「朝鮮は滅びても歴史はなくならない」

【新刊】オ・ハンニョン著、『朝鮮の力』(歴史批評社)

1404年(太宗4年)2月8日、狩りに出かけた太宗は矢を引き絞り、ノロジカを射ようとしたところで落馬した。太宗はきまりが悪そうに、臣下に対し「史官に知られないようにせよ」と話した。史官はその言葉までも『実録』に記録した。

 朝鮮の知識人らは「台諫(官吏の非行を糾弾する司憲部と国王に対し諫言する司諫院)が一つの時代の公論だとすれば、史官は万歳の公論」と考えた。万歳後の人とは、朝鮮という国が滅びた後に生きる人のことをいう。実録は次の王朝や国家によってのみ公開される。王朝時代に次の王朝や国家を口に出すこと自体が「大逆」だったが、朝鮮の知識人は「国は滅びることがあっても、歴史がなくなることはない」と考えたというわけだ。

 歴史学者である著者は、500年以上持続した朝鮮文明には、それを可能にしたシステムと中心軸があったと話す。武力と暴圧の誘惑を払いのけ、文化的統治である「文治」の可能性を信じたために、権力と文化の緊張の中で朝鮮は維持されたということだ。四端七情論争(朱子学の解釈をめぐる論争)、大同法(米の納税制度)、光海君の外交など、朝鮮史の主要争点を短く平易に解説した。328ページ、1万4500ウォン(約1130円)。

李漢洙(イ・ハンス)記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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