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【介護社会】

<百万遍の南無阿弥陀仏>(3) 叱責にも「上の空」

2010年1月28日

形見となった母親の灰皿とライター、吸い殻。布団を焦がしてまで寝たばこを続けた理由は、分からないままだ=富山県氷見市で

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 母親=死亡時(80)=は「もともと食べ物の好き嫌いが激しかった」と息子(57)は振り返る。だが、事件前の行動は「度を越えていた」と今も思う。

 富山県氷見市の自宅。細い廊下の奥でビニール袋を見つけたのは、事件の1カ月ほど前のことだった。中には自分が作ったおかゆの残飯。母親の部屋の仏壇からも出てきた。そこにネズミが入り、あちこちにふんが散乱していた。

 「思わず『いったい、何やってるんや』と怒鳴った。おふくろは上の空みたいな感じで何も答えんかった」

 母親は事件直前まで、手押し車でよろよろと外出し、スーパーで自分が料理するでも、食べるわけでもない総菜を買い込んだ。「何日も続けて同じ物を買ってきた時もある。冷蔵庫のギョーザが6パックになったこともあった」。息子のいら立ちは募った。

 事件の当日。2年以上台所に立っていない母親が、なじみの店員とこんな会話をしている。

 「母親は『すぐに食べられるもん、なあい?』と店に顔を出した。『今日はおっくうだから料理を作りたくない』『簡単に調理できるものはないか』と私に相談してきた」(スーパー店員=供述調書より)

 食事とは別に息子を悩ませたことがある。

 事件の5カ月前、母親と散歩の途中、商店で「母ちゃんヘビースモーカーやからな」と何げなく言われたひと言に、驚いた。30年以上同居していたが、吸っているのを見ることの方が、まれだったからだ。敷きっぱなしの布団をめくり、仰天する。敷布団は焦げた跡が点々とし、穴だらけ。寝たばこだった。

 「(息子は)『火事が一番恐ろしい』と言っていた。『隠れてたばこを吸い、火が付いたまま物陰に隠す』と。息子の神経が休まる日はなかったと思う」(親類=証人尋問より)

 息子は地元の商店やたばこ店を回り、母親にたばこを売らないよう、頭を下げた。「それでも、どこからか手に入れては吸っていた。『なーん、大丈夫。私の楽しみはこれだけや』と聞く耳をもたんかった」と振り返る。

 母親は、息子が様子を見に行くとぬれたティッシュでたばこをもみ消し、布団の下に隠した。

 自分が知る母親とは別人のような行動。「なぜ」の疑問ばかりが、頭の中をめぐった。家の中では、怒気を含んだ息子の叱責と、それに対する母親の「上の空」のような反応が、日常的に繰り返された。

 

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