「体の中にガラスの破片が入っているようで、時には体がちぎれるほど痛む」。熊本市の大学2年生、石井麻美(あさみ)さん(20)は、もう8年間、全身が常に痛む原因不明の「線維筋痛症」に悩まされている。特効薬はない。一時は生きる意味さえ見失いかけたが、医師や同じ悩みをもつ患者たちとの出会いが石井さんの人生を変えた。【和田大典】
12歳のときに突然、激しい痛みが全身に広がった。中学時代は陸上部に所属したが、高校になると激痛で授業も休みがちになり、部活はあきらめた。原因を知りたくて小児科、内科、婦人科、精神科を回ったが分からない。「甘えているからじゃないか」。身近な人にさえ理解してもらえず苦しんだ。
大学入学後、病状はさらに悪化した。物に触れたり、風や光に当たるだけで痛い。歩くのもままならず、車椅子を使い、食事ものどを通らず点滴生活になった。
そんな時、母恵子さんがインターネットで症状が一致する「線維筋痛症」を見つけた。専門医の診察で正式に診断された。「なぜ自分だけ。生まれてこなきゃよかった」。受け入れることはできなかった。
でも、医師の勧めでNPO法人「日本慢性疾患セルフマネジメント協会」(東京都)の講習を受け、考えが変わった。同じ病気に苦しむ人たちが一生懸命学んでいた。
「痛いよね。痛み止めも効かないね。でも死ぬ病気じゃない」
痛みを共感できる人の言葉にはっとさせられた。「つらいのは私だけじゃない。病気に納得はできないが、うまく付き合い前向きに生きよう」。専門医から処方された薬も効き始め、体は徐々に回復。1カ月半の入院と自宅療養を経て、09年春から1年ぶりに大学に復帰した。
その直後、共に悩んでくれた恵子さんが突然、くも膜下出血で倒れ、51歳で亡くなった。「母が一番心配してくれていた。病気が分かったのも母のおかげ。信じられなかった」。それでも体調が悪くなって寝込んだ時には「病気は治らなくても、せめて入院前の状態に戻って」という母の言葉を思い出し「頑張らなければ」と自らを奮い立たせた。
熊本県内の患者団体に入り、病気への一般の理解を広める活動を始めた。研究が進む米国で情報収集をしたいという目標ができた。それから、もう一つ、うれしいことがある。高校時代に知り合い、つらい入院生活を支えてくれた別の大学の医学部生(32)と2月下旬に婚姻届を出す予定だ。
「今、私は歩くことも大学へ通うことも、恋愛もできている。苦しい時代を糧にしながら、これからも生きていく」
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■ことば
全身に激しい痛みが起こる全身性慢性疼痛(とうつう)疾患。重症化すると軽い刺激でも生活に支障が出るほど激痛が走る。原因は解明されておらず、特効薬もないため、症状に応じて鎮痛作用のある向精神薬などを処方する。国内には約200万人の患者がいるとされ、女性の割合が多い。
毎日新聞 2010年2月14日 東京朝刊