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【介護社会】百万遍の南無阿弥陀仏・番外編(下) 地域で支える意識を2010年2月3日
富山県氷見市で2004年8月に起きた親子間の傷害致死事件では、息子(57)が母親=死亡時(80)=の介護に没頭するあまり、認知症に気付けなかった。一方で、知人や医師、ケアマネジャーは深刻な事態を察しながら、連絡を取り合うことはなかった。専門家は「介護者を孤立させないためにも、情報の共有は欠かせない」と指摘する。 「認知症の進行に気付かないまま、100パーセントの力で面倒をみてしまう介護者は多い」。日本認知症学会の理事で、国立長寿医療センター(愛知県大府市)包括診療部長の遠藤英俊さんは、視野が狭くなりがちな危うさを指摘する。 母親は事件が起きる1年余り前に介護保険の要支援認定を受け、かかりつけ医を頼っていた。民生委員やケアマネジャー、近隣住民は母親の体力低下や排せつの失敗を気に掛けていた。複数の関係者が異変に気付きながら、情報は結び付かず、唯一の家族である息子にも伝わらなかった。 遠藤さんは「認知症が疑われていながら、身近な人たちが口を閉ざし、情報が途切れた。ケアマネジャーが医師に相談するなど踏み込んだ対応があったなら、事件は防げた」と分析する。 さらに、遠藤さんは「当時は法整備が不十分だった面は否めない」と続けた。 事件から約1年半後の06年4月に施行された高齢者虐待防止法により、各自治体の地域包括支援センターに情報が集まるようになった。息子のように日ごろの暴力がなくても、母親の体力が落ちているとの第三者からの通報さえあれば、保健師や社会福祉士らが連携し、解決を目指す。 また、ケアマネジャーは「家の中が汚く、母親に失禁があった」と状況を目撃しており、こうした証言があれば行政権限による立ち入りも可能という。 ただ、法制化後も悲劇が後を絶たないのはなぜか。息子がケアマネジャーとの対話を拒絶したように、患者や家族が第三者の介入を拒んだ場合、実際には深入りするのは難しい。 遠藤さんは「介護者が『助けて』と声を出せば必ず救える。もし声が出せなくても、身近な人たちが気付き、通報する意識さえあれば、少なくとも事件にはならない。今後は介護者や患者本人が働き掛けを拒否した場合の対応策が課題だ」と訴える。 金沢市の地域包括支援センター「とびうめ」のセンター長で社会福祉士の中恵美さんは今回の事件に、こう提言する。 「一対一の家族介護は危険に陥りやすい。息子にも『大丈夫?』と声を掛け、介護負担を見守る必要があった。介護者はストレスを抱え込む。求められるのは認知症を地域で支える意識。介護者の支援策があいまいではいけない」 (第四部 取材・前口憲幸、写真・西野一則)
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