2009年07月02日

7/1の作劇ゼミ

 中山市朗です。

 夏です。
 怪談の季節です、って誰が決めた?
 確かに夏には怪談、ホラーの出版物が書店に並び、映画が公開され、深夜やCSのテレビではホラー特集が組まれ、私も季節労働者のようにイベントだの、トークショーだの、番組出演だのの依頼がきます。
 怪談を聞くと、ゾッと涼しい、とういことや、お盆という行事もあり、合宿だのキャンプだので怪談に接することが多いからでしょうか?
 実は、夏に怪談をやる、というのは歌舞伎の世界からきているようで、昔の芝居小屋には冷房もなく、お客もあまり入らない。ならば変わった趣向の狂言を、ということで怪談ものが取り上げられたらしいんですな。

 ということで、7月第一回目の講義は、怪談についてです。

 私が木原と最初に『新・耳・袋』を出版したのは1990年の10月のことでした。今でこそ怪談文学の復権が成されましたが、当時は怪談なんて真剣にやっている人はほとんどいませんでした。
 私が子供の頃に接した怪談といえば、新倉イワオ、中岡俊哉、つのだじろう。
 新倉イワオさんは、『あなたの知らない世界』という心霊再現ドラマ。これは主婦向けのお昼のワイドショーの枠でやっていた。新倉イワオは放送作家で『笑点』の構成作家でもあられます。でも新倉イワオは、何より日本心霊協会理事として活躍されていて、日本で最初の心霊番組を作ったのもこの人なのだそうです。

 みなさんは心霊写真を持っていると祟られるとか、霊障が起きるとか信じていませんか? それを言い出したのは中岡俊哉さん。テレビに心霊コメンテーターとして出演されたり、著作も400冊あるという人。背後霊だの、浮遊霊だのという造語もこの人が作った。この人はUFOだの超能力だのも一緒くたに解説したりしてはったので、怪談はなにやら怪しいオカルトまがいなもの、というイメージもこの人からきています。
 心霊写真を持っていても祟られませんから。

 つのだじろうさんは、『恐怖新聞』『うしろの百太郎』。この人もUFO体験から超常現象の研究を始めた人で、それがマンガの中に生かされたんですな。コックリさんのやり方とか除霊だとか、心霊現象を解説していった。

 三人とも、怪談というよりは不可解な現象に理屈をつけようとしたんです。
 怪談をやる人はありえない怪異を肯定する人、というイメージがここに植えつけられてしまったんですな。
 怪談はオカルト現象を肯定した上で解明をする愚かなもの、という妙なイメージも出てきました。
 この三人の後で、稲川淳二さんが出てきて、この人は怪談を語るということをやります。
 彼も、自身の体験をもとに語るというスタイルですから、やっぱり怪談をやる人は、幽霊だの心霊だのを本気で信じている人。というイメージがまずます植えつけられます。
 霊感。
 霊感があるから幽霊を見たり感じたりする。
 霊感がないから見ない。
 そんな都市伝説まがいの風潮も、この頃生まれました。
 まともな作家も、怪談なんて書かなかったしね。
 
 20歳になるまでに霊を見なかったら、もう一生霊は見ない、なんていうのも、おそらく上記の人たちが言い出したこと。でも70年代、80年代、90年代も怪談といえば、この人たち。
 私も放送作家として本格的な怪談番組を、と随分関西の放送局をまわったんですが、言われることは同じ。
 「うちはオカルトはやらないんで・・・」
 怪談をオカルトにしちゃったのは、あんたらやろ!
 なんでオウムの問題と怪談がゴッチャになるの? なんて思ったこともありました。

 怪談とは話芸だ!
 そう叫び続けて20年。ようやく今になって一流の作家さんたちが怪談を書き、怪談文学賞なんてのができて、怪談は語り聞くエンターテイメントだ、と認知されだしました。

 怪談を書く、語るで肝心なのは、実は懐疑精神なんです。
 肯定して語っちゃうと、なんか電波系というか、おもしろくない。
 霊感がある、というスタンスで話される怪談が、あまり怖くないのは、それが当たり前だから。当たり前のことは怖くないんです。
 日常に、ありえないことが起こるから、ポッカリ闇が空くから、そこを懐疑の目で見るところが怖いわけなんです。

 だから『新耳袋』や私の語る怪談に、あまり霊能者という人は出てこない。
 霊能者自体が非日常的な存在ですから。
 えっ、『なまなりさん』?
 あれは、ほんま特殊な例です。
 書き方も世界観も『新耳袋』とは真逆。
 書いてて面白かったんですけど。

 さて、怪談とは怪を語る、座のコミュニケーションの場。
 話の素材を取材してきて、選んで構成する。話のある部分を省いたり、順番を変えてみたり、描写を工夫したり。そして人の前で語る。すぐに反応がある。
 ダメだったとしたら、それは表現力なのか、構成力なのか、話のチョイスを間違えたか・・・これは物語を展開させるには、すごい勉強になります。

 ということで塾生諸君。
 今度、夜を徹して怪談会をやろうじゃないか。

 条件は、友達でも家族でも職場の人でもいいから、実話と思われる怪談をひとつは披露すること。自身の体験があれば、なおよし、です。

 という提案もしてみました。

 次回の講義は、怪談描写のテクニックを。



中山市朗作劇塾は新規塾生を募集中です。
興味がおありの方は、作劇塾ホームページをご参照ください。


kaidanyawa at 22:08│Comments(6)この記事をクリップ!

この記事へのコメント

1. Posted by DMC弐拾壱   2009年07月02日 23:08
こんばんは中山さん。今度の土曜日になにがあろうと山の牧場へ行くことにしました。そこへ行って現状を自分の目で確かめてきます。
2. Posted by 中山市朗   2009年07月03日 00:44
DMC弐十壱さん。

それはそれは、お気をつけて。
ちなみに今発売中の『恐い地図・DVD13』(ミリオン出版)に、山の牧場について私自身が寄稿しておりますので、ご参考までに。
3. Posted by 20話の男   2009年07月03日 06:33
 怪談って土用のウナギと同じだったのか。あ、だから中山先生の怪談会は、後で打上げするんですね!
 え、単に楽しいから? すみません。… …鰻か、食ってないなぁ。
 あと、塾生の方と怪談会ですか。
羨ましい。私も数多く体験してるクセに、背後霊だの前世などには懐疑的ですが、それでも参加してみたい。塾生の人、私の分まで楽しんで
下さい。
 あ、どうせなら「怪談大喜利」形式なんて面白いのでは? お題を出し、その内容に即した興した怪談を語る、と。落語と怪談のコラボ…あぁ、やっぱり聞いてみたい!
4. Posted by z   2009年07月03日 13:55
いやぁ、扶桑社版の「新・耳・袋」
を読んだときの興奮と言ったら、、、
これが自分の求めていた怪談本
なのだ!と心の中で快哉を叫んで
しまいました。
当時、今は休刊となった月刊プレイ
ボーイに書評が載りましてね。
今でも覚えています、「あなたは
この本を読んだ後、コンビニへ
一人で買い物に行けるだろうか?」
と評されてたんです。
「そんなに怖いんなら、確かめて
やるわい!」で買って読んで、
本当に怖かったことと言ったら。

自分が大好きな話は「隣の女」
です。あの話の異次元具合が
たまりません。女の正体も気になり
ますが。

木原さんと中山さんでやっていた
「怪談連想しりとり」が好きでした。

「〜と言えばっ!」(笑)。
客席にいながらよく、浮かんでくる
なあと感心しきりでした。
5. Posted by DMC弐拾壱   2009年07月03日 18:02
中山さんありがとうございます。無事に帰ってきたら御報告いたします。
6. Posted by 亥戸 碧   2009年07月04日 11:31
その怪談の講義、すごく聴きたいですね!!
‘特別怪談講義ライブイベント’
とかやって欲しいかもです♪

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
プロフィール
中山市朗
怪異蒐集家・作家

兵庫県生まれ。
大阪芸術大学映像計画学科卒業。

著書に『新耳袋』(メディアファクトリー/角川文庫)  『捜聖記』(角川書店) 『現代妖怪談義・妖怪現わる』(遊タイム出版) 『怪異実聞録・なまなりさん』(メディアファクトリー ) など。

漫画家、作家養成塾『作劇塾』主宰。