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特集ワイド:男の裸 美しければいいのかな!?

 ◇an・anの櫻井翔さん/龍馬伝の福山雅治さん/カムイ外伝の松山ケンイチさん/アバクロの店員

 雑誌の表紙や広告に男性のセミヌード。テレビや映画で男優が半裸になる場面が増えた。ヌードといえば女という時代は終わり、男の裸が売り物になっているらしい。いったい何が起きているのか。【國枝すみれ】

 人気男性アイドルグループ「嵐」のメンバー櫻井翔さんのセミヌードを表紙に使った女性誌an・an(マガジンハウス)は、1月20日の発売から2日でほぼ完売し、創刊以来初めて重版した。

 編集長の熊井昌広さんは「タイトル『オトコノカラダ』は、漢字を使わずわざと無機質な感じにした。不快なエロさではなくて、きれいなセクシーを目指しています」という。しかし、写真に添えられた文章は「大人と少年の間で揺れ動く27歳のカラダは、思わず息をのむほど、男らしくてセクシー」。これ、男を女に替えて読んだら古典的な男性誌と同じではないか?

 熊井編集長は「女性が持っているイケメン著名人の体を見てみたい、という願望、妄想をどう解放してあげられるか、です。お金を出して(雑誌を)買ってもらっている以上、読者の願望をかなえるため努力します」。

 編集部には「次はあの人を脱がして」という読者からの具体的な要望がつぎつぎときているという。

 NHKの大河ドラマ「龍馬伝」でも坂本龍馬を演じる歌手の福山雅治さんが惜しげもなく肌を露出している。福山さん自らNHKオンラインで宣伝していた。「第4話ではぼく、脱いでいます(笑)。上半身裸で、井戸で体を洗うシーンがあるんです。そのシーンのリハーサルのとき、筋肉が大好きな貫地谷(しほり=共演女優)さんがぼくの裸を見て放ったひと言は、『ヘラクレス!』。見どころです!」

 映画「カムイ外伝」では主演の松山ケンイチさんがフンドシ一つになっている。

 元サッカー選手の中田英寿さんは今年のカルバン・クラインの下着モデルに採用された。

   ■

 男の半裸があふれるのはメディアの中だけではない。昨年12月に東京・銀座に開店した際、半裸のモデルを使って話題となった米国ブランドの衣料品店「アバクロンビー&フィッチ」。電話に応答した女性が、広報担当はおいておらずインタビューは受けられないけれど、「どうぞ来て、フィールして(感じて)ください」という。

 店の扉を開けると、暗い店の中で胸をはだけた男性店員たちが踊っていた。なかに一人、上半身素っ裸の男性がいる。鍛えた筋肉が六つに割れ、ジーンズは下着が見えるほど下ろしている。

 ポラロイドを構えた女性店員が近づいてきて、「写真を一緒に撮りませんか。サービスです」。

 緊張しながら半裸の男性と並んで記念撮影する。写真はその場でくれた。3人組の女性客が撮ってもらった写真をのぞき込み、「すごーい」。

 玄関正面にかかる広告写真は、首から下の男の半裸。壁一面に男の群像が描かれている。器械体操、フェンシング、やり投げ、ボクシングなどスポーツに興じているが、やはりほとんどが半裸だ。パンツ一枚の男、尻を出した男もいる……。

 頭がくらくらするのは、あふれる裸のせいか、充満する香水のせいか、ガンガン鳴っている音楽のせいか。

 店の外で埼玉県から来たという夫婦に聞いてみた。男性の裸を見るのは不快じゃないですか? 芹沢正明さん(38)は「自分がやるのはいやだけど、他の人のことは気にならない」。妻の智江さん(32)は「格好良かった。クラブみたいで新鮮な感じ。モデルも外国人。日本人がやるとちょっと違うっていう感じだけど……」。

 一方で顔をしかめて店から出てくる客もいた。沖縄県から来た平良友美さん(43)は「衝撃でした。男性の裸を見せて何をアピールして買わせようとしているのかな? 理解できない。男の裸を見て喜んだギリシャ時代に戻っているのかしら?」。

 91年に俳優の本木雅弘さんが篠山紀信さん撮影でヘアヌード集「whiteroom」を出したとき、世の中が大騒ぎしたのが懐かしい。あれから約20年で、ここまで男性ヌードがはんらんするとは……。

   ■

 メディアをウオッチしている「コマーシャルの中の男女役割を問い直す会」の世話人、吉田清彦さん(65)は「女性が購買力をつけ、メディア消費の主体となってきたから」と指摘する。

 男女雇用機会均等法が施行されたのが86年。男性と同じように働き、ある程度の経済力を持つ独身女性が増えた。吉田さんは「年上の女性が若くてハンサムな男性たちを恋愛対象にしたり、ペットのようにめでるような現象が顕著になってきた」と分析する。

 吉田さんはまた、「裸や性に対して否定的なイメージを持たない世代が育ってきて、社会の中核になったことも大きい」という。明石家さんまさんがトークショーでセックスのことを「エッチ」と呼んで以来、エッチは普段の会話で使われる単語になった。

 「メディアの表現が変わった。男が一方的に女の裸を楽しむポルノ文化も変化した。雑誌に2人で楽しむセックスという言葉が躍るようになり、エログロナンセンスやのぞき見趣味のような性から、きれいな性、対等に楽しむ性に変化してきた」

 「コマーシャルの中の男女役割を問い直す会」は84年に作られた。フェミニストは女性のヌードがはんらんしたときは性の商品化だと批判したけれど、今みたいに男性の性が商品化されても問題にしないの?

 「30年近くやってきて、もう疲れました」

 あまりに率直な吉田さんの言葉に、思わず笑ってしまった。周囲のフェミニストの方たちは何と?

 吉田さんは「70歳を超えた世代には男の裸なんて見たくないという女性もいるけれど、若くてかわいければいい、という女性もだんだんと増えています。若い世代は男も女も裸に抵抗感がないし……」という。

 性に関する感覚は急速に変化している。米国では、10代の若者が自分のセミヌードやフルヌードを携帯メールしあうのが大流行して社会問題になっている。約2割の若者がそうした写真を携帯メールした経験があるという非政府組織(NGO)の調査もある。

 自己表現か、肉体美への称賛か。すでに女優が映画で脱いでも大きな話題にならなくなっている。男や一般人の大量参入で、裸の市場価値は下がっていくのだろうか。

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t.yukan@mainichi.co.jp

ファクス03・3212・0279

毎日新聞 2010年2月15日 東京夕刊

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