池田信夫 blog

Part 2

私もいろいろな「コンテンツ産業」にかかわったが、この分野のいろいろな業界に共通している暗黙のルールがある。それはクリエイターには売り上げの25%しか還元されないというルールだ。出版の場合には、
  • 小売:20%
  • 取次:10%
  • 印刷・製本:35%
  • 出版社:25%
  • 著者:10%
出版社の取る「仕切り」は会社によって違い、これは大手の場合だ。新しい会社が参入するのは事実上禁止だが、幽霊会社を買収して参入しても、小売と取次に半分近く取られるので、印税や印刷代を払うと出版社には10%ぐらいしか残らない。しかも返品リスクも版元が負うので、出版社はハイリスク・ローリターンのビジネスだ。

映画の場合は、
  • 映画館:50%
  • 配給元:25%
  • プロダクション:25%
だからほとんどの映画は赤字で、DVDやタイアップなどで辛うじてトントンにしている。プロダクションで働いているのは映画の好きなボランティアの若者で、彼らのタダ働きが映像産業を支えている。この配分は、最近のシネコンなどでは変わったようだが、何も創造していない興行側の取り分が最大という構造は変わらない。

最悪なのはテレビで、「あるある大事典」の調査で明らかになったように、番組単価1億円のうち
  • 電通:1500万円
  • 地方局(電波料):4800万円
  • キー局:500万円(あるあるの場合は関西テレビ)
  • 下請け:2340万円
  • 孫請け:860万円
と実際に制作した孫請けプロダクションには、単価の1/12しか還元されない。これは何も仕事をしないで「電波料」を受け取っている地方局が、全体のほぼ半分を取っているからだ。これが典型的な日本的搾取の構造である。

その原因は、岸博幸氏などが取り違えているように「著作権の保護が弱い」からではない。問題は、流通のインフラが少数の業者に独占されているボトルネックである。だからシネコンのように流通が多様化すれば、制作側の取り分が増え、供給が増えて業界全体が大きくなる。

テレビの場合も、本来はIP放送によって制作側の取り分が増えるはずだったが、放送局が著作権を理由にしてIP放送を妨害しているため、搾取の構造は変わらない。ラジオはようやくIP放送をすることになったが、その受信はIPアドレスで判別して放送エリアに限定するという(そんなことできるのかどうかあやしいが)。

つまり著作権は技術的には存在しないボトルネックを法的に作り出して新規参入を妨害し、本源的なクリエイターを抑圧する装置になっているのである。このように権利者の名前をかたって既得権を強化しようとする文芸家協会のような自称権利者団体は、クリエイターの敵だ。彼らはネット上に数千万人いる著作者の0.1%にも満たない。

だから政府が補助金をばらまく「コンテンツ政策」にも意味がない。必要なのは、ボトルネック独占を排除してインフラの競争を作り出すことだ。流通が多様化すれば、インフラはコモディタイズしてクリエイターの力が相対的に強くなり、彼らがリスクもリターンも取ることができるようになる。電子出版でクリエイターにコントロール権を与えることは、既得権で囲い込まれているコンテンツ産業に風穴をあける可能性がある。

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トラックバック一覧

  1. 1.

    何かが違うよね?

    アニメや映画、音楽などのクリエーターのほとんどが極貧で、何かを創造している訳でも

コメント一覧

  1. 1.
    • mochibb
    • 2010年02月13日 12:21

    ご存じの通り日本での書籍取次は日販と東販の二社独占で、しかもこの二社の主要株主には大手出版社が名を連ねています。出版社大手が、流通を押さえた上でリスクヘッジもしているという形ではないでしょうか。リスクが高いのは弱小出版社だけだと思います。
    明日の食事に困るほどの収入しかない著者の担当を年収1000万円の若手編集者がしていたりするのは異常です。そんな気持ちの悪い世界が持続するはずありません。

  2. 2.
    • jij999
    • 2010年02月13日 13:26

    岸さんはわけがわからないです。まあ、羽鳥光俊東大名誉教授みたいな御用学者にはならないで欲しいのですが。

    「独占寡占」と「不等価交換」と「中抜き」ですね。新聞とかで、商社がよくメーカーにくっついてビジネスしてる話ありますけど、あれは意味がなくて、経産省と外務省の情報独占があるから。「ノウハウ」なんて無い 笑。そして、流通の寡占化をすすめてバカをみるのは消費者なんだけど、気がついてない。丹羽伊藤忠会長の10年は泥のように働けっていうのは、「10年はヤクザと官僚と外国の高官の接待術を磨け」ってことです。

  3. 3.
    • 池田信夫
    • 2010年02月13日 14:14

    日経ビジネスの記事には「パソコン向けでも聴取可能地域は当初、在京局は首都圏の1都3県に、在阪局は大阪府に限定される」と書いてあるが、そんなことは不可能。ほとんどの人はISP経由でアクセスしているので、地域は特定できない。知らないでいっているのか、嘘と知りつつ無知なラジオ局のオヤジをだましているのか・・・

  4. 4.
    • jnuxcom
    • 2010年02月13日 15:15

    ISP経由でも、だいたいの地域は特定できます。
    下記のURLにアクセスしてみてください。
    http://www.ip-adress.com/ip_tracer/

    ただし池田先生の言われているように、非常に馬鹿げた事をやろうとしていると思います。

  5. 5.

    >>3
    昔フレッツ光が会員向けにガンダムSeedをネット放送したときにも同様の方法を取っていたので可能なのでは?それにISPが東京にあれば、どこで見てても東京認定みたいな形も取れますしwww

    ただ、気になるのは技術的には可能なのに、地域によって情報を遮断したりするのは、国民の知る権利を阻害することになり、公共の福祉に反するのではないでしょうか?
    これ、裁判沙汰になったら勝てるのかなと前々から思うのですが。

  6. 6.
    • disequilibrium
    • 2010年02月13日 15:34

    将来は分かりませんが、今はISP内でIPアドレスのプールを地域ごとに分けていて、また、それがデータベース化されているので、
    都道府県レベルなら判別が可能です。

    MaxMind - GeoIP City Geolocation IP Address to City
    http://www.maxmind.com/app/city

  7. 7.
    • lvdrbird
    • 2010年02月13日 17:08

    デフレを克服するには非貿易財・サービス業の生産性をあげなくてはいけないという記事が前の方にありました。そのときは今ひとつピンとこなかったのですが今回の記事を見て日本の産業の中には構造的に生産性が低くなっているものあるのだなあと思いました。ここにあげられているのは氷山の一角かもしれません。

    >小売と取次に半分近く取られるので(出版)
    >何も創造していない興行側の取り分が最大という構造は変わらない。(映画)
    >これは何も仕事をしないで「電波料」を受け取っている地方局が、全体のほぼ半分を取っているからだ。(テレビ)

    >問題は、流通のインフラが少数の業者に独占されているボトルネックである。
    この部分がインターネットというインフラとデジタル化ということによって変わっていく可能性がわけですね。また著作権という法的にボトルネックを作り出しているものについても考えるべきというわけですね。

    これまでも記事の中で生産性をあげる、規制を緩和するという言葉が幾度となく出てきましたが、それでは具体的にどうするのかというのがよく見えてきませんでした。今回の記事ではメディアという分野についてはどうするのかということの輪郭が見えてきたように思います。

  8. 8.

    5 ラジオのサイマル放送についてはtwitter上でもTBS『キラ☆キラ』パーソナリティの水道橋博士を中心に盛り上がっていますが、またぞろ「弱者」を盾にケチを付ける奴がボチボチ出てきている様です。

    日本のコンテンツ産業も「自称権利者」や中小書店等の「弱者」を盾に現状維持を図ろうとする様にしか見えないですね。

    最大多数の最大幸福という言葉がありますが、「弱者擁護」を口実に全体としては衰退の方向に行かされてはたまりません。池田さんの健闘を祈りたい。

  9. 9.
    • takarayui
    • 2010年02月13日 22:08

    ラジオのネット送信の話って、これですね。
    http://www.asahi.com/digital/internet/TKY201002120496.html?ref=rss

    最近、NHKを含めてたまにラジオを聴くのですが、
    予算はかかっていないけど、結構いい番組があるんですよね。
    CMつきでいいから、どんどんpodcastに配信して欲しいです。

    ラジオの番組を通勤電車の中で聴くのって
    結構おつなもんなんですよ。

  10. 10.
    • yeelee
    • 2010年02月14日 17:31

    ipアドレスの逆引きで大まかな地域は特定できるが、プロキシなど、受信側に技術があれば回避する手段はいくらでも見付け出すことができイタチごっこで、一般的なセキュリティ問題と同じくコストの問題になる。
    たとえばDRMで保護された動画の期限付き視聴権を購入した場合、無料ソフトの組み合わせでDRMを解除した状態で保存してしまうことは簡単にできる。が、視聴権は比較的安値だし2度と見ないことも多く、解除方法の情報収集や手間、法規制を考えるとインセンティブは十分に低い。売る側も収益は得ており違法な配布をされない限りあまり問題ではない。

  11. 11.

    5 電子書籍化のボトルネックは出版社というより、製本・印刷・小売業の圧迫になるんですね。
    製本メーカがスキャン等の電子化をできるようになると、日本市場も盛り上がるのではないかと思っています。

    日本の場合、ソニーリブリエの撤退のように、コンテンツ自体が携帯小説や携帯コミックのように、すでに独自の進化をしています。

    紙の本から、ハードが変わるのではなく、ソフトが変わる・・・
    ガラパゴス的な進化かもしれませんが、面白いです

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