いでひっくり返るが、それを気にした風も無い。
中肉中背の男の風体は、そこらのゴロツキとさほど変わっているわけではない。ただ、その懐は隠しようもないほどの大量の金で膨らんでいた。
「ふふっ、この酒は強いわよ」
周囲には、繁華街にたむろしていた連中が金の匂いに釣られる様に集まり、おこぼれにあずかろうと男の杯に酒を注ぎ足していく。
「がははは! お前達もどんどん飲め!」
歓声を上げる名も知らない男女の群れ。その中心で男は、注がれた高価な酒を惜しむ様子もなく飲み干し、豪快に笑う。
次々と注がれる酒を底が抜けた樽に流し込むように飲み干していく男。その度に周囲から歓声が上がり饗宴は盛り上がっていく。もし、この場に男をよく観察する者がいれば、その酒量の異常さと男の呟きに気付いたかもしれない。
「もっと……もっとだ……」
男の顔色にはまったく酔っている様子はなく、ただ瞳だけが狂気の色を帯びて爛々と輝いていた……。
「この間、強盗殺人があったんだ」
席に無造作に腰を下ろしたエアシューズのスカイランナー・ジェシカは、単刀直入に話を切り出した。
襲われたのは商人の家。
家人は全て殺され、蓄えられていた金が根こそぎ奪い取られていたという。
「現場がひどくてさ。室内にあったものは全部何か巨大なものに押し潰されてみたいな有様で……ああ、もちろん死体もさ」
顔をしかめるジェシカ。普通の強盗にそんなことが出来るはずもない。
「つまり、そういうマスカレイドの仕業ってこと。で、ここからが本題だ!」
身を乗り出したジェシカは、周囲に視線を走らせ、注意を向けている者がいないのを確認してから話を続けた。
「逃亡していた犯人の居場所が分かったんだ」
示されたのは何の変哲もない一軒の酒場。特に隠れ潜むのに適しているとは思えない場所だ。
「全然隠れるつもりが無いようだぜ。その酒場で盗んだ金をバラ撒いて豪遊しているらしい」
それは、捕まらない自信があるということなのか?
「そのマスカレイドの姿だが、例えるなら……樽だな」
仮面を現したマスカレイドは、巨大な樽の様な身体に細長い手足が生えた姿だという。コミカルにも思える姿だが、巨体を転がして突進して来たら、押し潰された残骸しか残らないだろう。
「まともにぶつかったらペチャンコだ。どうやって突進の被害を最小限に抑えて戦うかが鍵だな。それにヤツが腹の中に溜め込んでいるのものにも注意が必要だ」
マスカレイドは体内に溜め込んだ液体を強烈な水流として放ってくるのだ。これを受けてしまうと強烈な匂いで頭が混乱して正常な行動ができなくなってしまう。
「こいつは金を使い果たしたら間違いなく同じことを繰り返すぜ」
一度マスカレイドの力を使ってしまえば、人を殺すことをためらったりはしない。
「マスカレイドは強敵だ。だが、皆で協力すれば遅れを取るような相手ではないはずだ」
ジェシカは、自分自身は別の事件を追っているので、今回は協力できないがとすまなそうに一言加えると、皆の顔を一通り見回して言葉を続けた。
「マスカレイドとの戦いが、はじめてだってのもいるかもしれないんで言っておく。残念だが仮面を破壊したって一度マスカレイドになっちまった人間を救うことは出来ない」
ためらえば自分や仲間だけではなく、都市で暮らす人々の命を危険に晒すこととなる。
「そして、注意して欲しいんだが、普通のやつにはマスカレイドが力を使って犯行を行ってたってことはわからないんだ。マスカレイドを倒したらボヤボヤしてないでさっさとズラからなきゃ、今度はお前達が追われることになるぜ」
マスカレイドを倒せば、マスカレイドとなっていた者の死体が残る。その事実を知らない者にそれを見られれば、殺人犯の汚名は自分達に降りかかることになる。
「別に手際良くやる必要なんかない。無様でもいいから確実にこの結末を打ち破るんだ!」
●マスターよりはじめまして、天流儀さちと申します。ご一読ありがとうございました。今回のように、多少戦術を考えて挑んでもらうシナリオを提供していきたいと思いますので、知恵を振り絞ってご参加ください。 酒場に踏み込んで強盗殺人の事を問いただすと、マスカレイドは酒場から路地裏へと逃げ出すことになります。皆さんにはそれを追跡してもらうことになるのですが、そこはマスカレイドにとって有利な場所なのです。袋小路に追い詰められたふりをして正体を現すと、突進攻撃を避ける場所がほとんど無い狭い路地での戦闘となります。道幅は3人が横に並んで戦闘できる程度。突進は全体攻撃となりますが、何とか突進を避けられそうな壁のくぼみが2箇所ほどありますので上手く利用してください。 マスカレイドは突進する度に、エンドブレイカー達の上を転がって反対側、つまりエンドブレイカー達の最後尾側へと移動します。 水流攻撃は最前列への範囲攻撃で、ダメージを受けた場合、混乱状態となってランダムに相手を選んで攻撃してしまいます。 戦闘開始と同時にマスカレイドの後ろに配下のマスカレイドが2体現れます。武装は軽装の鎧と弓だけで、突進攻撃に巻き込まれないように戦闘中はその場所を動きません。 |
<参加キャラクターリスト>
● 爪の魔曲使い・ナリュキ(c00161)
● ハンマーの魔獣戦士・ライカ(c00574)
● エアシューズの群竜士・ヒカル(c01434)
● 大鎌のデモニスタ・ジョルジュ(c01908)
● 太刀の魔法剣士・クレイル(c02030)
● 盾の城塞騎士・アステリア(c03117)
● 太刀の魔法剣士・リュウ(c03200)
● 斧の魔獣戦士・ブル(c03843)
● 剣のデモニスタ・ティアエリス(c04202)
<プレイング>
● 爪のデモニスタ・ジェイ(c00120)
最初に仲間たちと樽がいる酒場へ行き、樽型のマスカレイド(以下樽)に「強盗殺人について何か知りませんか」と問い詰める。
念のため事前に帽子を用意して目深にかぶっておく。
樽が逃げ出したら追跡し戦場となる路地裏へ。
戦闘では樽前衛、配下前衛、後衛の3つのグループで行動。
樽前衛・配下前衛:樽・配下に対する前衛役
後衛:樽へ遠距離攻撃を行う役
戦闘の始めは[配下 樽 配下前衛 後衛 樽前衛]となる位置をとる。
樽が最初に突進攻撃をする時、壁の窪みは樽前衛が優先して使用。
その後は後衛(最も被ダメージが高い・戦闘不能状態に近い人)が優先して使用。
戦闘時は後衛として樽にデモンフレイムで攻撃。
樽前衛の誰かが倒れた場合は樽前衛として行動。その際仲間に声かけを行う。
窪みを使う時は窪みの中から、不可能なら窪み近くで攻撃。
窪みを使わず突進攻撃を受ける場合は背中を壁につけて受け流せないか試す。
戦闘終了後はすぐにその場から離れる。
● 爪の魔曲使い・ナリュキ(c00161)
-編成
妾は後衛で遠距離攻撃重視なのじゃ。
後衛組は「ティアエリス、ジェイ、ジョルジュ」と妾の4人じゃな。
狭い戦場では攻撃の鍵になるじゃろうて、気合入れていかねばのぅ。
-酒場
カマを掛ける面子が足りぬなら手伝ってやろー。
酒場の匂いがする者が払い出すのが自然にゃし?
-戦闘
相手に有利な状況、短期戦で攻めぬと勝機は無いのぅ。
後衛は樽型マスカレイド優先で攻撃する事になるのじゃ。
窪みは最初の突進時はライカとヒカル優先で
● ハンマーの魔獣戦士・ライカ(c00574)
お金の為に人殺しなんて正気の沙汰じゃないんだよ!
もっと被害が増える前に悪い奴はわたしがぶっ倒すんだね!
【作戦】
前衛A・B、後衛に分かれる
前衛Bは配下、あとは樽マスカレイドを攻撃
前衛が離脱した場合は後衛と交代
【戦闘前】
大き目の帽子を準備して、酒場に入る前に顔を隠すように被る!
路地裏に着いたら窪みに何人ぐらい入れそうか確認するんだよ!
【戦闘】
前衛A(樽マスカレイド担当)
長引くとしんどいから初っ端から全力でいくんだよ!
最初は突進が来るまで窪みに入って待機して
樽マスカレイドが突進で最後尾に移動したら
追いかけてビーストクラッシュで攻撃するよ!
突進する度に追いかけては攻撃の繰り返し
戦闘不能になったらできるだけ邪魔にならないように隅っこに逃げておく!
【戦闘後】
戦闘が終わり次第怪しまれないようにすぐにその場を離れるんだね!
● エアシューズの群竜士・ヒカル(c01434)
・追跡>位置取り
まずは、ターゲットの樽型マスカレイドが路地裏へ逃げ込むのをメンバーとともに追跡。
追跡の際の隊列は、前から順に【前衛B】班、【後衛】班、【前衛A】班。
アタシは【前衛A】なので、
同じ班のライカさん、アステリアさんと連携をしっかり取れるように
声をかけながら戦闘態勢に入りたいです。
・戦闘開始
最初は後方にいるので、【後衛】を追い抜かさない位置まで突進回避ようの窪みに近づきつつ、
『ソニックウェーブ』で樽マスカレイドへ遠距離攻撃。
樽マスカレイドが最初の突進を行う時だけ窪みへ入り回避。
自分の近くに樽マスカレイドが来たら、【前衛A】みんなと息を合わせて近接攻撃開始です。
アタシの必殺、『竜撃拳』をお見舞いしちゃうのです!
再び突進により距離が離れたら、ソニックウェーブで遠距離攻撃。近づいたら竜撃拳。
最初から一貫して樽マスカレイドを狙っていきます。
撤収はすばやく。これはお約束なのですね。
● 大鎌のデモニスタ・ジョルジュ(c01908)
・追撃時
マスカレイドを追う事になったのなら迅速にかつ
目立ちすぎないように行動だ。咄嗟の襲撃にも
対応できるよう仲間の案に従った陣形を組むように
するつもりだ。
・戦闘時
戦闘が始まったら短期決戦で勝負をつけられるよう
デモンフレイムで遠距離からの攻撃を繰り返す。
樽のマスカレイドを優先して波状攻撃で反撃の
隙も与えるつもりはない。
・防御時
窪みの位置に陣取るようにして、突進してきたら
窪みに隠れて凌ぐか、既に先客が居るようなら
突進の範囲での死角を見つけてやり過ごす。
武器の大鎌も防御に使用してダメージを最小限に
抑えるように務める。無闇に避けて隙が出来ない
ようにも注意して、凌ぐ為には仲間を犠牲にする
以外は利用できるものは利用するつもりだ。
後ろのマスカレイドにも注意を払い背後から
挟撃を受けないようにする。
・戦闘後
戦闘後は速やかにここを離れる。傷を負った者が
いるのなら支えて遅れないようにだな。
証拠も残さずにだな。
● 太刀の魔法剣士・クレイル(c02030)
■酒場
なるべく目立たぬよう振舞います。
問い質しも自然な風を装って。
周囲の注目を集め、あらぬ疑いを持たれると厄介なので。
■戦闘
・配置
前衛A・前衛B・後衛に班分けを。
初期配置は前衛Bが前線、後衛が中ほど、前衛Aが最後尾に。
後衛と前衛Aは、突進への囮役以外、可能な限り窪みで待機する手筈。
私は前衛Bに所属です。
・行動
まず犯人に攻撃。
犯人が突進で移動したなら、攻撃対象を配下へ移行。
この際、可能ならば配下の後ろ側へ回り込みたいです。
無理なら、配下にできるだけ接近し、犯人の突進に巻き込まれない、或いは配下諸共に巻き込まれるような戦線の形成を試みます。
配下撃破後、前衛Aと協力し犯人を挟み撃ち、又は被害の多い前衛Aと交代します。
・攻撃
敵の数が二人なら残像剣、一人なら居合い斬りで攻撃。
・防御
犯人の突進は太刀を盾代わりにして完全に潰されるのを防ぐ、水流攻撃は何とか飛び退る、努力をします。
万一上手く行けば儲け物。
● 盾の城塞騎士・アステリア(c03117)
「我らが貴様の終焉だ。潔くここに潰えるがいい」
◆配置
樽のごときマスカレイド(以下、樽)に近い順に【前衛B】【後衛】【前衛A】と隊列を組む。
【前衛B】は接敵し樽(突進後は配下)を攻撃。
【後衛】はふたつの窪みの近くに位置取り。
【前衛A】は突進後の樽を待ち構えるため、樽から遠いほうの窪みに隠れて待機する。前衛A全員が入りきらん場合は、私が窪みより数m後方で待機し、樽の突進が窪みの手前で止まらないように誘導する。
◆行動
私は【前衛A】の一員として、樽に攻撃を行う。
とはいえ、奴が突進を行った際にはダッシュで追跡して殴り、水流を吐いた時には盾で身を庇いつつ殴るだけの
単純な話だが。
使うアビリティはディフェンスブレイド。
【盾】の効果がかかったなら、以降はシールドバッシュを使う。
窪みの外で仲間が倒れたら、彼が窪みに避難させられるまで、それを庇うため立ち塞がろう。
倒せたならば長居は無用、仲間とともに立ち去ろう。
● 太刀の魔法剣士・リュウ(c03200)
さて、これが島から出てきた僕の初依頼
頑張ってマスカレイドをやっつけるぞ〜♪
【話しかけ】
特に顔を隠したりせず、ごく自然に「この間、貴方が商人の家でした事で話があるんだけど」と話しかける
相手が逃げ出したら「何故逃げる!」と言って後を追う
【戦闘】
路地に飛び込む時は最前列で樽に攻撃
樽が突進して来て背後に回られたら配下に突撃
次は配下が自分と樽の間になるよう回り込み攻撃を続け、配下を倒したら樽へ
攻撃は二人いる間は残像剣、一人なら居合い斬り
「まずはお前達だ!
「僕らだけ轢かれるのは割に合わないからね!
樽へ行く時、樽と戦う前衛が一人なら突撃
二人以上なら樽に接敵しない程度に移動し、次の手番で現在の前衛と挟み込む位置に回り込み攻撃
攻撃は居合切り
「いい加減、倒れろ!
「未成年に酒をかけないでよ〜
【戦闘後】
死体を路地裏か壁の窪みに放り込んで布でもかけて逃げ出すよ
「さよならマスカレード。これがあんたのエンディングだよ
● 斧の魔獣戦士・ブル(c03843)
隊形は順に【前衛B】【後衛】【前衛A】
戦闘に入った時にくぼみの位置の確認
後衛が窪みにスムーズに入れる様に位置取りしておく
窪みは常に自分達の隊列の中にある様に配置しておく
自分は前列Bで近接戦闘担当
最初の攻撃目標は配下の弓使い
樽の全体攻撃を受けたら樽が接近して来ると思うので樽へ攻撃目標を移す
弓使い攻撃時は相手はその場から動かないので一気に接近して攻撃短期決戦を目指す
攻撃時は同じ前衛B班の仲間と息を合わして攻撃
弓使いを撃破した後は樽への攻撃へ移る
樽を攻撃する際は極力挟撃の形に持っていく事を心がける
仲間が攻撃を受けそうな時は前に立って仲間の盾になる様に行動する
全体攻撃を避けれる窪みは自分が死にそうになっている場合のみ周りに言って使わせてもらう
それ以外は窪みは利用せず戦闘重視で行動する
倒れた仲間や瀕死の仲間がいた場合は優先して窪みへ
動けなかったりする時は引きずって窪みへ非難させる
● 剣のデモニスタ・ティアエリス(c04202)
「……悪い人を倒せばいいんですね?」
『初期配置』
隊列は前から順に【前衛B】【後衛】【前衛A】。
【前衛B】は接敵。
【後衛】は窪み近くに位置取り。
【前衛A】は窪み二つよりも後ろが基本(変動あり)。
もし開戦時点で【前衛A】が全員窪みに入るなら
私が囮として窪み二つより後ろに回り、
樽の突進が窪みの手前で止まらないように誘導します。
[重要]その後も窪み二つを自陣内に収めるよう留意。
『個人的に』
私は【後衛】。優先攻撃目標は樽の人です。
通常は窪みの近くから、可能なら窪みの中から、
デモンフレイムを連射します。
他に窪みを使う人がいれば譲ります。
いずれかの前衛が一人になったら前衛に移行して穴埋めを。
その際には十字剣を使用します。
また、私が接敵している時に前衛の手が余るようなら、
交代して後ろに下がります。
(窪みの外で)誰かが行動不能になったら引きずって
窪みに避難させます。
※軽く変装しときます。伊達眼鏡に帽子とか。
<リプレイ>
●おぼれる男そこは小奇麗で上品な酒場のはず……だった。
「……」
強烈な匂いに、剣のデモニスタ・ティアエリス(c04202)は表情には出さないながらも僅かに眉を寄せた。
マスカレイドが居るという酒場の扉を潜ったエンドブレイカー達を出迎えたのは、薄暗い店内を満たす嬌声と濃厚な酒の匂い。そして、床に散乱した酒瓶と料理の成れの果て。
場末の荒れた酒場そのものの光景だった。
そこへ自然を装って入っていく仲間達。ティアエリスとハンマーの魔獣戦士・ライカ(c00574)は、変装用の伊達眼鏡や帽子を直すとそれに続いた。薄暗い場所なので人相を覚えられる危険は少ないだろうが、用心に越したことはない。
目的の男は、取り巻きの男女に囲まれて杯を傾けていた。
誰彼無しに酒を振舞っているためか、男は突然の来訪者にも注意を払う様子はない。それを見て、帽子を目深に被った爪のデモニスタ・ジェイ(c00120)は堂々と前の席に腰を下ろすと話を切り出した。
「この間あった殺人強盗事件……」
反応を見ながら言葉を続ける。
「当時、付近であなたに似た人物を見たという人がいるんですよ。何かご存知ありませんかねぃ?」
しかし、応える様子もなく杯を干す。大量に飲んでいるにしては酔っている様子もないので、聞こえていないわけではないはずだ。
「あからさまに聞く気がないという態度じゃのう」
爪の魔曲使い・ナリュキ(c00161)が嘆息と共に次の言葉を探っていると、太刀の魔法剣士・リュウ(c03200)が、もっと単刀直入に告げた。
「……つまり、貴方が商人の家でした事で話があるんだけど」
リュウ本人は意図していないのだが、挑発とも取れる言葉。これにはさすがに反応した。
「な、何のことだ。大体、何者だよアンタら?」
声に焦りの色をにじませながらも、とぼけ通そうと逆に問い返す。
「さあ、誰でしょうかねぃ」
「だが……」
ジェイがそれにとぼけ返すと、それ見守っていた太刀の魔法剣士・クレイル(c02030)がその脇からスッと前に出て言葉を重ねる。
「貴様の悪事は分かっている」
抜き身の刃のような強烈な敵意に、男はビクッと身体を震わせる。目の前に立つのが金の出所を興味本位で探っている酔狂な連中ではないと気付いたのだ。
「あ、あれは……おい酒だ!」
杯をあおろうとして、空であることに気付くと取り巻きにうわずった声で酒を要求する。緊迫した空気に驚きながら腰を上げる女性。
その瞬間、男が動いた。
「くそっ!」
女性を後ろから蹴り飛ばす。
「きゃあ!」
女性がエンドブレイカー達に倒れかかり、その隙に全速でカウンターへ飛び込む。
「何故逃げる!」
リュウがそれを追おうとするが、突然の出来事に混乱した取り巻き達に阻まれて進めない。その間に男は店の奥へ。
会話の様子を後ろに退いて眺めていた大鎌のデモニスタ・ジョルジュ(c01908)は、それを見て素早くカウンターを回り込んで後を追う。カウンターの奥は厨房。その先は……。
「裏口だ!」
真っ先に追いついてきたエアシューズの群竜士・ヒカル(c01434)と共に開け放たれた裏口から身を乗り出す。
「まだ間に合うよ!」
路地裏を走る男の姿を追って二人は走り出した。
●路地裏
路地裏の逃走はさほどもなく終わりを迎えた。
「さあ、もう逃げられないよ!」
ライカが指を突きつけた先には、袋小路の壁を背に、男が絶望したように顔を両手で覆って立っていた。
「悪いことを平気でやり続ける人を許してはおけないよね。ここで終わりにしてあげちゃいましょう!」
ヒカルは、追いついて来た仲間に声をかけると、袋小路を塞ぐように男を取り囲む。
絶望的な状況。だが、顔を覆う指の隙間から漏れたのは、笑い声と狂気に輝く瞳の光だった。
「くくくっ、追い詰めたつもりかよ……罠にきまってんじゃねーか!」
両手が大きく広げられる。その下から現れたのはマスカレイドの証である仮面。
ドン!
男の姿が何倍にも膨れ上がり、次の瞬間には、路地を塞ぐほど巨大な樽に細くねじれた手足をつけたような姿のマスカレイドが目前に立っていた。樽の表面に張り付いた仮面からは嘲るような笑い。
「もっと酔わせてくれ……今度は鮮血でさぁ!」
しかし、そんなことで怯まない。盾の城塞騎士・アステリア(c03117)は罠に掛かったのはあなただと言い放つ。
「我らが貴様の終焉だ。潔くここに潰えるがいい!」
武器を構えて対峙する両者。
「なんや、酒が好き過ぎてそないけったいな格好になってしまったんかいな? なんぎなやっちゃで……」
斧の魔獣戦士・ブル(c03843)は軽口を叩きつつも周囲を一瞥し、身を隠せそうなくぼみを見つけ、視線で仲間に合図を送る。
「え? ……お酒ってコワイ」
ボソっとティアエリス。彼女にとって酒は未知の飲み物なのだ。
それに苦笑しつつライカは、攻撃をしかけるタイミングを計る。さっきの口振りだと、ここは相手にとって有利な場所らしい。長引けば不利になる。
「初っ端から全力でっ……!」
踏み出そうとした足元に矢が刺さる。誰も居なかったはずの敵の背後から弓を構えた配下らしき二体のマスカレイドが現れたのだ。
ゴゴゴゴゴ!
機先を制されたエンドブレイカー達に向かって、巨体に似合わぬ機敏さでマスカレイドが転がってくる。
とっさに壁のくぼみに身を潜り込ませるヒカルとライカ。しかし、そこに全員が隠れられる場所はない。
「これでも喰らえ〜!」
リュウが転がっていた木箱を投げつけるが、それは何の抵抗にもならずに押し潰される。
ガッ!
轟音と共に突進してきた巨体は、全てを押し潰すとワンバウンドして着地する。
後に残されたのは地に伏した痛々しい姿。だが……。
「私は……」
太刀を盾代わりにしてなんとか潰されるのを防いだクレイルが立ち上がる。
「貴様の生存を許容しない!」
盾で攻撃を逸らそうとして、その盾ごと押し潰されたかに見えたアステリアも立ち上がる。
傷付きながらも誰の瞳からも闘志は消えていなかった。
●袋小路の戦い
エンドブレイカー達の判断は早かった。マスカレイドが突進したことで、無防備となった配下に攻撃を仕掛けたのだ。
ただでさえ軽装の相手だ。ブルの重い斧の一撃が、クレイルの高速の斬撃が、リュウの幾重にも繰り出される太刀が瞬く間にその身体を切り刻んでいく。
そして再び、反対方向からマスカレイドが突進してくる!
「ライカさん、アステリアさん!」
ヒカルの呼びかけに呼応して三人がその前に立ち塞がる。
「酒癖が悪いのは感心しないねっ!」
ライカの魔獣と化した腕が巨体に穴を穿ち、アステリアがかざした盾に隠されたヒカルの正拳突きがそれをえぐる。
メキメキと身体が砕ける音に悲鳴が上げる。
「貴様が押し潰すものなら、俺は壊すものだ」
「……炎を」
ジョルジュとティアエリスが連続して黒炎を放つ。だが、炎に焼かれながらも突進は止まらない。
再び幾人もの上を蹂躙して袋小路の奥に戻ったマスカレイドは、狂気じみた笑い声を上げて振り返り……己が過ちに気付いた。配下を諸共に巻き込んでいたのだ。
「僕らだけ轢かれるのは割に合わないからねっ!」
倒れていたリュウは、跳ね起きざまに一閃。ボロボロになった配下の一体を切り伏せた。
これでうかつに突進出来なくなったマスカレイド。しかし攻撃方法は一つではない。仮面の脇に口が開き、水流を放ってきたのだ。攻撃のために接近していた者達を酒の様な強烈な臭いを放つ液体がなぎ倒す。
「な、何だよこれ?」
「くっ!?」
液体を浴びたライカとクレイルは頭がカッとなるのを感じた。浴びたのは酒ではないのか?
構わずマスカレイドを攻撃しようとするが、湧き上がる衝動にあがらえずに最初に目にした配下に向かって武器を振り下ろしてしまう。頭を振っても去らない激しい攻撃衝動。これでは相手を選んで戦えない!
戦力を集中できないまま戦いは続く。
「これでっ!」
「最後や!」
ついに最後の配下をクレイルが太刀で貫き、ブルの斧のフルスイングが壁に叩き付けて倒す。しかし安堵はできない。配下がいなくなったマスカレイドは再び突進を始めた。
幾度目かの突進をバックステップで衝撃を和らげて凌いだライカは、肩で大きく息をしていた。液体を浴びると衝動に駆られて我が身を省みずに攻撃してしまうため、彼女を含め幾人もが危険な状態に追い込まれていた。
と、その肩にブルの手が掛けられ、強引にくぼみに押し込められる。無理にでもこうしなければ倒れてしまうと判断したのだ。
「どんな時でも女子供が傷つくのは見とられんからなぁ」
度重なる突進で、路上には原形を留めるものが無くなっていた。しかし、それでもエンドブレイカー達は戦い続け、ついに転機が訪れた。
「やったのじゃ!」
ナリュキの歌声に痺れたかのように、ついにマスカレイドが動きを止めたのだ!
●暗き路の果て
退避していた者も加え、全員がこのチャンスに賭ける。マスカレイドは再び突進をしようと身体を回転させる。しかし……。
ガシッ!
盾でその突進を抑える姿があった。
「生憎とここは通せないのでな。まずは私に付き合ってもらおうか!」
きしむ盾を全力で押さえるアステリア。中途半端な位置からの突進などでは突破できない強固な壁となってその動きを封じる。
援護する配下を失っているマスカレイドは、攻撃を水流に切り換える。
襲い来る水流。だが、それをジョルジュは大鎌を回転させて弾き飛ばす。
「誘い込んだのまでは悪くない手だった……だが相手が悪かったな」
そこに激しい呼気と共にヒカルの肘打ちが炸裂する。
「はっ!」
激しい衝撃で、口が真上を向いて噴水のように液体を吹き上げる。これではエンドブレイカー達を打ち倒す力にはならない。
「欲望を吐き出せ、その全てを破壊する」
ジョルジュの放った黒炎がマスカレイドの身体を包み込み、無数のヒビが刻まれる。
「――!」
更に降り注ぐ液体の下、ティアエリスが剣を振り下ろす。
ガコッ!
その衝撃で全身のヒビから液体が吹き出し、攻撃から逃れようと悲鳴を上げて腕を振り回すマスカレイド。
「これで決めるのじゃ!」
ナリュキがありったけの力を込めて歌声を振り絞ると、その声量にビクッと反応して腕が止まる。
「でりゃあ!」
それを見逃すライカではない。獣爪が無数の軌跡を描くと、巨体はズタズタに切り裂かれて壁に激突、砕け散る!
ザバァーッ!
吹き出した液体が路地に満ちあふれた。
液体が流れ去ると、マスカレイドが砕けた後には壁によりかかるように倒れた男の姿だけが残った。酔うこともなく飲み続けた男の亡骸は、皮肉にも酔いが回って路上に倒れこんでしまったかのようだった。
「悪に報いはあるのだ……」
クレイルは振り向かずに傷だらけの身体を引きずって歩き出し、ジョルジュがそれを追いかけて肩を貸す。
「さよなら、これがあんたのエンディングだよ」
そう告げるとリュウは何かを掛けてやろうと辺りを見回して……断念する。全て粉々だ。
「あはは、初めての依頼だったし、安心したらおなかすいちゃった」
戦いの緊張から解き放たれたからか、ヒカルのお腹が使った栄養を要求しはじめたようだ。それに悪酔いするような戦いだったせいで、酒が飲める者は飲み直したい気分だった。この顔ぶれで卓を囲むのも悪くはないだろう。
「やっぱ清めは酒やで」
もっともブルの場合は清め程度では済みそうもない。
「ちゃちゃっとお暇して、飲みに行こうにゃー」
ナリュキは、大盤振る舞いにも飲めない者には料理をおごると豪語して皆を急き立て、繁華街へとエンドブレイカー達の姿は消えていったのだった。