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きょうの社説 2010年2月16日
◎GDP連続プラス なおおぼつかない自律回復
2009年10〜12月期の国内総生産(GDP)が、年率換算で実質4・6%増と高
い成長を示した。実質プラス成長は3四半期連続で、生活実感により近い名目成長率が1年9カ月ぶりにプラスに転じたことも心理的に明るい材料である。これにより、景気が再び悪化する「二番底」の心配は薄らいだという見方が政府内に強まっているが、景気の自律回復の足取りはなおおぼつかなく、楽観はできない。物価動向を示すGDPデフレーターは過去最大の下落率(前年同期比3%)を記録し、 デフレ脱却の道も依然遠い。実質だけでなく名目でもプラス成長になったことは、脱デフレに向けて一定の改善が図られたと評価することもできるが、改善の歩みを後退させないためには、少なくとも政府の言うとおり、今年度第1次補正予算の執行に続いて、第2次補正予算、さらに新年度予算と切れ目なく予算を執行していく必要がある。 国会で「政治とカネ」の問題を追及することは重要であるが、政局優先で予算審議を滞 らせるようなことは避けねばなるまい。 10〜12月期のプラス成長の要因は、米国やアジア向け輸出が好調だったうえ、設備 投資が前期比1%増と1年9カ月ぶりに増えたことである。個人消費もエコポイント制などに支えられて前期比0・7%増となった。設備投資の増加で内需回復の兆しが見えてきたと言えるが、高水準の完全失業率や新卒者の就職難などが個人消費の足を引っ張る状況が続いている。財政による消費喚起策を途切らせるわけにはいかない。 政府の財政運営で気掛かりなのは、菅直人財務相が消費税論議を前倒しする方針を示し たことだ。当初、2011年度から予定していた税制の抜本改革論議を1年早める方針の背景には、消費税率引き上げによる社会保障制度の安定化と財政再建の道筋を早めに提示した方が、景気・経済対策にもなるという考え方があるのかもしれない。が、個人消費を伸ばしたい時に、民主党の公約である予算の無駄遣いをなくす取り組みがまったく不十分なまま増税論議を早めることには疑問が残る。
◎農家民宿の育成 身近な成功例に学びたい
グリーンツーリズムの受け入れ拠点として「農家民宿」の育成が課題となるなかで、石
川県では能登町の地域おこしグループ「春蘭(しゅんらん)の里」が宿泊客を伸ばし、視察も相次ぐ人気ぶりとなっている。県は3月に開業講座を開くなど農家民宿の育成に力を入れるが、身近な成功例は他の農家にとって何よりの励みとなる。政府は「子ども農山漁村交流プロジェクト」として、小学生を農山漁村に1週間程度滞 在させる受け皿づくりを全国で進めている。農家民宿は教育のみならず、癒やしを求める大人の旅の志向にも合致し、外国人旅行者の関心も高い。既に25軒の農家民宿群が形成され、修学旅行も受け入れる「春蘭の里」から学ぶ点は少なくないだろう。グリーンツーリズムは能登や白山麓などの地域活性化のキーワードでもある。「春蘭の里」のノウハウを県全体で共有したい。 県内の農家民宿は昨年3月末時点で能登地区を中心に35軒ある。その中心が能登町宮 地・鮭尾地区の住民でつくる「春蘭の里」である。1996年に実行委員会を発足させて地域づくりに乗り出し、農家民宿の昨年の利用者は約3200人に達した。年内には新たに5軒を加えて30軒となり、一度に250人が収容可能になる。 春は山菜採りや田植え、夏はキリコ担ぎや川遊びなど、季節に応じた多彩な体験メニュ ーが大きな魅力である。実行委発足から十数年を経た地道な取り組みが実を結んできたといえる。 民宿経営というだけで農家のなかには負担を感じる人がいるかもしれない。だが、田舎 暮らしを望む人は、豊かな自然や郷土食、人情を楽しみにやってくる。旅館やホテルのようなもてなしでなく、ありのままの姿をみせればいい。旅館業法などの規制緩和も進んだが、自治体も農家が参入しやすい環境づくりに努めてほしい。 農家民宿は滞在者に喜んでもらう創意工夫を通して地域の魅力づくりにつながる意義あ る取り組みである。「春蘭の里」のように農家を支える地域ネットワークも整え、個性的な農家民宿群がさらに誕生することを期待したい。
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