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密室でうごめく死体

ハンマーの城塞騎士・グントラム

<密室でうごめく死体>

■担当マスター:赤津詩乃

●密室でうごめく死体
 都市の中でも寂れた地域に位置する、寂れた建物。
 その寂れた建物の下層を、一組の若い男女が歩いていた。
「もう、おばあちゃん達ったら。いつまでこんな寂しいところに住み続けるつもりなのかしら。一緒に住もうって何度も誘ってるのに」
「はは、仕方がないよ。あの人達にとっては愛着がある場所なんだろうし、僕たちに迷惑をかけたくないって思いもあるんじゃないかな」
 プンプン怒りながら先を進む妻を、人のよさそうな夫が苦笑混じりにたしなめている。
「迷惑なんて思うわけないじゃない。ただ心配なだけよ。失礼しちゃうわッ」
「確かに、二人とももうかなりのご高齢だからね。素直に僕たちの所に来てくれたらいいんだけど」
 怒る妻と、苦笑する夫。
 表面的な感情は違っても、根源となる祖父母に対する心配の念は変わらない。
 立って歩くのもやっとな老夫婦が、誰の助けも借りずに二人だけで暮らしているのだ。孫夫婦が心配するのも無理はない
 やがて祖父母の部屋の前までやってきた孫夫婦は、大きな声で挨拶をしながら、玄関のドアに手をかける。
「おじいちゃん、おばあちゃん、元気にしてる?」
「ご無沙汰してます。おじいさん、おばあさん」
 玄関のドアを開いた次の瞬間、孫夫婦は笑顔を浮かべたまま、のど元から深紅の水しぶきをあげて崩れ落ちた。
「あ、なた……?」
「グフッ……」
 崩れ落ちる孫夫婦の死体の上に、小さな三体の生き物が降り立つ。
「ニャアァァ……」
 鮮血で爪を塗らした3匹の猫アンデッドは、事切れた孫夫婦の上でしゃがれた鳴き声を上げた。

●ハンマーの城塞騎士・グントラム
「以上が、儂が見た『エンディング』だ」
 重々しい口調で告げる、ハンマーの城塞騎士・グントラムの言葉に、集まったエンドブレイカー達は、真剣な表情で聞き入る。
 自室で死を迎えた老夫婦と、そのペットの猫3匹。人知れず密室で死に、密室で誕生した5体の『アンデッドマスカレイド』。エンドブレイカーとして見過ごすことは出来ない。
「やってもらいたいことは極めて簡単だ。この孫夫婦が、老夫婦の部屋を訪れる前に、おぬしらの手で『アンデッドマスカレイド』と化した、老夫婦と猫の『アンデッドマスカレイド』を退治してもらいたい」
 このまま放っておけば、グントラムが見たとおり、孫夫婦は、アンデッドの餌食となってしまう。そんなエンディングはまっぴらごめんである。
「『アンデッドマスカレイド』は、全部で5体。部屋の主である老夫婦のアンデッドと、生前彼女たちのペットであった3匹の猫のアンデッドだ」
 老夫婦が住んでいた住居は、茶の間と寝室に分かれている。エンディングで見たとおり、猫アンデッド3匹が茶の間にいるのは確実で、その茶の間に老夫婦のアンデッドの姿が見えなかった以上、老夫婦アンデッドは寝室にいるのだろう。
 グントラムはそう付け加えた。
「玄関のドアを開ければすぐに茶の間だ。儂が見た『エンディング』では、ドアを開けた瞬間、飛びついてきた猫アンデッドに、孫夫婦は首を掻き斬られた。ドアを開けた瞬間から戦闘が始まると思っていたほうがよいであろうな」
 玄関のドアは、本来人一人が出入り出来る程度の広さしかないが、猫ならば、3匹同時に攻撃してくることも可能だ。
「老夫婦は、おそらく寝室にいる。狭い寝室にベッドが二つあるため、中は非常に狭い。寝室で戦闘を行うのならば気をつけろ」
 むしろ、茶の間と寝室の間のドアを開け、茶の間に老夫婦のアンデッドを引き込んだ方が戦いやすいかも知れない。茶の間にもソファーや食卓などがあり、決して戦いやすくはないが、それでも寝室よりは随分広い。
 一通り自分が見た『エンディング』の情報を伝え終えたグントラムは、もう一度皆を見渡すと、確認するように言葉を続ける。
「いずれにせよ、儂が見た『エンディング』は、とうてい受け入れられるものではない。おぬしらの手で、この悪しきエンディングを叩きつぶしてくれ。頼んだぞ」
 そう結んだグントラムの言葉に、依頼を受けたエンドブレイカー達は、力強く一つ頷くのだった。

●マスターより

 初めまして、本ゲーム『エンドブレイカー!』でマスターをやらせていただくことになりました、赤津詩乃(あかつしの)と申します。
 色々至らないところもあるかと思いますが、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。

 玄関のドアを開けると、まずは3匹の猫アンデッドとの戦闘となります。3匹の猫の外見は「白」「黒」「三毛」となっています。
 猫アンデッドは、さして強い敵ではありませんが、玄関のドアを開けた瞬間から攻撃してきますので、注意して下さい。

 奥の寝室に老夫婦アンデッドがいます。
 夫のアンデッドは、攻撃も防御も特殊なことは何もしてきません。注意点は「生命力が高い」という点だけです。
 対して老婆のアンデッドは、他とは一線を画する能力を有しています。まず、能力値が全体的に高いです。
 また、老婆アンデッドは『右腕』が取れており、それを左手に持ち、棍棒のように振り回して攻撃してきます。
 『右腕』には毒があり、『右腕』による攻撃をくらった者は毒に犯されます。毒は、継続ダメージですので、注意して下さい。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしています。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 大剣の魔法剣士・フレア(c00372)
【猫】
私は遠距離攻撃で猫に攻撃する皆の邪魔にならないよう、ドア付近に待機する。
万が一皆が仕留めきれなかった場合に、自慢の大剣で確実に止めを刺すのが、
ここでの私の役割だ。敵のスピードがまだ死んでない可能性もある。『残像剣』を使って「確実に」。

【老夫婦】
私が主に相手にするのは、夫の方。
居間に老夫婦を引きこんでからまず、夫のアンデッドを『ワイルドスイング』で
寝室に向けて吹き飛ばす。狙いに自信はあるけど、相手が動いている可能性もあるし…
まずは蹴りを入れるなりして動きを止めてから実行しよう。ここでも「迅速」「確実」を念頭に。

【押さえ込み】
妻の危険度が減るまでは、アルミィ(c03029)・イシュタル(c05076)と一緒に夫の押さえ込みを行う。
…最悪、大剣を刺して壁に固定するのも考えてる。

【事後処理】
隠すのは難しいけど…せめて、一か所に纏めて布を被せるぐらいのことはしたいな。
いきなり目に入れさせたくはないし。

● ハルバードの魔獣戦士・カナタ(c00438)
ドアに隠れるように開け、皆さんの攻撃に巻き込まれないようにします。生き残りを確認し次第「疾風突き」で攻撃に移ります。
猫を倒したらすばやく茶の間に移動し、老夫婦の分断すべく行動に移ります。老婆が寝室から出てこないようなら挑発してみたりとか。分断に成功したら老婆への攻撃に移ります。
戦闘では主に老婆の左腕を切り落とすか右腕を弾き飛ばすように行動し、必中を狙うため常に「疾風突き」で攻めつづけます。
夫が茶の間いた場合、右腕が老婆の手元を離れたら破壊しに行いきます。他の人がいくようならお任せします。
体力が2/3を以下になったら「ビーストクラッシュ」を主に戦います。体力が戻り次第再度疾風突きで攻めます。
心持としては老婆の攻撃はなるべく受けないようないする。特に武器の右腕には細心の注意を払います。
右腕を弾き飛ばすか左腕を切り落としたら、「疾風突き」と「ビーストクラッシュ」を交互に使い老婆の撃破を狙います。

● 大鎌のデモニスタ・シキ(c00698)
【戦闘】
戦闘前(ドアを開ける前)は、ドアから出てくるであろう猫を狙いやすい位置に待機

ドアが開けられたら、デモンフレイムで攻撃。生き残ってるようなら倒すまで引き続き攻撃
その後、屋内に進入。


寝室にいる老婆と夫を分断後、老婆の方を中距離を保ってデモンフレイムで攻撃。
老婆が唐突な近接などしてきた場合のみ距離をあける努力をしつつ黒旋風使用→距離をとるを繰り返す

老婆が終わり夫が残ってる場合、夫の方に加勢。デモンフレイムで攻撃

夫が仲間を振り切ってこっちに来た場合入り口などを利用して、老婆と夫が重なる位置に移動→デモンフレイムで攻撃

GUTSが1/3になるもしくは、毒のBSにかかってGUTSに余裕がない場合は、仲間の回復が届く距離に移動。攻撃できるようならデモンフレイムで狙撃

の手順を戦闘終了まで繰り返す

● 太刀の城塞騎士・リュード(c01174)
ドアが開き隙ありしだい。猫に居合い切り
猫が全滅したら、屋内に突入!!
老婆と夫分断後老婆の腕を切り落とす
落とせなかった場合は一度距離を置き、再び特攻!
老婆を倒した後、夫に加勢
毒を喰らったら回復仲間まで後退

● 爪の魔獣戦士・アルミィ(c03029)
●心情
ネコちゃん…生前はきっと可愛かったでしょうに…
……これも供養よ、楽に還してあげるわ。
ご主人様と一緒にね…!

●戦闘前半
私は扉付近に待機し、開扉と同時の後衛による遠距離先制攻撃を待つグループに。
撃ち漏らしがあった場合は、爪の通常攻撃で素早く確固撃破。

●戦闘後半
味方の「毒の腕の無力化」が成功するまで、距離を保つ。
成功した場合は、アビリティを駆使して老婆を倒す。
上手くいかない・長引きそうな場合は、奥の老爺の足止めに専念する。

●戦闘後
…この惨状、孫夫婦が見たら卒倒しそうね…
誰かおそうじ…しない?

● 杖の星霊術士・レイア(c03046)
事前に行動に齟齬が無いか確認
あまり目立たないように現地へ赴きます
もしマスカレイドが逃げるような素振を見せた場合、注意を喚起します

【対猫】
ドアから少し離れた位置で待機
1.カナタさんがドアを開けつつ入り口から離れ、猫が飛び出して来た所で遠距離攻撃持ちが一斉射撃
私はマジックミサイルで三毛猫を狙います
2.し止め切れなかった場合は前衛の方に止めを任せます

倒した猫は茶の間の隅の方に横たえます

【対老夫婦】
入り口のドアを閉めてから茶の間と寝室の間のドアを開け、茶の間から遠距離攻撃を仕掛けて誘き寄せます
私は後衛に位置し、回復と攻撃を行います

「貴方達が彼等の命を奪う前に…貴方達を、止めます」

行動優先順位:
GUTS4割以下orGUTS6割以下且つ毒状態の方へ星霊スピカ
(前衛優先)
>老婆へマジックミサイル


戦闘後:
速やかに退去します
…時間的に可能ならば、老夫婦を寝室のベッドに横たえ、猫はその家にあるシーツ等でそっと包んでおきたいです

● 鞭の魔獣戦士・カルテ(c03205)
お二人を心配してきたお孫さんたちを不幸なエンディングに合わせるわけには行きません。

カナタさんがドアを開け、猫アンデッドたちが飛び出してきたところで遠距離攻撃が可能な方が一斉攻撃。
その後に私も含む、ドア付近に待機していた近距離攻撃組が止めを

老夫婦のアンデッド(以下、アンデッド省略)は茶の間と寝室のドアを開けお二人を茶の間に誘導
その後フレアさんがお爺さんの方をふきとばし寝室に、出来なくても、お爺さんをお婆さんとは引き離します。
お爺さんはアルミィさん、フレアさん、イシュタルさんが対処、残りはお婆さんへ。
私は捕縛撃を使用、お婆さんを拘束できたら、その後残りのメンバーで左腕の切断、もしくは右腕の破壊、というのが理想ですね。
難しかったら、遠距離攻撃組にお婆さんの気が行かないようにしながら、毒効果のある攻撃を避けつつの反撃。
先に倒せた方は一方の応援を忘れずに行います。

戦闘後は人が来る前に速やかに帰ります

● 大鎌のデモニスタ・イシュタル(c05076)
心境
他人のエンディング(結末)に興味は無いけど、暇を潰せるなら何でも良いよ。
まぁ、マスカレイドが相手なら、ボクも楽しめそうだ。

戦闘
玄関のドアを開けたタイミングで黒猫を【デモンフレイム】で攻撃するよ。

フレアが夫を寝室に吹き飛ばすって作戦だけど、仮に吹き飛ばなかったら、ボクも攻撃して
夫を寝室に押し込むよ。1人でダメなら2人ってね。

夫と老婆を分断出来たら、アルミィ、フレアと共に寝室に入って、ドアを閉めるね。
ボクは、主に【デモンフレイム】での遠距離攻撃で2人の援護をするから、
ドアを背にして戦うよ。2人の攻撃の邪魔にならないようにしないといけないだろうしね。
もし、相手がドアに近づくようなら、【黒旋風】で戦うよ。

戦闘後
ほどほどに時間を潰せたし、さっさと帰りたいところだけど、こんな悲惨な状態のままで、
いいのかな。みんなと相談して、できることはしておきたいね。
アフターサービスってやつかな。

● 杖のデモニスタ・マルシャンス(c05246)
【対猫】カナタさんがドアを開けた瞬間飛び出してくる猫を見定め、白いのを狙い魔法の矢を撃ち込む。仕留めきれなかった分に関しては、前衛の動きを見つつ追撃する。
【対老夫婦】〔基本位置〕猫討伐後、後衛で遠距離攻撃の位置を保つ。〔行動〕寝室のドアが開き、老婆を確認後攻撃を(マジックミサイル/以下MM/とデモンフレイム/以下DFを交互に)。前衛の攻撃で落ちた老婆の腕がまだ武器として使えそうな状態で且つ老爺が拾える場所に落下した場合はDFで焼ききる。老婆が自分に接近して来た場合は距離を取りつつ遠距離攻撃を、レイアさんに攻撃が行くようであれば接近戦を辞さない覚悟で敵とレイアさんの間に入る。老婆が先に倒れた場合は即老爺へと照準を移し、仲間の援護を。
【戦闘後】皆さんに合わせて撤退を

● 大鎌のデモニスタ・アル(c05400)
突入前は扉から離れた位置に待機。カナタに扉を開けさせ、猫アンデッドが飛び出してきた所を遠距離攻撃で一斉攻撃。
私は【三毛猫】目掛けて【デモンフレイム】。倒したのを確認次第家の中に乗り込む。

老婆アンデッド(以下老婆)との戦闘では、老婆を茶の間に引き込んだ後距離を取りながら【デモンフレイム】で攻撃。
カナタが老婆を束縛しやすいように、牽制や目晦ましを。
腕破壊の成否に関わらず、リュードが【必中】攻撃を仕掛けた後は束縛されている間に全力で攻撃。消し炭になるまで燃やし尽くす。
障害物が多い、から。距離を取る時は足元に気をつける。

老婆を倒した後、夫のアンデッドが生き残っているようであれば、そちらも茶の間に引き込んで攻撃。消し炭に。

……誰も何もしないようであれば、事後処理、家に火を放つのもいい、かも。
戦闘でボロボロになった死体を見る、より、火事で亡くしたと思わせた方が、遺族にとっては良いかもしれない、から。

<リプレイ>

●戦闘開始
 半ば廃墟に近い下層領域に、今日は何故か十人ほどの男女が集まっていた。
 人気のない下層に集う完全武装の人々。一見するとあまりに不穏な集団であるが、彼等の目的は、決して平和を乱すモノではない。
 彼等は『エンドブレイカー』、悪しきエンディングを破壊するために、ここにやってきたのである。
「ごめん、ちょっと待って」
 目的にたどりついたところで、爪の魔獣戦士・アルミィ(c03029)は、仲間達にそう断るとその場にしゃがみ込み、靴紐を一度ほどいて、しっかりと結び直す。
「絶対に、全員無事にこの依頼を完遂できますように」
 その隣では、大剣の魔法剣士・フレア(c00372)が、右手の籠手に描かれたオブ場のクローバーを見つめながら、口中で小さく祈りの言葉を捧げている。
 程度の差はあれど、皆緊張しているのだろう。
 大鎌のデモニスタ・シキ(c00698)も、肩に愛用の大鎌を担いだまま、緊張をほぐすように、深呼吸を繰り返している。
 だが、いつまでもここで緊張しているわけにはいかない。悪しきエンディングを破壊するから、自分たちはエンドブレイカーなのだ。
「最終確認です。入り口のドアを開けるのが、カナタさん。その瞬間、飛び出してくると予想される猫アンデッドを三匹を、私達遠距離攻撃が可能な人員で攻撃。他の方々は……」
 杖の星霊術士・レイア(c03046)は、互いの認識に齟齬が発生していないか、確かめるように逐一説明していく。
 一同は頷きながら、レイアの言葉を聞いている。どうやら、ずれた認識を持っている者はいないようだ。
 レイアの説明が終わったところで、ハルバードの魔獣戦士・カナタ(c00438)は、ドアの横の壁に背中をピッタリとくっつけた体勢のまま、右手をそっとドアノブへと延ばす。
「…………」
 カナタの動きに合わせて、他の者達も無言のまま、態勢を整える。
「よーし、準備完了。行くぜ!」
 ヤハイテンションな声を上げ、 太刀の城塞騎士・リュード(c01174)はドアのすぐ前で、抜刀の体勢で構える。
 大剣を両手で構えるフレア、鞭をダラリと垂らして立つ鞭の魔獣戦士・カルテ(c03205)、爪をはめた手を胸の前に構えアルミィの三名も、ドア近くで「その時」を待つ。
「…………」
 さらに、その後ろには杖や鎌を構えた遠距離攻撃担当者達が、手の平が汗ばむほど緊張感を保ちながら、ドアノブに手をかけたカナタの様子を凝視している。
 準備は整った。後は、始まりのドアを開くのみ。
 一つ、深呼吸をしたカナタは、一同を見渡すと、
「いきますっ!」
 次の瞬間、勢いよくドアを引き開けるのだった。

●撃破、猫アンデッド
 開かれたドアの向こうから、三つの影が飛び出してくる。その正体を確認するより早く、五人のエンドブレイカー達が、遠間から対象に攻撃を飛ばす。
「やるなら、一方的がいいよね」
「ッ!」
「ただのモノが、動くな」
 シキ、 大鎌のデモニスタ・イシュタル(c05076)、大鎌のデモニスタ・アル・アライフ(c05400)、三人のデモニスタが放つ『デモンフレイム』。
「合わせます」
「そこです」
 そして、レイアと杖のデモニスタ・マルシャンス(c05246)の両名が杖から放つ、『マジックミサイル』。
「ギャッ!」
 三毛、黒の二匹はその集中攻撃だけで動かなくなるが、比較的ダメージの少なかった白猫アンデッドは、なおもエンドブレイカー達に爪を向ける。
 その前にはだかったのは、リュードだった。
「テイャァァ!」
 気合い一閃、横一文字に振りぬかれたリュードの太刀が、飛びかかる白猫アンデッドを切り裂いた。
 白猫の上半身と下半身が、別々に地に落ちる。
 一瞬の邂逅、一瞬の戦闘、そして一瞬の勝利。
 改めてみると、白・黒・三毛、どの猫も胸の所に奇妙な仮面がくっついている。この猫たちが『アンデッドマスカレイド』であったのは間違いないようだ。
「とりあえず、初戦は勝利、ですね」
 左腕で額の汗をぬぐいながらそう言うカナタの言葉に、一同は頷き同意を示す。
 だが、猫アンデッドは前座に過ぎない。
 彼等が倒すべき真の敵は、この家の中にいる。
「このままにはしておけませんね」
 そう呟くと、レイアは三匹の猫の死体を、居間の中に運び込み、隅の方に並べる。万が一、通路に人が通りかかったときの事を考えると、そのままにはしておけない。
 他の者達も、レイアの後に続き、ゆっくりと玄関のドアをくぐる。最後尾のマルシャンスが後ろ手でドアを閉める。

 部屋の中は、情報通りだった。
 それなりに広い室内に、ソファーや食卓や椅子が配置されている、ごく一般的な茶の間。
 その奥に、寝室へと繋がるドアがある。
 あのドアの向こうに、本命である老夫婦の『アンデッドマスカレイド』がいるのだ。
「…………」
 無言のまま、一同はゆっくりと寝室に続くドアに近づく。
「…………」
 耳を澄ませても、何も聞こえてこない。本当にこのドアの向こうにアンデッドが潜んでいるのか、疑わしくなるくらいの静けさだ。
 それでも意を決してカナタが寝室のドアを引き開ける。
「来ますっ!」
 大剣を青眼に構えたフレアが叫ぶと同時に、ドアの向こうから寝間着姿の老夫婦が、その腐れ果てた姿を見せたのだった。

●激闘、老夫婦アンデッド
 鼻で呼吸することを本能的に拒絶したくなる様な臭いを放ちながら、老婆と老爺のアンデッドは茶の間に姿を現した。どちらも顔にはマスカレイドの証拠ともうべき仮面が、しっかりと着けている。
 腐肉が崩れてグズグズになっている老婆の姿に、カナタは思わず顔をしかめる。
「人がこんな姿になるなんて……!?」
 その隣で大きな杖を両手で構えながら、レイアはしっかりとした口調で言い放つ。
「貴方達が彼等の命を奪う前に……貴方達を、止めます」
 まるでレイアのその言葉が、宣戦布告だったかのように、エンドブレイカー達は一斉に動き出した。
「ハアッ!」
 打ち合わせ通り、フレアは老爺の方を抑えるべく、大剣を両手で構え、突貫する。
 フレアの動きを支援するように、後方で大鎌を振るったのは、イシュタルだった。
 紫色の炎が、老爺アンデッドを包み込む。
「ガア、アアア……」
 アンデッドの動きが止まった隙に接近を話したフレアは、突貫の勢いをそのまま大剣に乗せて叩きつけた。
「セイッ!」
 もくろみ通り、フレアの吹き飛ばし攻撃を喰らった老爺アンデッドは、真後ろに吹き飛び、ドアが開いたままの寝室へと戻される。
 すかさず、フレアは体当たりをするようにして、老爺アンデッドを自分ごと寝室に押し込む。
「こっちは抑えておきます!」
「了解っ」
 予定通り、アンデッド二体の分断に成功したフレアの声に、カルテは老婆アンデッドを正面に見据えたまま、返事を返した。

 フレア達が老爺を寝室に押し込んでいる間、当然ながら残りの面々は老婆アンデッドを相手に激闘を繰り広げていた。
 老夫婦の分断を図っていたカナタは、フレアが無事老爺を寝室に押し込み、その後に続いて寝室に入ったイシュタルがドアを閉め直したのを目の端で確認すると、攻撃に転じた。
「ハッ!」
 鋭く突き出されたハルバードの切っ先が、老婆の胸元にズブリと突き刺さる。
「シャアア!」
 だが、胸から汚汁をしたたらせながら、老婆は左手に持った「腐った右手」を、カナタの胸元に振り降ろす。
「下がって」
 背後で大鎌を振るうシキが、デモンフレイムを飛ばし追撃を加えるが、炎に包まれても老婆の攻撃は止まらなかった。
「グッ……!」
 胸元を痛打した老婆の「右腕」は、カナタの身体に毒を流し込む。
 カナタは転がるようにして、回復役であるレイアの元へと一度後退していった。
 その間、カルテはずっと鞭を片手に、隙をうかがっていた。
 そのカルテの目的を達成させるため、アルは無言のまま淡々と行動をおこす。
「……」
 アルの放ったデモンフレイムが老婆の頭部に襲いかかる。一瞬、老婆は頭部を庇うように『右手』を持った左手を顔の前に挙げた。そのチャンスを逃さず、カルテは鞭を振るう。
「今です」
 鞭はカルテの狙い通り老婆の左腕に巻きつき、その自由を封じた。
「シィイイ!」
 唯一にして最大の攻撃手段を封じされた老婆に、エンドブレイカーはここぞとばかりに攻勢をかける。
「キェエエ!」
 裂帛の気合いと共に振り降ろされたリュードの太刀が、老婆の左肩を袈裟斬りに切り裂く。
「そこっ!」
 続いてアルミィがその爪で老婆の身体を横引きに切り裂く。
 ざっくりと裂けた胸元から腐った汁を流す老婆アンデッドは、グラリと身体を前に倒しかける。
 その胸元に突き刺さったのは、マルシャンスの杖から放たれたマジックミサイルだった。三発の光弾を胸部に受けた老婆は、胸元にボッカリと穴を開け、その場に崩れ落ちたのだった。

●事後処理
 最大の難敵を倒したカナタ達が、援護に向かおうと寝室のドアを開けると、こちらもちょうど決着がつくところだった。
「これでも……喰らいな!」
 ローブのフードが外れて顔が露わになっているイシュタルが口汚く罵りながら、デモンフレイムで老爺を焼く。
「うりゃあ!」
 焼け焦げる老爺に、フレアがベッドの上から飛び跳ねるようにして、大剣を横薙ぎに振るう。
「ガッ……」
 左腕ごと胴の半ばまで切断された老爺アンデッドは、再び動かぬ健全な死体に戻った。

「……この惨状、孫夫婦が見たら卒倒しそうね……」
 アンデッドの惨殺死体が散らばる室内を見すえ、アルミィはため息をつく。
「誰かおそうじ……しない?」
 そんなアルミィの提案に心情的には否定的な者はいなかった。しかし、時間の問題が立ちはだかる。あまり長居して、こんな所を無関係な人間に見られては、色々面倒な誤解が生じそうだ。
 ならばせめて死体だけでも、とレイアは老夫婦の死体を拾い集め、ベッドに戻し、三匹の猫もシーツでくるむ。
「どうか……安らかなる眠りが訪れんことを……」
 目を瞑るレイアは、そっと祈りを捧げる。
「……あっ?」
 ふと興味を引かれたのか、老婆の顔を覆っていた『仮面』を拾い上げたマルシャンスは、仮面が手の中で砕け、砂となり消え去るのを見て、思わず声を上げた。
 どうやらマスカレイドの仮面は、マスカレイドの討伐と共に消え失せるようだ。
 指の間からこぼれたはずの砂は、何故か一粒も床に散らばっていない。

 急ぎ、部屋を簡単に片付けた一同は、小さな玄関から外へと出て行く。
「こんなアンコールになってしまいましたが……お疲れ様でした」
 望まむぬ人生のアンコールをやらされた老夫婦に、カルテは小さく黙祷を捧げる。
 いずれこの部屋を訪れる孫夫婦は、ショックを受け、嘆き悲しむだろう。それは悲劇だ。だが、老夫婦のアンデッドが孫夫婦をその手に掛けるという未来よりは、ずっと救いのある悲劇のはずだ。
「どうか安らかに……」
 最後に玄関のドアを閉めたマルシャンスは、そう誰にも聞こえないような小さな声で呟くと、老夫婦の終の棲家となった玄関のドアをそっと閉めるのだった。
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