東京在住のナイジェリア人男性バレンタインさんが03年12月、新宿でビラ配りをしていたところ、警視庁の私服捜査員に風営法違反容疑で逮捕(その後、不起訴)された。その際、右ひざを粉砕骨折し歩行困難の後遺症を抱えた。男性は、あおむけで警察官に数回踏みつけられ、適切な治療もないまま威圧的な取り調べを受けたと主張。05年、東京都(警視庁)を相手に損害賠償を求める裁判を起こした。
だが東京地裁は07年3月、請求を棄却した。男性が道路脇の金属製の看板にひざをぶつけたか、その弾みで地面に倒れたのが原因という警察側の主張を受け入れたためだ。
男性はすぐに東京高裁に控訴し、私は2年前の本欄で傍聴記を書いた。警察病院のカルテの紛失、内部報告書はないと主張する警視庁側に疑問を抱いたからだ。また留置人診療簿の開示請求にも応じない警視庁側に、「何も出せないというのは、やや奇妙と言いますか……」と応じた当時の高裁裁判長に、真相を究める態度を見たためだ。
即棄却の懸念もあったが裁判はその後丸2年続き、1月に結審した。その間、警察官による暴行、ひざを踏みつける様を見た新たな証言、骨折具合を分析した専門医2人による「看板衝突説、転倒説」への反証など、新たな証拠が示された。警視庁側は別の医師を証人に、男性が跳び上がり着地した際に骨折したという当初とは違う「跳躍説」を持ちだした。また、ないと言い張っていた内部報告書を一転、提出する奇妙な対応もみられた。
判決の行方はわからない。ただここで言いたいのは、医学、力学を駆使し真相を究めようとする弁護団、原告支援者たちの執念だ。
毎日新聞 2010年2月14日 0時11分
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