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心の棘と、想いの行方

杖の星霊術士・アミナ

<心の棘と、想いの行方>

■担当マスター名:犬彦

「嫌い。きらい、大嫌い」
 薄暗い路地裏から、泣き声が漏れる。
 陰に隠れるように蹲る幼い少女は、泣き過ぎてくしゃくしゃになった目元を拭ってひとりごちた。
 ――カイくんは何で、わたしに意地悪ばかりするんだろう。
 どこかで拾って来たというセミの抜け殻や虫、酷い時には生きたままのカエル。
 幼馴染の少年から、毎日毎日それらを投げ付けられる日々。思い出すだけでぞっとする。
 怖いから止めてと頼んでも彼は聞く耳を持たず、今日も追い掛け回され、路地裏まで逃げてきた。
「……意地悪なカイくんなんて、いなくなっちゃえばいいのに」
 小さく呟いた矢先、心の奥で自身の声が響く。
 ――だったら、仕返しをすればいいんだ。
 嫌いという思いで埋め尽くされた心に棘が生えたかの様に、今まで思い付きもしなかった考えが浮かぶ。
「もう顔も見たくないくらいに、大嫌い……」
 だから、二度と見なくても良いようにすればいい。――そうだ。カイくんの顔を潰しちゃおう。
 浮かんだ考えが恐ろしいものだと感じるより先に、少女は思いに囚われてしまった。
「うん、決めた……」
 悪意の茨が心に絡み付いていくかの如く、少女の瞳に影が宿る。
 顔を上げた少女の額はいつの間にか、不敵に笑うマスクに覆われていて。それは紛れもなく、彼女がマスカレイドと化してしまった証だった。
 そして、暫し後。
「こんな所に隠れてたのかよ、リリア。探したんだぜ!」
 悪戯っぽい笑みを浮かべた少年は、路地裏に少女を見つけて手を振った。
 駆け寄って来る少年へと振り返った少女の手には、小振りなハサミが握られていて――。
「え……?」
 振り上げられた刃が少年の眼球を、頬を、額を貫いていく。
 子供のものとは思えぬ力で、何度も何度も。抉るように、何度も。
 血で染まった少年の生は絶たれ、少女もマスカレイドの呪縛から逃れる事は出来ず……ひとつの物語が、ここで終わった。

「棘(ソーン)に憑依されて、マスカレイドになっちゃう女の子のエンディングが見えたの」
 杖の星霊術士・アミナが視たのは、幼馴染の二人が辿る事になる惨劇の結末だった。
 どこかのんびりした口調で話すアミナは、周囲の者を安心させるように付け加える。
「でも、大丈夫だよ〜。これはまだ起こっていない出来事、未来のお話だからね」
 ただし、放置しておけば、このエンディングは必ず訪れる。故に彼女達を救って欲しいのだとアミナは告げた。
 マスカレイドの素であるソーンは人の心の隙間に入り込み、悪意等の負の感情を増長させて取り憑く。本人が完全にソーンを受け入れてしまうと、アミナが視た悲劇のエンドを迎える事になる。
「リリアちゃんを救う方法はひとつ。彼女がマスカレイドになる前に接触して、説得で気持ちを落ち着けさせてあげる事だよ」
 カイ少年への『嫌い』という思いを少しでも和らげる事が出来れば、リリアは浮かんでしまった恐ろしい考えを改め、憑依しようとするソーンを拒絶するはずだ。
 それでもマスカレイドは本人の意思を無視し、無理矢理にでも彼女に憑依して意識を奪う。
 だが拒絶された以上、マスカレイドは本来の力を得られない。そして、この状態で敵を倒せば取り憑かれた人間を無傷で助ける事が出来る。
「一時的に乗っ取られてしまう事は変えられないから、戦闘は必須。彼女を助けるために、全力で戦ってね」
 拒絶されたマスカレイドの戦闘能力は、普通の人間より少し強い程度だ。
 敵は自分の邪魔をする相手へ、手にしたハサミで襲いかかる。少女の小柄な体格を生かして隙を突く攻撃も行うが、エンドブレイカー達が協力し合えば勝てない相手ではない。
「でも焦りは禁物。もし説得に失敗しちゃったら……リリアちゃんごとマスカレイドを倒すしかないの」
 そうなれば死体が残り、騒ぎにならぬ内にその場を離れなければならない。
 マスカレイドによる事件が起こらなくなる代わりに、悲しい結末を避けて通る事が出来なくなってしまう。
「説得は必ず成功させる気持ちで向かってね。みんななら、きっと出来るよ」
 リリア自身は、自分がカイに嫌われているのだと感じているが、実際は少し違うようだ。
 カイの行動には、『好きな子ほど苛めたくなる』という気持ちが織り交じっているようにも思える。
「好意の裏返しだとしても、なかなか気付けないよね。だからリリアちゃんには、そういった事をうまく伝えてあげれば良いと思うよ」
 リリアを助け出せた後、暫くするとカイ少年もその場にやってくる。
 その時、改めて二人の仲を取り持つような言葉やアドバイスを送れば、以後に彼女がマスカレイドに付け込まれるような事もなくなるはずだ。
「幼い二人の行く先、幸せがいっぱい待ってるはずの未来を取り戻せるのはみんな……エンドブレイカーだけだから、ね!」
 そういって、頑張れと笑いかけたアミナの瞳には、確かな信頼の色が映し出されていた。

●マスターより

はじめまして、TW3よりマスターを務めさせて頂く事となりました犬彦と申します。
皆様の行動や心情を大切にして、よりよい物語を紡いでゆきたいと思っています。まだまだ拙い点もございますが、これから末永くお付き合い頂けると幸いです。どうぞ、宜しくお願い致します。

●補足
リリアとカイの二人の年齢は七、八歳程度です。
エンドブレイカーの皆様が少女に接触出来るタイミングは、彼女がマスカレイドになる直前。少女が路地裏で泣いている時です。
説得成功時の強さはそれほどではありませんが、説得に失敗してしまうと、かなり強力なマスカレイドが相手となります。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 弓の狩猟者・レオ(c00383)
【説得】リリアがマスカレイドにならないように説得しなくちゃ。責任重大だね。
説得班、見張り班のうち説得班で参加するよ。

みんなが説得しやすいように、まずなだめる方向でいくよ。
怖がらせないように、リリアの目線に合うようしゃがんで話しかけたり、聞いたり
「どうしたの? 何か悲しいことでもあったのかな?」
「そっかそっか、意地悪されてたんだ。俺も君くらいの頃は好きな人に意地悪してたなぁ」

【戦闘】中衛だから、説得の成功失敗に関わらず、まずは距離を取る。
前衛陣が少ないから、ファルコンスピリットと弓射撃を織り交ぜて短期決戦するよ。
「さて…ここからが本番だ。一気に決める!」

【戦闘後】
失敗時は、リリアを黙祷し、自分の不甲斐なさを悔やむよ
成功時は、カイとのやり取りを見守るかな

● 杖の星霊術士・フィオナ(c00498)
■私は私なりにできることから始めよう
あんな結末を知って何もしないわけにはいかないよね。
路地裏の入り口あたりで仲間と喋りつつ、人がこないように見張りをする。
人がきたら差し触りのない会話を聞かせ、何かご用ですか?と尋ねる。

■戦闘
路地裏は狭いので味方に誤射に留意。
立ち位置の都合上、極力攻撃を抑え不測の事態に備えます。
もちろん必要ならば攻撃は躊躇しない。
路地裏に入ってくる人達がいたら危ないので近寄れないように妨害します。

結末が変わってきているからカイくんがここに近寄り難いかもしれないよね。
カイくんらしい子を見かけたら適当な理由をつけて通さないと。
それと、もし話せるなら少しお話してみたいな。
泣いてる女の子が居て、その子は虫とかカエルって苦手という話をします。
じゃあどうすればいい?と問われた時は代わりに女の子が喜ぶこと教えてあげると言って
カイくんの頭を撫でてにっこり微笑み、頑張れと言って送り出します。

● トンファーの狩猟者・アガスティア(c00547)
【説得】リリアちゃんを逸早く発見して
完全にマスカレイド化する前に
説得班と見張り班に分かれて行動し、自分は説得班になりますえ。
どうにかしてリリアちゃんに落ち着いてもらって
カイ君を殺すことを思い止まるよう話をしたいなぁ。
「何時までもお互いのこと解り合わへんかったら、悲しいだけやよ?」
「せやから、いつまでもそんな心の棘に囚われへんでや」

【戦闘】
前衛後衛中衛の内前衛を担当しますえ。
説得に成功した時はリリアちゃん本人にけがをさせないように超集中で確実に仮面を攻撃します。
なるべく成功させたいけど、説得に失敗してしもうた場合はなるべく苦しませないように全力でマスカレイドを倒します。

【戦闘後】
失敗時
リリアちゃんに黙祷し、自分の至らなさを悔やみますえ。
成功時
棘から解放されたと確認し、治療した後
さりげなくカイ君を呼び込み様子を見守りますえ♪

● アックスソードの城塞騎士・セルバ(c00795)
説得時は少女に接触せず、待機します。
対象に気付かれず、対象を視認できる位置が良いですね。
できれば、他の待機している方達と、対象の後ろに回り込みたいですが…皆が離れている間にマスカレイド化しては元も子もないので、先に道を確認しておきたいところ。

マスカレイド化したらすぐに前に出て、後ろに攻撃が行かないように。
先にディフェンスブレイドで守りを固めて、その後は十字剣で。
彼女を表に出さぬよう、また、戦闘の跡(建物破損など)をできる限り抑えます。
全てを完璧にこなすつもりはありませんが、できるだけ。

戦闘後のことは他の方に任せ、私は去ります。
あ、もし少年の方に会えたら、声をかけましょう。
むしろ、救いを求めているのはあっちでしょう。
「付き合い方が分からないなら、じっくり悩みな。素直になれとは言わないけどさ、自分のしたこと、することをよく考えて。そうすれば大丈夫。」
…彼には、私が何者かも分からないでしょうが。

● 大剣の魔法剣士・ミステル(c01987)
好きな子ほど苛めたくなる、とは良く言うけど…。
好意の裏返しが悲劇の結末を生み出すなら、少し悲しいね。


【作戦・行動】
リリアちゃんの説得中、待機兼見張りを。
可能であれば戦闘に入った時に挟み撃ちに出来るようリリアちゃんの背後に回る。
カイくんは今少しはしゃぎすぎちゃってるだけで、リリアちゃんの事を嫌ってはいない。
それが伝わればいいんだけど…。
説得が上手くいくことを祈るよ。

戦闘は前衛。
小柄で動きが早いと思われるから、こちらも素早さを生かして、残像剣をメインに大剣で攻撃。

「すぐに解放してあげるよ。あと少しだけ我慢して!」


【戦闘後】
無事にリリアちゃんを助けてカイくんが来たら、伝えないといけないことがあるね。
男は女の子を護ってあげるものだ。
カイも強くなって、リリアちゃんを護ってあげるんだ。
こんな風に、ね?
大剣を軽々と持ち上げて見せて、「護ることは素敵な(カッコイイ)ことだ」ってアピール出来るといいかな。

● 大鎌の星霊術士・シノン(c02120)
小さな子たちの真っ白な未来、絶対守るよ。

◇待機時
あんまり気合を入れて立ってると悪目立ちしそうだから
何となくそこに立ってるだけに見えるように、
ぽやーっとした感じで周囲に目を配る。
関係ない一般人が近づいてきたら、今は通行止めみたいです
と言って引き返してもらう。
…うん、通っちゃダメなのは本当だから、嘘ついてないの。
【可能なら】
1:リリアが説得に気を取られている隙に後ろに回りこむ。
2:1が無理ならせめてリリアのプレッシャーにならないよう
物陰にいるか、気にならない程度の距離を取る。

◇戦闘時
前衛を務める。中・後衛の援護攻撃に合わせて接近。
小柄さを生かした戦法はお互い様だよ。
こっちも懐に飛び込み黒旋風で攻撃。
出会い頭の一撃で怯ませられれば充分なので
無理に打ち合わず、仲間と連携しながら確実に相手を消耗させる。
攻撃の間隙はなるべく埋めるよう立ち回り、
逃走の隙は作らせない。
後衛の回復援護を信じて後退はしない。

● 杖のデモニスタ・スカイ(c02183)
【行動】
皆が説得している最中、後ろから誰か来ないかなどを確認しています
誰か来たら、
「……此方から先は、いけないみたい…ですよ?」
とか言って追い払いたいですね
出来るだけ不自然に見えないように会話したりして注意を払います
リリアちゃんに気が付かれないように、後ろに回り込めたら幸い
戦闘になったらすぐに駆けつけます

【戦闘】
主に中衛で杖で攻撃します。
前衛が少ないので前衛陣が崩れたら、前にでるのもいとわないです。
前に出る場合は、一声かけますね
「…前に出ます」
戦闘も終盤になったら、デモニスタの力を主に使います。
ただ、説得が失敗していた場合、デモニスタ>杖の順で使います。

【戦闘後】
本来なら、処置をしたい所ですが…速やかに仲間に後を任せて撤退します。
人が多すぎても怖がらせちゃいますから。
失敗の際は、強盗とかにやられたように偽装してから…去ります。
仲間を信頼していますので、そんなこと、ならないと思ってます

● 扇の星霊術士・ミリスティア(c02790)
【行動】
最初はリリアちゃんの説得に回るよ。
初めに彼女の話をよく聞いて、その後は他の説得班の皆と話を上手く合わせながら楽しかった想い出を思い出して貰う方向で。
不安な気持ちにさせない様に笑顔も絶やさない様にするね。

私の説得方法は…
カイ君は、きっと構って貰いたくて必死なんだと思う。
自分が他人に大好きな食べ物とかを進めたい時って、何とかして美味しさを理解して欲しいとか思わない?
…という感じで。

最終的にカイ君もリリアちゃんを好きって事を伝えられたらいいなと思う。
「…だから、信じてあげてほしいな」

【戦闘】
一応、周囲に一般人が来てないかの警戒も視野に、後方で回復中心に敵との距離を保ちつつ戦うよ。
余裕があれば前衛の皆と連携して流水演舞を使い攻撃。
「後方支援は任せて!全力でサポートするから」

もし一般人が近づいて来たら一時戦線離脱後、通行止め等と言い引き返して貰う。
処理後、迅速に戦線復帰。

● 杖の星霊術士・フィリオリ(c02814)
●心情
子供心に有りがちな想いのすれ違い。
頑張ってリリアちゃんに優しい気持ちを取り戻してあげたいです。

●行動
説得はそのまま彼女の居る路地で。
しゃがみこんで視線を合わせ、
「男の子はとっても不器用だから…意地悪されるからって、嫌いにならないであげて。分かりにくいかもしれないけど、よく見ていればリリアちゃんを大事に思ってる気持ちが出てるはずだから」

●戦闘
マスカレイドが憑依したら、私は後衛に下がって回復役に徹します。
HP3分の2を目安に、星霊による回復を。
必要無い時だけマジックミサイル。

●事後
リリアちゃんへの回復が必要なら、星霊にお願いを。
ついでにリリアちゃんが和める様に、星霊と遊ばせてあげます。
「もう一度カイくんを、優しい気持ちで見てあげて。今のリリアちゃんなら、きっと本当のカイくんが見えるはずだから…」
「カイくん、女の子は真っすぐな言葉をもらった方が喜ぶんだよ?恥ずかしがらずに、頑張って…♪」

● 扇の魔曲使い・カイジュ(c03908)
○目的
ハッピーエンドをお二人に贈りましょう

○動機
未来あるお二人にはハッピーエンドこそが相応しいですからね

それに
こんな幼い子のふとした心の揺れに付けこむとは
棘(ソーン)許すまじ、です

○説得
カイくんはリリアちゃんと遊びたいんですよ。

いじわるだけじゃないはずですよ?
思い出してみて、これまで二人で一杯一杯遊んだはず。

ね、楽しい思い出が沢山でしょう?


皆さんの説得に合わせて、
幼い少年と少女が時には喧嘩しながらも仲良く過ごし
やがて少年が少女に愛を告げて結婚する
という浪漫溢れる歌をBGMとして歌います。

○前衛
流水を纏う
→闘志・警戒心を奪う
→魅惑のフレーズ・せつないメロディ

先程の浪漫チックな歌・曲を奏でてリリアちゃんの心に訴えかける
というイメージ

○戦闘後
カイくん、男の子は女の子を守る存在なんです。

リリアちゃんに優しくして守ってあげてね。

泣かせちゃダメですよ?

男同士の約束です

と握手

<リプレイ>

●幸せを守るため
 路地裏に続く細い道の奥。賑わう街の喧騒から離れた、静かな通り。
「ここが件の路地裏ですね」
 確認を兼ねたアックスソードの城塞騎士・セルバ(c00795)の言葉に、一同が頷いた。
 青い瞳を凝らし、奥を覗き込む杖のデモニスタ・スカイ(c02183)が路地裏の様子を窺う。こちらに背を向けて蹲り、肩を震わせすすり泣く少女。彼女こそリリアに間違いない。
 杖の星霊術士・フィオナ(c00498)は、その後ろ姿を見守り胸中で呟く。
(「私は私なりに、できることから始めよう」)
 フィオナの胸で渦巻く戸惑いは、消えてくれない。だがこれから少女達に起こる結末を知って尚、何もしないというわけにはいかない。
 隣に立つ大鎌の星霊術士・シノン(c02120)も見張り役として、周囲の様子を探っていた。
 元より人気の無い道だ。何がある訳でもない場所へ、わざわざ赴こうとする者も少ない。
 しかし万が一の可能性もある。それに加え、幼い少女へ大勢で詰め掛けても怖がらせるだろうという思いもあり、彼女達は路地裏の入り口に待機して動向を見守る事に決めていた。
「私達が、しっかり見張っておく、ね」
 シノンが説得に向かう仲間へ、任せておいてと小さく頷いた。
「誰かが来たら……ここから先は、いけないみたいです……と言っておきますね」
 だから安心して欲しいと伝えるスカイに続き、同じ見張り役の大剣の魔法剣士・ミステル(c01987)も仲間達を見送り、小声で告げる。
「説得が上手くいくことを祈るよ」
 その思いに応えるかのように、扇の魔曲使い・カイジュ(c03908)は微笑を浮かべた。
「ええ、ハッピーエンドをお二人に贈りましょう」
 未来ある幼い二人には、幸せなエンドこそが相応しい。
 エンドブレイカー達は路地の奥へと歩を進める。その真っ白な未来を、守る為に――

●彼女の気持ちと、彼の気持ち
 トンファーの狩猟者・アガスティア(c00547)がリリアに近付き、声を掛けた。
「にゃ。あんた、こんな所で何してはるん?」
 直前まで気配に気付けなかったのか、突然の問いかけに少女の身体がびくりと跳ねる。
 驚かれはしたが、声の主が同じ年頃の少女だった事でリリアの気が多少緩んだ様に見えた。
 そして、後に続いて来た弓の狩猟者・レオ(c00383)が、相手の目線に合せて屈み込む。
「どうしたの? 何か悲しいことでもあったのかな?」
 優しくかけられた言葉に触れ、リリアの目からぽろぽろと涙が溢れ出した。
「あの、ね……っ、カイくんがね……」
 嗚咽混じりに、幼馴染にいつも意地悪をされるのだと語る少女の話を、エンドブレイカー達は頷きながら聞いた。そうして拙いながらも話終えたリリアを、扇の星霊術士・ミリスティア(c02790)が優しく撫でる。
「そっか、そうだったのね」
 涙を流す相手を安心させるように、ミリスティアはにっこりと笑って見せた。
 杖の星霊術士・フィリオリ(c02814)も、リリアと視線を合わせて優しく語る。
「男の子はとっても不器用だから……意地悪されるからって、嫌いにならないであげて」
 しかしそう言われても、幼い少女はすぐに理解出来なかったようで。
「違うよ、カイくんが私の事を嫌いなんだもん……っ」
 首を左右に振り、再び泣き始めた少女にアガスティアが困惑した表情を浮かべる。そこに、カイジュが囁くようにそっと語りかけた。
「カイくんはリリアちゃんと遊びたいんですよ。意地悪だけじゃないはずですよ?」
「そうそう、俺も君くらいの頃は好きな人に意地悪してたなぁ」
 すかさずレオが付け加え、『好きな人』の部分を強調して笑って見せる。すると泣いていたリリアは顔を上げ、きょとんとした表情で疑問を口にした。
「好きなのに、いじめちゃうの?」
 何で、どうして、と視線を向ける少女にミリスティアは例え話を交えて語り掛ける。
「例えば、自分が他人に大好きな食べ物とかを勧めたい時って、何とかして美味しさを理解して欲しいとか思わない?」
 そういう事と同じなの、と教えるミリスティアに続き、フィリオリも笑顔を向けた。
「解り難いかもしれないけど、よく見ればリリアちゃんを大事に思う気持ちがあるはずだよ」
 少年が虫を押し付けてくるのは、彼にとってはそれが大好きな物だから。
「そう、なのかな……嫌われてないの?」
 カイは自分の事を嫌いではないのかもしれない。
 少女がそう思い始めた時、いつしか頬を伝う涙は止まっていた。

 一方、路地裏の入り口では見張り役の者達が、静かに動向を見守っていた。
「ああやればいいのか……今後に生かそう……」
 スカイは小さく頷きながら、仲間達の様子を感心して眺める。
「さて、この先に備えてそろそろ距離を詰めておきましょうか」
 その間にも、セルバは間合いを計っていた。幸いにもリリアはこちらに背を向けており、戦いへの備えも十分に整えられる。
「説得は上手くいっているみたいですね」
 内心のハラハラを抑えながら、フィオナもほっと息を吐く。
 だがその時、リリアに異変が起こった。
「や、嫌……っ」
 胸を締め付けられているかのように苦しみ始めた少女に、エンドブレイカー達が身構える。
 棘が彼女の心に干渉しているのだと、気付いたアガスティアが呼び掛けた。
「あかん、心の棘に囚われへんでや……リリアちゃん!」
 その瞬間、リリアが宙に向かって伸ばした手が、力を失ってだらりと下がる。
 そして、立ち上がった少女の額には――歪んだ仮面が現れていた。

●在るべき形に
 即座に駆け付けたフィオナ達が武器を構える。
 虚ろな焦点に暗く染まった瞳、リリアの意識は完全にマスカレイドに支配されていた。だが額の仮面は完全ではなく、それは少女が負の思いを払拭したという事を示している。
 警戒を続け、レオが数歩後ろに下がった。そこから前に飛び出したのは、アックスソードを構えるセルバだ。
「キミに憑いたソーン、ボク達が落してあげるよ!」
 敵の傍まで踏み込んだセルバは自らの守りを固め、その横でくるくるとトンファーを回し走り込むアガスティアが、低くした体勢から流れるような打撃を放つ。
 ぐら、と揺れる少女の身体。だが、棘の力を得た相手が怯む事はなかった。
「すぐに解放してあげるよ。あと少しだけ我慢して!」
 ミステルがリリアに向けて、フェイントを交えた大剣の一撃を加える。
 罪も無い少女を相手にするのは心が痛む。だが、躊躇っていては彼女を救う事は出来ない。
「その子の未来を返してもらう」
 カイジュの冷やかな言葉が敵に対して向けられ、魅惑のフレーズが紡がれる。そのまま音色を奏でて呼び掛けようとするカイジュだが、憑依状態のリリアには何も届く事は無く。
 その間にもリリアはハサミを振りかざし、ミステルへと連続で斬撃を喰らわせていく。流石に全てを防御する事は出来ず、痛みに彼は眉を顰める。
「お願い、アステル。彼の怪我を治してあげて」
 そこにフィリオリの召喚した星霊スピカがふわりと舞い、ミステルの傷を癒した。
 フィオナはじっと戦況を見守り、不測の事態に備えて路地裏の入口を守っている。
 同じく、杖を構えて回復の機を探るミリスティアも、仲間達にエールを送った。
「後方支援は任せて! 全力でサポートするから」
 応援の声を受け、シノンが敵の懐まで一気に飛び込む。
「エンドブレイカーの使命の下、お前を討伐する――マスカレイド」
 その声はあどけない少女の顔から一変し、凛とした戦士の雰囲気を纏っている。
 振り下ろされた大鎌・大鴉は一度空を切ったが、華麗に回転を付けた刃は正確にリリアの仮面を捉えた。
 ハサミで刃を突き返して反撃を試みるマスカレイドだが、エンドブレイカー達の仕掛ける怒涛の攻撃に対応しきれず、一歩退いてたじろぐ。
 攻撃のチャンスを察知したスカイは杖を前に向かって突き出し、目標を見据える。
「当たって……砕けろ」
 スカイの左掌から飛び出した黒炎が仮面を包み込み、少女の均衡が大きく崩れた。
 それでも攻撃を続けるマスカレイドは、近くに居たアガスティアに向けてハサミを薙ぐ。
「痛ぅ。せやけど、やられてばかりじゃありませんえ」
 だが彼女も負けてはいない。お返しに、遠心力を付けたトンファーでリリアの仮面を叩く。
 そして、矢による支援を行っていたレオが荒ぶる鷹の魂を一気に開放した。
「さて……ここからが本番だ。一気に決める!」
 真っ直ぐに少女を目掛ける鷹は、相手の腕へ目掛けて飛翔する。
 その大きな衝撃に、マスカレイドが思わず膝を付いた。決着を付けるならば、今しかない。
「その哀しきエンディングに、救済を……!」
 セルバの放った渾身の斧剣が、十字を描いて少女の仮面に振り下ろされ――
 仮面が、乾いた音を立てて割れる。少女の額から崩れ落ちた破片は、砂の様にさらさらと飛び散り、跡形も無く消えて行った。
 力が抜けたように地面に倒れ込むリリアへ、エンドブレイカー達が慌てて駆け寄る。
「リリアちゃん!」
 少女を抱き起こし、心配そうに覗き込むミリスティア。
 大丈夫でしょうか、と不安そうな顔を浮かべたのも束の間、リリアが僅かに身動く。
「うぅ……ん……」
 どうやら気を失っているだけの様だ。一同は胸を撫で下ろし、互いに笑みを交わし合った。

●二人の行く先
 少女が目覚めるまでの間、不意にスカイが立ち上がる。
「人が多すぎても怖がらせちゃいますから……僕は、行きますね」
 路地裏から通りへと去り往く少年に続き、セルバも同様に細い道を引き返して行く。
 そんな時、一人の活発そうな男の子が、きょろきょろと辺りを見渡しながら駆けて来る事に気付いた。きっと、この子がカイなのだろう。そう直感したセルバは彼に声を掛ける。
「素直になれとは言わないけどさ。自分のした事、する事をよく考えて。そうすれば大丈夫」
 そしてセルバは踵を返し――新たに救う人を探しに、歩き出した。
 スカイも軽く少年へと振り返り、小さく呟く。
「仲良く……ね」
 その声は届く事はなかったが、想いは確かに二人へと向けられていて。
 少年は首を傾げたが、気を失っている幼馴染の姿を見つけると慌てて駆け寄って行った。
「リリア、一体どうしたんだよ!」
 その声に反応してリリアの瞳が薄らと開かれる。
 朦朧とする意識の中で、少女が弱々しく相手の名を呼んだ。
「カイ、くん……?」
 そんな少女を見て、おろおろする少年の肩をレオが軽く叩き、落ち着けと宥める。流石に全ての事情を説明する訳にも行かず、彼は「リリアちゃんは泣き過ぎて倒れちゃったんだよ」と、誤魔化して説明した。
 途端に、さぁっとカイの表情が青ざめる。泣かせたのは誰か、それは自分がよく知っている。
「女の子はね、虫とかカエルがとっても苦手なの。倒れちゃうくらいに、だよ」
 フィオナが改めて言い聞かせるように告げると、カイは気まずそうに後ずさった。
 そんな少年へ、カイジュは穏やかな笑みを浮かべる。
「カイくん、男の子は女の子を守る存在なんです。泣かせちゃダメですよ?」
「そうさ、君がリリアちゃんを護ってあげるんだ。こんな風に強くなって、ね」
 ほら、とミステルが大剣を軽々と持ち上げて、強く在るという事をアピールしてみせた。くるりと器用に剣を鞘に収めた青年を見て、カイが尊敬の眼差しを向ける。 
 そんな中、リリアがゆっくりと起き上がった。おずおずと、何かを言いたげな少女の背をシノンが「頑張って」と、後押しする。
「あの……カイくん。私の事、嫌いじゃないの?」
 それは少女がエンドブレイカー達の説得を聞いてから、ずっと気になっていた事だった。
「き、嫌いなわけないだろ! 泣いたリリアも可愛くって、つい……ごめん!」
 慌てて謝罪するカイ。潤んだ瞳で見つめられた彼の頬は、次第に赤く染まっていき――
(「とてもわかりやすくて、微笑ましいな」)
 ミリスティアが、くすくすと笑みを零す。
 少女はカイの言葉に暫し目を瞬かせていたが、嫌われていないと分かると小さく微笑んだ。
「女の子は真っ直ぐな言葉を貰った方が喜ぶんだよ? 恥ずかしがらずに、頑張って」
 アドバイスを送るフィリオリの傍、星霊であるアステルがくるりと回った。
 全ては些細なすれ違いと思い込み。これで、彼女が棘に囚われてしまう事もないだろう。
 和やかな雰囲気に、アガスティアも気分良く「よかったですえ♪」と見守る。
「何だかわからないけどありがとな、兄ちゃん達。ほら、もう行こうぜリリア!」
 照れた様子で、カイが礼を告げた。
 少年の掌がリリアの手へ伸ばされ、少女がその手を握る。
「私からもありがとう……。お姉ちゃん達、ばいばい」
 笑顔で片手を振るリリアに、エンドブレイカー達も手を振り返した。

 少女が少年と共に路地裏を駆けて行く。彼女達の物語は途切れることなく、続いて行く。
 二人の想いの行方は、たくさんの可能性が広がる世界だ。
 その未来を護りきったのは、紛れも無く――二人の背を見送るエンドブレイカー達なのだから。
戻るTommy WalkerASH