漆黒の狂戦士 影と闇の狭間で・・・
格好良いダークナイトという人はなかなかいません。
アバタを全身にしてる人は多いけどね。
鎧が似合うナイスガイはそういなかったわけです。
しかし、今年はそんな素敵な戦士に出会えました(*゚∀゚)b
マルさんとギルメン以外では初めてですね。
おまけのその人はこのブログを見てくれている!?
それにファンタジーがダイスキだと!?
だったら書くしかないじゃないか!?ってわけで外伝小説書きました。
前編ということで半端物をUPします。
後編は来年に!
封印されていた微妙な英雄より、熱く生きる漆黒の狂戦士の生き様に刮目せよ!
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しかし、今年はそんな素敵な戦士に出会えました(*゚∀゚)b
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前編ということで半端物をUPします。
後編は来年に!
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漆黒の狂戦士 影と闇の狭間で・・・
前編
深い闇は光すら無にする・・・
夜の世界を照らす月は、影をより一層濃くさせる。
ジパングの離れ墓地、誰も近づかない危険な竹藪の中にある。
死霊に弄ばれる淡い紅いの着物に身を包んだ女の骸達は、吸い寄せられるかのように黒いマントを纏った男に襲い掛かる。
袖の中から突出してきた無数の触手が男を捕らえようと迫っていくが、マントの隙間から取り出された刃で斬りおとされる。
女の骸は怒り狂った表情の口から、見えない衝撃波を飛ばす。
それを喰らい男は一瞬怯んだが、次の瞬間にはマントがまくれ黒い鎧が露になる。
手に持っている刃は柄が縮められた槍であることが分かる。
漆黒の巨大な刃の槍「アルシュピス」の柄を通常の長さに伸ばし、次の瞬間には骸達の頭部を突き抜いていった。
頭部を粉砕された骸は無様に倒れていくが、また他の骸に憑依した死霊は繰り返すように男に攻撃していく。
だが、一度として骸達は男に致命傷を与えることが出来なかった。
ほとんどの骸を破壊し終わりかけた時には、眩しいほどの朝日が差し込む。
死霊どもは光の中では力を発揮することはできず、骸達から離れ闇の中へと還って行く。
「これで寝れるな・・・」
致命傷は無いものの、疲労困憊した男は槍を支えになんとか立っているようであった。
「ごくろうさん・・・シェナロダ」
ずっと背中とマントの間に隠れていた黒い龍が現れて労いの言葉をかける。
「リビドー・・・お前の炎は飾りかよ・・・少しは手伝ってくれよ」
男は皮肉ぽっく言うが、リビドーと呼ばれた黒龍は全く気にすることなく言い返す。
「俺はいざって時には役立つ! さっきのはそういう場面じゃないだろ? それに契約範囲外のことはしない主義だ」
「はぁ・・・」
疲れと呆れが混じった深いため息をつきながら男は墓地を後にする。
ネオスと呼ばれる黒い鎧に闇のように黒いマントを羽織、黒い髪に鋭い紅の眼を持つ戦士。
まるで闇が獣と化したのようなダークナイト。
これは漆黒の狂戦士シェナロダの物語である。
「依頼通り片付けた。情報をさっさと貰いたいね」
ジパングとよばれる国には、屋台が並ぶ通りがある。
ここは、その中にあるラーメン店であった。
小さい小屋だけあって、テーブルは3つに椅子が4つずつ、カウンターにも席が4つだけの店で、店主は仕込みを終えてか、シェナロダに1杯のラーメンを出し終えるとカウンターに座り新聞を読み始めた。
シェナロダがラーメンを啜りながら座るテーブルの向かいには、ジパングの装束である着物を着た町娘が1人座っている。
しかしながら、町娘では纏えるはずもないオーラも感じさせる。
シェナロダも疑問に思いはしたが、自分の望む報酬を貰うために仕事を受け、それをこなしたのだ。
「分かっている・・・良くやってくれた。悪いがその様子はずっと見させてもらっていた」
この世界にいる大半の人間が、あの墓地にいた死霊に触れればそれだけで死に至るような場所にこの娘も来ていたとなれば、その力量もある程度の予測がつく。
「ほぉ・・・」
「ここでは話せない内容もある。また夜にこの場所へ・・・」
娘はメモ用紙と、ラーメン代金をそっと差し出すと足早に店を後にした。
そして、間もなくラーメンを食べ終えたシェナロダも店から出る。
通りを歩いてジパングを抜けようとしたシェナロダは一瞬で大木の影に隠れ、次の瞬間には鳥居の上に飛び上がった。
眼下には、三角傘を被った数名のサムライらしい人間が慌てた素振りを見せる。
「お前の後をつけてたな・・・」
背中のマントの隙間から、リビドーが頭を出しながら言った。
「問題はない。どうやら・・・当たりだ」
手ごたえを感じたシェナロダの顔は不敵な笑みを浮かべていた。
「お前は楓城のクノイチだろ?」
待ち合わせの場所に、予定より早い時間からシェナロダは待っていた。
ジパングの火狸や鴉が生息する不気味な森の片隅にある大きな木に枝の上に寝転ぶようにいる。
見下ろすと女は昼間とはまた違う格好で、今度は全身にマントを羽織、顔すら分からないようにしていたが、その纏いつくオーラに、町娘ならぬ動きでシェナロダに気づかれた。
しかし、その女もシェナロダの言動に驚くことなく平然に答える。
「そうだ。よく分かったと褒めてやるべきか? それとも、そんな力量の人間を雇った私が凄いと自負すべきか?」
マントから顔を見せた女の顔は、昼間とは違い殺気に満ちている。
しかし、その殺気はシェナロダに向けられるモノではない。
「察するに敵討ちってとこか? 裏切りとくればそんなことだろ・・・」
シェナロダの言動に驚きはしなかったクノイチもいきなり、目の前に現れる黒龍が流暢な言葉で話しかけてくれば驚いた。
「な、なんだ!? このペットは・・・」
この世界でペットや使い魔を連れまわす人間は多くいるが、ここまで動き回り流暢に話す種類はほとんどいない。
おまけに黒い龍とすれば驚いても不思議ではない。
「そいつは俺の相方みたいなモンだ。気にしないでくれ」
シェナロダはそういうと木から飛び降り、手を伸ばしリビドーの頭を掴む。
「俺の名前はリビドー。まあ、よろしく頼むぜ。お嬢さん」
捕まれながらも喋り続けるリビドーを呆気を取られながらも、クノイチは周囲の異変に気づいた。
「ちっ・・・すまない。つけられていたようだ・・・」
クノイチが舌打ちをすると同時に、クナイを構えて戦闘体勢を取る。
シェナロダはリビドーを背中につけると、愛用の得物を取り出し構えた。
周りには長い槍を構えた足軽20名ほどが「御用だ!」と連呼しながら威嚇してくる。
数では上回るが、シェナロダが本気を出さずとも数秒で片付けてしまう雑兵の中に、紅の鎧を纏った武者が野太刀と思われる長い刀を構えている。
「ほぉ・・・雑兵の中に大物がいるな・・・これは楽しくなりそうだ」
敵の強さを理解しながらも、楽しそうに笑うリビドーを横目にシェナロダは槍を甲冑武者に向けた。
「問題はない」
強敵を目に前にし、動じないのもシェナロダの強さだろう。
「足軽は大したことはない・・・しかし・・・」
「言っただろ? 問題ない!」
シェナロダはそう言い放つとラッシュで一気に間合いを詰めた。
甲冑武者もそれに反応し、刀を勢いよく振り下ろすがシェナロダは体を回転させるように流し、回避した。
振り下ろされた刀は地面に深く食い込む。
その隙にシェナロダは甲冑武者の横からバスターという、3連続の突きを放つ。
最初の一撃で甲冑の隙間の繋ぎ部分を破壊。
2撃目で甲冑を撃ち剥がし、3撃目では腹部を貫通した。
鈍い音と、甲冑武者の苦痛に漏れる声が響いた。
刺さった槍を抜き出すためにシェナロダは体を宙に浮かし、揃えた両足で甲冑武者の頭部に蹴りを放つ。
槍は綺麗には抜けず、刺された傷口はえぐられ激痛を与える。
蹴り飛ばされた甲冑武者は包囲している足軽数名にその巨体を直撃させた。
普通の人間ではショック死しても可笑しくない傷を負ったはずだが、甲冑武者は気絶すらしない。
「堕とし子(おとしご)ではないが、孫のほうか・・・やはり当たりだな」
シェナロダは状況を理解したように呟く、クノイチによっては異様な光景の連続で驚くしかできないでいた。
激痛による怒りで甲冑武者の太刀筋は荒れ、周りを包囲してくれている足軽までもその攻撃に巻き込み、斬り捨てながらシェナロダに突っ込んでくる。
だが早く鋭い斬撃であってもシェナロダを捉えることはできない。
いくつかの斬撃を回避し間合いを詰めて放たれたシェナロダの突きは刀を持つ腕ごと吹き飛ばし、腕と刀は彼方へと飛んでいく。
甲冑武者は激痛に悶え倒れ、シェナロダはそれに止めを刺そうと槍を高く構えるが怯えきった足軽達にはそれを制止することもできない。
そんな中、足軽達の応援に侍などもやってきた。
シェナロダにとっては問題のない数であることには違いはない。
しかし、騒ぎのせいか関係のない一般人や冒険者などの姿も見えてきた。
「一度引くぞ!」
クノイチの叫び声に、構えた槍を下げ、首を縦に振るとクノイチが投げた煙幕弾が弾ける。
霧のように広がる煙幕のなかクノイチの手引きでその場を後にした。
「必ず殺してやる!」
煙幕が広がっていくなか、甲冑武者の雄叫びだけが2人を追いかけていた。
追手を撒くために、クノイチ共々一晩走り回り、今は屋敷の中の1室にいる。
ここはカエデヤの屋敷である。
「カエデヤもこの1件に噛んでいたとはな・・・」
部屋の隅で、槍を抱えるように座りながら休息を取るシェナロダの足元にはリビドーが寝転び、文字通り羽を伸ばしている。
「事情はすぐに分かる・・・それにあとで貴様にも聞きたいこともあるし、見て貰いたい物もあるが報酬の情報はもういいのか?」
クノイチは柱に凭れ掛かるように立ち続けていた。
「ああ・・・さっきの鎧野郎で確信した。あとは見つけて殺すだけだ・・・」
「そうか・・・お前は随分と詳しそうだな・・・『オトシゴ』だの口にしていたな?」
「敵を知り・・・ってやつだ。機会があれば話してやる」
シェナロダは気配を感じ、話を終わらせると同時にカエデヤが姿を見せた。
悪い噂が絶えない男であるだけに、悪い顔付きをしている。
「おまたせしたようで、失礼しました」
物腰が柔らかい素振りではあるが、油断できる相手ではない。
シェナロダも、次の瞬間にはこいつが呼び寄せた楓城の連中が現れることすら想定していた。
リビドーもこいつの気配を感じた瞬間には、もうマントの隙間に姿を隠していた。
だが、カエデヤが土下座をしたのだ。
「お願いします! 殿を・・・殿を殺してください」
「話が見えないな・・・お前は殿と結託してかなり悪徳な事をしてるのは、この国の子供でも知っているぞ?」
土下座していた、カエデヤは顔をあげ、シェナロダを縋る様な目で見つめる。
「娘が・・・このままだと葵が・・・あのバケモノに食われてしまう!!!」
恐怖の引きつる顔で声を荒げるカエデヤに、冷たい表情となったシェナロダは槍の刃を向けた。
「ひぃっ!」
カエデヤは驚き後ろに飛び逃げ、後ずさりする。
「お前は散々悪さをして、娘だけは助けたいだと・・・いいご身分だな!」
立ち上がりカエデヤを見下ろすシェナロダと、それに恐怖するカエデヤはまさに、蛇に睨まれた蛙のようである。
「そう興奮するな。こんなクズのおかげでも、こっちは今助かってる」
クノイチがシェナロダを諭すように割って入った。
「事情は分かったろ? カエデヤ・・・例のモノを私たちに見せろ」
シェナロダにおびえたままのカエデヤは、首を縦に振り、立ち上がり広い館の奥へと2人を案内した。
隠し部屋の中に、またいくつものロックが掛かっている金庫の奥から取り出されたモノを部屋の中心にあるテーブルの上に置かれた。
「これが例のモノか?」
クノイチの問いに答えたのは、カエデヤではなくシェナロダであった。
「間違いない・・・『堕天使の子宮』だ!」
大きさは人の眼球ぐらいで、心臓が摘出された直後のように、脈打つように鼓動を続けている赤い肉のような塊であり、いくつもの血管のようなモノがだらりと伸びている。
予想通りといわんばかりの笑みをこぼしながら、武者震いするシェナロダの背中からリビドーが現れ叫ぶ。
「来るぞ! シェナロダ!!」
堕天使の子宮に反応したのではなく、入り口のほうから小さな影が飛んできたのだ。
シェナロダはリビドーの声により反応し、それを手刀で叩き落とし、次の瞬間には槍で突き刺した。
それはシェナロダが先の戦闘で切り落とした甲冑武者の手である。
「ココニアッタノカ・・・カエデヤ・・・コノウラギリモノメ・・・」
手の甲に口らしきモノが現れたと思えば、いきなり声を発した。
カエデヤは驚き、恐怖に怯えながらも反論する。
「そ、その声は・・・!? と、殿なのか!?」
カエデヤは慌てふためき、堕天使の子宮と共々、厳重に保管していた宝物すら押しのけて不気味な手から距離を取るように逃げた。
「あ、アンタは狂った! 人を喰らい、穢し・・・もうバケモノと付き合っていられるか!」
カエデヤの絶叫が轟き、次の瞬間には手は青色のガマカエルに姿を変え、槍をすり抜け飛び上がる。
同時に口をその体に不釣合いな程大きく開け、3人を堕天使の子宮ごと飲み込もとする。
だがシェナロダがラッシュで押し返し、口の中に黒い丸い物を投げ込まれ遠く吹き飛ばされる。
ガマカエルは体勢を整えると、再び飛びかかってくるが、爆発した。
轟音と恐怖により、カエデヤは気を失いその場に倒れた。
「娘のためか・・・こいつの反応を見る限りさっきの声は殿に違いないか?」
泡をふいて倒れるカエデヤを見下ろしながら、シェナロダはクノイチに問いかけた。
「ああ・・・私も聞いたことがある声だった。間違いないだろう。いくんだな?」
クノイチの問いに首を縦に振るシェナロダの目は、何かを思いだすように悲しく鈍く光る。
「急ごう、使用人達がくれば話がややこしくなりそうだ」
シェナロダはそう呟くと、床に落ちていた堕天使の子宮を拾いクノイチと共に楓城に向かった。
シェナロダが進む道は、円筒の壁にそって作られた階段である。
いざという時のため、脱出に利用する目的で城にはいくつかの隠し通路が存在する。
クノイチもここに仕える忍だった故に、もちろん把握していた。
一般の兵に知られることはない、道だけに問題なく進んでいた。
「もうすぐ天守閣の近くに出れるはずだ・・・」
走りながらクノイチが説明した。
「なんで、あんな品物の存在を知っている? お前の目的は何だ?」
もうすぐ天守閣に辿り着くこともあり、余裕ができたこともあり、シェナロダに問いかけた。
「・・・なら先にお前の目的を教えて貰おうか?」
逆に問いかけられ、クノイチは辛い表情をその目だけで露にする。
「敵討ちだ・・・許婚があのバケモノに喰われた・・・」
俺の言った通りだと言わんばかりに、マントの隙間から自慢げな顔だすリビドーをシェナロダは小突く。
「単純だな・・・」
「ああ、単純だ・・・何が悪い?」
「いあ、悪くはない・・・俺も・・・そうだ」
シャナロダも自分の闘う理由を話そうをした時だった。
「来るぞ!!」
再び、リビドーが気配を感じ取り叫ぶ。
石の壁をぶち抜いて赤い腕が現れたのだ。
その腕はすぐさまクノイチを掴み持ち上げる。
シェナロダは刃ですぐさま、腕に斬りかかる。
刃は深く入り込み切り裂いたが、切り落とすまでにいたらずクノイチは捕らえられたままである。
「さっきの甲冑野郎か!?」
先の闘いで切り落とされた腕も再生し、その手には野太刀が握られている。
「殿にはもう気づかれている・・・いってくれっ!」
クノイチは苦しそうに声を出しながら、必死に叫ぶ。
「馬鹿いうな!」
シェナロダは倒して進むつもりであったが、甲冑武者の手に握られ捕らわれているクノイチは夥しい血が流れて落ちていく。
甲冑武者の握力で内臓が潰され、破れた腹部から血が流れ出ていたのだ。
「私はもう・・・だめだ・・・頼む! 私は地獄であいつが来るのを待ってるからな!!」
クノイチはそう叫ぶと、隠し持っていた爆弾を取り出した。
それは先の青いガマガエルにシェナロダが使っていたのと同じ物である。
クノイチは自分の武器にもなると、シェナロダから勝手に拝借していたのだ。
シェナロダも状況を把握し、クノイチはニヤリと笑って見せて爆弾を起爆させた。
シェナロダは、爆発するまでの僅かな一瞬で飛び上がり、爆風を活かして、更に飛翔して天守閣の入り口の近くまで飛んだ。
「無茶しやがって」
リビドーが文句を聞きながら、シェナロダは黙って崩壊していく脱出通路を背にして前に進む。
「ついでだからな・・・任せろ・・・」
そう口にしながら。
脱出口の設置場所は簡単な場所であった。
掛け軸の後ろにあったのだ。
それから天守閣に入ったシェナロダが見た光景は予想外の状態であった。
大勢の兵士が万全な体勢で、シェナロダの進入を予想していたのだ。
兵士を率いる人間は蒼い鎧に巨大な蒼い刃のグリュンヒルを呼ばれる剣を構えた蒼い髪と蒼い双眸の剣士と、空色のように澄んだ鋭利な刃を輝かせるパルチザンという槍と、巨大な諸刃の剣であるクレイモアを背中に背負い構える青い戦士の2人であった。
「ちっ・・・」
シェナロダは舌打ちしながら、アルシュピスの柄を伸ばし構えた。
「おい! シェナロダ! あの2人は強いぞ! 奴ら万全の体勢で待っていやがった・・・ここは引こう!」
リビドーはマントの中から、必死にシェナロダに訴える。
しかしながら、シェナロダはブースター、スタンス、ハイパーボディを一気に使い戦闘態勢を取り、ラッシュでいっきに間合いを詰めた。
蒼い剣士と青い戦士の2人も、シェナロダはスキルを発動させると同時に、ブースターなどを使い準備し構えており、ラッシュは2人の間を切り裂くように空間を割った。
左右に散開し、シェナロダとの間合いを計る。
そして、シェナロダの左側にいた青い戦士が槍をシェナロダに投げ、クレイモアを構える。
シェナロダは、槍を余裕で回避したが、その回避動作によって生じた隙をクレイモアでブレストという鋭い突きで押してくる。
だが、シェナロダも押され続けるわけもない。
スタンスで踏ん張りを聞かせ、相手の隙を突いてラッシュで押し退け、バスターを放ち、すぐさまスラッシャーをいう巨大な斬撃を打ち出すが、巧みなステップで全て回避された。
しかし、懐に体を入り込ませると肩からの体当たりを青い戦士にぶつけた。
バランスを崩す青い戦士はクレイモアを畳に刺し込み、それを軸にバランスを取り整えると、刺さった畳ごとクレイモアを持ち上げ、引き抜くのと同時に畳をシェナロダに投げつける。
シェナロダはそれを槍を横にふり両断するが、畳により生じた死角により蒼い剣士が斬りかかる。
寸で回避し、流れるように反撃に転じるシェナロダに青い戦士がパルチザンを拾い、片手でバスターを放つ。
シェナロダも槍使いだけあり、その3連続の突きを見切り回避するが予想外の4撃目が来たのだ。
もう片手で握られていたクレイモアによるブレストの突きであった。
その勢いは凄まじく宙に浮く形になったが、アルシュピスの刃の幅のおかげで辛うじて致命傷は避け、着地した。
しかし、着地した場所ごと蒼い剣士が放ったパニックという最強クラスの斬撃で抉られ吹き飛ばされ、再び2人との間に広い距離が取られた。
3人の激闘に静まり返った空間に蒼い剣士が声を荒げ叫ぶ。
「楓城の兵士諸君! この場は私達に任せてもらおう! 大勢で行っても仕留めれる相手ではないのは理解してくれただろう! 尚、先に言った通り、この侵入者の撃退の権限はナオスケ殿から委譲されている! 邪魔は命令違反とし、あとで報告する旨を改めて伝えておく!」
それを聞き、シェナロダは激闘の中でありながら微笑を見せた。
その反応に青い戦士もまた、顔に微笑を見せる。
そして、まるで合図があったかのように3人は再び激しい斬撃を放ち合う。
次々と畳も障子も傷だからけになっていく。
激しい闘いは場所を変えながら、進行されていく。
兵士達にそれを遮ることもできず、道は明けられ3人は奥に闘いながら進む形となった。
「それ以上奥にいかれますと、からくりの罠が!」
兵士の1人が叫ぶが、誰1人反応しない。
慌てながら、追いかけようとする兵士達は、闘いの中でへし折られた柱が崩壊して天井が崩れてきたために、慌てて引き帰していった。
「シャナロダ!」
リビドーは必死に激闘の中から叫び続けてきた。
凄まじい闘いだけあり、必死になってマントにしがみ付き、天井から槍、壁から手裏剣がでてくる間も必死に訴えていたリビドーにシェナロダはようやく応答した。
「すまなかったな・・・リビドー」
「え?」
その声は、死闘の中で発せられるには余りにも落ち着いたモノであり、リビドーは驚く。
「誰と話している? シェナロダ」
シェナロダに問いかけたのは、先ほどまで闘っていた青い戦士である。
この2人もあのカラクリによるトラップの通路も共に乗り越えてきたのだ。
「マルさんが頭でも殴ったか?」
「おいおい、ロキア。人聞きの悪いこと言わないでくれないか? まあ、シェナロダ相手だから手加減はできなかったがな・・・」
状況が飲み込めないリビドーの我慢も限界に達し、マントから飛び出してシェナロダに問いかける。
「一体どうなってるんだよ!」
叫びながら登場した黒いドラゴンにも、2人は動じることはなかった。
「なるほど、こいつと話してたのか・・・」
納得した表情で2人は飛び回るリビドーを見上げた。
「ああ、それにしても助かったよ。マルさん。ロキア」
「気にするな。こっちもこっちの仕事があるからな。その説明の前に自己紹介をしておこう。私の名前はロキアルド。ロキアと呼んでくれ、黒い竜殿」
ロキアルドは蒼いの髪にメガネをかけ、奥には鋭い眼光を見せながらもシェナロダと言葉を交わすと、リビドーにまで自己紹介をした。
「私はマルゴーだ。よろしく」
マルゴーは青白い髪に、ワイルドなヒゲを蓄えた屈強の戦士の印象を持たせる。
「お、俺はリビドー。よ、よろしくな」
兵士達の追跡の可能性の考慮をし、3人と1匹は素早く移動しながら話を続けた。
ロキアルドのギルドにナオスケと楓城の忍であるベッタンの2人からバケモノ退治の依頼があり、殿とナオスケの護衛の名目で城内に潜入し時期を伺っていた。
そこにシェナロダが現れたということであった。
「ロキアが、状況を説明してくれたおかげだ。2人が本気で俺をやる気だったらと思うと、ゾッとする」
「意図を理解してもらって助かったよ」
さきの戦闘の途中の叫び声は、シェナロダへの状況説明であったことがここで明かされた。
3人のやり取りを黙って聞いていたリビドーに疑問を口にした。
「あの斬り合いは手加減していたのか?」
「全く」
「全然」
「余裕がない」
と3人は各々答えた。
「多少考慮はしたが、全力だった。まあ、誘導しながらだったから大変だったけど、マルさんもシェナロダも意図を理解していてくれたからな」
しれっとした顔でロキアルドがいう。
「だな。まあ何度か肝を冷やした場面はあったがな」
同調したらマルゴーも、笑いながら言う。
「こっちは全力だったけどな。2人も同時に相手をしたからな・・・」
リビドーは驚愕し、口を大きく開けた。
「まあ、3人が知り合いなのは分かったが・・・どういう仲なんだ?」
「ああ、全くだ・・・どういう仲なのかね?」
リビドーの問いと同時に3人の間に禍々しいオーラを放つ者が現れた。
3人が構えたが、一瞬にしてロキアルドは吹き飛ばされ壁に激突し、マルゴーは瞬時に反撃にでたが、槍は回避され背中に回りこまれた。
「ここまで進入してくるとはな・・・」
マルゴーの背後をオーラを衝撃波のようにして放つ。
マルゴーもそれに直撃したモノの、スタンスで踏みとどまり、ラッシュで突っ込みクレイモアで両断した。
「なんだ・・・この手ごたえは・・・」
マルゴーは確かに敵を両断したにも関わらず、不自然な手ごたえに違和感を感じる。
次の瞬間には両断された死体が消え、マルゴーの頭上から奇襲をかけようとしていた。
「危ない!」
シェナロダが間一髪のことで敵をラッシュで押し返し、それを追うようにマルゴーは斬りかかるが避けられた。
「貴様が・・・死に最も近い男と呼ばれている・・・」
「そうだ・・・ここの忍頭だ・・・」
ロキアルドは起き上がりながら問いかけ、忍頭もそれに答えた。
「殿に仇をなす輩はすべて滅する!」
その言葉と同時に巻物を広げて呪文を唱え印を結ぶ。
忍頭の左右に展開されていた、火の玉の数が増え、綺麗に等間隔に並んでいく。
「ハッ!」
そう掛け声を発すると同時に、火の玉全てが忍頭の姿となった。
「分身か・・・」
構えも武器も様々であり、さきと同じ実力を1体ずつ持っているとすれば厄介である。
「シェナロダ、マルさん・・・」
ロキアルドは呟くように2人に問いかけ、顔を見た。
「ああ、ロキアの意図は分かった・・・」
返事をするシェナロダに、マルゴーは黙って頷く。
3人は包囲されながらお互いに背を合わせ、守りの陣形であったにも関わらず一瞬にしてアイコンタクトで了解しあえた。
これでリビドーも、3人でいくつもの死線を共に越えてきた間柄であることも容易に分かった。
均衡を破ったのはシェナロダのロアであった。
強大な叫び声に忍頭も一瞬動きが泊まった。
その隙を突くように、ロキアルドとマルゴーは同時にラッシュで押し通り、包囲を突破した。
突破した瞬間にロキアルドはコマをマルゴーはアドバンスチャージを発動させ、数名の忍頭を吹き飛ばす。
包囲の陣形は崩れた。
ここぞとばかりにシェナロダ1人で、突っ切り奥に向かった。
「くっ・・・」
悔しさを声に出す忍頭達は、慌ててシェナロダを追おうとするが、ロキアルドとマルゴーはそれを邪魔する。
「ここは通さない!」
ロキアルドはグリュンヒルの鞘を投げ捨て、マルゴーは槍と剣を構えた。
すれ違う瞬間に、見せた眼が全てを物語る。
言葉は不要であった。
シェナロダは1人、信頼に答えるべくために、殿が構える天守閣最上階へと向かった。
後方では、激しい轟音が鳴り続けた。
辿り着いた先は殿という一国の主の部屋というには余りにも貧相にも思える造りである。
装飾品はほとんどなく、肉の腐敗臭が漂い、人の骨らしき物や身につけられていた物が散乱している。
「子宮が近づいてくるのを感じていた・・・返してもらおうか!!」
そう口にした殿に、問答無用とばかりに斬りかかる。
連続の斬撃のあとに、柄を伸ばし一気にバスターを連続し攻撃を続けた。
「かぁっ!」
叫び声を同時に、散乱していた骨や物をその異常な腕力で投げつけていく。
至近距離で投げられた物にも関わらず、反射神経だけでそれを回避しシェナロダは攻撃を続けた。
シェナロダは手ごたえを感じたはいかが、一撃一撃に違和感を感じる。
「ちっ・・・やはり化物だな・・・」
見せる質量に相反するほどの重量を感じたのだ。
「化け物・・・化け物・・・そうだ! 貴様ら人間とは違うのだ!!」
近くに飾ってある刀を手にし殿はシェナロダに斬りかかる。
その一歩一歩、動きも遅く、畳は不自然に窪んでいく、しかしその斬撃は力まかせの一撃であるとしても侮れない威力を見せる。
直撃すればシェナロダの体は両断されてしまうだろう。
放たれた斬撃全ては回避するシェナロダは、隙を見てアルシュピスの石突きを殿の腹に深く刺し込む。
「狂ったか!? 刃で致命傷を与えれないと思ってか! 笑えないぞ!!」
余裕を見せつけようとする殿に、対してシェナロダは狂ったわけでもなく狙い通りに事が運んでいた。
「笑えなくしてやるよ! 化け物!」
シェナロダはそう言った瞬間、アルシュピスの柄に仕込んで合ったボタンを押した。
すると殿の背中は大きな裂けた傷が現れた。
言葉にならず、大量の血を吐き苦しみだす殿の顔面はシェナロダが切り裂く。
確実にダメージを与えれていることを確信し、次はその眼球に刃を刺し込み抉る。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ」
人間なら即死する傷も、殿にとっては激痛が走るだけに留まる。
その叫び声が響き渡る中でもシェナロダの攻撃は止まらない。
眼球を抉られ空いた空間に、爆弾を押し込み、その頭を踏みつけた。
「3,2,1・・・」
シャナロダのカウントが終わったと同時に、爆発した。
そして、その頭部は無残にも弾けた。
「く、くそぉ・・・こ、殺してやる・・・喰らってやる」
頭部が粉砕したにも関わらず、まだ息がある殿にシェナロダは堕天使の子宮を渡した。
「使えよ・・・また何かを生贄に・・・そうすれば・・・奴が!」
シェナロダの目は負の感情に満たされて、鈍く赤く光る。
リビドーは、先ほど3人でいた時の優しい表情でいたシェナロダを見たのは初めてであった。
だが、確信もした。
あの顔が、眼が、本当のシェナロダなんだと。
今、ここにいるシェナロダは復讐を果たさんとするだけの狂戦士であるということを改めて認識した。
リビドーが思慮している、間に殿はシェナロダから渡された堕天使の子宮を強く握り締めた。
「こ、これさえあれば・・・」
「さあ、さっさと使え!」
殿は堕天使の子宮を使おうとし、シェナロダはそれを促す。
だが、状況は一変した。
「シェナロダ!!」
この部屋に、淡い碧色のオカッパのような髪に、澄んだ綺麗な瞳の女が叫びながら飛び込んできたのだ。
「来るなぁっ!! ルナァ!!!」
シェナロダが制止するように手を伸ばし、叫んでいたが間に合わなかった。
堕天使の子宮は、殿の手の中で割れて闇をバラ撒いた。
前編
深い闇は光すら無にする・・・
夜の世界を照らす月は、影をより一層濃くさせる。
ジパングの離れ墓地、誰も近づかない危険な竹藪の中にある。
死霊に弄ばれる淡い紅いの着物に身を包んだ女の骸達は、吸い寄せられるかのように黒いマントを纏った男に襲い掛かる。
袖の中から突出してきた無数の触手が男を捕らえようと迫っていくが、マントの隙間から取り出された刃で斬りおとされる。
女の骸は怒り狂った表情の口から、見えない衝撃波を飛ばす。
それを喰らい男は一瞬怯んだが、次の瞬間にはマントがまくれ黒い鎧が露になる。
手に持っている刃は柄が縮められた槍であることが分かる。
漆黒の巨大な刃の槍「アルシュピス」の柄を通常の長さに伸ばし、次の瞬間には骸達の頭部を突き抜いていった。
頭部を粉砕された骸は無様に倒れていくが、また他の骸に憑依した死霊は繰り返すように男に攻撃していく。
だが、一度として骸達は男に致命傷を与えることが出来なかった。
ほとんどの骸を破壊し終わりかけた時には、眩しいほどの朝日が差し込む。
死霊どもは光の中では力を発揮することはできず、骸達から離れ闇の中へと還って行く。
「これで寝れるな・・・」
致命傷は無いものの、疲労困憊した男は槍を支えになんとか立っているようであった。
「ごくろうさん・・・シェナロダ」
ずっと背中とマントの間に隠れていた黒い龍が現れて労いの言葉をかける。
「リビドー・・・お前の炎は飾りかよ・・・少しは手伝ってくれよ」
男は皮肉ぽっく言うが、リビドーと呼ばれた黒龍は全く気にすることなく言い返す。
「俺はいざって時には役立つ! さっきのはそういう場面じゃないだろ? それに契約範囲外のことはしない主義だ」
「はぁ・・・」
疲れと呆れが混じった深いため息をつきながら男は墓地を後にする。
ネオスと呼ばれる黒い鎧に闇のように黒いマントを羽織、黒い髪に鋭い紅の眼を持つ戦士。
まるで闇が獣と化したのようなダークナイト。
これは漆黒の狂戦士シェナロダの物語である。
「依頼通り片付けた。情報をさっさと貰いたいね」
ジパングとよばれる国には、屋台が並ぶ通りがある。
ここは、その中にあるラーメン店であった。
小さい小屋だけあって、テーブルは3つに椅子が4つずつ、カウンターにも席が4つだけの店で、店主は仕込みを終えてか、シェナロダに1杯のラーメンを出し終えるとカウンターに座り新聞を読み始めた。
シェナロダがラーメンを啜りながら座るテーブルの向かいには、ジパングの装束である着物を着た町娘が1人座っている。
しかしながら、町娘では纏えるはずもないオーラも感じさせる。
シェナロダも疑問に思いはしたが、自分の望む報酬を貰うために仕事を受け、それをこなしたのだ。
「分かっている・・・良くやってくれた。悪いがその様子はずっと見させてもらっていた」
この世界にいる大半の人間が、あの墓地にいた死霊に触れればそれだけで死に至るような場所にこの娘も来ていたとなれば、その力量もある程度の予測がつく。
「ほぉ・・・」
「ここでは話せない内容もある。また夜にこの場所へ・・・」
娘はメモ用紙と、ラーメン代金をそっと差し出すと足早に店を後にした。
そして、間もなくラーメンを食べ終えたシェナロダも店から出る。
通りを歩いてジパングを抜けようとしたシェナロダは一瞬で大木の影に隠れ、次の瞬間には鳥居の上に飛び上がった。
眼下には、三角傘を被った数名のサムライらしい人間が慌てた素振りを見せる。
「お前の後をつけてたな・・・」
背中のマントの隙間から、リビドーが頭を出しながら言った。
「問題はない。どうやら・・・当たりだ」
手ごたえを感じたシェナロダの顔は不敵な笑みを浮かべていた。
「お前は楓城のクノイチだろ?」
待ち合わせの場所に、予定より早い時間からシェナロダは待っていた。
ジパングの火狸や鴉が生息する不気味な森の片隅にある大きな木に枝の上に寝転ぶようにいる。
見下ろすと女は昼間とはまた違う格好で、今度は全身にマントを羽織、顔すら分からないようにしていたが、その纏いつくオーラに、町娘ならぬ動きでシェナロダに気づかれた。
しかし、その女もシェナロダの言動に驚くことなく平然に答える。
「そうだ。よく分かったと褒めてやるべきか? それとも、そんな力量の人間を雇った私が凄いと自負すべきか?」
マントから顔を見せた女の顔は、昼間とは違い殺気に満ちている。
しかし、その殺気はシェナロダに向けられるモノではない。
「察するに敵討ちってとこか? 裏切りとくればそんなことだろ・・・」
シェナロダの言動に驚きはしなかったクノイチもいきなり、目の前に現れる黒龍が流暢な言葉で話しかけてくれば驚いた。
「な、なんだ!? このペットは・・・」
この世界でペットや使い魔を連れまわす人間は多くいるが、ここまで動き回り流暢に話す種類はほとんどいない。
おまけに黒い龍とすれば驚いても不思議ではない。
「そいつは俺の相方みたいなモンだ。気にしないでくれ」
シェナロダはそういうと木から飛び降り、手を伸ばしリビドーの頭を掴む。
「俺の名前はリビドー。まあ、よろしく頼むぜ。お嬢さん」
捕まれながらも喋り続けるリビドーを呆気を取られながらも、クノイチは周囲の異変に気づいた。
「ちっ・・・すまない。つけられていたようだ・・・」
クノイチが舌打ちをすると同時に、クナイを構えて戦闘体勢を取る。
シェナロダはリビドーを背中につけると、愛用の得物を取り出し構えた。
周りには長い槍を構えた足軽20名ほどが「御用だ!」と連呼しながら威嚇してくる。
数では上回るが、シェナロダが本気を出さずとも数秒で片付けてしまう雑兵の中に、紅の鎧を纏った武者が野太刀と思われる長い刀を構えている。
「ほぉ・・・雑兵の中に大物がいるな・・・これは楽しくなりそうだ」
敵の強さを理解しながらも、楽しそうに笑うリビドーを横目にシェナロダは槍を甲冑武者に向けた。
「問題はない」
強敵を目に前にし、動じないのもシェナロダの強さだろう。
「足軽は大したことはない・・・しかし・・・」
「言っただろ? 問題ない!」
シェナロダはそう言い放つとラッシュで一気に間合いを詰めた。
甲冑武者もそれに反応し、刀を勢いよく振り下ろすがシェナロダは体を回転させるように流し、回避した。
振り下ろされた刀は地面に深く食い込む。
その隙にシェナロダは甲冑武者の横からバスターという、3連続の突きを放つ。
最初の一撃で甲冑の隙間の繋ぎ部分を破壊。
2撃目で甲冑を撃ち剥がし、3撃目では腹部を貫通した。
鈍い音と、甲冑武者の苦痛に漏れる声が響いた。
刺さった槍を抜き出すためにシェナロダは体を宙に浮かし、揃えた両足で甲冑武者の頭部に蹴りを放つ。
槍は綺麗には抜けず、刺された傷口はえぐられ激痛を与える。
蹴り飛ばされた甲冑武者は包囲している足軽数名にその巨体を直撃させた。
普通の人間ではショック死しても可笑しくない傷を負ったはずだが、甲冑武者は気絶すらしない。
「堕とし子(おとしご)ではないが、孫のほうか・・・やはり当たりだな」
シェナロダは状況を理解したように呟く、クノイチによっては異様な光景の連続で驚くしかできないでいた。
激痛による怒りで甲冑武者の太刀筋は荒れ、周りを包囲してくれている足軽までもその攻撃に巻き込み、斬り捨てながらシェナロダに突っ込んでくる。
だが早く鋭い斬撃であってもシェナロダを捉えることはできない。
いくつかの斬撃を回避し間合いを詰めて放たれたシェナロダの突きは刀を持つ腕ごと吹き飛ばし、腕と刀は彼方へと飛んでいく。
甲冑武者は激痛に悶え倒れ、シェナロダはそれに止めを刺そうと槍を高く構えるが怯えきった足軽達にはそれを制止することもできない。
そんな中、足軽達の応援に侍などもやってきた。
シェナロダにとっては問題のない数であることには違いはない。
しかし、騒ぎのせいか関係のない一般人や冒険者などの姿も見えてきた。
「一度引くぞ!」
クノイチの叫び声に、構えた槍を下げ、首を縦に振るとクノイチが投げた煙幕弾が弾ける。
霧のように広がる煙幕のなかクノイチの手引きでその場を後にした。
「必ず殺してやる!」
煙幕が広がっていくなか、甲冑武者の雄叫びだけが2人を追いかけていた。
追手を撒くために、クノイチ共々一晩走り回り、今は屋敷の中の1室にいる。
ここはカエデヤの屋敷である。
「カエデヤもこの1件に噛んでいたとはな・・・」
部屋の隅で、槍を抱えるように座りながら休息を取るシェナロダの足元にはリビドーが寝転び、文字通り羽を伸ばしている。
「事情はすぐに分かる・・・それにあとで貴様にも聞きたいこともあるし、見て貰いたい物もあるが報酬の情報はもういいのか?」
クノイチは柱に凭れ掛かるように立ち続けていた。
「ああ・・・さっきの鎧野郎で確信した。あとは見つけて殺すだけだ・・・」
「そうか・・・お前は随分と詳しそうだな・・・『オトシゴ』だの口にしていたな?」
「敵を知り・・・ってやつだ。機会があれば話してやる」
シェナロダは気配を感じ、話を終わらせると同時にカエデヤが姿を見せた。
悪い噂が絶えない男であるだけに、悪い顔付きをしている。
「おまたせしたようで、失礼しました」
物腰が柔らかい素振りではあるが、油断できる相手ではない。
シェナロダも、次の瞬間にはこいつが呼び寄せた楓城の連中が現れることすら想定していた。
リビドーもこいつの気配を感じた瞬間には、もうマントの隙間に姿を隠していた。
だが、カエデヤが土下座をしたのだ。
「お願いします! 殿を・・・殿を殺してください」
「話が見えないな・・・お前は殿と結託してかなり悪徳な事をしてるのは、この国の子供でも知っているぞ?」
土下座していた、カエデヤは顔をあげ、シェナロダを縋る様な目で見つめる。
「娘が・・・このままだと葵が・・・あのバケモノに食われてしまう!!!」
恐怖の引きつる顔で声を荒げるカエデヤに、冷たい表情となったシェナロダは槍の刃を向けた。
「ひぃっ!」
カエデヤは驚き後ろに飛び逃げ、後ずさりする。
「お前は散々悪さをして、娘だけは助けたいだと・・・いいご身分だな!」
立ち上がりカエデヤを見下ろすシェナロダと、それに恐怖するカエデヤはまさに、蛇に睨まれた蛙のようである。
「そう興奮するな。こんなクズのおかげでも、こっちは今助かってる」
クノイチがシェナロダを諭すように割って入った。
「事情は分かったろ? カエデヤ・・・例のモノを私たちに見せろ」
シェナロダにおびえたままのカエデヤは、首を縦に振り、立ち上がり広い館の奥へと2人を案内した。
隠し部屋の中に、またいくつものロックが掛かっている金庫の奥から取り出されたモノを部屋の中心にあるテーブルの上に置かれた。
「これが例のモノか?」
クノイチの問いに答えたのは、カエデヤではなくシェナロダであった。
「間違いない・・・『堕天使の子宮』だ!」
大きさは人の眼球ぐらいで、心臓が摘出された直後のように、脈打つように鼓動を続けている赤い肉のような塊であり、いくつもの血管のようなモノがだらりと伸びている。
予想通りといわんばかりの笑みをこぼしながら、武者震いするシェナロダの背中からリビドーが現れ叫ぶ。
「来るぞ! シェナロダ!!」
堕天使の子宮に反応したのではなく、入り口のほうから小さな影が飛んできたのだ。
シェナロダはリビドーの声により反応し、それを手刀で叩き落とし、次の瞬間には槍で突き刺した。
それはシェナロダが先の戦闘で切り落とした甲冑武者の手である。
「ココニアッタノカ・・・カエデヤ・・・コノウラギリモノメ・・・」
手の甲に口らしきモノが現れたと思えば、いきなり声を発した。
カエデヤは驚き、恐怖に怯えながらも反論する。
「そ、その声は・・・!? と、殿なのか!?」
カエデヤは慌てふためき、堕天使の子宮と共々、厳重に保管していた宝物すら押しのけて不気味な手から距離を取るように逃げた。
「あ、アンタは狂った! 人を喰らい、穢し・・・もうバケモノと付き合っていられるか!」
カエデヤの絶叫が轟き、次の瞬間には手は青色のガマカエルに姿を変え、槍をすり抜け飛び上がる。
同時に口をその体に不釣合いな程大きく開け、3人を堕天使の子宮ごと飲み込もとする。
だがシェナロダがラッシュで押し返し、口の中に黒い丸い物を投げ込まれ遠く吹き飛ばされる。
ガマカエルは体勢を整えると、再び飛びかかってくるが、爆発した。
轟音と恐怖により、カエデヤは気を失いその場に倒れた。
「娘のためか・・・こいつの反応を見る限りさっきの声は殿に違いないか?」
泡をふいて倒れるカエデヤを見下ろしながら、シェナロダはクノイチに問いかけた。
「ああ・・・私も聞いたことがある声だった。間違いないだろう。いくんだな?」
クノイチの問いに首を縦に振るシェナロダの目は、何かを思いだすように悲しく鈍く光る。
「急ごう、使用人達がくれば話がややこしくなりそうだ」
シェナロダはそう呟くと、床に落ちていた堕天使の子宮を拾いクノイチと共に楓城に向かった。
シェナロダが進む道は、円筒の壁にそって作られた階段である。
いざという時のため、脱出に利用する目的で城にはいくつかの隠し通路が存在する。
クノイチもここに仕える忍だった故に、もちろん把握していた。
一般の兵に知られることはない、道だけに問題なく進んでいた。
「もうすぐ天守閣の近くに出れるはずだ・・・」
走りながらクノイチが説明した。
「なんで、あんな品物の存在を知っている? お前の目的は何だ?」
もうすぐ天守閣に辿り着くこともあり、余裕ができたこともあり、シェナロダに問いかけた。
「・・・なら先にお前の目的を教えて貰おうか?」
逆に問いかけられ、クノイチは辛い表情をその目だけで露にする。
「敵討ちだ・・・許婚があのバケモノに喰われた・・・」
俺の言った通りだと言わんばかりに、マントの隙間から自慢げな顔だすリビドーをシェナロダは小突く。
「単純だな・・・」
「ああ、単純だ・・・何が悪い?」
「いあ、悪くはない・・・俺も・・・そうだ」
シャナロダも自分の闘う理由を話そうをした時だった。
「来るぞ!!」
再び、リビドーが気配を感じ取り叫ぶ。
石の壁をぶち抜いて赤い腕が現れたのだ。
その腕はすぐさまクノイチを掴み持ち上げる。
シェナロダは刃ですぐさま、腕に斬りかかる。
刃は深く入り込み切り裂いたが、切り落とすまでにいたらずクノイチは捕らえられたままである。
「さっきの甲冑野郎か!?」
先の闘いで切り落とされた腕も再生し、その手には野太刀が握られている。
「殿にはもう気づかれている・・・いってくれっ!」
クノイチは苦しそうに声を出しながら、必死に叫ぶ。
「馬鹿いうな!」
シェナロダは倒して進むつもりであったが、甲冑武者の手に握られ捕らわれているクノイチは夥しい血が流れて落ちていく。
甲冑武者の握力で内臓が潰され、破れた腹部から血が流れ出ていたのだ。
「私はもう・・・だめだ・・・頼む! 私は地獄であいつが来るのを待ってるからな!!」
クノイチはそう叫ぶと、隠し持っていた爆弾を取り出した。
それは先の青いガマガエルにシェナロダが使っていたのと同じ物である。
クノイチは自分の武器にもなると、シェナロダから勝手に拝借していたのだ。
シェナロダも状況を把握し、クノイチはニヤリと笑って見せて爆弾を起爆させた。
シェナロダは、爆発するまでの僅かな一瞬で飛び上がり、爆風を活かして、更に飛翔して天守閣の入り口の近くまで飛んだ。
「無茶しやがって」
リビドーが文句を聞きながら、シェナロダは黙って崩壊していく脱出通路を背にして前に進む。
「ついでだからな・・・任せろ・・・」
そう口にしながら。
脱出口の設置場所は簡単な場所であった。
掛け軸の後ろにあったのだ。
それから天守閣に入ったシェナロダが見た光景は予想外の状態であった。
大勢の兵士が万全な体勢で、シェナロダの進入を予想していたのだ。
兵士を率いる人間は蒼い鎧に巨大な蒼い刃のグリュンヒルを呼ばれる剣を構えた蒼い髪と蒼い双眸の剣士と、空色のように澄んだ鋭利な刃を輝かせるパルチザンという槍と、巨大な諸刃の剣であるクレイモアを背中に背負い構える青い戦士の2人であった。
「ちっ・・・」
シェナロダは舌打ちしながら、アルシュピスの柄を伸ばし構えた。
「おい! シェナロダ! あの2人は強いぞ! 奴ら万全の体勢で待っていやがった・・・ここは引こう!」
リビドーはマントの中から、必死にシェナロダに訴える。
しかしながら、シェナロダはブースター、スタンス、ハイパーボディを一気に使い戦闘態勢を取り、ラッシュでいっきに間合いを詰めた。
蒼い剣士と青い戦士の2人も、シェナロダはスキルを発動させると同時に、ブースターなどを使い準備し構えており、ラッシュは2人の間を切り裂くように空間を割った。
左右に散開し、シェナロダとの間合いを計る。
そして、シェナロダの左側にいた青い戦士が槍をシェナロダに投げ、クレイモアを構える。
シェナロダは、槍を余裕で回避したが、その回避動作によって生じた隙をクレイモアでブレストという鋭い突きで押してくる。
だが、シェナロダも押され続けるわけもない。
スタンスで踏ん張りを聞かせ、相手の隙を突いてラッシュで押し退け、バスターを放ち、すぐさまスラッシャーをいう巨大な斬撃を打ち出すが、巧みなステップで全て回避された。
しかし、懐に体を入り込ませると肩からの体当たりを青い戦士にぶつけた。
バランスを崩す青い戦士はクレイモアを畳に刺し込み、それを軸にバランスを取り整えると、刺さった畳ごとクレイモアを持ち上げ、引き抜くのと同時に畳をシェナロダに投げつける。
シェナロダはそれを槍を横にふり両断するが、畳により生じた死角により蒼い剣士が斬りかかる。
寸で回避し、流れるように反撃に転じるシェナロダに青い戦士がパルチザンを拾い、片手でバスターを放つ。
シェナロダも槍使いだけあり、その3連続の突きを見切り回避するが予想外の4撃目が来たのだ。
もう片手で握られていたクレイモアによるブレストの突きであった。
その勢いは凄まじく宙に浮く形になったが、アルシュピスの刃の幅のおかげで辛うじて致命傷は避け、着地した。
しかし、着地した場所ごと蒼い剣士が放ったパニックという最強クラスの斬撃で抉られ吹き飛ばされ、再び2人との間に広い距離が取られた。
3人の激闘に静まり返った空間に蒼い剣士が声を荒げ叫ぶ。
「楓城の兵士諸君! この場は私達に任せてもらおう! 大勢で行っても仕留めれる相手ではないのは理解してくれただろう! 尚、先に言った通り、この侵入者の撃退の権限はナオスケ殿から委譲されている! 邪魔は命令違反とし、あとで報告する旨を改めて伝えておく!」
それを聞き、シェナロダは激闘の中でありながら微笑を見せた。
その反応に青い戦士もまた、顔に微笑を見せる。
そして、まるで合図があったかのように3人は再び激しい斬撃を放ち合う。
次々と畳も障子も傷だからけになっていく。
激しい闘いは場所を変えながら、進行されていく。
兵士達にそれを遮ることもできず、道は明けられ3人は奥に闘いながら進む形となった。
「それ以上奥にいかれますと、からくりの罠が!」
兵士の1人が叫ぶが、誰1人反応しない。
慌てながら、追いかけようとする兵士達は、闘いの中でへし折られた柱が崩壊して天井が崩れてきたために、慌てて引き帰していった。
「シャナロダ!」
リビドーは必死に激闘の中から叫び続けてきた。
凄まじい闘いだけあり、必死になってマントにしがみ付き、天井から槍、壁から手裏剣がでてくる間も必死に訴えていたリビドーにシェナロダはようやく応答した。
「すまなかったな・・・リビドー」
「え?」
その声は、死闘の中で発せられるには余りにも落ち着いたモノであり、リビドーは驚く。
「誰と話している? シェナロダ」
シェナロダに問いかけたのは、先ほどまで闘っていた青い戦士である。
この2人もあのカラクリによるトラップの通路も共に乗り越えてきたのだ。
「マルさんが頭でも殴ったか?」
「おいおい、ロキア。人聞きの悪いこと言わないでくれないか? まあ、シェナロダ相手だから手加減はできなかったがな・・・」
状況が飲み込めないリビドーの我慢も限界に達し、マントから飛び出してシェナロダに問いかける。
「一体どうなってるんだよ!」
叫びながら登場した黒いドラゴンにも、2人は動じることはなかった。
「なるほど、こいつと話してたのか・・・」
納得した表情で2人は飛び回るリビドーを見上げた。
「ああ、それにしても助かったよ。マルさん。ロキア」
「気にするな。こっちもこっちの仕事があるからな。その説明の前に自己紹介をしておこう。私の名前はロキアルド。ロキアと呼んでくれ、黒い竜殿」
ロキアルドは蒼いの髪にメガネをかけ、奥には鋭い眼光を見せながらもシェナロダと言葉を交わすと、リビドーにまで自己紹介をした。
「私はマルゴーだ。よろしく」
マルゴーは青白い髪に、ワイルドなヒゲを蓄えた屈強の戦士の印象を持たせる。
「お、俺はリビドー。よ、よろしくな」
兵士達の追跡の可能性の考慮をし、3人と1匹は素早く移動しながら話を続けた。
ロキアルドのギルドにナオスケと楓城の忍であるベッタンの2人からバケモノ退治の依頼があり、殿とナオスケの護衛の名目で城内に潜入し時期を伺っていた。
そこにシェナロダが現れたということであった。
「ロキアが、状況を説明してくれたおかげだ。2人が本気で俺をやる気だったらと思うと、ゾッとする」
「意図を理解してもらって助かったよ」
さきの戦闘の途中の叫び声は、シェナロダへの状況説明であったことがここで明かされた。
3人のやり取りを黙って聞いていたリビドーに疑問を口にした。
「あの斬り合いは手加減していたのか?」
「全く」
「全然」
「余裕がない」
と3人は各々答えた。
「多少考慮はしたが、全力だった。まあ、誘導しながらだったから大変だったけど、マルさんもシェナロダも意図を理解していてくれたからな」
しれっとした顔でロキアルドがいう。
「だな。まあ何度か肝を冷やした場面はあったがな」
同調したらマルゴーも、笑いながら言う。
「こっちは全力だったけどな。2人も同時に相手をしたからな・・・」
リビドーは驚愕し、口を大きく開けた。
「まあ、3人が知り合いなのは分かったが・・・どういう仲なんだ?」
「ああ、全くだ・・・どういう仲なのかね?」
リビドーの問いと同時に3人の間に禍々しいオーラを放つ者が現れた。
3人が構えたが、一瞬にしてロキアルドは吹き飛ばされ壁に激突し、マルゴーは瞬時に反撃にでたが、槍は回避され背中に回りこまれた。
「ここまで進入してくるとはな・・・」
マルゴーの背後をオーラを衝撃波のようにして放つ。
マルゴーもそれに直撃したモノの、スタンスで踏みとどまり、ラッシュで突っ込みクレイモアで両断した。
「なんだ・・・この手ごたえは・・・」
マルゴーは確かに敵を両断したにも関わらず、不自然な手ごたえに違和感を感じる。
次の瞬間には両断された死体が消え、マルゴーの頭上から奇襲をかけようとしていた。
「危ない!」
シェナロダが間一髪のことで敵をラッシュで押し返し、それを追うようにマルゴーは斬りかかるが避けられた。
「貴様が・・・死に最も近い男と呼ばれている・・・」
「そうだ・・・ここの忍頭だ・・・」
ロキアルドは起き上がりながら問いかけ、忍頭もそれに答えた。
「殿に仇をなす輩はすべて滅する!」
その言葉と同時に巻物を広げて呪文を唱え印を結ぶ。
忍頭の左右に展開されていた、火の玉の数が増え、綺麗に等間隔に並んでいく。
「ハッ!」
そう掛け声を発すると同時に、火の玉全てが忍頭の姿となった。
「分身か・・・」
構えも武器も様々であり、さきと同じ実力を1体ずつ持っているとすれば厄介である。
「シェナロダ、マルさん・・・」
ロキアルドは呟くように2人に問いかけ、顔を見た。
「ああ、ロキアの意図は分かった・・・」
返事をするシェナロダに、マルゴーは黙って頷く。
3人は包囲されながらお互いに背を合わせ、守りの陣形であったにも関わらず一瞬にしてアイコンタクトで了解しあえた。
これでリビドーも、3人でいくつもの死線を共に越えてきた間柄であることも容易に分かった。
均衡を破ったのはシェナロダのロアであった。
強大な叫び声に忍頭も一瞬動きが泊まった。
その隙を突くように、ロキアルドとマルゴーは同時にラッシュで押し通り、包囲を突破した。
突破した瞬間にロキアルドはコマをマルゴーはアドバンスチャージを発動させ、数名の忍頭を吹き飛ばす。
包囲の陣形は崩れた。
ここぞとばかりにシェナロダ1人で、突っ切り奥に向かった。
「くっ・・・」
悔しさを声に出す忍頭達は、慌ててシェナロダを追おうとするが、ロキアルドとマルゴーはそれを邪魔する。
「ここは通さない!」
ロキアルドはグリュンヒルの鞘を投げ捨て、マルゴーは槍と剣を構えた。
すれ違う瞬間に、見せた眼が全てを物語る。
言葉は不要であった。
シェナロダは1人、信頼に答えるべくために、殿が構える天守閣最上階へと向かった。
後方では、激しい轟音が鳴り続けた。
辿り着いた先は殿という一国の主の部屋というには余りにも貧相にも思える造りである。
装飾品はほとんどなく、肉の腐敗臭が漂い、人の骨らしき物や身につけられていた物が散乱している。
「子宮が近づいてくるのを感じていた・・・返してもらおうか!!」
そう口にした殿に、問答無用とばかりに斬りかかる。
連続の斬撃のあとに、柄を伸ばし一気にバスターを連続し攻撃を続けた。
「かぁっ!」
叫び声を同時に、散乱していた骨や物をその異常な腕力で投げつけていく。
至近距離で投げられた物にも関わらず、反射神経だけでそれを回避しシェナロダは攻撃を続けた。
シェナロダは手ごたえを感じたはいかが、一撃一撃に違和感を感じる。
「ちっ・・・やはり化物だな・・・」
見せる質量に相反するほどの重量を感じたのだ。
「化け物・・・化け物・・・そうだ! 貴様ら人間とは違うのだ!!」
近くに飾ってある刀を手にし殿はシェナロダに斬りかかる。
その一歩一歩、動きも遅く、畳は不自然に窪んでいく、しかしその斬撃は力まかせの一撃であるとしても侮れない威力を見せる。
直撃すればシェナロダの体は両断されてしまうだろう。
放たれた斬撃全ては回避するシェナロダは、隙を見てアルシュピスの石突きを殿の腹に深く刺し込む。
「狂ったか!? 刃で致命傷を与えれないと思ってか! 笑えないぞ!!」
余裕を見せつけようとする殿に、対してシェナロダは狂ったわけでもなく狙い通りに事が運んでいた。
「笑えなくしてやるよ! 化け物!」
シェナロダはそう言った瞬間、アルシュピスの柄に仕込んで合ったボタンを押した。
すると殿の背中は大きな裂けた傷が現れた。
言葉にならず、大量の血を吐き苦しみだす殿の顔面はシェナロダが切り裂く。
確実にダメージを与えれていることを確信し、次はその眼球に刃を刺し込み抉る。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ」
人間なら即死する傷も、殿にとっては激痛が走るだけに留まる。
その叫び声が響き渡る中でもシェナロダの攻撃は止まらない。
眼球を抉られ空いた空間に、爆弾を押し込み、その頭を踏みつけた。
「3,2,1・・・」
シャナロダのカウントが終わったと同時に、爆発した。
そして、その頭部は無残にも弾けた。
「く、くそぉ・・・こ、殺してやる・・・喰らってやる」
頭部が粉砕したにも関わらず、まだ息がある殿にシェナロダは堕天使の子宮を渡した。
「使えよ・・・また何かを生贄に・・・そうすれば・・・奴が!」
シェナロダの目は負の感情に満たされて、鈍く赤く光る。
リビドーは、先ほど3人でいた時の優しい表情でいたシェナロダを見たのは初めてであった。
だが、確信もした。
あの顔が、眼が、本当のシェナロダなんだと。
今、ここにいるシェナロダは復讐を果たさんとするだけの狂戦士であるということを改めて認識した。
リビドーが思慮している、間に殿はシェナロダから渡された堕天使の子宮を強く握り締めた。
「こ、これさえあれば・・・」
「さあ、さっさと使え!」
殿は堕天使の子宮を使おうとし、シェナロダはそれを促す。
だが、状況は一変した。
「シェナロダ!!」
この部屋に、淡い碧色のオカッパのような髪に、澄んだ綺麗な瞳の女が叫びながら飛び込んできたのだ。
「来るなぁっ!! ルナァ!!!」
シェナロダが制止するように手を伸ばし、叫んでいたが間に合わなかった。
堕天使の子宮は、殿の手の中で割れて闇をバラ撒いた。