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女王様とお呼び!

アイスレイピアの魔法剣士・ダリア

<女王様とお呼び!>

■担当マスター:詩賦


 人々が寝静まる夜、都市国家の郊外の森林近くで、しわがれた獣の声があがっていた。
 そこには四肢を地につけ、背を曲げた人の姿があった。曲がった背は、何も彼が年老いているせいではないだろう。そもそも身体の構成上、普通はそちらには曲がるはずがない。
 老人のすぐ横には、一人の女が立っていた。
 口元に笑みを浮かべているが、そこより上の表情は見えない。それは暗がりのせいではなく、単に女の顔の上半分が仮面によって覆われているからだ。
 女は、哀れに突っ伏す老人に手を差し伸べることなどせず、その手に何かを持って、無造作に腕を振り上げる。
「もうお終いなの? ほら、もっと鳴きなさいよ。せっかく、こうして私が打ってあげてるんだからッ!」
 高い音とともに老人の背を打ったのは、赤黒く血に染まった鞭だった。
 老人は、幾度目かわからない呻きをあげたが、すでにまともな音として認識することはできない。
 老人の背にあった皮は裂け、薄くついた肉に直接衝撃が与えられる。衣服など、とうの昔に破れてなくなっていた。
「……もう、これはダメね」
 明らかに反応が鈍った老人の首に、女は何の躊躇もなく手にした鞭を巻いていく。
 そして、力いっぱい両手をそれぞれ反対方向に引いた。女の腰まで届くほど長い、鈍い金色の髪がわずかに揺れる。
 ほどなくして、抵抗する力など残っているはずもなく、老人はあっけなく事切れた。
「んん〜ん、やっぱりこの瞬間が一番エクスタシーを感じちゃうわ〜」
 快感で僅かに開いた口から真っ赤な舌を出し、女は上唇をゆっくりと舐めた。その唇の下には、小さなほくろがひとつ浮かんでいる。
 しばしの余韻を楽しんだ後、女は首に鞭を絡めたままの老人を引きずり、夜の森に消えていった。

「どうやら先の行方不明……いや、殺人事件に、マスカレイドが絡んでいるようだ」
 アイスレイピアの魔法剣士・ダリアが言ったのは、ほんの数日前に起きた、夜中に老人が行方不明になった事件だ。
「よって、エンドブレイカーたる私たちの出番ということだ」
 ダリアは、集ったエンドブレイカーたちを一度見回して、話を続けた。
「私たちエンドブレイカーは、すでに亡くなった人間の『エンディング』をも見ることができる。その力を使って、マスカレイドの正体を暴き、被害の広がりを食い止めて欲しい」
 亡くなった人間の最後には、必ず殺人の犯人が現れる。その情報が得られるならば、これほどの証拠はない。
「件の事件、老人の遺体は都市郊外の森林に打ち棄てられているようだ」
 森はそれなりに広い。丹念に探さねば、遺体を見つけるのは困難だろう。地道こそ早道である。
「それと、たとえ遺体から情報を得ることができても、すぐに犯人を始末してはいけない」
 マスカレイドは普段、都市の中で人のように生活している。マスカレイドが死したのちは、ただの死体だ。確固たる証拠があると言っても、エンドブレイカーだからこそのものであり、都市の人間に対し証拠として出すことはできない。
「正体を掴んだら、居場所を突き止め、監視し、新たな犯行に及ぼうとしたところを叩くのだ」
 マスカレイドは正体を隠そうとするため、殺人はひどく注意して行われる。それは裏を返せば、こちらにとっても周りに誰もいなくなるチャンスなのだ。
「言っておくが、マスカレイドを助けることはできない。戦闘となれば、無駄な情は自らの死を招くことになるだろう」
 厳しい表情で、ダリアは言った。
「重ねて注意するが、マスカレイドを倒したあとに残るのは普通の死体だ。都市の人間が見れば、ただの殺人と思われかねない」
 マスカレイドを無事倒すことができたら、すぐにその場を離れるべきだ。
「老人への惨い仕打ち……、許すわけにはいかない。これ以上弱者が傷つく前に、マスカレイドの『エンディング』を破壊して欲しい。マスカレイドとの戦闘が初めての者もいるかもしれないが、皆ならできると信じている。健闘を祈る」

●マスターより

はじめまして。TW3でマスター担当いたします、詩賦(しふ)です。
エンドブレイカーの方々と、数々の『エンディング』を破壊していきたいと思っています。
以後お見知りおきください。

今回の依頼は、殺人事件の犯人であるマスカレイドの打倒です。
この『女王様』マスカレイドは、顔の上半分に仮面が現れます。
攻撃手段は主に鞭で、ハイヒールを使って踏んでくることもあります。
鞭は攻撃範囲が広めなので、十分な注意が必要です。
また、戦闘に入るとゴツイ体格の配下マスカレイドを2体召喚してきます。
武器は『女王様』マスカレイド同様に鞭です。

プレイングに必須事項は設けませんが、
必要な行動はありますので、ご注意ください。
それでは、よろしくお願いします。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 大鎌のデモニスタ・ロベリア(c00475)
初めに殺されたお爺さんの遺体を見つけるために全員で森の中を捜索
自分が通った道が分かるように木の枝を折る等印を付けておく
遺体を発見したら狼煙で仲間に知らせ全員でエンディングを見る

女王様の容姿、去っていた方向等情報を得たらそれぞれの担当に別れる
事前に待機班の待機場所を確認しておく
自分は監視と言う形でクロウ、ギルデスターン、マードック達と行動
囮のエンザから目を離さないようにする

相手に気が付かれないよう注意し待機の班に伝令に走る
行動が夜の場合、都市の外に出る時は灯りを最小限にしておく(布で覆って灯りの量を減らす

等工夫


戦闘
女王が逃げないように包囲網を引く

後方よりデモンフレイムで前衛の援護
相手に反撃の隙を与えないように攻撃の合間を縫って技を使うわ
場合によっては前に出ての攻撃も辞さない
皆と連携を取り乍、必ず仕留める

倒した後は速やかにその場から撤退
都市の人間がいないかを注意しながら去りましょう

● 大鎌のデモニスタ・クロウ(c00568)
【探索】みんなで探索する。
打ち捨てられている=木の上などに隠してあるわけではないと判断し、それなりの大きさの茂みとかを探す。見つけたら狼煙を上げて報告。
他の人が見つけ束愛も狼煙の合図でそちらに集合する。
おじいさんの目を見て手がかりを探す。
エンディングから、容姿や、どういった感じでこのおじいさんをこんな森の中におびき出したかなどを確認しようとする。
【囮作戦:監視】囮作戦では囮に引かれた女王様の行動を監視。
待ち伏せ場所に誘導されないようなら待ち伏せ組みに場所の変更を伝達しにいく。
監視中、女王様の周囲にいる人にも気を配ってエンディングに注意し、
囮に引っかからなかったときの為に備える。
【戦闘】
女王様を包囲して逃がさないような布陣で戦う。
遠距離からデモンフレイムを主軸に戦闘。
近距離に近づかれたらそくデモンフレイムの射程ぎりぎりへと後退。
【後始末】
人に見られないように気をつけつつ速やかに退場する。

● 杖の星霊術士・ネフェルティティ(c01000)
■探索
みなさんで探索です。お話によると、殺害されたのは数日前。引きずった跡を重点的に探します。また、木と木の重なってる場所などを確認。
見つけたら狼煙を上げて確認。森の中であれば発見の合図。街道であれば誰かがいたことの合図。
狼煙の合図で一旦集まり、おじいさんの目を見て手がかりを探します。
服装、どのあたりにいるか、普段の行動などから、次の犯罪箇所の特定につながるように

■その後は囮作戦で女王を待ち伏せ箇所まで、おびき寄せます。監視の方の伝令で、すぐに動けるように待機。
「囮、成功するといいですね」
もし引っかからなかったら、確認してもらった場所へ迅速に移動。

■戦闘
女王が来るまでは隠れて待機。
きたら逃がさないように囲むように布陣します。
わたしは後ろに下がって、攻撃を受けないように注意します
星霊スピカでみなさんの回復担当です
手があいていたら攻撃をしている敵にマジックミサイルで牽制
行動優先順位は回復>攻撃

● 大鎌のデモニスタ・クロ(c01035)
■捜索
日中の森、手分けして爺さん探し。
数日前って事ぁ腐臭とかすんのかね?
「よ、不景気な面してんね」
見っけたら持参した狼煙で皆にお知らせ。
爺首のエンドを視て女王関連の情報を得るぜ。

得た情報を元に女王探し。
俺は待機班だ。伝令役からの連絡でも待ちつつ
近くにバッドエンドがちらついてる奴ぁいないかねーっと
(見回し)
偶然にも見つけたらそいつの前に硬貨を数枚転がして拾ってもらう。
「悪ぃね」(目を見)「っと、ソレ持ってていいぜ。お礼お礼」
女王関連なら味方に報告。

☆皆が合流した時、味方デモニスタに声を掛ける
「なぁお前らー」
悪戯思いついた子供の顔で。

■戦闘
デモンフレイム撃ちまくり。
敵は少ないに越した事ぁねぇ。まずは雑魚を優先的に叩くぜ。

[!]☆で仕込んだ複線回収
女王サマ一人になったら
「大技いくゼ!!」
の掛け声で味方に合図。
数人分のデモンフレイム重ねて巨大魔炎弾とかね!
「デモンギガフレイム。名前は今決めた!」

● 弓の狩猟者・アイザック(c01072)
まずは遺体の探索か。
遺体を引き摺った後でも見つかればそれを頼りに。
手掛かりが見つからなけりゃ虱潰しに探すしかないかね。
見つけたら狼煙で仲間に連絡して、瞳を覗かせてもらいましょっかね。
仲間も遺体を見つけたり近付いてくる奴を見っけたら狼煙をあげるから
見逃さない様に注意せんとな〜。
女王様の身体的特徴とかどの辺りで獲物を探してるか分かればベストだーね。

次は囮作戦で女王様を狩場にお招き致しましょう?
おじさん達は待機班だ。監視班から連絡があったら
先回りして待伏せするって寸法だーな。
囮に引っかかんなくても監視班が女王様みっけてくれりゃ何とかなるかね。

女王様が向う先がほぼ確定したら
予定の場所で女王様がおいでになられるまで隠れてましょ。
本性を表したら取り囲んで攻撃開始だ。
おじさんは弓射撃で配下→女王様の順で攻撃かね。
鞭に打たれる趣味は無いんで注意は怠りませんよ〜。

倒したらさっさととんずらするとしましょ。

● 太刀の魔曲使い・ミント(c02374)
まずは死体の捜索だったか?
鴉とかの鳥や虫の多い所と、獣がいたらその辺り、
あと不自然に枯葉の少ねぇ場所をとりあえず見てみるか。
スコップとかあんのか?
怪しい人影を見かけたらそっちも見てみるか…あまり近付きすぎるとあぶねぇかもしれねぇが。


ビンゴなら狼煙で仲間に合図。
じいさんの死体から犯人の顔やら服やら特徴を引き出すわけだ
もし怪しいヤツを見つけてたら、死体から得た情報と照らし合わせて仲間に連絡。


その後は他の待ち伏せ組の奴らと一緒に、囮の状態に応じて場所を変えたりしながら隠れて待機だな。

戦闘は、いつもなら太刀抜き放って突っ込んでいきたいとこだが、
ここは我慢して遠距離から『誘惑魔曲』で仲間を援護しつつ攻撃だな。
獲物はただ一人、ボスだ。
俺様の美声にたっぷり酔いしれなっ!

近寄られたら太刀で遠慮なく『居合い斬り』
ショーは見るもの。触れるのはマナー違反だぜ、女王サマ

終わったらとっとと帰ります。
「満足だ、帰る」

● 鞭のスカイランナー・マードック(c04042)
■遺体探索
街道に見張りを立て、他で森を探索。連絡は狼煙で。
森の中の狼煙なら遺体発見、街道からなら人がきた合図だ。
探索は茂みや崖なんかの足場の悪い場所を中心に探そうと思う。
遺体を見つけたら皆で目を覗き、得た情報から女王様を探す。

■監視・接触
女王様が見つかったら囮、監視、待機班に分かれ、囮作戦開始。
オレは【監視】で待機班への伝令も兼ねる。

⇒作戦成功
囮の誘導が成功したのを確認後、
待伏せ班に成功を伝えに行きそのまま合流。
女王様到着後、待伏せ班と共に襲撃。

⇒失敗
囮の誘導が失敗した場合は犯行場所を突き止めたうえで待伏せ班に報告。
一般人が選ばれた場合も同様に。この場合、囮は監視に加わってもらう。

…他の場合も何かあれば真っ先に待機班まで伝えに走ろう。

■戦闘
前衛に立ち、まずは配下の始末、次に女王様を狙う。
基本は捕縛撃でマヒを狙い、スカイキャリバーも交えつつ攻撃。

戦闘後、女王様他の死体は放置して撤収。

● 弓の狩猟者・エンザ(c04173)
◇皆で遺体探索
木の上、うろの中を重点的に
発見したら狼煙を上げて集合
皆で遺体の目を見て手がかりを探す

◇囮
場所を絞り込み女王に接触
囮として待ち伏せ場までおびき寄せる
街ならナンパのふり
森なら道に迷ったふりし声をかける
油断させる為に攻撃されたらわざと当たり
痛がりながら逃げて誘導する
失敗したら皆急いできてくれ

◇戦闘
ファルコンを敵周囲に飛ばしたり弓射撃し
主に敵の行動や気を散らす援護をする

◇死体放置で即立ち去る

● 大鎌のデモニスタ・ギルデスターン(c04291)
●探索
皆が探索中は街道を木の上から見張り、
女王候補となりうる通行者が現れたら全員チェックし、顔を覚えておく。
その通行者がこちらに背を向けたら、狼煙で皆に合図し警戒してもらう(来ないってのが一番良いんだけど)。
逆に誰も来ず、探索が無事完了したら向こうからの合図でその場に急行、遺体の瞳を覗き女王の情報を手に入れる。

●監視
女王の目星・次の行動についての情報が得られたら、その現場に向かう。女王との接触は囮役の人に任せ、監視役の自分たちは相手に悟られないようにしながら女王を監視する。仮に囮にかからなかった場合も考えて女王付近の一般人の瞳もチェックしておく。

●戦闘
犯行場所に連れ込み、女王が攻撃を仕掛けてきたら戦闘開始。
伝令が仲間を呼びにいく間、囮役を「回転防御」等で守りつつ隙あらば攻撃アビリティといった前衛的応戦をする。
援軍が着たら後衛へ転向。遠距離アビリティ中心。

●戦闘後
死体はそのままに現場を去る。

● 盾の城塞騎士・キルフ(c04924)
遺体捜索は「地面に血の痕跡や、何か埋められた痕跡がないか」っていうところを重点的に調べるわ。
もしもワタクシが遺体を発見したら、ノロシを焚いて合図を送るわ。
森林から煙が上ってるのを見たらその方向へ移動するわ。でも捜索範囲外である森林の外や、街道から出てるノロシの煙は見張り役からの合図ね。
遺体を発見し次第、皆で集まってご老人のエンディングを拝見するわ。
女王の服装、身体的な特徴、それからご老人がどこから連れ去られたかを見ておくわ。

犯人を特定したら囮作戦に出るけど、ワタクシは待ち伏せ役ね。
囮作戦の状況は監視役から聞くわ。

女王が待ち伏せしてる場所に来たら、ネフェルティティちゃんの動きに合わせて動くわ。
回復役の彼女を、戦闘が始まってすぐにでも守るためにね。
戦闘中はひたすらディフェンスブレイドで踏ん張って、ネフェルティティちゃんを守るわ。
敵に近寄られたらシールドバッシュで応戦するわ。

<リプレイ>

●イタイ探索
 都市国家の郊外に広がる森の中を、杖の星霊術士・ネフェルティティ・エンリケ(c01000)は歩いていた。
 ネフェルティティは視線を下向きにし、不自然な道ができていないか注意して進む。
 ネフェルティティが森に入った理由は、先日起きた殺人事件の被害者を探すためだ。
 事前情報によれば、その被害者はマスカレイドに引きずられていったとのことらしい。ならば、その引きずった跡を見つけることができれば、自ずから被害者も見つけられる。
 だが、森は広い。人が引きずられていった一本の道を見つけるのは容易ではなかった。
 ネフェルティティと共に、数人のエンドブレイカーたちがこの捜索に当たっている。
 その一人、大鎌のデモニスタ・ロベリア・センティーレ(c00475)は、数十歩進むたびに、幹を鎌の刃で傷つけ、通った印を残していった。行為の数は、すでに両の手だけでは足りない。
 上を見上げてみるも、誰かが見つけたという報告はまだ上がってないようだ。
 軽く息をついて、ロベリアは捜索を続けた。
 気の遠くなるような作業だったが、ロベリアたちが着実に終着点へと向かっていることは確かだった。
 同じく森を行く弓の狩猟者・アイザック・ハリス(c01072)は、地面の少し先を見つめ歩いていた。
「美しい女王様の下僕ってのも悪くないが、殺されるってのは勘弁して欲しいわな」
 まぁ、綺麗だと決まったわけじゃないが、とアイザックは苦笑いを浮かべてひとりごちる。
 頭をかいて捜索を再開した直後、今までと変わった風景が目に入ってきた。
 地面を覆う植物が、横倒しになっているのだ。そして、色合いが少しおかしい。
「こいつぁ」
 小走りに近づいてみると、やはり倒れた植物が道を作っている。そして、草の一部に赤黒いものが付着していた。
 アイザックは、自分の歩いてきた方向と左右に伸びる道とを比べ、森の奥に向かう方角へ道を沿って走る。
 そこから長い時間かからずに、哀れに打ち捨てられた老人の遺体を発見した。まず、間違いない。
 アイザックは用意してあった狼煙を上げた。
「──! 見つかったようだね」
 木の上に登り、街道を監視していた大鎌のデモニスタ・ギルデスターン・ディフェンベーカー(c04291)は、森の中から上がる狼煙に気づいた。
 一度街道を見渡し、人がいないことを確認して、ギルデスターンは煙の上がる方向へ駆けだした。
「あぁ、お可哀想に……」
 ぼろぼろになった老人の遺体を前に、盾の城塞騎士・キルフ・デュード(c04924)から悲哀の言葉が漏れた。
 遺体は、服というより、一枚の布が身体に引っかかっているだけの状態で、背は赤黒く染まっている。
「さっさと拝ませてもらおうじゃないかね」
 集まったエンドブレイカーのうち最長齢である大鎌のデモニスタ・クロ・トゥーリ(c01035)は、死体を前にしても別段変わった様子を見せず、とかく老人の顔を起こした。
 死後、まぶたを閉ざされることのなかった目は、すぐさまその瞳をクロの前に晒した。
 覗き込んだその先に、イメージが映し出される。
「ふーん、こんな顔してんのか」
 太刀の魔曲使い・ミント・バセリア(c02374)は、老人を誘うマスカレイドたる女の顔を見て、眉をひそめた。歳のころは20代後半といったところか。世間一般に言わせれば、顔は悪いほうではないのだろう。口元のほくろが特徴的だ。
「大体の住いもわかったね。老人を誘った場所から、そんな遠くに離れていないだろうし」
 全員の確認を取ったところで、鞭のスカイランナー・マードック・ラウ(c04042)は老人のまぶたを閉じた。
 
●セイ活監視
 女は、昼間から出かけていた。
 紫系の派手な服装に、腰まで届く鈍い金髪。顔も老人から得たイメージと一致している。
 女が出てきた際、家から子供の泣き声らしきものが聞こえてきたが、それを気にする素振りは見せなかった。
「酷いもんだ」
 ベンチに座ったまま女の動向を監視していた弓の狩猟者・エンザ・ラクジェド(c04173)は肩をすくめた。
 時刻はもう夕方になる。
 家に帰る様子がないことから、今日にも何か事件を起こす可能性は高かった。
「まったくですよ」
 声とともに、ベンチの後ろから長くて白っぽいものが2つ出現する。
 大鎌のデモニスタ・クロウ・ナナサヤ(c00568)だ。
「クロウちゃん、あまり目立たないでね」
「大丈夫ですって。それと、待ち伏せのほう準備終わりました」
「りょーっかい」
 口の端を上げて、エンザはベンチから立ち上がり、女の後を追った。
 女が向かった先は、若者たちが集まる場所というより、やや年齢の高い人間が集まる場所だった。
 若い者と比べられるほどの若さは持ち合わせていないということか、それとも単なる趣味か。
「オレって対象外かも」
 再び肩をすくめて、エンザは女との距離を縮める。
 女はまだ誰にも声をかけていない。そして、エンディングが起きそうな人間は、エンザの目にも止まっていない。
 機をうかがっていたエンザの視界を、ぼんやりとしたイメージを纏った人間が横切った。
 女はその男に近づいていく。
「ねぇ、そこのお姉さん、どこ行くんだい?」
 エンザは割り込むようにして女に声をかけた。さらに、女の腰に手をかけて向きを変えさせる。
 女はエンザを振り仰いで、目を細めた。
「アタシ、自分から声をかけてくる奴って趣味じゃないの」
 女はエンザを左手で払うと、先ほどの男がいた場所とは別の方向へ歩いていった。
 軽いショックを受けつつも、エンザはクロウに失敗したことを報せる。
「フられちゃったんですね」
「趣味じゃないんだって」
「私もですよ」
「ありがとう」
 そんなやり取りをしつつも、クロウとエンザは女の動向を確認していた。もちろん、その周りも含めてだ。
 女に動きがあった。
「それでは、私は待ち伏せしている方々に伝えてきます」
 女に声をかけられた男が向かう先を、クロウは仲間に報せに走った。

●縛って
 女が男を連れ立って向かった先は、やはり都市国家の郊外だった。
 人気がない空間に、男は恐怖を感じるよりも、興奮している様子だ。
「うへぇ、いい歳して馬鹿面下げちゃって」
 ミントは、茂みの中から出て行くタイミングを見計らっていた。
 彼が被害者であることは承知しているが、少しは痛い目にあってもいいのではないかと思えなくもない。
「だめよ、ちゃんと助けてあげなくっちゃ」
 なんとなくミントの考えを読んだキルフが、震えながら言った。
 その後ろで、何やらクロたちデモニスタが集まってヒソヒソ話をしていた。内容はキルフの耳に届かない。
 すでに、女の周りの囲い込みは完了している。
 いつでも行動に移せる状態だ。
 女が立ち止まり、男を振り返った。女が浮かべる笑みと男が浮かべる笑みは、同質のものだが、しかし異質のものでもあった。
「今です!」
 ネフェルティティのかけ声を合図に、アイザックたちは姿をさらす。
 女の顔には、マスカレイドの象徴たる仮面が現れていた。
「な、なんだお前ら!」
 驚いたのは男の方だった。
「失せな」
「へ?」
 クロが発した言葉に、男の思考はやや遅れて反応する。自分は何かまずいものに巻き込まれたみたいだ、と。
 ギルデスターンが手招きし、男を逃がす。
 マスカレイドは男が逃げていくのを黙って見ていた。
「なんなの、アンタたち」
「あなたの仮面が見える者、とだけ」
「あぁそう、そういうこと……フフフ、クッフフ、アーッハッハッハ!」
 ロベリアの答えに、マスカレイドは高笑いを上げた。
「ついにバレちゃったのね。やっぱりコソコソするのは性に合わないわッ!」
 女はどこからか鞭を取り出すと、大きくしならせて、地面を強く叩いた。
 その音に呼応するように、2体の配下マスカレイドが現れる。2体とも背が高く、その身は筋骨隆々だ。手には黒革製の鞭を持っている。
 マードックも、彼ら同様に鞭を取り出した。
「鞭は、あんたらの専売特許じゃないんだよ」
「イキは良さそうね。けど、やっぱり趣味じゃないわ。アンタたち、やっておしまい!」
 マスカレイドが再び地を叩くと、配下が動きだす。
 しかしそれに先んじて、ロベリアとキルデスターンが配下マスカレイドにデモンフレイムを見舞う。
 炎は、配下マスカレイドの横腹を襲い、1体のマスカレイドには紫の炎が纏わりついた。
 苦悶の声が上がったが、身体の動きは鈍らず、2体はそれぞれ近くにいたマードックとキルフに襲い掛かる。
「だ、大丈夫よ、これくらい!」
 盾を前面に押し出し、キルフは防御を固める。
 マスカレイドは、盾に守られたキルフがいる方向は無視して、ミントへ向け鞭を伸ばした。
「何!」
 マードックが攻撃できる範囲を逸脱し、後方に立っていたミントに届く。
 マスカレイドには、エンドブレイカーと同様の武器を使いつつも、能力、範囲を変える力があるようだ。
「クッ?」
 足を絡め取られ、ミントは地面に背中を強かに打ち付けた。
 さらに二度、三度と宙と大地を行き来する。
 手にした太刀は落としていないが、プライドは少々傷ついたようだ。
「そうか……そんなに俺様と遊びたいのか」
 ミントは太刀を構えて駆けだす。狙うは、女王ただ一人。
「ミントさん、危ない!」
 ネフェルティティの声に反応するも避けきれず、左右にいた配下マスカレイドの鞭が、ミントを襲う。
「チィッ!」
 ミントは後方に弾かれるよう飛んで、地に膝をついた。
「ホホホ、どうしたのかしら。アタシと遊ぶんじゃなかったの?」

●逝かせて
「クッ──!?」
 女王をにらみつけたミントの身体に、ふと、柔らかなものが乗っかった。
 すると、先ほどの傷の痛みが和らぎ、自分が冷静さを欠いていたことに気づく。
「大丈夫ですか!」
 ネフェルティティが召喚した聖霊スピカが、ミントの傷を癒したのだ。それにより、ミントは落ち着きを取り戻す。
「ネフェルティティ……」
「力を合わせしょう」
「そうそう、おじさんも忘れないでちょーだい」
「俺の嫁に何してくれてんのよ」
 アイザックの弓が、クロのデモンフレイムが不意をついて、2体の配下マスカレイドを、射抜き、そして焼いた。
「まずは配下だ」
 マードックの指示で、攻撃対象が配下マスカレイドにしぼられる。
「せあっ!」
 マードックの鞭が配下マスカレイドの腕を捕らえる。
 そこへ、エンザの鷹とロベリアの黒旋風、ギルデスターンのダブルフレイムが立て続けに放たれた。
 配下マスカレイド1体目、KO。
「まだまだいきますよー」
 残った配下マスカレイドに、クロウが黒炎を飛ばす。
「キィーッ! アンタたち何やってんのよ!」
 クロウの炎を浴びた配下の背を、女王マスカレイドはハイヒールで思い切り踏みつける。
 途端、筋骨隆々だった身体が一段と大きさを増す。
 配下マスカレイドは、踏まれることでチャージの効果を受けたようだ。
「ぐおおおぉぉ!!」
 雄たけびを上げて、鞭を手にした男マスカレイドが、ネフェルティティに向かっていこうとするが、
キルフが立ちはだかり、それを妨げる。
「ありがとうございます」
「いいのよ、ワタクシは盾ですもの」
 攻撃を防がれたマスカレイドを、背後からミントの太刀が切り伏せる。
「お返し」
 配下マスカレイド2体目、KO。
 極上の笑みで、刃を横に払うと、そのままマスカレイドに切っ先を向けた。
「ショータイムは終わりかな?」
「な、なによーッ!」
 女王マスカレイドが鞭を振ろうとする。
「お前ら、大技いくゼ!!」
 クロが大鎌を上げて叫ぶと、デモニスタのロベリア、クロウ、ギルデスターンがそれに応じる。
「併せます」
「……うん、リズムは把握した、クロに併せるよ」
「いいぜ!」
「じょ、じょーだんでしょ!?」
 デモニスタのギガントフレイム4連発。
 前後左右から放たれた暗黒の炎は、強大な業火となってマスカレイドに襲い掛かる。
 先ほど、何やら集まって話していたのはこれだったのだ。キルフは合点がいった。
「ぎゃあーッ!!!」
 色気も何もない叫び声をあげ、女王マスカレイドが地を這いずり回る。
「幕引きといきましょう」
 ネフェルティティも攻撃に回り、遠近距離のアビリティを入り乱せて、転がるマスカレイドに畳み掛かった。
「ね、お願い許して、もうあんなことしないから……ね、お願いよ!」
 満身創痍のマスカレイドは、両手を投げ出し、頭を地面につける。
「残念だけど、罪は消えないよ」
 ギルデスターンの大鎌が、女王マスカレイドの胸を裂き、顔を覆っていた仮面は消えた。
 エンディングブレイク。
「……こうして悪いわるーい女王は、死をもって舞台を退場したのでしたっと」
 エンザは自嘲気味に両手を広げてみせた。倒れた元マスカレイドの女からは、何のも反応はなかった。
「あー、つっかれた。おじさんももう若くないからなぁ」
 足を崩して、アイザックは地面に腰を下ろした。
 同時に、ネフェルティティも座り込む。疲れたというよりも、緊張の糸が解けてしまったようだ。
「やっぱり、ちょっとだけ怖かったです」
 目に、暖かい水滴が溜まる。
「さぁ、戻りましょう」
「……はいですぅ」
 ロベリアはネフェルティティに手を貸しながら、皆に撤退を告げる。
「っと、そうだったね」
 鞭を仕舞い終えたマードックも、それに頷く。
 周囲を確認した後、バラバラにその場を後にする。
 最後に残ったロベリアが、元マスカレイドを振り返った。
「何が一体、貴女をそうさせたのかしらね……」
 役者がすべて退場し終えた舞台には、ロベリアの問いに応える者はいなかった。
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