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エレベーター  3F


 わたしは、高塚のことが好きだった。
 ずっと、ずっと好きだった。

 新入研修のときから、高塚はすでにみんなから頭一つ抜きん出た存在だった。
 いつも明るくて、堂々として、知識が豊富で頭が切れるのに、驕ったところが全然なかった。 男女関係なく誰にでも率直で優しかった。 男らしくて頼もしくて、いつもキラキラしていた。
 高塚を好きにならずには、いられなかった。

 でも、高塚はわたしのことを嫌った。

 当然といえば当然なんだ。
 わたしは誰かれ構わず面倒くさい質問や厄介なツッコミばかりしていた。 それは高塚も例外じゃなかった。
 でも、当時の青臭いわたしは、わたしたちはもう社会人、そんなことで人間として嫌われるはずがない、ライバルではあるけど切磋琢磨していく中で仲良くなれたらいいな、なんて能天気に構えていた。

 バカでしょ。 そんなわけないのにね。
 わたしは真正面からガツガツ仕事をこなすブルドーザー女だった。 それでも、男の子のメンツを立てる余裕と優しさがあったら、きっと同期の男の子たちから煙たがられることもなかったし、高塚から天敵みたいに嫌われることもなかっただろう。
 本当に、わたしはお勉強以外にはサッパリ頭が回らない。

 高塚に嫌われていることが、つらくて堪らなかった。
 これ以上嫌われたくなくて、これ以上わたしを嫌がる顔を見たくなくて、わたしは徹底的に高塚を避けるようになった。 社内ラウンジには極力近寄らず、高塚と鉢合わせしそうな飲み会には決して参加しないようにした。

 そうしたらあれよあれよという間に、あいつとわたしは犬猿の仲、ってキャラ設定が同期の間に広まってしまった。
 仲の良い女の子たちから「あいつとは仲良くしといたほうがいいよ」って心配されてそのことを知ったときは、もうね、内心笑っちゃった。
 わたしのせいじゃないんだよー。 嫌っているのは、高塚のほうだけなんだよー、って。

 状況を打破する勇気も根性もなかったわたしは、高塚への気持ちをズルズル引きずったまま、7年間誰とも恋愛せず、うじうじと30歳を迎えた。
 で、周囲もワラワラと結婚し始めたりして、いい加減焦りも出てきた。 そこで、高塚にばっかり捕らわれてちゃダメだ、わたしだって恋愛しなきゃ、って一念発起したわけ。
 でもフタを開けてみれば、付き合った男はわたしの友達と浮気をしていた。

 わたしって嫌われたり裏切られたり可哀相! なんて不幸な女なの!
 なーんて主演女優ぶるのは趣味じゃない。
 でもね、さすがにへこむよ。

 昔からこうなんだ。
 勉強や部活には全力投球できるのに、好きな人には全然だめ。
 本当の気持ちを伝えることが怖い。 好きになってもらうことより、まず嫌われることを想定してしまう。 で、そっちにビビるあまり、結局なにもできずに終わる。

 希望通りの大学を出て、希望通りの会社に就職した。
 中学でも高校でも、ほとんど毎日部活帰りに塾に通って、ほぼ毎週全国模試を受けていた。 しんどかった。 でもそれは親や学校に強制されたからじゃない。 自分で決めて自分で始めたことだ。 だからやりとおすことができた。
 自分がしてきた努力は正しかったと思っているし、満足もしている。

 でも、わたしにはそれしかない。
 女として、足りないものが多すぎるんだ。

「女は仕事がんばっちゃいけないのかなぁ。 別に“男になんか負けない!”とか思ってないよ? ただ自分の好きなことだから夢中になっちゃうだけなんだよ。 でもやっぱり、そういうの、男からしたらかわいくないんだってね」
 神楽坂のバーのカウンターで、わたしは日陰のナメクジのように高塚に愚痴った。

 誘導尋問されていくうちに、わたしは例の元彼の一件まで高塚にぶちまけてしまった。
 さすが“人ったらし”って言われるだけあるよ。 営業成績トップの交渉のプロは違うね。 あいつが相手だと、誰でも胸の内の隠し事を吐き出してしまう。 あいつが求める情報をペラペラ提供してしまう。
 高塚はめんくらうほど親身にわたしを励ましてくれた。
 それからはもう、コルクを引っこ抜かれたシャンパンボトルみたいに、わたしは自分の女子力不足に関する悩みのすべてを高塚に白状してしまった。

「そんなことない。 俺は好きだよ。 自分のために精一杯努力できる女って」
 フレンチコネクションをすすりながら、高塚はしれっと言い放った。

 そんなことない、だって。
 俺は好きだよ、だって。

 きっと、わたしのタガがはずれたのは、この瞬間だったんだと思う。

「そうかそうか。 高塚はわたしのことが好きなのか。 嫌よ嫌よも好きのうちってやつね」
「おい、酔っ払い。 絡むなよ」
 わたしは高塚の肩に自分の肩をぶつけて、ヘラヘラ笑っていた。
 高塚もほろ酔いで上機嫌だったのか、嫌がる素振りも見せず、小さく笑い声を上げたり、わたしの肩を押し返したりした。

 でもわたしは、全然、酔ってなんかいなかった。


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