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怪奇小説  悪夢・性夢 女の性欲  1ページ目
   性 夢  悪 夢

 小学校の頃の夢
 小学校の頃の夢というと、男の子だったら、パイロットになりたいだの、プロレスラーになりたいだの、女の子だと、お嫁さんになりたいだのといったものであろうか。だかここでは、そういうメルヘンチックな夢ではない。まさに悪夢、性夢なのであった。
 何歳くらいの頃であっただろうか。ボチボチ勃起が始まる頃だと言えば分かりやすいだろうか。まだ夢精という年齢ではなく、やっとたまに何かの拍子に立つことがあるが、快感は感じない、といったくらいの年齢であった。そのころ、昼寝をすると、よく悪夢・性夢を見たものである。それも他の兄弟がいなくて、一人で寝ている時だけに限って起きたのだ。
 ある時、子供部屋で一人で昼寝をしていたのだが、夢の中で誰かが俺の性器をいじっているのだ。竿をいじり、玉をいじっている。玉を指で握るようにしているのだ。
 お陰で少し勃起しているようだ。年齢的にまだ快感を感じて勃起するほどではない年代だったので、快感よりも痛みや不快感を感じたのだ。しかも内部からの自然の力で立つというのではなく、外部からの刺激で、無理矢理立たせられている感じなのだ。だから俺としては辞めて欲しいのだった。そこで夢の中で一生懸命念じたのだ。
 「やめてくれ」
 「だれだ」
 「何をするんだ」
 そういう念動が、体の動きとして表に現れたのであろうか、加えられていた外部からの刺激は去っていったのだ。それも、意識の世界から消えていくのではなく、現実の世界で、ドアを通って外へ移動して行く気配を感じたのだ。
 目を覚まして自分の体を見ると、性器は半分立っている状態であった。別に快感はないし、勿論夢精などしていない。そして部屋の中には、誰もいなかったのである。
 面白いことに、こういう悪夢・性夢は、必ず一人で昼間寝ている時にだけ見るのだ。夜寝ている時とか、近くに兄弟がいる時などは、絶対に見ないのだ。

 中学校の頃の夢
 それから自分の力で立つような年代になってからは、外部からの刺激を加えられると言うことはなくなった。だが、自分が内部の情動で夢を見る時に、夢の中で昔の出来事がよみがえってくるのだ。自立能力で勃起し、性夢を見ている時に、過去の思い出が混ざって現れてきて、痛かったり不快だったりするのだ。しかもそのころになると、誰が俺に刺激を加えたか知っていたので、余計不快だったのだ。そこでまた性夢の中で叫ぶことになる。
 「よせ」
 「やめろ」
 「いい加減にしろ」
 「お前がやっていることは知っているぞ」
 だがその時は、あくまでも夢の中の幻想であって、実在する外部の力は存在していないのだった。だから、叫びながら飛び起きても、誰かがいたという気配は感じられないのだった。過去の記憶と内部からの自立能力が相まって、そんな夢を見たのだった。
 だが人間の心の中にトラウマとして残っている外部からの不快な刺激の記憶は、人間の心を大きく支配し、ゆがめるのだ。

 太宰治
 長姉と長兄が高校の時だったか、長姉は日本文学全集を、長兄は世界文学全集を買ってもらったのだ。俺に対しては、
 「二人から借りて読めばいいでしょ」
ということで、高校になっても何も買ってもらえなかったのだ。借りるというと、頭を下げて、ご機嫌を伺いながら借りなければならないのだ。下の子というものは、こういう屈辱的なものなのだ。それでも長姉の方がまだ執着が少なくて、借りやすかったのだ。
 若い頃、そう学生時代だったが、やっと借りて読んだ日本文学全集の1冊の小説に、似たような場面を見つけて、世間知らずだった自分は大いに驚いたことがある。
 「これは俺と同じではないか」
 「俺と同じ経験を偉い人もするんだ」
記憶に間違いがなければ、太宰治の小説だったと思うのだが、こんな描写があったのだ。
 主人公が小さな男の子だった時のこと、独り者の美人の叔母さんが時々遊びに来て、泊まっていくことがあった。そう言う時はいつも、夜は一緒に寝てくれるという。同じ布団に入って寝ていると、寒いだろうと両足を股の間に入れて温めてくれるのだった。その他、あれこれあって、あえぐきれいな叔母さんの顔に見ほれたというような描写があったのだ。
 俺の場合は、それは叔母ではなく、実の母親だったのだ。女親、つまり女の方の親だったのだ。親であっても女なのだった。そして俺は勿論男なのだ。この関係は後でゆっくり大先生を引用してアカデミックに描写することにしよう。
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