韓国に受け継がれる「ソンビ精神」(下)

 韓教授は「歴史的変化と発展にだけ注目してきたため、歴史の連続性を見失っている」と話す。朝鮮時代にも、北宋の儒学者・程子や朱子をたたえる性理学者の中に、文武を兼ね備えた人材が多かった。それは、伝統的な「ソンビ精神」が受け継がれてきたからだという。高句麗のソンビと新羅の花朗(貴族の子弟が集まり、心身の鍛錬などを行った団体)の伝統を受け継いだ共同体は、朝鮮時代に僧侶のような服装で街を踊り歩きながら女性や子供を集めた「社長」や、宗教団体を兼ねながら、葬儀をはじめとした大変な仕事を互いに助け合った「香徒」という共同体の中に受け継がれてきた。

 韓教授は、ソンビ精神の中核として、人間はあまねく利益を与えるものであるという「弘益人間精神」と、天と地と人は一つであり、宇宙が一つの共同体であると考える「天地人合一思想」を挙げた。「弘益人間精神」は儒学と結び付きながら、国家の運営において公益精神に進化し、民心を尊重する「民本思想」と「愛民思想」として根付いた。「天地人合一思想」は自然と環境を破壊する欧米の近代的な自然観を克服し、共生を図ることができる世界観だ。韓教授は、韓国社会の行き過ぎた理念対立も統合と疎通を強調するソンビ精神で緩和することができると話す。

 「ソンビ文化」というと、どこか堅苦しく時代遅れで、変化に抵抗しているような印象が強い。現在のようなグローバル時代においてはなおさらだ。しかし韓教授は、このような指摘に対し首を横に振った。

 「ソンビ文化は変化を拒否しているのではない。伝統文化を基盤として、外来文化を創造的に受容する『温故知新』のような知恵が根底にある。開化期(1876年日朝修好条規締結以降)に唱えられた、古くからの思想や文化を守りながら新しい技術や文化を取り入れようという考えや、独立運動家の安在鴻(アン・ジェホン)が唱えた『新民族主義』も、伝統的なソンビ思想と西洋の政治思想を融合させて近代国家建設を図ったものだ。ところが、日本による植民地からの解放後、自国のものを軽視し、外国のものばかり受け入れた結果、伝統文化のブランドが発展途上国の水準にも満たない国になってしまった」

金基哲(キム・ギチョル)記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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