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きょうの社説 2010年2月18日
◎「個所付け」問題 地方が予算を組みやすい形に
民主党から地方組織を経由して自治体に伝えられた予算の「個所付け」問題で、自民党
が激しく追及しているのは、公共事業の予算配分が政権与党にとって政治力を誇示する有効な手段であることを知り尽くしているからだろう。政権が変わってもなお、個所付けが利益誘導に利用されるのであれば、民主党内で出ている予算編成段階からの情報公開も検討課題の一つである。衆院予算委員会に提出された個所付け資料で、石川、富山県内では凍結候補だった計3 件の国直轄道路事業が復活したことも分かった。その一方で、自治体は個所付けの行方が見通せず、新設交付金の中身も分からないまま、見込み幅の大きい予算編成を強いられたことも確かである。個所付けの在り方を見直すなら、地方が予算を組みやすい配慮も求めたい。 国が道路整備や河川改修などの予算配分額を決める個所付けはこれまで、予算成立後に 「実施計画」として公表されてきた。民主党が国会での予算審議前に党県連などに通知し、自治体にも伝わったことで問題が大きくなった。 前原誠司国土交通相は「調整途中の仮配分に過ぎない」と苦しい釈明に追われたが、小 沢一郎民主党幹事長が主導した陳情一元化の成果をいち早く伝え、参院選対策につなげる狙いがあったのは間違いあるまい。 予算は概算要求段階で個別事業が積み上げられている。自治体にも応分の負担を求める ため、実際には国が事前に大枠を自治体に伝え、予算案審議と並行して調整を進めている。予算が成立しなければ個所付けを公表できないという指摘は制度上の建前であり、自治体に配慮して「仮配分」を示すなら、身内優先でなく、もっと透明性の高い伝達方法があるだろう。 自民党側の国会軽視という批判も、これまで自分たちが水面下で控えめにしてきたこと が大っぴらにやられて危機感を抱いたとの指摘もある。予算の個所付けが政権党の選挙対策の道具にされ続けるなら陳情合戦をあおり、国と地方の対等な関係も程遠い。建前の議論を超え、予算配分の仕組みも透明化を図る手立てが必要である。
◎インフレ目標 デフレ脱却へ責任共有を
菅直人財務相が政府として物価上昇率の目標を前年比1%程度と定める方針を表明し、
日銀に金融政策での協力を求める意向を示したのは、物価上昇率の目標を定めて金融政策を運営する「インフレ目標」の導入を強く意識してのことだろう。先進国でデフレに苦しんでいるのは日本だけであり、デフレからの脱却なしに景気回復はあり得ない。政府と日銀が物価安定の数値目標を定め、実現に向けて強い決意を示す意味はある。ただ、政府側が一段の財政出動は難しいという思いから、日銀にさらなる量的緩和を期 待し、目標実現の責任を負わせようとしているふうに見えるのが気掛かりだ。日銀は日銀で重い責任を負うのを嫌がり、「目標」ではなく、あくまで「目安」でよいと考えているフシがうかがえる。双方の思惑がすれ違い、疑心暗鬼に陥っているのではないか。インフレ目標を導入するなら、政府と日銀が呼吸を合わせ、責任を共有する覚悟がいる。そうでなければ、目標設定の効果が半減しかねない。 日銀にすれば、量的緩和によって流動性を供給しただけではデフレは解消されないとい う思いが強い。政府からさらなる量的緩和を求められても、期待に沿う結果は出ないと考えているに違いない。「政策の方向性や目的は、政府と日銀が共通の目標をもって進めるのが望ましい」と菅財務相が本気で思っているなら、まず政府が成長戦略を示すのが先だろう。 たとえば、政府は「2020年度の名目国内総生産(GDP)650兆円程度」とする 目標を明示した新成長戦略を掲げたが、具体策づくりはさっぱり進んでいない。子ども手当などのマニフェストに盛り込んだ政策を実現するための財源のねん出に苦しみ、経済対策に向ける予算どころではないというのが本音ではないか。 枝野幸男行政刷新担当相は会見で「景気対策のための財源まで予算の組み替えで出すこ とは困難」と述べ、赤字国債に含みを残した。国債増発をタブー視せず、デフレ対策を最優先させる方向へ明確にカジを切ってもらいたい。
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