ステータス画面

白鱗緑皮

竪琴の魔曲使い・ミラ

<白鱗緑皮>

■担当マスター:桐谷なつみ


 元は居住区域であった荒れた下層から悲鳴が響く。
 巨大な二つの影が徘徊し、移動の邪魔になる目の前の障害を破壊していく。その自由気ままな行動はそれらには気分が良くとも、力のない者達にとって絶大な脅威であることは間違いなかった。
「あなたは逃げなさい」
 赤い染みの広がる瓦礫に足を挟まれた女性が、できる限りの優しい声で傍らの少年に言う。
「良い子だから、泣かないで……ね?」
 涙ぐむ我が子の目元を傷付いた指先で拭うと、赤い筋が頬に残った。
 異形の這う音が再び近付いてきている。どうにかしてこの子だけでも早くこの場から離れさせなければ。苦痛に歪む表情をなんとか笑顔に変えて、女性は続けた。
 ぱきり、と、どこかで気ままな移動に巻き込まれた誰かの骨が砕かれる。
「じゃあ、誰か助けを呼んできてちょうだい? 母さん、そうしたらきっと動けるようになるから……」
 焦りと痛みでもつれそうになる舌を懸命に働かせる彼女に向かい、少年はやっと顔を上げた。そのまっすぐな眼差しに女性は自らの誘導が成功したことを確信する。女性と目を合わせ強く頷くと――きっと声を出したら泣き出してしまったのだろう少年は無言で上層へ走り出した。
 少年の後姿が遠くなり、
「どうか……無事で……」
 獣の唸りが近くなる中、女性は安堵の笑みを浮かべ、その瞳を閉じた。

 竪琴の魔曲使い・ミラが擦り傷だらけの少年から聞いたのは、少年の暮らすスラムの惨状だった。貧しさから安全な上層へ転居することができなかった少年とその母親は、止む無く危険な下層に住み続けるしかなく、そして今回の悲劇に見舞われてしまった。
「お願いします、どうか皆さんの力を貸してください!」
 今回の件はマスカレイドが関わっているわけではないけれど、困っている人を放っておくことはできない。真剣な瞳で、ミラは集まった仲間達を見つめる。
 少年の話によるとスラムを襲った怪物は巨大な蛇と巨大な蛙のようなもので、その長い尾や舌で建物も壁も人も無差別に破壊しながら徘徊しているという。
「蛇に蛙ということですから、締め付け攻撃や踏み付け攻撃が予想されます。あと、その怪物達が通った道にネバネバの液体が残されていたそうなので、粘液での攻撃もあるかもしれません」
 そこまで言って、ミラはその大きな瞳を少しだけ伏せ目を逸らした。
「それから……彼のお母さんですが、状況を聞くに、多分……」
 助からないでしょう、と続けようとして唇を噛む。それを察したエンドブレイカー達も悔しそうに目を伏せた。
「これ以上被害を広げないために、悲しい思いをする人が少しでも減るように……スラムの怪物を倒してください。お願いします……!」
 スラムにはまだ被害を免れて生きている人もいるだろう。その人々を守るためにも一刻も早く現地へ向かう必要がある。
 深々と頭を下げるミラに、エンドブレイカー達は力強く返事をするのだった。

●マスターより

はじめまして、桐谷なつみといいます。
皆様が「エンドブレイカー!」の世界を楽しむためのお手伝いが出来たら嬉しいなぁと思います。よろしくお願いします。
オープニングの補足ですが、スラムにはまだ生存者もいますのでその辺りご配慮いただければと思います。今回はスラムの場所もちゃんとわかっていますので移動時間や方法は気にしなくて大丈夫です。
また、敵の大きさは蛇は全長10メートル、太さ2メートルくらいです。蛙のほうの全長は蛇の半分程度で、ずんぐりむっくりした体型をしています。能力等はオープニングにある通りですのでご確認くださいませ。
ここまで読んでくださってありがとうございました! 皆様のプレイングお待ちしております。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 大剣の魔獣戦士・ヒオ(c00141)
■心情
「…ココが下層…」
聞いたことはあったけど実際に来たのは初めて。
建物が壊れているのは二体が通った跡なのか
これ以上の被害を出させないためにも、早く奴らをブレイクしないと!

小さい頃から鍛えてきた腕っぷしを有効活用する時がきたのだ!

■作戦
二体の距離が離れてた場合…2班に分かれて其々討伐
二体の距離が近かった場合…全員で蛇から順に討伐

■班分け
[蛙]ゼルク/ゲイトン/セツナ/シャンディ/ビリー
[蛇]マキナ/アルマ/ヒオ/リーゼロッテ/アルフレッド

■行動
敵の攻撃が繰り出される前に一撃をお見舞いするのだ!
自分の背丈ほどもある大剣を器用に操り、ワイルドスイングを繰り出す

尾の動きには特に注意し、攻撃してきたら間を置いて回避。
それが無理そうな距離なら剣で防御。
仲間が締付けに遭ったら切断する勢いで救助!

敵が弱ってきたらビーストクラッシュで一気に叩く

■後
怪我人の救助と応急処置に徹する
「これくらいしかしてあげられないケド…」

● 弓の狩猟者・リーゼロッテ(c00359)
「退治退治……と」
今回は二体いるらしいから二手に分かれる
【戦法】蛇の相手をする方に決まり、蛇と対峙した際は皆とはやや違う地点、スラムの屋根や高台などからの遠距離攻撃を慣行します。
目に見えてかつ射線が取れている場合は弓による攻撃で取りづらい場合はファルコンスピリットを召喚し攻撃させます。
射つタイミングなどは味方が攻撃した際蛇が怯んだ所や攻撃体制や威嚇の際の位置固定を狙い撃ち。鱗が堅い場合は腹部及び口と目に狙いを定めます。
【移動】基本はメンバーと一緒にだけど先行して敵の捜索に出ます
蛇の中には温度で識別するタイプがいるので一応注意する
蛇、もしくは蛙遭遇の際は笛をならしファルコンスピリットを上に向けて放ちます
「さて……矢の痛さ思う存分受けるといいで」

● 剣の星霊術士・アルフレッド(c00577)
標的は2体……
力のほどは不明だが、少なくとも建造物を易々と破壊して回るような奴だ。
戦力を分散させるのに少々不安もあるものの、
スラムに残る生存者のことを考えればあまり悠長なことも言っていられない。
俺はマキナ、アルマ、ヒオ、リーゼロッテと共に蛇の退治に向かう。

蛇と遭遇したら戦闘開始だ。
蛇と蛙が同じ場所に居た場合にはまずは蛇に攻撃を集中。
俺も剣を振るい戦うが、周囲に生存者が居た場合にはその救出・避難を優先。
誰かが深手を負うようなことがあった場合には、
素早く後方へ下がり『星霊スピカ』で回復を行う。

怪物はそれぞれ長い尾や舌で攻撃を行って来るようだが、
出発前に情報を得た『締め付け』『踏み付け』『粘液』にも十分警戒しないとな。

二手に分かれる上での簡易連絡手段として笛を用意。
怪物の力が強く合流が必要と判断した時には1回、
無事退治出来た時には聞き逃しも考慮して間を置かずに連続で3回笛を吹く。

● 扇の魔獣戦士・シャンディ(c02022)
【作戦】
基本…二手にわかれる
敵が同時に場合、前衛がそれぞれ抑えつつ攻撃。
後衛が片方を集中攻撃。(優先順位…蛇)
また別々の場所に居た場合は、蛙・蛇に分かれてそれぞれ討伐。
互いの合図は笛の音。
生存者は担当者が保護。
【班】蛙担当
前、ゼルク・ゲイトン・セツナ 後、シャンディ 生、ビリー

【役割】後衛(前衛)
・流水演舞
火事が起きた際の消火
謎の粘液の洗い流し、ならび防御
敵移動の際には水流による進路妨害と誘導
ともに攻撃
・ビーストクラッシュ
上記の役割を果たしつつ
手が空いている場合には魔獣化による近戦攻撃
体力が1/3になり次第ドレイン20による回復

行動としてはチームと一緒に。
周りの状況を常に確認して、消火や洗い流しを行う
攻撃はかわせるものはなるべくかわし、反撃へ
行動はあせらず正確に、すばやく!

● 大鎌のデモニスタ・アルマ(c02210)
基本は作戦通り、前衛として蛇を攻撃する。「黒旋風」で白い鱗を剥ぎ散らしてくれよう。人のいない広い場所があるならそこへ誘い出す。
こちらは数で優位である。味方の動きに対し敵を囲う形になるよう、回り込む。
味方が締め付け攻撃を受けたときは、即座に鎌を蛇の胴に突き立て救出をこころみる。

● 大剣の魔獣戦士・ゼルク(c02459)
皆で話合った通りに、二つの班に分かれて二手に分かれて蛇と蛙を同じとこへおびき寄せて、そこで一気に叩きこむという作戦だぜ。

俺は蛙を見つけたらでかい声で叫んでおびき寄せる。蛇がいる場所と同じとこにおびき寄せたら戦闘開始だぜ!。ゲイドンとセツナ達とデカい蛙を攻撃だぜ。俺はビーストクラッシュとワイルドスイングを交互にそいつに叩きこむ!

● 太刀の魔法剣士・マキナ(c03181)
【目的】
・スラムで破壊行動を行っている蛇・蛙の化物を殲滅。
・逃げ遅れた人々の救出。
【行動】
目標が分散していた場合は、被害の拡大を考慮し予め決めておいた班ごとに二手に別れる。前衛が敵を押さえ、後衛は生存者の救出も行う。
俺は蛇の撃破へ向かう。前衛に位置し、仲間と連携し攻撃。蛇を撃破した後は蛙の攻撃に移る。
目標を発見したらダッシュして接近。攻撃には主にアビリティ・居合い切りを使用。蛙が近くに居る場合は、アビリティ・残像剣も併用し、プラスワン効果による蛙への攻撃も試みる。
戦闘の際は街や住民に配慮、そちらへ攻撃の被害が行かぬよう目標と此方の立ち位置を気に留めておく。
敵が弱り始めたら逃走の可能性を考慮、退路を遮断できるように動く。
締め付けや粘液による攻撃は、動きを阻害される事を警戒しておく。地面の粘液は踏まないように注意。

● 爪のデモニスタ・ビリー(c03336)
敵は移動だけで被害広げる巨体、速やかに探して討たないと新たな被害出しかねないネ。
まずは大きな物音や粘液辿って速やかに敵の元へ。

しかしこの粘液、触れると厄介そうあるな…戦闘中も気をつけたい所

◆戦闘

蛙班と蛇班二手に別れて行動するネ。
ワタシは蛙班で行動ある。

*事前に、班同士の合図用に笛を用意
戦闘が終わったら笛三回鳴らして合図
もう一班が笛一回で答える筈なので、そちらへ加勢に。
逆にこちらが戦闘中に笛三回の合図聞こえたら、笛一回鳴らして居場所伝えるある

・蛇蛙いっぺんに遭遇した場合
全員で一気に戦闘に。
それぞれの前衛担当が抑えてる間に、後衛が蛇→蛙の順に一匹ずつ集中攻撃で倒す算段ネ

・蛇と遭遇→蛇班に任せ蛙を捜索
・蛙と遭遇→蛙班メンバーで戦闘


【役割】
後衛からの攻撃と生存者の保護

戦闘時は後衛からデモンフレイムで攻撃あるが、
周辺や瓦礫の下に生存者が居た場合はそちらの救助を優先に行動。
安全な場所まで避難して貰うヨ

● ハルバードの群竜士・ゲイトン(c03982)
事前準備に、ランタンか松明などの灯りを複数用意する。万が一、下層が暗く、明りが必要ならば予めメンバーに配布。
現地へ向かう際、蛇と蛙、それぞれの対策班に別れる。
蛙】
前衛:ゼルク・セツナ・ゲイトン
後衛:シャンディ・ビリー(生存者避難誘導)
蛇】
前衛;マキナ・アルマ・ヒオ
後衛:リーゼロッテ・アルフレッド(生存者避難誘導)
敵との遭遇前に要救助者を発見した場合、我々の来た道を戻るよう避難させる。
蛇と蛙との交戦地点が別個の戦場になる場合、蛇と蛙の担当班はそれぞれの標的に向かい、各個撃破を行う。片方の戦闘が早期終了した場合、そちらはもう一方へ急ぎ援軍に向かう。
蛇と蛙が同じ戦場にいる場合、前衛は各々の担当する標的と交戦を開始する。後衛は担当に関わらず、蛇を優先して攻撃し、撃破後は蛙に目標を変更。
ワシは戦闘時、『龍撃拳』を使用して攻撃。蛙が逃走等の様子を見せれば、しがみついてでも阻止。
粘液を吐きそうなら周囲に警告。

● エアシューズの群竜士・セツナ(c05429)
作戦は二通り、蛙と蛇が一緒にいたら全員で一緒にぶん殴る
別々にいたら二手に分かれてぶん殴る
念のためにあらかじめ連絡用の笛を持っておくぜ

俺は蛙を相手にする。正直あんま好きな生き物じゃあねーが、蛇だってそいつは同じだ
両方が一緒にいた場合は蛇を優先して倒す事になってるが、どちらにしても蛙を足止めする事になってる俺にはあんま関係ねえな
別々の場所にいた場合は笛を1回吹けば援護要請、間を置かず3回吹けば討伐完了の合図とする事になってるが、この時複数人が同時に吹いて混乱しねえように気を配らねーとな
戦闘中は積極的に前に出る。多少は打たれ強い方だと思うし、何より俺の性に合ってる
攻撃は竜撃拳を主軸に。敵の粘液の効果が気になる所だが、隙がありゃあ大抵の異常は竜の呼吸で治せるみてーだしな
粘液で拳が滑ったりとかアレな場合はソニックウェーブでの攻撃も織り交ぜてみるか。多少は違うかもしれねえし

生存者の救出は仲間に任せるぜ

<リプレイ>

●荒れた地
 かつては家屋であったのだろう硬い土や石、折れた木が『道』を造っている。
「……ここが下層……」
 大剣の魔獣戦士・ヒオ(c00141)は初めて見る下層、スラムの様子に目を見張る。ただでさえ荒廃していたであろう場所が酷く崩れているのは、二体の怪物が通った跡だろうか。
 例の粘液の影響やらが醸し出す雰囲気のせいか、実際に光源が少ないのか。スラム全体を薄暗く感じるが明かりが必要なほどではないようだ。備えあればなんとやら、と簡単な灯を用意したハルバードの群竜士・ゲイトン(c03982)は軽く安堵の表情を見せた。生存者の救助と戦闘が待っているのだ、身軽に越したことはない。
 改めてスラムの惨状というものを認識した一行の中、剣の星霊術士・アルフレッド(c00577)は赤茶色の瞳をどこか辛そうに細めて、
「何処でも似たようなもんだな……弱者を取り巻く環境ってやつは」
 過去に思いを馳せるように、呟く。これ以上の蹂躙を許すわけにはいかない。悲しい思いをする者は一人でも少ないほうがいい。アルフレッドが過去に抱いた『思い』を、これ以上誰かが抱くことのないように。
 深刻な表情を浮かべる面々とは対照的に、大剣の魔獣戦士・ゼルク(c02459)は期待に胸を高鳴らせていた。
(「これが俺のエンドブレイカーとしての初仕事。わくわくするぜ!」)
 そして――思考をさえぎるように何かが崩れる音と這いずるような音、誰かの悲鳴が複数、響く。音の方向へ迷わず走り出したエンドブレイカー達の前で白い鱗がぬめりと光った。巨大な体躯をくねらせ奇妙な咆哮を上げる蛇。今出来たらしい瓦礫の下からは白い腕が覗いている。
 蛙の姿は、ここにはない。軽く目配せをし合うと事前に打ち合わせていた通り半数はもう一体の捜索へ向かう。
 場を戦場特有の緊張が覆い、
「先に被害者の救助を」
 大蛇をその鋭い眼光で見据えたまま、太刀の魔法剣士・マキナ(c03181)の美しい太刀が閃く。怪物の鼻先をかすめた刃をそのまま鞘に収め、彼は居合いの構えをとった。
「化物には化物の事情が有るのだろうが……人間の事情に踏み込んだのが間違いだ」
 一瞬怯んだのか怪物は動きを止めたものの、その冷たい眼は自由な破壊行動を邪魔された怒りで彩られている。対峙するマキナは感情の色を何も浮かべず。しかしはっきりとした意思を声に乗せた。
「……消えて貰う」

●白鱗
 この場に蛇班として残ったのはヒオ、アルフレッド、マキナ、そして弓の狩猟者・リーゼロッテ(c00359)と大鎌のデモニスタ・アルマ(c02210)の五人だ。ヒオとマキナが怪物との距離を詰める中、リーゼロッテとアルマは戦況を有利にするために各自の思う最善の場所へと素早い移動を試みる。
 周囲の生存者の保護に回ったアルフレッドは先程の瓦礫の下から助け出した男性と子供を支えつつも、まだ妻が、と呻く男性の声を聞き逃さなかった。
「あまり戦場を広げないでくれ! まだこの辺りに人が残っているらしい!」
「わかったのだ!」
 アルフレッドの言葉に仲間が呼応する。生存者がいるであろう場所を庇うように陣形を整え、
「んじゃ、いくよ? ボクよりも重い攻撃だよ!」
 行動する隙など与えないと言わんばかりに、その背丈ほどもある大剣をまるで自分の一部のように扱うヒオが、低姿勢に構えたそれを一気に蛇へと叩き込んだ。剣が地面を削る派手な金属音と火花が斬撃の威力を如実に物語る。蛇の白く硬い鱗が一部分、大剣の軌道に沿って弾け飛んだ。
 瞬間、そのときを狙っていたリーゼロッテの矢が鱗を失ったやわらかい部分を刺し。蛇の長い尾が瓦礫の上でのたうつ。
「退治退治……と」
 リーゼロッテは他の蛇班メンバーからは少しだけ離れた、破壊されずに残っていた建物の屋上で弓を引き絞っていた。片眼鏡をかけ、しっかりと照準を合わせる。この位置からなら蛇に狙いを定めることは容易だ。鷹のスピリットを操ることも考えれば良い位置だろう。
「さて……。矢の痛さ、思う存分受けるといいで」
 白い指に力を込め、敵の隙をついた最高の瞬間を狙う。照準もタイミングも心得ていた。
 正面ではなく大蛇の側面へと回り込みながら、アルマは周囲の様子を確認する。アルフレッドが救出活動をしている場所は蛇から近いもののカバーに回れる場所ではある。それに、怪物が自ら造り出した更地、というのが複雑ではあったが、戦地としての広さは充分に思えた。大鎌を猫背気味に独特の姿勢で構え、回転の勢いを加えた技を繰り出す。
 しかし尾のほうへ移動したのを怪物は見逃さず、その巨体からは想像出来ない速さで太い尾を振り上げアルマの身を拘束した。
「ッ!」
 先の割れた細い舌を嬉しそうに覗かせ大蛇は尾に渾身の力を込める。が、
「アルマっ!」
 すぐさまヒオの大剣が振り下ろされ、蛇はたまらずその尾を緩めた。
「……やはり厄介な尾だな」
 研ぎ澄まされた刃でマキナも加勢する。素早い動作で繰り出される攻撃は蛇の尾に致命的な裂傷を与え、隙間を縫うように放たれるリーゼロッテの矢も確実に敵の生命力を奪っていた。体勢を立て直したアルマの大鎌も白鱗を散らし。
 苦しみ悶え鎌首をもたげて力を振り絞ろうとしたときには、もうこの怪物の最期は決まっていた。
 白い大蛇が最期に見たものは、大鎌を振り上げる獣骨面の男。
「貴様の鎌首、この大鎌で切り落としてくれよう!」
 斬、と肉の切れる音と共に巨体はくずおれる。衝撃で地面の瓦礫が舞い、蛇のような怪物だったものの上にぱらぱらと落ちた。左手で印を結ぶアルマの弔いの言葉と相まって、それは少しばかり土の足りない埋葬のようにも見えた。
『……、……、……』
 甲高い笛の音が三度、響く。リーゼロッテが蛙班へ向けて吹いた討伐完了の合図の笛だ。同じ音がこの音より前に聞こえていないということは、蛙の化け物との戦いはまだ続いているということなのだろう。返事として聞こえてきた笛の音の元へ一同は向かうのだった。

●緑皮
 蛇班と分かれた蛙班――ゲイトン、ゼルグ、扇の魔獣戦士・シャンディ(c02022)、爪のデモニスタ・ビリー(c03336)、エアシューズの群竜士・セツナ(c05429)の足元に粘液が目立つようになったのは蛇班から少し離れた辺りだ。ぬめる緑色の大きく丸い後姿が跳ねる度、屋根の低い建物は更に屋根を低くしていく。
「さっきのヘビも凄かったあるが、こんなデカイの初めて見たヨー!」
 思わずビリーの瞳が輝いてしまうのは爬虫類、両生類などが大好きな者の宿命である。しかしすぐにその表情を引き締め。
 蛙も蛇も大好きだが、自らの出身もスラムであるビリーにとってはこの街の安否が大切だ。
「必要性無しに人殺す、コレ最悪ネ!」
 蛙という生き物の特徴を持った化け物だからか蛙の通った跡は非常に幅が広く、早く倒さなければ今以上に大変なことになってしまう。
 各々の武器を持つ手に力がこもる。巨大な後姿へと攻撃を仕掛けるため距離を詰め始めたそのとき、
「化け物おおおっ! こっちだぁぁぁああああっ!!」
 怪物をおびき寄せようと画策したゼルクの大声が場に響き渡った。
 ぴたりと動きを止めた蛙の、ぎょろりとした眼球がエンドブレイカー達を睨み付ける。先程の蛇と同じ怒気を孕んだ目。振り向いた大蛙は青い舌をまるで鞭のようにしならせ、ゼルクに向かって叩きつけた。
「させねえ!」
 だが、その舌はセツナの拳に阻まれる。
「猛者との戦い血が滾るわ!」
「覚悟なさい。手加減して差し上げるほど、私は優しくはありませんの」
 ハルバードを構えるゲイトンの横で、シャンディも可愛らしい笑顔を浮かべながら扇を構える。攻撃が思うようにいかなかった怪物の苛立った咆哮。それが、本格的な開戦の合図だった。
 ゼルクの大声で完全に蛙がこちらに意識を向けたのが功を奏して、必要以上の建物の倒壊を防ぐことが出来そうだ。他の四人が蛙の討伐に集中している間にビリーは周囲の様子を見回し、生存者の保護を急いだ。
 豪奢な、幾重にも重なったフリルワンピースを涼しげに身にまとい、シャンディは舞うように扇を繰る。ビリーの動きをしっかりと目で追いフォローするように、水流が敵を翻弄した。
 積極的に蛙へ拳を繰り出すセツナ。力強い拳はエンドブレイカーとしての信念を抱く心、人々を救う心に突き動かされる。
(「俺の拳は朝から晩まで巻き藁突く為にあるんじゃねえ。ふざけた理不尽をブチ壊す為にあるんだ」)
「だから余計な事は考えねぇ、思いっきりぶん殴る!」
「ぬうりゃあ!」
 雄叫びを上げながら戦うゲイトンもまた竜の力を武器に宿らせ敵を貫き、ゼルクの獣化した腕は緑色の皮を切り裂く。シャンディは危険だと思われる粘液を瓦礫ごと洗い流し。柔らかい笑みを唇に乗せ、扇を動かす度、豊かな金の髪がゆるやかに踊った。
 大蛙が攻撃を外した隙を付いた、一際踏み込んだセツナの一撃が勝敗を決する。
「これで終いだぜ」
 パンッ! という破裂音にくぐもった断末魔が重なり、巨大な怪物の身体は荒れた地面に沈んだ。動かない怪物を自らの拳越しに見つめ、
「……魔拳刹那・未完成」
 竜の力を込めた一撃の名を、今の自分の『最大限』を呟く。
 生存者の避難をひとまず終わらせたビリーが合流しに戻ろうと走り出したとき、討伐作戦前に決めた笛の音が蛙班の耳に届いた。あちらも無事に終わったのか、と皆で胸を撫で下ろす。
「こちらの討伐も終わりましたけれど、何も知らせなくては心配させてしまうかも知れませんものね」
 すう、と思い切り息を吸い込んで、同じリズムで返事を吹いた。
 砂埃を含む乾いた風が音を運ぶ。それは、このスラムの脅威がひとつ取り払われたことを示す音でもあった。

●『下層』という場所
「これくらいしかしてあげられないケド……」
 合流後、ヒオは避難させた下層の住人達の怪我の手当てを買って出た。セツナ、シャンディも手当てに手を貸している。特にシャンディは胸の内に抱えるかつての痛みがそうさせるのだろう。
 一仕事終えた労いの言葉をリーゼロットと交し合うアルフレッドは珍しく人懐こい表情を浮かべ。
 生存者は素直に助かったことを喜ぶ者、深く沈みこみ嘆く者、苦痛に涙を流す者と様々だったが、エンドブレイカー達の姿を見ると皆頭を下げて様々な言葉で礼を言った。
「……これだけ救えたと見るか、これしか救えなかったと見るか」
 破壊されたスラムを見遣り、マキナは呟く。助かった命は、目の前にある。それは確かなことなのだけれど。
 目を伏せ、マキナは頭を振った。所詮、俺はただの剣に過ぎないのだ、益体もないことを考えた、と。
 避難所となっている、上層に割と近い場所から少しだけ離れた地点に、ゲイトンとビリーの姿があった。隣には、擦り傷だらけの少年の姿も。
「少年、泣くなとは言わぬ」
 残念ながら、少年の母の遺体は見つけることが出来なかった。
「だが勇気ある母御殿は、立派にお主を守りきったのだ。ならばありがとうと、自分は大丈夫だったと、笑顔で天に送ってやろうではないか」
 ゲイトンは少年の肩を力強く掴み、少年の瞳を見つめる。励ましの言葉は少年の心に届いたのか、絶望から少しだけ瞳の色を取り戻した彼は静かに頷いてみせた。
 その様子を側で見守りながら、ビリーも少年の未来が明るいものであることを願う。
 そして塞がれた空を、天井を仰ぎ見て思うのだ。エンドブレイカーとなったとき、自分が見上げた青空のように。
(「こゆ子が、いつか本当の空の下で、幸せに笑えれば良いあるなあ……」)
戻るTommy WalkerASH