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社説

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財務相発言―消費税封印の呪縛を解け

 本気で一歩を踏み出してもらいたい。菅直人副総理兼財務相が消費税を含む税制の抜本改革の議論を3月から本格化させる意向を表明した。

 菅氏はこれまで、消費増税について「逆立ちしても鼻血も出ないほど完全に無駄をなくしたときに、必要なら議論する」と繰り返してきた。

 安易な負担増に頼らず、予算のムダに徹底して切り込むのは当然だ。しかし、それだけで社会保障や教育に必要な財源を賄えないことは、昨年の事業仕分けでもはっきりした。

 しかも、日本の財政は先進国で最悪の水準にある。新年度予算案の国債発行額は44.3兆円と過去最大で、当初予算としては戦後初めて税収を上回った。2010年度末の国と地方を合わせた長期債務残高は国内総生産(GDP)の1.8倍にのぼる見通しだ。

 米国の大手格付け会社は、日本国債の格付けを引き下げる可能性を示した。日本経済そのものの信認にかかわりかねない。

 鳩山政権は3党連立合意で、次の総選挙までの消費税率据え置きを決めている。しかし、議論すら先送りし続けるのでは、無責任のそしりを免れない。鳩山由紀夫首相は4年間は税率を引き上げない方針を確認しつつ、「議論は結構だ」と明言した。

 少子高齢化が急速に進む日本社会では、働き手の数が減って、年金・医療・介護の受給者が増える。膨らむ社会保障の安定財源を確保するには、景気の動向に左右されにくい消費税は最も有力な手段といえる。

 消費税論議を封印したままでは、年金制度の抜本改革を含め、社会保障の将来像を描く作業も進まない。鳩山政権は内需主導による景気回復を目指しているが、社会保障への不安を国民が抱えたままでは、消費の拡大にも結びつかないだろう。

 鳩山政権は6月をめどに、中長期的な財政規律のあり方を含む財政運営戦略と、11〜13年度の中期財政フレームをまとめる方針だ。消費税引き上げの時期や幅、低所得層に不利になる逆進性への対策など、できるだけ具体的な道筋を盛り込んでほしい。

 夏に参院選を控え、民主党をはじめ与党内には、増税論議に消極的な意見も少なくなかろう。

 しかし、社会保障を充実させていくためなら、ある程度の負担増は引き受けざるを得ないと、多くの国民は気づいている。

 「増税を掲げて選挙は戦えない」という呪縛から、与野党ともに脱する時である。民主党の財政政策を無責任と批判してきた自民党にも、参院選までに対案を打ち出してもらいたい。

 必要と信じる政策と、そのための財源を堂々と国民に訴えることこそ政治の責任ではなかろうか。

きしむ米中―始まった「間合い」の模索

 米国と中国が手を携えて世界の秩序を主導する「G2」の時代に、日本は埋没しはしないか。

 オバマ大統領が去年11月に初めて中国を訪れ、胡錦濤(フー・チンタオ)・国家主席との間で「新時代の米中関係推進」を確認したとき、そんな心配の声さえ日本の国内からあがった。しかし、それは杞憂(きゆう)だったと思わせるほどの昨今のいさかいぶりである。

 中国は巨大市場であるだけでなく、米国債を大量に購入して米経済を支えている。それに対する配慮から、オバマ大統領は中国に穏やかな態度で臨んできた。真っ向から人権や民主化の問題を突きつけることも避けてきた。

 それが、米国の中間選挙が秋に控える今年になって、対立モードが鮮明になった。

 米グーグル社が検閲やサイバー攻撃などを理由に中国からの撤退を示唆。クリントン国務長官ら米政府高官や議会指導者からも批判を浴びて中国側の怒りはさらに膨らんだ。

 先月末に、オバマ政権が台湾への武器売却を議会に通告すると、こんどは中国が米政権を激しく非難した。

 今月もオバマ大統領は中国当局による人民元操作を暗に批判。18日にはホワイトハウスで、チベット仏教の最高指導者で中国当局が分離主義者と断じるダライ・ラマ14世と会見する。

 中国からは「米国が弾を撃ち続けている」(中国紙)と見えるようだ。

 しかし、グーグル問題は言論が不自由な中国に責任がある。台湾への武器売却はブッシュ前政権時代に大筋決まっていたもので、戦闘機や潜水艦は外されており、逆に台湾を失望させた。そもそも1千基を超すミサイルを台湾に向けているのは中国だ。

 中国はこれまでも、「台湾」「チベット」「貿易」「技術」にかかわる原則では、強硬な立場を表明してきた。だから、米中関係を悪化させる新たな要因が生まれたのではない、いずれ、緊張は協力に戻るとの見方がある。

 しかし、緊張→調整→緩和、というこれまでの流れが繰り返される保証はない。中国の経済や軍事、外交での存在感と影響力が急速に強まっているからだ。台湾への武器輸出を担う米企業に対する制裁を言明するに至ったのも、中国の変化だ。

 国際社会には、中国を世界経済の成長の切り札と頼みにする空気は強い。だが、中国が抱える問題に批判をためらうべきではない。

 米国は中国との新たな間合いを探る動きを始めたと言える。米国以外の国々も共有する課題だ。

 日本は米国との同盟関係を基軸としつつ中国とも関係を深めなければならない。新しい局面に入った米中関係の安定を助けるために、どういう役割を担いうるのかを考えたい。

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