【パリ=国末憲人】フランスが1960年代にサハラ砂漠で実施した核実験で、爆発直後に爆心に向けて兵士らを進軍させ、健康上、心理上の影響を調べていたことが、仏民間研究機関が入手した軍機密文書から明らかになった。同機関は、兵士を使った人体実験だったと批判している。
仏核実験被害者の救援活動に携わる「平和と紛争資料研究センター」(CDRPC、本部リヨン)によると、問題の核実験は61年4月25日、同国領だったアルジェリアのレッガーヌ核実験場で実施された。高さ約50メートルの塔の上での核爆発の20分後、攻撃役と防御役の二手に分かれた兵士約300人が爆心に向かって突進。部隊は爆心から650メートルの地点で止まったが、一部の兵士は爆心275メートルまで近づいたという。
実験の目的について、文書は「原子爆弾の人体に及ぼす生理学的、心理的効果を調べるため」と説明。「特別装備も多少の保護となるに過ぎない。(兵士は)このようなゾーンにとどまる時間を減らす必要がある」との結論に達したという。
文書は、仏が核実験を停止した後の98年に編集されたとみられる。モラン国防相はパリジャン紙に対し「その文書については関知していない」と話した。
フランスは60〜96年、サハラ砂漠と南太平洋で210回の核実験を実施。その後「わが国に被曝(ひばく)者は一人もいない」と公言し、核実験による被害を認めてこなかった。しかし、実験を遂行した軍人や技術者、遺族らから補償を求める声が上がり始め、2001年に、「核実験退役軍人協会」(AVEN)が発足。CDRPCと連携しつつ、政府の責任を追及している。
今月13日は、仏がサハラ砂漠で初めて核実験を実施して50年目にあたる。アルジェリアはCDRPCの協力も得て世界核実験国際会議を今月中に開催する予定。07年に続く2回目で、前回同様に被爆者を日本から招致する。