こと小沢一郎民主党幹事長の件になると新聞もテレビもなぜか検察目線の報道ばかり。捜査報道がそうなるのに不思議はないが、政治報道まで同じでは、大事なことを見落としてしまう。
来日した米国のキャンベル国務次官補が、ルース駐日大使をともなって国会の民主党幹事長室をおとずれた。小沢氏と1時間会談した。内容は伏せられているが、「ナイストークだった」と満足して帰った。
帰国後キャンベル氏は、小沢氏を団長とする民主党訪米団を5月に派遣してほしい、オバマ大統領との会談も設定に努めると申し入れたと語った。
会談の日が重要だ。東京地検が小沢氏を起訴するかどうか正式に決める2日も前である。もし小沢氏が起訴されていたら、米国の威信にかかわる大失態になった。検察当局が外国の政府高官に事前に漏らすはずはない。関係者から感触を得ていたとしても、万が一ということはある。星条旗を背負った米高官にとって、この段階で小沢氏と会談するには大きなリスクがあったはずだ。それでも、キャンベル氏は小沢氏と会談した。
日米関係でもめているのは普天間飛行場の移設問題である。交渉窓口は岡田克也外相。日本政府のとりまとめ役は平野博文官房長官。最終決定をするのは鳩山由紀夫首相だ。
それなのにキャンベル氏が、大統領に会ってほしいと申し入れたのは与党幹事長だ。招待した5月は、まさに鳩山首相が結論を出す時期に当たる。
米国は、中国との経済摩擦が激化している。日本と普天間問題でもめていたくない。
昨年11月、鳩山首相は「トラスト・ミー」と言ったが、参議院は連立でかろうじて過半数を維持している状態だ。首相がどこに決めようと、7月の参院選で民主党が議席を減らせば、国会は通らない。オバマ大統領も米上院で安定多数に1議席足りずに苦しんでいるから、事情はよくわかっている。
国会で法案を通すのは与党幹事長の仕事だ。参院で与党が過半数割れしたら、連立を組み替えるか、自民党と大連立するか、荒業が必要になる。それができるのは小沢氏しかいないと米国は判断して、小沢氏に賭けた。米国目線に立てばそう見える。
日米同盟重視の親米論陣を張る新聞が、小沢氏に幹事長辞任を強く求めている。米国の国益に反する主張になるが、この矛盾を見落としてないか。(専門編集委員)
毎日新聞 2010年2月18日 東京夕刊
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