<飽食と暴食の仮面>
■担当マスター:形部
都市国家内の集落から収穫物を売りに来たと思われる農夫の男が荷車を押し、街で働く人が忙しく駆け回った。
大通りの人通りも少なくなり、時間と言えば子供はもう夢を見ている頃だろうか? その大通りから少し入り人通りの少なくなった路地にある小さな食堂から灯りが漏れている。
店内には小太りの店主とテーブルの端に皿を積み上げ、目の前にある皿から一刻でも惜しいという様子で大汗をかきながら料理を食べる男がいる。いや食べるというより流し込むと言う方が的確かもしれない。でっぷりと突き出た腹はボタンがはじけ飛びそうだ。
「おい店主。この料理を五人前追加だ」
目の前にあった最後の料理を流し込ながら男が追加の注文をすると、店主は目を丸くして厨房から飛び出してきた。
「お客さん勘弁して下さい。大変ありがたいのですが、もう店の三日分の食料を入れていた貯蔵庫は空でございます。また日を改めてご来店頂ければ、腕によりを掛けますので」
愛想笑いを浮かべながらお追従を述べる店主に男は皿を舐めるのをピタリとやめた。
「なるほどなるほど。もう食材が無いと……おかしいですねぇ、私の前にまだ美味しそうな肉があるのですがねぇ」
振り返った男の顔には口の部分だけを開けた様な白い仮面。同時に薙ぎ払われた手はいつの間にか巨大なナイフとなり店主の首を跳ね飛ばした。血しぶきを上げながら、ごろんと店主の首が地面に転がる。
「まだまだ食らいつくしてくれるぞ!」
フォークになったもう片方の手で店主の頭を突き刺しながら、ぐふっぐふっとくぐもった笑い声を上げるのであった。
酒場は喧騒に包まれていた。
大きな笑い声や周りの音が他のテーブルの会話を気にならないものにしていた。
エアシューズのスカイランナー・ジェシカがマスカレイド事件を持ってきたので、エンドブレイカーだけで1つのテーブルに移って来たのだ。
「自己紹介がまだだったな、オレはエアシューズのスカイランナー・ジェシカだ、宜しく」
胸も豊かでかわいい女性だが、口調はまるっきり男っぽいのにギャップを感じながらも幾人かがよろしくと挨拶を返した。
「早速だけど、事件のあらましを説明するぜ。最近、2人の食堂の主人が殺される事件が発生しているんだ。犯人はマスカレイドになった男で、食堂に入って閉店過ぎまで次々と注文して食べ続け、他に客が居なくなった頃に食堂の店主を殺して食い逃げしている」
その2人の店主の体はいずれも頭や足、腕など体の一部が無い状態で発見されている。
「で、オレが見たエンディングでは両手がでっかいフォークとナイフになって、殺した店主のふとももをナイフで切って食べてたよ。お陰で当分、肉は食べれないと思ったね」
ジェシカの説明に、今まさに鳥のもも肉を口に運ぼうとしていた者が手を止め、恨めしそうにジェシカを睨んだ。
「あははは、ごめんごめん。それと食べた後、嘔吐していたけど、床も一部、融けていたので強力な胃酸の様だから、こっちも注意した方がいいと思うぜ」
敵の能力を知っておくのは大事な事だ、テーブルに居た皆はジェシカの言葉を脳に叩き込んだ。
「残念だけど、マスカレイドになった人間を救う事は出来ないし、これ以上被害が増やす訳にもいかない。実戦が初めての人も居るかもしれないけど、誰でも最初は初めてさ。みんなで協力すれば大抵の事はなんとかなるよ!」
そう言ってジェシカは水を口に運ぶ。
「あ、そうそう。初めての人が居るかもしれないから念の為言っておくけど、マスカレイドを倒したら直ぐにその場を離れる事。都市の人はマスカレイドの力を使っていたなんて知らないんだ。死体は残るので、下手するとみんなが殺人犯にされてしまうかもしれないぜ」
都市の人からすると自分たちはよそ者で、マスカレイドになった人の方がむしろ親しかったというのはよくある事だ。
彼らからすれば自分たちは友人を殺した流れ者と見られるのは仕方のない事だろう。
「じゃ、宜しく頼むぜ!」
口調とは裏腹に可愛い笑顔を浮かべてジェシカは軽くウィンクした。
●マスターよりはじめまして、形部(ぎょうぶ)と申します。読んで頂きありがとうございます。マスターをやるのは初めてですので、これがマスターとして初めて作成したオープニングとなります。 今日の気持ちを忘れない様に「エンドブレイカー!」の世界を作るお手伝いが少しでも出来ればと思っておりますので宜しくお願い致します。 今回の敵ですが、大食漢のマスカレイドです。オープニングにもある様に両腕がフォークとナイフとなり攻撃してきます。 口からは胃酸を吐き、これも攻撃手段となります。胃酸は武器や防具を溶かす程の強さではありませんが、肌に着くとダメージを受けます。 また、大きなフォークを持った弱いマスカレイドを4体召喚してきます。1対1なら倒せると思いますが、混戦だと意外なところで足元をすくわれるかもしれませんのでご注意ください。 |
<参加キャラクターリスト>
● 斧のスカイランナー・グリム(c01285)
● 槍の魔法剣士・フリードリヒ(c01655)
● 太刀のスカイランナー・セリス(c01658)
● 暗殺シューズの群竜士・エキリ(c02680)
● ハンマーの城塞騎士・シグムント(c03302)
● ハルバードの城塞騎士・ウィレム(c04349)
● 太刀のスカイランナー・セラフ(c04414)
● ナイフの星霊術士・ティルティアラ(c04513)
<プレイング>
● 盾の城塞騎士・アダルバート(c00420)
店主に顔を覚えられるリスクを避ける為、問題の食堂近くの路地にて待機だ。
店内組からの大声や大きな物音など、何らかの合図があり次第、食堂の中に突入する。
突入後は首魁のマスカレイドの足止めに当たる。
無論、倒せるのであればそれに越した事は無いのだがね。
店長が存命であれば店長へと続く経路を、
そうでなければ雑魚マスカレイドと戦う仲間への経路を塞ぐように移動し、
とにかくあちらさんの移動先を潰すように動く。
混戦になれば、こちらが不利になる。
雑魚の足止めは任せたぞ!
代わりにワシ等はコイツを引き留める!
攻撃時はディフェンスブレイドでの防御固めから始め、
盾の効果が出次第、シールドバッシュに切り替えて本格的な攻撃を開始だ。
吹き飛ばしの効果が期待できる故、こちらの方が相手の行動を邪魔するのに向いておるからな。
撃破後はマスカレイドの死体、食堂の惨状はそのままに、迅速にその場を去る。
この場を見られる訳には行かぬからな。
● 斧のスカイランナー・グリム(c01285)
【潜入】
「この店みたいだね。」
セリスさんと一緒に、事前に店内で待機
前情報からヒントを得て、ボタンがはち切れそうな
服を着て、なるべく顔を目立たせないようにします
マスカレイドが事に移り始めたら行動開始
「みんな!今だよ!」
店主の安全を確保するセリスさんに合わせて、
外に出ている仲間を大声で呼びます
【戦闘】
「マスカレイドを確認…よし、来いッ!」
仲間との合流、合計5体の敵を確認したら、斧を構えます
「お前達の相手はこの僕だ!」
4体のフォーク持ちを相手取り、命中重視で戦います
その際、大食漢の胃酸による流れ弾にも注意します
「足元をすくわれないように…か!」
隙を見て大振りも繰り出し、手早く片付けます
「残るはお前だけか!行くぞ!」
先に4体を倒し終えたら、大物に向かいます
【事後】
「ふぅ…疲れたな。速やかに退くとするか。」
戦闘でお腹が空いて、少々不機嫌になります
これで料理人の被害が無くなるなら、と願いつつ退散します
● 槍の魔法剣士・フリードリヒ(c01655)
▽戦闘開始前▽
目標食堂外で、屋外待機組と共に待機。
店内先行組の合図を確認次第、行動開始。
速やかに目標食堂に進入、敵"大食漢マスカレイド"に向かう。
▽戦闘中▽
大食漢マスカレイドを目標として、他大食漢マスカレイド攻撃班と共に攻撃開始。
疾風突きを中心に、近接戦闘。
雑魚対応班が雑魚処理後は、そちらとも協力してマスカレイド殲滅。
持てる全力を持ってこれにあたる。
戦闘は己個人の武威に頼る事なく、
同班と連携して行動。
常に足並みを合わせて戦う事を第一に。
敵攻撃に関しては酸攻撃対策として、肌の露出は控える。
▽戦闘終了後▽
戦闘終了後は、速やかに食堂から離脱。
できるだけ自身らの痕跡を残さないように撤収する。
▼店主について▼
店主に対する対応、処置は店内先行組に一任。
● 太刀のスカイランナー・セリス(c01658)
とりあえず帽子と眼鏡等で変装し、店主の安全確保の為に他の仲間とは別に、グリムと一緒に客として店に入店しておく。
適度に食事をしつつ、犯人と店主の様子を監視し他の客が居なくなるまで時間をつぶす。
他の客が居なくなり、犯人と店主と自分達だけになった所で店主の確保に行動を移す。
店主の後ろから猿ぐつわとロープで動きを口を塞ぎ、厨房に店主を放置してから犯人に立ち向かう。
おそらく店主確保を完了し、戻る頃には仲間達が交戦中なので、状況を確認して可能であれば犯人の後ろから奇襲を仕掛ける。
無理なら、急いで犯人に立ち向かう。
その後は他の仲間と連携しつつ、マスカレイドと化した犯人に対してに、スカイキャリバーを中心に攻める。
犯人殲滅後は挨拶もそこそこに急いで店外へ脱出し、人目につかない様に店から離れる。
● 暗殺シューズの群竜士・エキリ(c02680)
目的:マスカレードの殲滅。店主の人命確保(生きてる時)。
「死んだらしょーがねーが、無事に助かりゃ良いのー」
戦闘前:店に向かう前に、まず打ち合わせ。中から合図があったら突入、戦闘を開始する。
「室内で戦うのは初めてだが、さーて、どうなるかのー」(何故か楽しそうに笑う)
戦闘:雑魚を担当。他の仲間とかぶらないように一体を受け持ち、早く倒せた場合は他の雑魚担当の助力を行う。
「援護も期待できるぶん、狩りよりずいぶん気が楽なもんだのー」(凶暴な笑みを見せる)
攻撃が厨房のほう(存命なら店主が転がされてるあたり)に攻撃が行かないよう、ちょっと注意。
自分の相手には近接して、近接アビで攻撃。援護の際は、仲間の攻撃を邪魔しないように遠距離アビで援護をする。
戦闘後:なるべく痕跡を残さないようにして(血を踏まないとか)して、立ち去る。
「んー、あんま達成感はないが、依頼完遂って事で喜んで良いんだよな?」
● ハンマーの城塞騎士・シグムント(c03302)
夜頃、客が減り始めた時分を見計らって店の前近くで待機。
目立たぬよう他の方と会話して、『食事後に店を出た所で屯って話している一団』を装おうかと。調度良いゆえ、作戦の最終確認でもしよう。
そうして客として入っているグリム殿の合図を待つ。
グリム殿の大声、ないし大きな物音が店内より聞こえたなら、武器を構え突入だ。
店に入り次第、マスカレイドの位置を探そう。
◎戦闘
召喚された雑魚マスカレイドの内一体を担当しよう。
仕留めた後、及び雑魚の担当者が人数過多な場合は、首魁の方に向かう。
何れにしても(存命であれば)店主殿から引き離す様に心がけ戦おう。とばっちりが行くと不味い。場合によってはこの身を壁とする。
使うアイビリティはパワースマッシュ。
防御より威力。夜とは言え街中ゆえ、出来る限り短期で終わらせたいのだ。
◎事後
店主殿には申し訳ないがそのまま放置で、出来る限り迅速に撤収だ。
バラバラに散開し、遠回りで帰路に着こう。
● ハルバードの城塞騎士・ウィレム(c04349)
外套を羽織り、悪目立ちしない程度の装いで店の入り口、ないし裏口で待機。
(武器が目立ちそうならさっと裏口へ回り)
仲間が店主を確保した合図と共に店内に突入。
俺は【犯人担当】だ。
店の中にただ一人居る客にハルバードを突き付け。
「お前が仮面憑き、だな?」
仲間とタイミングを合わせ、ハルバードで攻撃《疾風突き》。
リーチを活かして敵の胃酸を直接食らわない距離を図りつつ、
敵のバランスを崩す為に《疾風突き》で足元を狙ったり。
フォークとナイフの腕をハルバードでがっちり受け止める形で、その隙に仲間に攻撃して貰うな。
胃酸も多少は鎧でカバーも出来るし、な。
マスカレイド撃破後は人死にが出た現場として不自然の無いように店内をいじってから速やかに退散。
単に食べすぎで倒れたように出来りゃいいんだが、外傷があっちゃ仕方ないよな…。
● 太刀のスカイランナー・セラフ(c04414)
初めは、犯人が入った店の外で目立たぬように待機致しますの。
≪店主対応組≫が中で店長を確保したという合図があり次第、目立たぬように突入致しますの。
その後、犯人のマスカレイド化を確認し次第、戦闘を開始しますの。
犯人が雑魚を呼ぶまでは犯人を、
呼んだ後は【雑魚班】として雑魚と半分の分断を図りますわ。
極力、雑魚共を犯人と分断し、【犯人班】の邪魔をさせぬように上手く注意を引くように動きますの。
雑魚を撃破した後は、犯人への撃破に加わりますわ。
主に陽動で、犯人の動きを一点に絞らせないように、特にティルティアラ様を狙わせないように動きますわ。
終了後は即座にその場離れて置きますの。
● ナイフの星霊術士・ティルティアラ(c04513)
初依頼、どきどきするね〜…。
ボクは外で合図があるまで仲間と待機。
店主さんの保護は、グリムさんとセリスさんにお任せするね。
合図があったら店へ突入、グリムさん、シグムントさん、セラフちゃんとマスカレイドが召還した
雑魚を担当するよ。
敵との間合いを詰めて、「切り裂き 」で攻撃するね。
仲間のGUTSには常に気を配るようにして、
GUTSが三分の一切ってる仲間が居れば、敵と少し距離を置いて「星霊スピカ 」で回復を行うよ。
その時、カデリちゃんと回復が被らないよう注意するね。
基本は一対一だけど、自分と対峙してる敵を倒したら
他の仲間と協力して戦うよ。
マスカレイドが召還した雑魚を全て倒したら、犯人マスカレイドに参戦
仲間のGUTS次第で(あと一撃で倒れそうな場合)
は「星霊スピカ 」での回復を優先、
回復の必要がなさそうなら前に出て「切り裂き」で攻撃を
マスカレイドを倒したら、即撤収っ!!
悪者にされたらたまらないもんね!
<リプレイ>
●食堂帽子と眼鏡で変装した太刀のスカイランナー・セリス(c01658)とボタンがはじけ飛びそうな服を着た斧のスカイランナー・グリム(c01285)が歩くのに不自由は無いとは言え、すっかり天井が暗くなった裏路地にあるこの店に入って15分程が経過している。
「さて、そろそろかな?」
セリスがデザートを口に運びつつグリムに確認する。自分たちと男以外の客であったカップルが店を出てから5分程度経過しており、もう十分店から離れたであろう。男は入ってきた時と同じ様に追加注文をしながら料理を流し込んでおり、時折目だけを動かしてこちらを伺うものの、基本的には入口側を向いており、厨房に背を向けている。
「そうだねぇ、デザートがまだ残っているのがもったいないけど、皆もお腹空いてるだろうし」
グリムの言う様に眼前のテーブルにはセリスがメニューの端から全部という男らしい頼み方をしたデザートが所せましと並んでおり、もったいないのは確かだがあまり時間を掛けて不審な目で見られるのもよろしくない。目配せするとセリスは腰を上げ、音も立てずに厨房へ動き、グリムは伸びをしながら入口に向い、扉を開けた瞬間に声を上げる。
「みんな! 今だよ!」
7人が合図により食堂に雪崩込んだ。男は料理を流し込むのを止め、何事が起ったのか?と今入ってきた7人を凝視している。ハルバードの城塞騎士・ウィレム(c04349)が一番槍と言わんばかりにハルバードを男の眼前に突き出した。
「お前が仮面憑きだな?」
男の顔つきが傍目にも判るぐらい劇的に変化する。
「仮面が見えると……貴様らエンドブレイカーか! わしが食べるべき食材を奪うと! わしの食事を邪魔すると! 許さん! 許さん! 許さんぞ!」
許さんと叫びながら三度机を叩き、顔を上げた男には既にマスカレイドの象徴たる白い仮面。
「数を頼めばわしから食材を奪えると思うたか! なめるな!」
右腕をナイフに、左手をフォークに変じた男が雄叫びを上げると壁の辺りの景色が歪み、人型の物が現れる。コックの様な服を着て両手で巨大なフォークを持った者が4体、顔を覆うはマスカレイドの仮面。現れるや否やエンドブレイカー達を包囲する様に強烈な敵意をもって動き始める。
「卿ら、雑魚は任せたぞ。暴食の悪鬼よ、聖導騎士団団長、フリードリヒ・ライヒハート参る!」
獲物を豪快に一回転させ、槍の魔法剣士・フリードリヒ(c01655)が男に向って啖呵をきってウィレムの隣に並ぶ。
「食うのは構わんが、流石に人を食らう外道は成敗せねばなるまいて」
盾の城塞騎士・アダルバート(c00420)が盾を構えたまま、流れる様に移動し二人と男を挟んで反対側に陣取る。その後ろからはセリスと店主がもめているのかドタドタと音が聞こえている。
再度吼えた男にアダルバートがシールドバッシュで激しくぶつかり戦端は開かれた。
●掃討
アダルバートが男を吹き飛ばし、召喚された4体のマスカレイドの間に距離が出来た。
これに対して最も早く反応したのはハンマーの城塞騎士・シグムント(c03302)であった。一番厨房寄りに出現した1体に向って出縁付きメイスを叩き付け、左肩を強打されたマスカレイドは思わずたたらを踏む。
「悪は俺のメイスで叩き潰す……約束なのでな」
シグムントはフルフェイスから鋭い眼光で相手を見据えるとメイスを持った手首をくるっと一回転させ、裂帛の気合と共に再度踏み込んだ。
そのシグムントを狙いもう1体のマスカレイドが横から巨大なフォークを突き出そうとし、衝撃波を受け大きくのけぞる。暗殺シューズの群竜士・エキリ(c02680)が放ったレフトシュートである。
「室内で戦うのは初めてだが、さーて」
エキリは笑みを浮かべてコートをなびかせ、相手と見定めたマスカレイドに無造作に近寄り、正拳突きでマスカレイドを突きあげた。幾度かの攻防の後、突き出された拳とクロスカウンターの様に突き出されたフォークの串刺しがエキリの青い髪を散らし、流れ落ちる一筋の血で曇る視界の端に映る仮面……其れがニヤリと笑った様に見えたのは気のせいか? エキリの心臓打ちを受けたマスカレイドはどうと後ろに倒れた。
「獲物でないのが残念だ。お前ぐらいのを仕留めたら、しばらくは食うに困らんのに」
エキリはそう言うと目元の血を親指で払った。その血が床に落ちるのと殴打する連続音と共に巨大なフォークが床に落ち乾いた音を立てたのはほぼ同時であった。
「攻撃とは威力よ!」
シグムントの上下二段を食らったマスカレイドはメイスを体にめり込ませ、体をくの字に曲げ自らの獲物を取り落とした。
「ガッ、ガッ」
息をしようにも肺が機能してない事を表す様な声をあげそのまま崩れ落ち、二人は2体のマスカレイドが事切れたのを確認すると、仲間達を援護するために振り返える。
「させないよ!」
ナイフの星霊術士・ティルティアラ(c04513)はグリムが対峙しているマスカレイドに共に当たっていた。仲間の回復を気に掛けていたが、この4体相手なら問題ないと判断し、積極的にナイフを振っている。グリムの斧をフォークで受け止め、がら空きになったマスカレイドの胴に連続で突きを決めると、一旦離れて息を吐いた。
二人を相手にしているのでマスカレイドはかなり疲弊している様に見える。
「ちょっとだけ任せてもいいかなぁ?」
グリムの問い掛けに小さく首を縦に振り、再度ナイフを構えて前に出る。入れ替わる様にグリムが後ろに下がり向きを変える。
「なかなかやりますわね」
後ろでは太刀のスカイランナー・セラフ(c04414)がマスカレイドと激しい鍔迫り合いを繰り広げている。セラフは顔の左側を覆う様な仮面を付けているので、太刀とフォーク、仮面と仮面が攻守目まぐるしく入れ替わっての攻防が繰り広げられている。
「上からいくぞッ!」
グリムが声と共に机から跳躍し回転突撃でセラフと対峙していたマスカレイドに斧の一撃を喰らわせ、怯んだ隙にセラフの水平斬りがマスカレイドを捉える。倒れるかと思ったが、フォークを支えに踏みとどまり最後の力を振り絞りそのフォークを大きく薙ぎ払う。セラフは後ろに跳びのきそのまま手を床に着いて跳躍しティルティアラと対峙していたマスカレイドの前にギロチン斬りを放ちつつ降り立った。
「ガガッ」
意味不明の断末魔を上げマスカレイドが崩れ落ちるとセラフとティルティアラはお互いを見て、口元に小さく笑みを浮かべ他の仲間の援護へと移る。
●首魁
ウィレムが低い体勢から男の足元に向けて疾風の如くハルバードを突く! 其れに合わせる様にフリードリヒが高速で踏み込んでの一撃を繰り出し、側面からアダルバートが盾を構えて突進する。
男は攻撃を喰らいながらもウィレムをナイフで袈裟斬りし、アダルバートに胃酸を放つ。
「ええぃ、うっとうしい。動くと腹が減るではないか!」
その時、1匹目のマスカレイドが崩れ落ち、男の視線がそちらに泳いだ。
「隙あり、卿ら、畳掛けるぞ」
フリードリヒが白いマントと金髪の残像を残して切り裂き、間髪入れずウィレムが連続突きを繰り出し、胃酸を盾で防いだアダルバートがそのまま盾で顔面を強打する。
「貴様の様な外道の口にはコイツで十分だ!」
アダルバートの言に怒りに満ちた目を向けながら、フォークを捻りウィレムを突き、ナイフをアダルバートに振り下ろす。一撃を受けた二人は一旦距離をとり、フリードリヒも歩調を合わせて一旦下がる。
「ジュル、癒してあげて〜っ!」
後ろから響くティルティアラの声と共にウィレムの右腕に星霊スピカがキュっと抱き付いた。ウィレムの息が整い、4体を倒した仲間たちが合流し男に対して半包囲する様な陣を敷く。
切り結ぶ事、6合。ティルティアラのジュルは既に3度召喚され、床の血糊もかなりの量となっている、戦況はエンドブレイカー達の優位に進んでいるが、決め手を欠く状況に声が響く。
「アダルバート、盾を上に!」
店主を守る位置取りをしていた為、男を挟んで仲間と逆の位置にいたアダルバートは声に反応して盾を頭上に掲げる。その盾を踏み台に跳躍する影。
「御代を頂戴、それはお前の命だ!」
店主を拘束後、奇襲の隙を窺っていたセリスが回転しながら突撃する。それはまったくの奇襲となり男は完全に虚を突かれた。セリスの太刀が男の左肩に食い込む。攻撃を合わせたシグムントのメイスをフォークで防ぎ、グリムの斧をナイフで弾いたが、残りの攻撃をことごとく喰らい片膝を付いた所にフリードリヒの槍とウィレムのハルバードが突き出された。
「卿の一突き、見事」
フリードリヒが繰り出した槍の穂先が届く前にウィレムのハルバートの穂先が男の喉を捉え、男は肉片の混じった胃酸を撒き散らしながら大きく後ろへ倒れ、仮面が音を立てて砕け散った。
「美味しいところ、頂きだぜ」
ウィレムはハルバードを突き出した格好のままでフリードリヒに応えた。
●撤収
「んー、あんま達成感がないが、依頼完遂って事で喜んで良いんだよな?」
エキリがブーツに付いた血や胃酸を拭いている間にウィレムはある程度店内を片づけていた。
「胸糞悪ぃ奴ぶちのめしたし……飯でも食いに行くか?」
グリムの提案にセリスが手をひらひらと振りながら、
「こんだけの嘔吐物見て食欲はわかねーぜ、また会う機会があれば皆で飯を食おうぜ」
「まったくだ、この場を見られる訳にはいかぬ、引き上げるとしよう」
アダルバートがセリスに応じ、盾を拭いた布を床に投げ捨て立ちあがり出口に向かう。
次々と店出る中、エキリがひょいと机に残っていた料理をつまむ。
「あ〜食い逃げは駄目〜っ!」
目ざとく見つけたティルティアラが抗議の声を上げる。
「食事は貴重なんだぞ。腰落ち着けて食わんぶん、自制した事を褒めてほしいのー」
エリキの言にハッとしたグリムが近くの料理を探そうとしてセラフにたしなめられる。
「お行儀悪いですわよ」
グリムはもう少しデザートを味わってから作戦開始すればよかったと後悔しつつ扉をくぐる。
「バラバラに帰った方がよかろう。俺は少し遠回りして帰るとするよ」
ジグムントの提案に皆はそれぞれの方向に路地を歩き始める。
「まったね〜! お疲れ様〜っ♪」
ぶんぶんと手を振るティルティアラの声を残し、皆は暫く肉は要らないと思いつつ帰路につくのであった。