<偽りの愛、歪んだ心>
■担当マスター:郷雪マリア
「ねぇヒュイット、いつになったら結婚できるかな?」
人影がまばらになった夜道を寄り添って歩く、男女の姿があった。一日たっぷりとデートをして、男が女を家へ送っていく。よく見られる光景だ。大通りの先には女が住む家がある。庭師を始め使用人を何人か雇っている裕福な家だ。
男――ヒュイット・グロウは繋いでいる女の手を引き、細い裏路地に入った。ぎゅっと抱きしめると、女は嬉しそうに背中に手を回す。
「店を出せるまであとちょっとなんだ……お金、もうちょっと貸してくれないか?」
「……また?」
それまで幸せそうだった女の表情が硬くなる。
二人は結婚の約束をしていた。口約束に過ぎないが、ヒュイットが自分の店をもって女の両親に認めてもらえるようになったら、という条件で。それを手助けするために、女はこれまで何度もヒュイットに金を出していた。早く一緒になりたい一心で……。
「前は、これで最後だって言ってたよね?」
「また入用になったんだ。分かるだろ? 商売っていうのは簡単じゃ――」
「じゃあ、キスしてよ」
ヒュイットは結婚する前にそういうことをするのは良くないと言って、今まで一度もキスをしたことがなかったのだ。
「ねぇ、私のことを本当に愛してるのなら……ッ!」
「あー、うるせぇなぁ」
ヒュイットは声を荒げた女の口を手で塞ぎ、もう片方の手で首に手を添える。ゆっくりと、力を込めていく。
「そういうウザいことを言わなきゃ、もうちょっとは幸せなままでいられたのになぁ? さすがのオレでも、お前みたいに家柄だけが取り得の女とキスまでするのは勘弁だわ」
首に加えられる圧力に女は激しく抵抗したが、ヒュイットは平然とした顔でさらに力を込める。段々と抵抗が弱くなってきた。
「金は充分溜まったし、もういいよ、オマエ」
首からごきりと鈍い音がすると、僅かに痙攣して両腕がだらりと垂れ下がる。手を離すと女は力なく石畳にくずおれた。
ヒュイットは大きなあくびをすると、何事もなかったかのようにその場から立ち去った。
商店が立ち並ぶ通りの片隅に、ちょっとした空き地がある。
そこに十人ぐらいの人間がたむろしていた。一人だけ立っている金髪の少女が、真剣な顔で熱心に話している。その内容は物騒なものだった。
「殺された女性の無念は、どんだけだろうなぁ……」
エアシューズのスカイランナー・ジェシカは、悔しそうに呟いた。たむろしていたのはジェシカとエンドブレイカーたちで、知っている情報を交換していたのだ。マスカレイド絡みの事件を放置しないためにも、情報交換は重要になる。
「そのヒュイット・グロウっていうマスカレイドは、繁華街の一角にある宿に身を隠してるんだ。毎日昼には外出して、昼食を外の店で食べるみたいだぜ。やっぱり、人を騙して殺した報いはキッチリ受けてもらわねぇとな」
ジェシカが物騒な笑みを浮かべる。
泊まっている宿はなかなかに高級な所で、入り口や中のそこかしこに屈強な男が立っているし、宿泊者の許可がない者を部屋へ通すこともない。宿へ突入して部屋を探している間に、逃げられてしまうだろう。
狙うのはやはり、宿から外に出たときか。ヒュイットは酷い女好きで、容姿が整った女を見ると近づいて声をかけてしまうらしい。それを利用して人気のない場所にでも誘い込めば上手くいくかもしれない、というわけだ。囮役がヒュイットを誘導するとしても、繁華街の人ごみに紛れた仲間たちのサポートが受けられる点は安心だ。
「一応言っておくけど、マスカレイドを倒した後はすぐにその場から離れるようにな! マスカレイドだった人間の死体を見た一般市民は、マスカレイドを倒したエンドブレイカーを、殺人犯扱いするかもしれないからな」
ジェシカは親指を立てて、幸運を祈るぜ! と激励した。
●マスターより初めまして。この度マスターの任に就きました、郷雪マリアと申します。このシナリオを皮切りに、皆様と一緒に『エンドブレイカー!』の世界を楽しみつつ、物語を紡がせていただければ嬉しいです。 舞台は繁華街ですので、多くの人が道や店を賑わせています。ヒュイットはキレイな女性を見かけると近寄ってきますが、繁華街ですから他の男がナンパしてくる可能性もあります。上手く人気のない場所に誘い込んでください。 今回のシナリオですが、敵はヒュイット・グロウという男のマスカレイドが一人と、雑魚の人間マスカレイドが三人になります。 ●ヒュイット・グロウ とても力が強く、片手で骨を握り折ってしまうほどです。全体的に筋力が強化されていますので、掴み合いにはご注意ください。武器としては棘のついた金属製の籠手を装備しています。 ●雑魚の人間マスカレイド × 3 力は弱いですが素早い身のこなしで、毒の短剣を装備しています。 小心者で、びくびくしています。 皆様のご参加をお待ちしております! |
<参加キャラクターリスト>
● 竪琴の魔曲使い・アイネ(c00902)
● 扇のデモニスタ・マロン(c01006)
● 杖のデモニスタ・ソゥシェ(c01029)
● 鞭の星霊術士・ハサン(c01623)
● 爪の魔獣戦士・ヒルドルブ(c01962)
● 大剣の城塞騎士・ビアンカ(c02421)
● 槍の魔獣戦士・リュウヤ(c03523)
● 鞭の狩猟者・エーリア(c03738)
● 弓の狩猟者・リアン(c04244)
<プレイング>
● 杖の星霊術士・アイリス(c00396)
●事前準備
現場や撤退経路の下見をしておこうか
戦闘場所は人気のない、十分な広さの空き地が理想だね
●〜戦闘
ヒュイットの誘導は他の人にお任せで
おっさんは戦闘場所で待機、みんなが来るのを待つよー
誘導班が到着、すぐに戦闘になったときに、敵に後ろを取られないような位置にいないとね
時間があったら戦闘の邪魔になりそうな物は可能な限りでどかせないもんかねー
●戦闘
おっさんは終始後衛に位置
敵から10m以上の距離を取って、敵のダッシュ攻撃は前衛さんに防いでもらいたいな、と
基本は積極攻勢、マジックミサイルで雑魚3体の弱ってる奴から攻撃するよー
回復は多分3回くらいしか使えないからなるべく節約かな
集中的に狙われたら耐えられない子に星霊スピカを召喚しようか
誰を回復するかを明言して動けばわかりやすいかなー
●撃破後
戦闘不能者を介助しながら急いで撤退
動かしたりとか死体を目立たないように細工できたら良いけど時間なさそうなら諦めよう
● 竪琴の魔曲使い・アイネ(c00902)
●自前準備
下見にはついていけたらついていくよ。でももしついていけなかったら仲間に教えてもらうよ。
場所、わかんないと大変だからね…。
●戦闘前
ヒュイットに気づかれない程度で囮のふたりの見える場所にいるよ。
もしも目的以外の男の人が囮の人に近づいてきた場合はこっちから逆ナンでも何でもして引き離しちゃいますっ!
そうなったら後でその男の人振り払って合流するね。
で、他のサポート班の人たちと一緒に戦闘場所までいくっ!
●戦闘中
わたしは後衛で戦闘するよっ
誘惑魔曲とディスコードを状況によって使い分けるよ。
いざというときはディスコードで雑音ならして相手の精神を破壊する。
●戦闘後
わたしが戦闘不能になっていなければ戦闘不能の仲間を助けつつ撤退するよ。
ひとりで不可能な場合はまわりの仲間に助けを求めるね;
● 扇のデモニスタ・マロン(c01006)
【ポジション】
囮役をやるよ。エーリアにゅが見える位置で単体でいたいと思うの。
ヒュイット以外が声を掛けてきたらサポート班の男性に助けてもらうです。
【下見】
下見にはついていくか、時間がなかったら場所だけ聞くの。
【戦闘前】
ヒュイットが声をかけてきたら先導されないように「二人で話したいわ。静かな穴場を知ってるから行きましょう?」と戦闘場所まで連れていくの。その際は大人っぽい口調なの。
もしヒュイットがエーリアにゅに声をかけた場合、サポート班に混ざって戦闘場所まで行くの。
どちらも声をかけられなかったら、エーリアにゅ→ボクの順番で声をかけるの。どちらかが成功したらいいの。「ねぇねぇ、私と一緒に遊ばない?」
【戦闘中】
その場にいるメンバーに合わせて臨機応変に前衛・後衛は変えるの。最初は一旦離れるためにデモンフレイムをヒュイットに放って遠ざかるの。それからはデモンフレイム・流水演舞を使って戦闘なの。
● 杖のデモニスタ・ソゥシェ(c01029)
【事前準備】
ヒュイットを誘い出しやすく、人気のない、十分な広さの空き地を町を探索して見つけておくぜ。
【流れ】
オレは事前に見つけておいた戦闘出来そうな場所で待機する班だからヒュイットが現れるまで待機。戦闘では後衛を担当するから空き地の入り口からなるべく離れたところに居ようと思うぜ。
【戦闘】
戦闘は後衛を担当するぜ。
雑魚→ヒュイットの順番に撃破
ヒュイットも合わせ、敵の残り人数が2人になるまではマジックミサイルを弱ってる敵、もしくは逃亡しようとしている敵に対してに優先的に使用しするぜ。
敵の残り人数が2人になりしだい、デモンフレイムに切り替えて単体撃破を狙うぜ。
【戦闘後】
オレが戦闘不能に陥っていなければ、辺りを見渡してけが人がいないか確認するぜ。もし怪我人が居るようなら、肩とか貸して退散の手伝いをするぜ。1人じゃ無理だと判断したら手の空いてそうな人に声をかけるぜ。
● 鞭の星霊術士・ハサン(c01623)
全く人目につかず、十分に広い空き地などを地図で複数選び、なるべく全員で下見し、誘導先を決めます。その後、待機班と別れ繁華街。
繁華街では、見つからないように囮役を見守ります。ただし、下見をできていない仲間には誘導先を教えます。また、ヒュイット以外のナンパがしつこければ、近づいて男友達のふりで追い払います。
ヒュイットの誘導になれば、見つからず、囮役の危機には飛び出せるように追行。
誘導先で仲間とタイミングを合わせ奇襲。逃走しそうな敵、後衛に攻撃しそうな敵、弱っている敵、雑魚、ヒュイットの優先順で、逃走を防ぎつつ「捕縛撃」で攻撃します。ただし、自分が倒されそうになれば、後退。
回復しなければ倒される危険があり、アイリスさんが間に合わない虞がある仲間(自分以外)には、攻撃より優先して「星霊スピカ」で回復します。なお、GUTS < ダメージ累計となっても使用。
倒したら、戦闘不能な仲間を助けつつ素早く撤収します。
● 爪の魔獣戦士・ヒルドルブ(c01962)
【サポート班】として行動するぜ。
【事前に】
囮班のサポートをする前に一回誘導する場所を下見するかねぇ
【サポート】
囮班のサポートだな。まずは目立たないようかつ
見つからないように見守るぜ。
基本はヒュイットがナンパするまで待ち。
ヒュイット以外のナンパがしつこいようだと協力して
追い払う(具体的には男友達のふり)
囮が成功して移動した場合は気づかれないように追跡するぜ。
【戦闘】
で、戦闘は後衛の壁が妥当だな。
まずは待機班と協力して奇襲。
ヒュイットじゃなく周りのやつらからだな。
特に逃げそう奴から倒すかねえ。
毒短剣だからそこを気をつけて攻撃だな。
ヒュイットは近接は危ねぇから攻撃したら間合いを取る
ヒットアンドアウェイでいくぜ♪
できる限り毒攻撃を食らわせるようにするか。
【戦闘後】
俺が戦闘不能になってなければ怪我人連れて退散するか
● 大剣の城塞騎士・ビアンカ(c02421)
心情
『恋は盲目というけど、ある程度貢いだ時点で気付けば、違ったエンディングだったんじゃない・・・?』
事前準備
仲間と一緒に戦闘に使える路地裏を探す
見つけたら待機班なのでその場で待機
戦闘
前衛で壁役
ディフェンスブレイド主体で雑魚〜ヒュイットの攻撃優先
雑魚の数が減って数的優位に立ったら、ワイルドスイングにアビを変更して一気に攻勢に出る
回復のタイミングは後衛に一任
戦闘後
ヒュイットから財布を抜き取り強盗の仕業に偽装して現場を離れる
抜き取った財布は被害者の墓前に供えて冥福を祈る
セリフ
「恋は盲目・・・か。私には縁のない言葉ね」
「来たか・・・、害虫退治の始まりね・・・」
「あんたの欲望に歪んだ業(カルマ)、私が粉砕してやるよ」
「欲望を抱くのは悪い事じゃない。だが身の丈以上の欲望は、己を滅ぼすだけだ・・・ってね」
「全額じゃないけど、少し取り戻して来たよ。・・・これで少しは溜飲下がったかい?」
● 槍の魔獣戦士・リュウヤ(c03523)
【誘導場所の下見】
事前に、戦闘が出来るだけの広さがある、人気のない空き地を探すぜ!誘導が失敗した時のことも考えて、一箇所ではなく複数探す!
【誘導場所にて待機】
囮&サポート班がヒュイットを誘導してくるのを身を隠して待つ!囮&サポート班がヒュイットから距離をとったのを見計らい奇襲!
【戦闘】
ポジションは前衛で、槍の疾風突きで敵を攻撃するぜ!特にヒュイットの動きに気をつけながら、雑魚を優先して狙うぜ!雑魚の中でも一番体力減ってるのを優先して攻撃するぜ!雑魚が片付いたらヒュイットに攻撃だぜ!
【戦闘後】
周りを確認し、動けない仲間が居れば肩を貸したりして助けるぜ!自分が動けない状態なら仲間に助けを求めるぜ!そして速やかにその場から去る!誰にも見られないように気をつける!
● 鞭の狩猟者・エーリア(c03738)
◆事前準備
おびき出す場所を下見
人気の無い場所を探しておく
◆戦闘前
敵を連れ出す囮役だ
ヒュイットが視界に入ったら彼から見える位置に移動
声をかけられたら
「お互いの事、よく知らないから」
「ここは騒がしいね」
「静かな場所を知ってる」
「移動してお話しない?」
といったニュアンスの台詞で不自然にならないよう誘導する
彼のほうから声がかからなければ自分から告白風に話しかける
「実は、ずっとお話してみたくて」
「伝えたい事があります」
「一緒に来て下さい」
道中は怪しまれないよう世間話でもしよう
マロンの誘導中にはそっとサポート班と合流して移動
私かマロンが標的を誘導地点まで到達したら戦闘開始だ
◆戦闘
立ち位置は前衛、鞭で攻撃するよ
倒す順番は雑魚が先でヒュイットが後
ヒュイットとは掴み合いにならないよう適度に距離をとり細心の注意を払う
毒を受けたら隙を見て後ろに下がり、遠距離から攻撃する
◆戦闘後
要介助者を連れて速やかに解散しよう
● 弓の狩猟者・リアン(c04244)
◇口調
〜なのだよ、だな。基本的に男らしい思考。
◇心情
…真、気に食わんのだよ。
低俗な奴だ。せめて、…苦しんで逝くが良いよ。
◇ポジション
後衛
◇行動
ヒュイットの誘導の際、少し距離を置いてついて行く。
万が一、一般人に被害が及ばぬように気を配ろう。
◇戦闘
マスカレイドと仲間の援護に重点を置き、臨機応変に回復、攻撃を。
また、仲間が痛手を負い後ろに下がって来る際には、後衛から中衛への移動を。
その時に背後で回復をさせるとする。
(仲間、己の)重症時:
「くそったれ、なのだよ!」
(攻撃ヒット、倒した時):
「はっ、苦しいか。もっと苦しむが良いよ。」
…女性は、もっと苦しんだのだから。
出来れば、ヒュイットが倒れる直前に頭踏み付けてやりたい。
大嫌いだ、人の想いを踏み躙りのうのうと生きている輩は。
◇戦闘後
「よし、逃げるぞ!」
冷たくヒュイットを一瞥し、仲間に声を掛け退散する。
走りながら、青空を見上げ、言葉を零す。
「安らかに。」
<リプレイ>
●偽りの愛が潰える場所ヒュイット・グロウを誘い出す場所を探して、エンドブレイカーたちは繁華街周辺を歩き回っていた。
「地図があれば場所探しに便利だったんですがね……地元の人は地図を持ってないようで入手できませんでした」
鞭の星霊術士・ハサン(c01623)が肩をすくめて言う。繁華街の住人に周辺の地図を持っていないか訪ねて回ったものの、空振りに終わったようだ。
「自分の足で歩いて回ればいいぜ。それが一番確実だしな」
杖のデモニスタ・ソゥシェ(c01029)がそう提案すると、鞭の狩猟者・エーリア(c03738)が頷く。
「人気のない場所は実際に見ないと分からないものね」
繁華街の周辺には裏路地やちょっとした空き地などがあったが、彼らが目をつけたのは空き家となった家の庭だった。なかなかに広い庭で、花壇にはいまだに花が咲き誇っている。
「うん、こんなカンジでいいんじゃないかなー。裏庭にも門があるし、塀が高くて庭の中が見えないし」
退路を確認してきた杖の星霊術士・アイリス(c00396)がのんびりとした口調で言う。
「おっさんは待機班だから、ヒュイットが来る前にちょいとお片付けしておくよ」
「そうね、戦うときはやっぱり動きやすい方が安全だもの」
大剣の城塞騎士・ビアンカ(c02421)がアイリスににっこりと微笑みかける。
「さっき通った裏路地とか、空き地も一応候補に入れておこう。ここまで上手く誘導できるとは限らないからさ」
槍の魔獣戦士・リュウヤ(c03523)が慎重な意見を出すと、コロコロと飴を舐めている竪琴の魔曲使い・アイネ(c00902)も頷いた。
「決めることは決めたし、囮役の二人に贈り物だ」
そう言って弓の狩猟者・リアン(c04244)が差し出したのは、花の甘い香りがする香り袋だった。
「どうか、上手くいきますように。……気を付けて、な」
「わぁ、ありがとーリアンにゅ」
扇のデモニスタ・マロン(c01006)とエーリアが嬉しそうに受け取る。
「エンドブレイカーとしての初仕事……無事に終わるといいな」
リュウヤが緊張した面持ちで辺りを見渡すと、それぞれの想いを胸に宿した仲間たちの顔が見えた。
「これ以上の犠牲者を出さない為に、私達がここで頑張らないとね!」
とエーリアが気合を入れれば、安心させるように微笑むハサンがいる。
「援護は任せてちょーだいねー」
とアイリスがひらひらと手を振っている。
エンドブレイカーたちは特別な力を持っているわけではない。マスカレイドを倒し、エンディングを破壊してやるというその心こそが一番の武器なのだろう。
「さぁて、女の敵を討伐しますか」
にやりと笑う爪の魔獣戦士・ヒルドルブ(c01962)に促され、エンドブレイカーたちは作戦を決行に移した。
●男たち
繁華街へ移動したのは、囮役のマロンとエーリア、そして彼女たちをサポートするアイネ、ハサン、ヒルドルブ、リアンの六人だ。
エアシューズのスカイランナー・ジェシカから教えてもらった宿の近くで張り込み、囮の二人は念のため宿の近くをウロウロしている。
マロンは繁華街の店を覗いているフリをしていたのだが、そこに声がかかった。
「ねぇ、そこのお嬢さん」
マロンがぱっと振り返ると、そこにいたのは笑みを浮かべた青年だった。波打った栗毛が顔を彩っている。
――ヒュイットではない。
「何か探しもの? なんだったら手伝うよ」
「違うの、ボクは……」
ヒュイット以外の男と話していても何の得もない。どうにか口実を作って離れようとしたマロンだが、次の言葉は聞き逃せなかった。
「あ、それじゃもしかして迷子?」
マロンが頬をぷーっと膨らませ、青年に詰め寄る。もちろん、眉がつり上がっている。
「ボク、21歳なの!」
「え、えぇ!?」
心底驚いた様子で目を見開いている。
その様子を見ていたリアンは、慌てて駆け寄った。
「すまない、私の連れなんだ。心配してくれてありがとう」
「こちらこそ……ごめんなさい。大人っぽいコだなーとは思ったんですけど、華奢で可愛らしかったからつい……」
ぺこぺこと頭を下げながら去っていく青年。律儀なその様子からしても、下心からではなく本気で心配して声をかけてきたのだろう。
それとほぼ同時に、エーリアに近付いていく男の姿があった。
「キミ、一人なの? ……キレイな瞳だね。こっち見てくれないかなぁ」
「そういうことは、他を当たってくれないか?」
「いいじゃん、ちょっとぐらいさ〜」
どうやら諦めの悪い男のようで、エーリアが冷たくあしらおうとしても離れる気配がない。
「お、エーリアじゃん! 今日は予定があるって言ってなかったか?」
偶然を装ったヒルドルブとハサンがそこに近付き、エーリアと男の間に割り込んだ。
「えーと、ホラ……」
「誰かと会う約束がある、と言ってませんでした?」
「そうそう! 時間は大丈夫なのか?」
「……そうだな、そろそろ約束の時間なんだ。すまないが、また今度」
二人の助け舟に感謝しつつ、そそくさとその場を離れようとするエーリア。それでもしつこくエーリアを追おうとする男。
そこにさらに割り込んだのは、アイネだった。
「おにーさん、飴食べる?」
にっこりと笑いながら可愛らしい紙に包まれた飴玉を差し出す。かなり唐突な切り出しだが、他人に気さくに話しかける性格が幸いし、自然な魅力が出たようだ。
男は素直に飴玉を受け取ると、アイネにも「キレイな瞳だなぁ」などと言ってナンパを開始した。
エーリアは無事にその場から離れたが、息をつくのも束の間、宿から一人の男が姿を現した。
ジェシカから聞いた人相と合致する――ヒュイットだ。ヒュイットの視界に入るように移動するエーリア。
ヒュイットは道行く女性に目を走らせていたが、その視線がエーリアで止まる。
「そこの美人さん、オレと遊ばない?」
整った顔立ちに目をつけたのだろう、ヒュイットがエーリアに声をかけてきた。
「ここは騒がしいから、移動してゆっくりお話しない?」
「おう、モチロン好きにしてくれ」
ヒュイットは何も怪しまず満面の笑みで、歩き始めるエーリアについて行く。行き先はもちろん、仲間たちが待っている空き家だ。
「かかった! 行こうぜ」
「えぇ」
ヒルドルブとハサンは、ヒュイットが釣れたことを他の仲間に身振り手振りで伝えた。いまだ男に捕まっていたアイネは、リアンとマロンに助けられてエーリアの後を追うことになる。
●花の咲く庭で
空き家の庭で待機することになった四人は、アイリスがやりはじめた邪魔なものの移動を手伝った。それを終えると、ソゥシェとアイリスは門から離れた茂みに、リュウヤとビアンカは門の横にある倉庫の陰に身を隠す。
しばらくじりじりとした時間を過ごし、じっとしているのがつらくなってきた頃。
話し声がこちらに近付いてくるのが聞こえた。
「この声は、エーリアだよな?」
茂みに身を隠したまま、ソゥシェが小さな声を出した。長い間黙っていたので、その小さな声でもヒュイットに届いてしまったのではないかと慌てて口元を押さえる。
アイリスはそれに頷くだけで答えた。
話し声はどんどん近付いてきて、ついに門が開けられる音が響く。
「……へぇ、花がいっぱいだな」
さして興味がなさそうな声のヒュイット。
「まぁいいや、それよりも――ッ!?」
庭の中ほどまで進んできたところで、エーリアとヒュイットを追行してきたハサンとヒルドルブがダッシュして奇襲をかけた。倉庫の陰に隠れていたリュウヤもそれに呼応して飛び出し、ヒュイットに一撃を入れる。
「く……っ!」
「逃げられるとお思いで?」
ヒュイットは咄嗟にきびすを返そうとしたが、門の前には不敵な笑みを浮かべるハサンがいる。
「くっそおおぉぉぉ!!」
腹の底から響くような声でヒュイットが吼えるとその顔に仮面が出現し、ハサンのさらに後ろから三人の人影が現れた。ごろつきのような雰囲気の似通った姿で、こちらもマスカレイドだった。
「あんたの欲望に歪んだ業、私が粉砕してやるよ」
大剣を構えたビアンカがそう言い放つと、ヒュイットがマスカレイドに覆われた顔をビアンカに向けた。
「美人が相手でも、手加減はしねぇぞ!」
三人のごろつきは、近くにいたハサンとアイネ、リアンに毒の短剣を振るった。その素早い攻撃を避けきれず、三人は毒をくらってしまう。鼓動を刻むたびに気だるさが体を蝕んでいくのが分かった。
だが、それで逃げ腰になるわけにはいかない。
リアンが腕を掲げると、そこにじわりと青白い光が湧き出し、鷹のスピリットが腕にとまった。
「行くのだよ!」
その声を合図に青白い鷹は滑空し、ごろつきの一人にその爪を喰らわせる。爪は確かな鋭さで腕に食い込み、溢れた鮮血が地面に赤い染みを作った。
ソウシェも容赦なくマジックミサイルを放ち、青白い鷹の出現に早くも浮き足立っているごろつきの一人に次々と撃ち込んでいく。立て続けの攻撃で弱ったところに、リュウヤの疾風突きが真っ直ぐ決まった。突き出された槍は腹を大きく抉り、ごろつきを絶命させる。
「ったく、女性は大切にしろって親に教わらなかったのか?」
「教わらなかったようですね、この様子では」
逃げ出そうとしたごろつきを打ちすえたのは、ハサンが振るう鞭だった。彼の鋭い眼光は、逃がすものかと語っている。
やぶれかぶれになったごろつきが突進してくるが、そこにアイリスのマジックミサイルが降り注ぎ、瀕死になったところをハサンが器用に捕縛して締め上げると、ごきりと鈍い音がして動かなくなった。
ごろつきの最後の一人は壁際に追い詰められていた。完全な劣勢に立たされ、短剣を持つ手が震えている。
アイネが奏でる雑音に精神を蝕まれ、波を描くような舞いで操るマロンの水流に押しつぶされ、ヒュイットの手下はこの世を去った。
●歪んだ心の末路
ヒュイットと対峙しているビアンカは、何度か攻撃を受けてかなりの痛手を負っていた。脳天に響くほど強烈なヒュイットの拳は、防御を固めていないときに喰らうと恐ろしい破壊力を生んだ。
「回復いくよ、ビアンカちゃん!」
そう声を上げたのはアイリスだ。
「がんばれー! レッツゴースピカさーん!」
召喚された星霊スピカは、ビアンカの肩に乗っかると胸元の傷をペロペロ舐めて癒す。血が止まり痛みが引くと、生々しい傷跡だけが残った。いくら星霊といえど、一度で完全に治すのは無理なのだ。
ビアンカも傷を負っていたが、それはヒュイットも同じだった。苦痛に歪む表情のまま、籠手を装備した拳を突き出してくる。その攻撃を回避できずに受けるビアンカ。
リアンの鷹がヒルドルブの体を貫くと、ヒルドルブは体の底から力が湧き出てくるのを感じた。
「これで最後だ!」
叫びながら爪を大きく振りかぶると、迷いなくヒュイットに振り下ろす。胸を深く切り裂かれ、ヒュイットはぜぇぜぇと細い呼吸を繰り返した後、後ろへと体が傾いていく。
花に囲まれるようにして息絶えたヒュイット。その顔の仮面に大きなヒビが入り、そこから派生した細かい亀裂が分岐を繰り返し、やがて細かく砕け散った。
「大嫌いだ、人の想いを踏みにじりのうのうと生きている輩は」
「キレイなおねぃさんに酷いことをしたんだ。当然の報いさ」
吐き捨てるように言うリアンの気分はまだ重いままだが、リュウヤはスッキリした表情になっている。
「強盗の仕業にでも見せかけようと思ったんだが……ダメだ、財布が見つからない」
悔しそうに頭を振るのは、それまでヒュイットの懐を探っていたビアンカだ。被害者の女性に少しでも返せれば、少しでも無念を晴らしてやれると思ったのだ。
アイリスも死体が見つからないように細工をしたいと提案したが、細工するよりも素早く退散した方が一般人に見つかる確率が低いと言われ、仕方なく諦めることにした。
「ま、その方が確実だよね」
「よし、逃げるぞ!」
リアンの掛け声で全員が庭から出ていく。不自然に見えない程度の早足だ。
「バラに棘のたとえもあれば……」
囮役のエーリアとマロンを見ながら苦笑しているのはハサンだ。女は怖い。そう実感したのかもしれない。
それでもヒルドルブは冗談半分で、
「囮役よかったぜ。今度デートしねぇか?」
と言うと、エーリアがくすりと笑ってウインクを返した。
繁華街の喧騒が近付いてきて、エンドブレイカーたちはほっと息を吐いた。知らず知らずのうちに緊張していたのだろう。
「どんな命にも神のご加護を……」
人気がない裏路地で立ち止まり、アイネが鎮魂歌を口ずさみ始めた。それはマスカレイドになってしまった人間と、その被害者への追悼の歌なのだろうか。
彼らはその歌を聴きながら、見えぬ青空の上へ祈りを捧げたのだった。