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回復しつつある世界経済に、日本もしっかりと支えられている。2009年10〜12月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は年率換算で4.6%増となり、不況下でも景気が徐々に上向いている様子を確認できた。
デフレで名目GDPの伸びは年率0.9%にとどまり、回復を実感するにはほど遠い。だが実質GDPが3四半期連続で増え、名目もプラスに転じたことは明るい兆しだ。
輸出では、世界の景気回復をリードしている中国などアジア向けが全体を押し上げている。米国や欧州向けも自動車などが復調した。
同じ時期に、中国は前年同期比実質10.7%の高成長を記録。米国も前期比の年率換算が5.7%、欧州のユーロ圏16カ国は同0.4%で、それぞれ2四半期連続のプラス成長だった。回復に向かう各国の足並みがそろうにつれ、日本への波及効果も大きくなってきたようだ。
内需は家電製品のエコポイント、エコカー減税などで個人消費の拡大が続いた。景気の足を引っ張ってきた住宅建設も、減少幅が縮まった。
動向が注目される設備投資は、7四半期ぶりにプラスに転じた。自動車、パソコン、IT(情報技術)関連ソフトウエアなどの分野が息を吹き返しつつある。手放しで楽観はできないが、心強い動きだ。
年明け後も、為替相場や株価の水準はおおむね安定している。米国経済の先行きに対する懸念や、中国政府の引き締めの動きなど不安な要素はあるが、それでも日本経済が景気の「二番底」に陥る危険性は薄らいできたとみていいだろう。
だが、自律回復といえるほどの力強さはない。生産はピークの8割、機械受注は7割にとどまっている。09年の雇用者報酬は過去最大の落ち込みで、失業率も5%を超えたままだ。景気対策の効果は、やがて落ちてくる。
鳩山政権は、昨年末にまとめた成長戦略の基本方針を早期にしっかり肉付けし、民間の設備投資や雇用拡大の意欲を引き出す必要がある。
環境など先端技術分野をさらに伸ばす。医療、福祉、介護をはじめとするサービス産業をテコ入れし、雇用と所得を底上げする。貿易自由化を進展させ、企業の新興国市場への参入を大いに刺激しなければならない。
09年の名目GDPで日本と中国の差は詰まり、ことし中の逆転は必至だ。日本は高度な技術を生かした多様な付加価値で勝負する知識集約型資本主義への脱皮が一段と求められる。
経済成長のエンジンの役割を担う企業は、政府の支援を待っているいとまはない。新しいビジネスチャンスを積極的につかむことで、自律回復への道を切り開きたい。
悲惨な結果を迎える前に、この不幸な若いカップルを引き離せなかっただろうか。宮城県石巻市の民家で3人が殺傷され、18歳の少年が、同い年のこの家の次女を連れ去ったとして逮捕された事件だ。
次女は少年と交際を続け、4カ月になる赤ちゃんもいた。一方で、少年から暴力をふるわれていると、1年ほど前から警察に相談をしていた。
宮城県警は2度にわたり少年に指導警告をした。次女にも傷害や暴行の被害届を出すよう説得したが、なかなか応じなかったという。次女は周囲から諭されて別れを決心しては、復縁する繰り返しだったようだ。
そうした2人の関係は、家庭内や近親者間の暴力を指す「ドメスティックバイオレンス(DV)」の典型といえそうだ。
恋人や配偶者から肉体的・精神的な暴力を受けながら、合間に与えられる「優しさ」や次の暴力への恐怖から、逆に相手への依存を強めてしまう。「大丈夫だから」と被害を認めなかったり、「やり直せる」と支援を拒んだりしがちになる。DV被害者に接するうえで、一番難しい問題だ。
警察は一連の対応に問題はなかったとしている。事件前夜も署員が訪れ、翌日に被害届を出す予定だった。
だが、今月に入ってたびたび少年が次女の家に押しかけ、緊急性は高まっていた。被害届を待たずに、少年を引き離すような措置はとれなかっただろうかと残念だ。
2001年制定のDV防止法は、裁判所が接近禁止を命令する手続きを定め、違反には刑事罰もある。が、これも被害者の申し立てが前提だ。
警察がDVやストーカー行為の相談を受けていながら、強い手段に出られないうちに、本人や家族の殺傷に発展した例は各地で相次いでいる。現行制度に限界があるのか、警察の対応の問題か。こんどの事件をよく検証し、教訓をくみ取りたい。
そのうえでDV対策全般をあらためて見直す必要がある。
DV防止法は原則として配偶者からの暴力が対象だ。今回のような未婚のカップルへの対応は十分ではない。
警察と専門家、行政の相談窓口、民間の自助グループが連携して支える仕組みが必要だろう。孤立する被害者に「逃げても大丈夫」と伝えることが、悲劇を未然に防ぐことになる。
加害者に対しても、処罰や隔離だけでなく、自身の暴力性に向き合わせ更生させるプログラムが不可欠だ。
警察をはじめ日本の行政機関には、家庭内や男女間のトラブルには介入しない傾向が強かった。だが、放置された暴力は、やがて子どもや周囲にも向かいかねない。社会がもう一歩、踏み込んでもいい問題ではないか。