『産経新聞』は何を「明らかに」したのか――朝鮮学校と高校「無償化」問題
 国庫からの就学支援金助成を内容とする、いわゆる高校「無償化」法案が1月29日に閣議決定されたが、この法案では各種学校も助成の対象に含まれているため、すかさず『産経新聞』が騒ぎ始めた。各種学校には朝鮮学校も入っていることを問題にしているのである。しかもいかにも『産経』らしい姑息なやり口で。

 とりわけ『産経』2月11日付web版の「北、朝鮮学校に460億円送金 昨年も2億…高校無償化に影響」という記事は度を越している。この記事は「北朝鮮が過去半世紀以上にわたり、在日朝鮮人に民族教育を行う各種学校「朝鮮学校」に対して総計約460億円の資金提供を実施し、昨年も約2億円の「教育援助金」を送金していたことが10日、明らかになった」(太字は引用者、以下同じ)という驚きの一節から始まる。

 さて、「明らかになった」とは、どういうことだろうか。この文章前段のどの部分にかかっているのだろうか。そもそも朝鮮総連は繰り返し朝鮮民主主義人民共和国が在日朝鮮人に教育援助費を送ってきていることを明らかにしている。「昨年」についても、『朝鮮新報』はきちんと金額まで明記して記事にしている。『産経』の記事は「北朝鮮の政治的影響下にある上に、資金提供が発覚したことで、無償化の是非について議論を呼びそうだ」(太字は引用者)と結んでいるが、そもそも当人たちが隠しもせず、むしろ積極的に公表している情報をそのまま載せて何が「発覚」なのか。
 
 仮に『産経』がこの事実を知らなかったとすれば、こんな基本的な事実も知らずに記事を書かせるような新聞社の「北朝鮮報道」とは一体何なのか。だが、『産経』が知っていたとすれば、ここで扇情的に用いている「明らかになった」とか「発覚」とかいういかにも「スクープ」であるかのような表現の利用は、語句の使用というレベルで全く正確さを欠いているだけではなく、事実報道の形を借りた印象操作というほかない。周知のことながら、『産経』が報道としての最低限の倫理を自ら完全に放棄し、むしろ積極的に印象操作することによって糊口をしのぐ排外主義的プロパガンダメディアだということをここに記しておく。

 もちろん、『産経』は一度としてまともなメディアであったことなど無いのだろうが、MSNを通じて大量に配信されている現状では、ハエ叩きのように各々のイシューに即して繰り返し指摘するほかない。今回の記事は高校「無償化」の枠に各種学校が入り、これまでのように「各種学校だから」という口実で排除することができないため、「「教育援助金」を送金していたことが10日、明らかになった」とか、「資金提供が発覚したことで、無償化の是非について議論を呼びそうだ」とかいって、排除の「空気」を作ろうとしていることは一目瞭然である。

 はっきりと書いておくが、朝鮮民主主義人民共和国から教育援助費をもらうことを理由に、各種学校が対象になっているにもかかわらず、朝鮮学校を高校「無償化」から排除することは、何ら合理的根拠の無い差別である。韓国学校であれ、ブラジル人学校であれ、財政状況が苦しいなか本国から金銭的支援を受けているケースは朝鮮学校に限らず存在する。何が悪いというのか。

 以前、朝鮮籍者は必ずしも「北朝鮮」を「支持」しているわけではないという『朝日』的擁護論は、必ずや朝鮮籍者が「北朝鮮支持者」であることを論証しようとする『産経』的反対論を呼び起こす、と書いたことがある(『朝日』社説「外国人選挙権―まちづくりを共に担う」の問題)。『産経』はこういう「空気」をつくれば排除できるとわかっていて、さんざん煽っている。しかし他のメディアは傍観するか、お茶を濁すだけだろう。せいぜい「最近は韓国籍の人も通っている」とか「朝鮮学校も変わっている」云々というだけ。

 だが教育援助費をもらっているのは事実なのだ。もちろん朝鮮籍の子供も通っている。だがそれは各種学校の中でとりわけ朝鮮学校だけを高校「無償化」の対象から排除する根拠にはなりえないし、してはいけない。この最も初歩的な事実をこそ指摘すべきである。繰り返しになるが、私には『産経』的論調と『朝日』的論調はタッグを組んでいるようにしか見えない。『産経』が理不尽に朝鮮人にレッテルを貼ってぶっ叩き、そのあとに『朝日』が現れてかばうふりをしながら後ろ足で思いっきりこづく。『産経』的排外主義もさることながら「朝鮮学校が変化した」ことを理由に、施しを与えようとする議論にも警戒すべきだろう。
by kscykscy | 2010-02-17 19:36
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